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スポーツにイノベーションを!SPORTS TECH TOKYONo.8

コロナ禍の中で着々と未来を描く“スポーツテック”の現在地。「INNOVATION LEAGUE デモデイ」の会場から

2021/06/10

スポーツ庁 室伏広治長官
SPORTS TECH TOKYO と共にINNOVATION LEAGUEを推進するスポーツ庁から室伏広治長官もデモデイに参加。「本日は皆さんの活動を見て、改めてコロナ禍においてもスポーツの価値が本当にあるんだと実感し、勇気を頂いた」と、参加企業に感謝の言葉を述べた

長引くコロナ禍で、あらゆるアスリート、スポーツ関連団体や企業、それにスポーツファンも、不安な日々を過ごしている。

しかしそんな中でも、スポーツの可能性を広げるべく、“スポーツテック”企業たちの挑戦が着々と進んでいる。

今回はオープンイノベーション推進プログラム「INNOVATION LEAGUE」(イノベーションリーグ)のアクセラレーションプログラムに参加した5社のユニークな取り組みを紹介する。

<目次>
スポーツ庁と共催!「INNOVATION LEAGUE」とは?
アプリ要らずの「PlatCast」で、スポーツ観戦時に新たな“音声体験”をプラス
ユーザーが触って動かせる自由視点映像!不可能を可能にした「SwipeVideo」
▼ “推し活”を充実させる!ファンと選手のコミュニティーアプリ「Fanicon」
ファンが試合に参加!?「eジャングル」という次世代型スポーツ観戦体験
どこにいても好きなチームをリアルタイム応援!観戦プラットフォーム「SpoLive」
課題と課題、人と人がくっつき、プロジェクトが生まれる

スポーツ庁と共催!「INNOVATION LEAGUE」とは?

スポーツ庁とSPORTS TECH TOKYO が共同で取り組む「INNOVATION LEAGUE」とは、スポーツをテーマとしたイノベーション創出や産業拡張を目的としたオープンイノベーション推進プログラムだ。

INNOVATION LEAGUE

企業や事業の成長を支援する「アクセラレーション」と、スポーツやスポーツビジネスの優れた先進事例をたたえる「コンテスト」の2つのプログラムから構成されている。

アクセラレーションプログラムでは、採択された企業にSPORTS TECH TOKYOから “インキュベーター”と呼ばれる伴走者が付き、スポーツ団体とのコラボレーションや実証実験を推進するなど、さまざまな形でビジネスの成長を支援する。

今回、スポーツ団体からは日本バレーボール協会と、3人制バスケットボールのプロリーグである3x3. EXE PREMIERがプログラムに参画した。

一般的にはスタートアップを対象とすることの多いアクセラレーションプログラムだが、「INNOVATION LEAGUE」では、応募企業に制限を付けない点が特徴的だ。初回開催だった今回は5社がプログラムに採択されたが、その中にはスタートアップだけでなく大企業も含まれており、それぞれ個性ある取り組みを行った。

本記事ではプログラムの成果報告会として2月に実施した「INNOVATION LEAGUE デモデイ」でお披露目された採択5社の取り組み内容から、スポーツテックの現在地と周辺動向を見ていきたい。

アプリ要らずの「PlatCast」で、スポーツ観戦時に新たな“音声体験”をプラス

ネットが繋がらないような会場でも、現地から直接観客に音声配信できるPlatCast。観客はQRコードを読み込むだけで、専用アプリなども必要なく、ブラウザから音声を受信できる。

アイ・オー・データ機器の「PlatCast」(プラットキャスト)は、現地観戦者がより深く目の前の試合を楽しめる、“ながら聴き音声配信サービス”だ。スポーツ以外にも、学会での同時通訳や、美術館、文化施設での作品解説など用途は幅広い。

通信SIM入りのPlatCast配信キットにより、Wi-Fiや有線ネットワーク環境がない場所でも、多人数に向けた高品質な音声配信ができる。ユーザー側は専用アプリのダウンロードや会員登録の必要がなく、ページにアクセスするだけで配信を聴けるのが魅力だ。

アイ・オー・データ機器でPlatCastエバンジェリストを務める小川元大氏は、同プログラムへの参加を経て、「これまで現地でのリアルタイム音声配信をメインに考えていたが、各競技のオフシーズンへサービス領域を広げるなど、インターネットラジオとしての活用にも可能性があると分かった」と意欲を見せた。

