frogが手掛けるデザインとイノベーションの現在・未来No.22
創造的破壊の時代の「新しい日常」を見つけるために
2020/06/30
この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通エクスペリエンスデザイン部・岡田憲明氏の監修でお届けします。
コロナ危機への適応戦略が、長期的な市場変革へのカギになる
新型コロナウイルスの感染拡大は世界中の経済にただならぬ衝撃を与え、前例のない「ディスラプション(創造的破壊)」の時代をもたらしています。新しい働き方やコミュニケーション手段からビジネスモデル全体の転換まで、この感染症は世界中のあらゆるコミュニティーに多大な影響を及ぼしました。
これまで当たり前だったビジネス環境は、コロナ禍の影響によって今後数年間に否応なく形を変えていくでしょう。だとすれば、すべての人が例外なく意識変革を迫られるこの時代に、既存の企業は生き残っていくためだけでなく、今後も繁栄していくために何ができるのでしょうか?
私たちは先頃発表したインサイトレポート「The Disruptor Playbook 」の中で、消費者の要望の変化に企業が対応していくために活用できる五つの「ディスラプター(創造的破壊要因)戦略」を紹介しました。
本記事では、この前例のない時代に見られるいくつかのビジネストレンドを紹介。さらに、企業が方向転換し、社会にインパクトを与え、その結果として消費者に真の価値を提供するにはどうすればいいかを掘り下げます。
ソーシャルディスタンスが求められる中、消費者は動画や双方向プラットフォームを通じて互いにつながる方法を探している
コラボレーションプラットフォームのMicrosoft Teamsにユーザーがバーチャル(仮想)背景を設定できる新機能が追加されたとき、frogのスタッフたちは大興奮しました。では、このユーザー体験がブランド認知やブランドロイヤルティーにこれほど大きなインパクトを与えているのはなぜでしょうか。それは、消費者が自身でコントロールできる機能に価値を見いだすものだからです。ビデオ通信を利用する人が爆発的に増え、感染者数を抑えるためにリモート教育やテレワークが不可欠になる中で、ビデオ通信市場における競争は激しさを増しています。
主要プラットフォームの一つであるZoomは、参加者100人まで、ビデオ通話40分までの画面共有や録画・録音機能が無料で利用できる戦略的な販売モデルを構築しました。しかもZoomのプラットフォームはアカウントや有料登録がなくても利用できます。
入り口のハードルを下げることでユーザーがさまざまな形でZoomを体験できるようにし、会議時間無制限、クラウドストレージ、レポート機能などの追加サービスを利用できる有料登録を申し込んでもらう機会を広げたのです。
ところが、プラットフォームにZoomを選んだユーザーは多いものの、ビデオソフトウエアに関するセキュリティー上の懸念が報道される中で、競合他社が追い付き始めています。プライバシーやセキュリティー面の懸念が膨らむにつれて、ユーザーは使いやすさよりもセキュリティーを前面に打ち出したサービスを優先するようになるかもしれません。
空前の激しさを見せるストリーミング戦争
世界中の人々が巣ごもり生活とソーシャルディスタンス(人との距離をとること)を強いられている今、ストリーミングサービスは私たち自身の生活だけでなく、バーチャルな社会生活においても欠かせないものになりつつあります。イギリスのハイテク市場調査会社Omdiaの調査によれば、オンラインストリーミングサービス産業の今年の年間成長率は12%を超えると見込まれています。
ソーシャルディスタンスが世界に広がる以前も、ストリーミングコンテンツの市場はかなり競争が激しく、各社は差別化を図る手段が必要になっていました。モバイル動画サービスのQuibiなど一部の新規参入企業は、動画の視聴方法を変革しようと試みています。
しかし、NetflixやHuluなどの大手がコンテンツの幅広さと質だけを強みに、今なお競争を制しているのが現状です。コンテンツと値頃感の他に、ストリーミング分野の次の競争ポイントとして考えられるのは、使いやすさと、全体としてどんな体験ができるかです。SNSを楽しめるソーシャルウオッチングなどの新機能や、企画性の高い作品選び、ユーザーのプロフィールや視聴体験の設定機能などが、次世代の勝者を決める要因になるでしょう。
オンライン診療とデジタル診断は、なくてはならないサービスへ
ソーシャルディスタンスが新しい日常になるにつれて、新型コロナウイルス以外の理由で診療を受けるには医療用デジタルツールに頼る他はない人が多くなりつつあります。予防医療を重視したデータを活用する医療サービス会社Forward や、SnapMD 、Nutriremedyなどのディスラプター(創造的破壊)企業は、患者の治療や観察をリモートで行うためのサービスや、革新的な顧客体験モデルを開発しています。
こうした遠隔医療サービス会社は、バーチャル診断、入手しやすい処方薬、カルテ、患者受け付けなどの包括的なサービスを提供しています。このようなサービスは、ソーシャルディスタンスが求められている現在はまさに不可欠ですが、長期的な意味でもビジネス成功のカギとなるかもしれません。
事実、新型コロナウイルスがデジタル医療産業に及ぼす影響についての最近の調査 で、回答者は今回の感染流行がデジタル医療ソリューションの加速的発展と幅広い普及につながると確信していることが分かりました。スタートアップ企業や新規参入企業が新興テクノロジーを素早く取り入れ高度化して、従来型の医療企業の一歩先を行くかもしれません。
しかし、既存の企業も、ニーズを持つ患者の一人一人に合わせた適切な顧客サービスを提供することで、将来に備えることができます。医療サービス企業にとっての戦略的な取り組みとは、話題の新テクノロジーに注目するだけでなく、現状のサービスや市場に足りない部分を把握し、患者の全般的な健康と幸福に真の付加価値を与える適切な製品やサービスでそのギャップを埋める方法を見つけることです。
創造的破壊の時代における企業の成功とは
創造的破壊の時代には、真の価値を提供するための独自の顧客体験を創造することに積極的な意思決定をする企業が、長期的な成功を手にすることになるはずです。経済情勢と消費者のニーズに基づいて革新的な手法でビジネス戦略を転換できる企業は、自らが属する産業に、そしてひょっとしたらその周辺産業にも、大きな変革を起こし続けることでしょう。
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既存の企業を真の「ディスラプター」へと変革させるための戦略のすべてがここに。全文をこちらからダウンロードできます。
この記事はウェブマガジン「AXIS」にも掲載されています。