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月刊CXNo.34

スマホで歩ける商店街? ECの“当たり前”を覆した「楽天おうちで商店街」の新しいお買い物体験

2025/10/08

日々進化し続けるCX(カスタマーエクスペリエンス=顧客体験)領域に対し、電通のクリエイティブはどのように貢献できるのか?電通のCX専門部署「CXCC」(カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター)メンバーが情報発信する連載が「月刊CX」です(月刊CXに関してはコチラ)。

今回は、2024年10月7日にローンチした、楽天グループ(以下「楽天」)と電通が共同で開発したデジタル商店街「おうちで商店街 Powered by Rakuten」(以下「おうちで商店街」)についてご紹介します。

自宅にいながら、まるで現実の商店街を歩いているような没入体験が楽しめる今回の取り組み。どのようなきっかけで始まり、どのような体験設計を盛り込んだのか。発案者であり、CXを含めた全体のクリエイティブディレクションを担当した小田健児氏、UI/UXの設計から実装をリードした菅原太郎氏に話を聞きました。

小田氏、菅原氏

(左から)【小田健児氏プロフィール】
電通
カスタマーエクスペリエンス・クリエイティブ・センター
クリエイティブ・ディレクター/クリエイティブプランナー
WOWのある表現から先端テクノロジーを活用した体験型のクリエイティブまで、時代の変化と課題に合わせて手口ニュートラルに幅広く対応。カンヌライオンズ審査員をはじめ、ACCグランプリ、ADFEST グランプリ、ONE SHOW ゴールドほか、国内外の主要な広告賞やアワードにて審査員経験多数。

【菅原太郎氏プロフィール】
電通
カスタマーエクスペリエンス・クリエイティブ・センター
エクスペリエンス・デザイナー
UX/UI領域を中心にデジタル・イベント・PRを掛け合わせ企業と社会をつなぐ体験の設計から実装まで数多く手掛ける。つくりながら考えるR&D思考でモックアップ/プロトタイプなどを通じて仮説・検証を繰り返し、人が動くCXクリエイティブを追求。ADFEST グランプリ、SPIKES ASIA シルバー、広告電通賞、ACC 特別賞、PRアワードグランプリなど受賞。
 

オンライン商店街で“楽しいお買い物体験”をつくる

 月刊CX:まずは、「おうちで商店街」とはどのような取り組みなのかを詳しく教えてください。

メイン

小田:「おうちで商店街」は、地域経済の活性化を目的に、“まるで商店街を歩くかのような、まったく新しい買い物体験をつくろう”という自主提案から始まったプロジェクトです。

スマホの画面をスクロールしながら楽天オリジナルの商店街を進んでいくと、各店舗の店長のコメントやおすすめ商品の情報を見られます。もちろん、そこで気に入った商品があれば商品ページに遷移して、その場で購入できます。「楽天市場」に出店している30店舗が実験的に参画しており、店構えや店員の表情を見ながらより親しみを持ってお買い物を楽しめる施策です。

菅原:商店街のビジュアルは、全国各地の商店街を参考にしながら、区画ごとにデザインを変えています。古くて味のあるものから、お祭り感があるものなど、商店街ならではの魅力を楽しんでもらいたいなと考えました。

商店街のビジュアル

また、奥にスクロールしていくと自転車や人力車、阿波おどりをする人々が通りを横切るといった遊び心のある仕掛けを盛り込んだこともポイントですね。ソーシャルゲームからヒントを得て、商店街を歩くワクワク感をカジュアルに伝えられるようにこだわりました。

月刊CX:そもそもこの企画が生まれたきっかけは何だったのでしょう。

小田:コロナ禍での体験が大きく影響しています。当時は私も含め、多くの人が外出を控えてずっと家にいながら悶々としていたと思います。その中で、日常品の買い物で外に出たときに、一番気軽で気分転換にもなり、気持ちがワクワクしたのが商店街でした。

商店街は、ただ商品を買うだけではなく、お店の人と話して何かをおすすめしてもらったり、歩いていたらたまたまイベントに出くわしたりと、偶発的な出会いが生まれる場所ですよね。なんなら、物を買わなくても楽しめる。

日本全国には1万2000を超える商店街があり、どの商店街もオリジナリティであふれているのが魅力です。もともと、私は旅行で全国津々浦々の商店街を回るなど、商店街への思いが人一倍強かったんですよ。

そういった背景もあり、コロナ禍で商店街が打撃を受けて弱っている様子を目にしたときに、この企画を思いついたのです。オンライン上に商店街をつくることができれば、商店街の価値や意義をより多くの人に伝えられますし、リアルの商店街の価値を、「おうちで商店街」を通して、より高められるのではないかと考えました。

月刊CX:そこで楽天とタッグを組んだというわけですね。

小田:ええ。コロナ禍が明けて、さまざまなところでオンライン商店街の企画書を社内の人に見せていたら、楽天を担当しているマーケターから「この企画を楽天さんに提案したい」と声をかけてもらって。すぐに先方にアポを取って自主提案で持ち込んだところ、非常に喜んでいただいて、翌週からプロジェクトがスタートしました。

菅原:「楽天市場」は「地方の店舗でもECの仕組みを使って世界中で戦えるようにしたい」という思いから生まれたサービスで、今回の企画とも非常に相性が良かったようです。

月刊CX:楽天と組んだからこそ実現できた企画でもあったのですね。

菅原:そうですね。「楽天市場」は店舗ごとのページが独特です。それぞれのお店の店主の方々が工夫を凝らし、そのお店ならではの個性あふれるビジュアルをつくっているのが特徴です。あのページ自体が店舗の個性や店主の人となりを表すものになっていますし、“楽しいお買い物体験”につながっていますよね。企画を通して、そういった楽天の強みを別の形で表現できたのではないかと思います。

また「おうちで商店街」に出店していただくお店選びなどは、楽天と全国の店舗との深いつながりを感じました。出店の交渉については大変なところもあるかもしれないと思っていたのですが、とてもスムーズに進みましたね。

通常のECでは苦戦しがちな新規顧客の獲得にも貢献!