実際に、プロ野球ではラジオ放送局のニッポン放送と協業し、これまで放送枠の都合上配信できなかった時間帯の放送を実現。選手の引退式セレモニー、オープン戦などペナントレース外イベントを、どこでも気軽に“ながら聴き”できる音声放送は、コアなファンをより引きつけるに違いない。

また、放送サービスの拡大は、実況者・解説者といった“話し手”たちの雇用創出も期待できる。競技の魅力にハマるほど、細かなプレーのポイントや、競技に関わってきたレジェンドなどの解釈を聞いて、より深掘りしたくなるもの。PlatCastが広まり、さまざまな“話し手”が登場すれば、「解説者で放送を選ぶ」楽しさも広がりそうだ。

ユーザーが触って動かせる自由視点映像!不可能を可能にした「SwipeVideo」

動画の視点を360度動かせる「自由視点映像」。データ容量が膨大になることから、視聴者が手元で自由に視点を動かすことは困難とされていたが、SwipeVideoはこの常識を覆した。

テレビでスーパープレーを見た時に、「今の動き、どうなってた?」と思わず画面に近づいた経験はないだろうか。スロー再生でも、アングルによっては気になる部分が見えず、「自分でカメラを動かしたい」と思ったことが、誰でも一度くらいあるはずだ。

AMATELUS(アマテラス)の新型動画「SwipeVideo」(スワイプビデオ)は、そんなスポーツファンの思いを実現したサービスだ。「自由視点映像」と呼ばれる技術を駆使して、動画の視点を360度動かすことができるのだという。

自由視点映像は平昌オリンピックやラグビーワールドカップなどでも大きな話題になったが、データサイズの大きさがネックとなり、「視聴者それぞれが自分の手元で視点を自由に切り替える」のは不可能とされてきた。SwipeVideoは「カメラ1台分の映像だけを、即座にクラウドから軽量に配信する」という独自の技術で、その課題を解決した。

4G以上の回線速度があれば、専用アプリすら不要。視聴者が手元のデバイスで、動画の再生中、スロー再生中、停止中、ズーム中のいつでも、画面をスワイプすることで視点を360度自由に切り替えられる。

スポーツや音楽ライブを自由視点で楽しめるという「娯楽」の観点だけでも画期的なイノベーションだが、娯楽用途以外にも多くの可能性を秘めている。

実はSwipeVideoを先行導入しているのは、主に教育関係の現場だ。例えば国内のスポーツトレーナー育成学校にSwipeVideoの専用スタジオを開設し、オフライン実習にありがちな「場所や角度によって見づらい」「インプット効率が悪い」といった課題を解決した。

そしてINNOVATION LEAGUEでは、日本バレーボール協会の協力のもと、さらなるアップデートに取り組んだ。専用の機材でなくても配信の精度を高められるよう、実際のVリーグの試合を大量のiPhoneで撮影し、検証したのだ。

「人類の情熱的なシーンを未来に残したい」と語るAMATELUSのCEO下城伸也氏は、この検証からつながる未来構想として、「現地観戦者たちのiPhoneカメラを同期させて360度動画を“生配信”する」という、いわばUGC(ユーザー生成コンテンツ)としてのサービス「Peoplecast」の計画を伝えた。

 “推し活”を充実させる!ファンと選手のコミュニティーアプリ「Fanicon」

“推し選手”やファン仲間と会員限定のコミュニティーでタイムラインやグループチャットによる交流ができるFanicon。限定チケット販売などファンクラブ機能も備え、運営サイドの導入コストも低いことから、2000組以上のタレントやアーティストが利用している。
“推し選手”やファン仲間と会員限定のコミュニティーでタイムラインやグループチャットによる交流ができるFanicon。限定チケット販売などファンクラブ機能も備え、運営サイドの導入コストも低いことから、2000組以上のタレントやアーティストが利用している。

エンタメ業界に深い知見を持つTHECOO(ザクー)が提供するのは、ファンと選手とのより気軽なつながりを生むサービスだ。

すでに2000組以上のアーティストやタレント、スポーツチームなどが利用している「Fanicon」(ファニコン)は、新たなファンコミュニティーの在り方として注目を集めている。

タレントとファン、あるいはファン同士が交流するためのクローズドな会員限定コミュニティーで、タイムライン、グループチャット、掲示板、動画配信といった交流機能のほか、限定チケット販売などファンクラブの機能、「スクラッチ」(ソーシャルゲームの「ガチャ」のようなもの)といったお楽しみ機能も搭載している。