月刊CX:「おうちで商店街」の反響はいかがでしたか。

小田:想像以上の大成功でした。「おうちで商店街」では、商品の購入に使えるクーポンを配布していたのですが、ローンチしてわずか2日で1万人分のクーポンが完売し、事前に掲げていた売り上げ目標もすぐに達成しました。クライアントの皆さまにも喜んでいただけましたし、私たちも非常にうれしかったです。

「おうちで商店街」のサイトを訪れた方からは、「普段のネットショッピングでは感じられない楽しさがあった」「実際にお店にも行ってみたい」と数々のお褒めの言葉をいただきました。まさに私たちが求めていたリアクションでしたね。

月刊CX:「おうちで商店街」の出店者からの声はありましたか。

菅原:新規のお客さまから特に大きな反響があったようで、非常に喜ばれていましたね。

今まで「楽天市場」では基本的にランキングや口コミから購入するお客さまやリピーターが多かったのですが、今回の取り組みでは初回購入率が半数以上と非常に高い数値をたたき出していました。EC業界ではリピートよりも新規顧客の獲得が難しいといわれており、業界的にもこの数値は異例です。出店していただいた店舗と新しいお客さまとの接点をつくることができてよかったなと思っています。

テーマは「単位時間あたりの豊かな体験」と「人の介在」

月刊CX:今回の「おうちで商店街」で、より良い買い物体験を提供するためにCX的にこだわったところを教えてください。

小田:今回は売り上げ最大化ではなく、買い物による「単位時間あたりの豊かな体験」「人の介在」を大きなテーマとして取り組んでいました。

例えば現在のECでは、ワンクリックでシームレスに買えるような合理的な購買が定石です。しかし、それでは滞在時間あたりのワクワク感や買い物に対する気持ちの高まりがそぎ落とされているように感じます。

一方で、商店街を歩いているときや、自分の記憶に残っている買い物の体験を振り返ると、そこには“人との関わり”があったと思います。そのため、今回の施策では店主の人となりを伝えるビジュアルと会話コメントにこだわりました。

店主の人となりを伝えるビジュアル
菅原:例えば、店主がお客さまに語りかける言葉は、本人にヒアリングしたコメントを編集して載せています。コメントの文字数に大きな差が生まれないように全体を調整したり、店主の人柄に合わせてフォントを調整したりしました。

これまでの仕事で培ってきた知見を生かせましたし、私たち電通が関わる意味があったなと感じていますね。ただワクワクさせるだけではなく、楽天というブランドに即した本質的な購買体験をつくることができたと自負しています。

月刊CX:サイト設計についてはいかがでしょうか。

菅原:「おうちで商店街」は、画面をスクロールして前に進んだり、ときには後ろに戻ったりして、商店街を歩いているように感じられる体験設計にしています。進むスピードもどれくらいがベストなのか、綿密な検証を重ねました。

オートとマニュアルのイメージ動画


またスクロールについて、今回はお客さま自身が操作する「マニュアル」と自動で進む「オート」の2種類を用意しました。自分で進む楽しさと、自動で動く様子を眺める楽しさの両方があったほうが、お客さまにとって親切ではないかと思ったのです。

そうした点も没入感を高める一助になったのではないかと。店舗同士の間隔やコメントが表示されるインターバルなども、訪れた人が心地よく感じるバランスを探りながら落とし込みました。

当たり前を問い直し、誰かの記憶に残るCXを

月刊CX:今回のプロジェクトを踏まえて、今後の展望を教えてください。

小田:ローンチ後に、今回は出店されていなかった店舗から「『おうちで商店街』に出店したい」というお声をいただきました。そういった声に応えていきたいですね。

月刊CX:最後に、おふたりが今後CX領域で挑戦したいことを教えてください。

小田:私は地球全体をバズらせるようなCXに挑戦したいです。例えば、双方向のインタラクションによる参加性や身体性は、顧客との結びつきをいっそう強固にすることができます。

自分が体験して受け取ったことは強く記憶に結びつきますし、インパクトも大きい。そうしたCXを自分の強みであるノンバーバルなクリエイティブを武器に、地球上の一人でも多くの人に伝えられたら、地球規模でさらに楽しい取り組みができるはずです。

菅原:視点を変えることで既存のものから新しい体験をつくるようなことをやっていきたいです。今回の施策では、ECが効率良く最短距離で買うことが是とされていることに対して、非合理的な部分をあえて取り入れることで新しいお買い物体験をつくれましたし、滞在時間が延びたり購買目的でなくても楽しんでもらえたり、新たな発見がありました。

今の“当たり前”を問い直して新しい体験を生み出し、誰かの記憶に残るようなものをつくっていきたいですね。


(編集後記)

今回は、2024年10月7日にローンチした、楽天と電通が共同で開発したデジタル商店街「おうちで商店街」についてお話を聞きました。

現実の商店街の価値を問い直し、オンラインで実装。そしてまた現実へエンパワーメントさせる今回の施策は、つくり手のこだわりと商店街への愛が詰まったものでもありました。また、楽天というクライアントの特性を存分に生かしていたことも印象的です。

今後こういう事例やテーマを取り上げてほしいなどのご要望がありましたら、下記お問い合わせページから月刊CX編集部にメッセージをお送りください。ご愛読いつもありがとうございます。

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