ファンにとっては、会員制のため、タレントを含めた運営サイドとの距離感が近く、オンラインサロン感覚で、“推し”のタレントやファン仲間とコミュニケーションできるのが魅力だ。そして運営側のメリットは、価格面でも運用面でも導入コストが低いこと。多くのアーティストやタレントが、ファンサービスや新たな収益ルートの一環として、取り入れているという。

そんな中、今回のプログラムで、スポーツチームや競技運営団体にFaniconを導入してもらい、「アスリートやスポーツファンならではの実態」を深く調査した結果、得られたという二つの気づきは興味深い。

一つは、競技で結果を出すことが第一の仕事となるアスリートたちは、アーティストやタレントと比べてコミュニティーでの情報発信にそこまで積極的ではなく、運営団体も芸能事務所などと違ってファンとの直接的な対応には慣れていないこと。

もう一つは、特に応援への熱量が高いコアなスポーツファンは、チーム全体の応援よりも “推し選手”がいる人に多いということだ。“推し活”という言葉が流行し「推しのための出費は惜しまない」と話す若者も多い今の時代、スポーツにおいても競技以外の場で“推し選手”の情報を得たり、声を聞けたり、交流できたりすることは、ファンの応援熱をさらに盛り上げるに違いない。また、ファンの熱が直接届くことで、選手もより力を得られるだろう。

こうした特性を理解した上で選手や運営へのサポートを考えていくと、「スポーツ界でのファンビジネス」には多くの伸びしろがある。

THECOOのFanicon事業部副キャプテン・佐藤陽介氏は、そんなスポーツ界への浸透を目指し「今後は、選手のパーソナリティーに焦点を当てた企画の立案や、SNSに不慣れなスポーツ団体に向けたFaniconコンテンツ制作マニュアルの作成などに力を注いでいきたい」と目を輝かせた。サービスの充実と共に、ファンの楽しみが収益につながるような道筋づくりにも期待したい。

ファンが試合に参加!?「eジャングル」という次世代型スポーツ観戦体験

「eジャングル」は、動画で試合を見ながら「次のプレイ」や「試合の勝敗」の予測で他のユーザーと競い合う「インプレイゲーム」が楽しめる、ファンアクティベートのサービス。自分も試合に参加しているような気持ちで展開を見守る、新しい観戦体験だ。
「eジャングル」は、動画で試合を見ながら「次のプレイ」や「試合の勝敗」の予測で他のユーザーと競い合う「インプレイゲーム」が楽しめる、ファンアクティベートのサービス。自分も試合に参加しているような気持ちで展開を見守る、新しい観戦体験だ。

スポーツに特化したポッドキャストサービスと「インプレイゲーム」を組み合わせた「eジャングル」により、ファンが試合に参加しているかのような体験を生み出したのがジャングルXだ。

「インプレイゲーム」では、リアルタイム配信の試合映像を見ながら、次のプレイや試合の勝敗をユーザー同士が予測し、競い合う。通常のスポーツ観戦は主に「受け身」の行為で、試合展開が“膠着状態”に陥ると、見る側も集中力が途切れてしまいがち。しかし、そこに次のプレイ予測といったアクションが加わることで、より能動的に試合を楽しめる。

同社の代表を務める直江文忠氏はこのサービスについて「自分が“参加”することでより試合に没入できる、新しい観戦体験をぜひ楽しんでいただきたい」と言葉に力を込めた。

また、試合前後には、プロのスポーツDJがeジャングルでしか聴けない情報を発信し、「きく」楽しみも備えている。これまでに3x3. EXE PREMIERの予告番組などを配信、3月に実施された大会では、試合中にも出場選手の背景やチームのストーリーを音声で伝えて、観戦者のさらなる熱狂を誘った。

3x 3. EXE PREMIERのコミッショナー・中村考昭氏は「このサービスの実証のために大会を新設し、オンライン限定で配信した。eジャングルの取り組みはこれからのスポーツ界にとってサービスの提供の仕方が根本的に変わる転機になるかもしれない」と述べ、新たなビジネスの創出に大きな期待を寄せた。

どこにいても好きなチームをリアルタイム応援!観戦プラットフォーム「SpoLive」

スマートフォンに最適化されたバーチャル観戦アプリの「SpoLive」(スポライブ)。会場でリアル観戦できなくても、「デジタル応援グッズ」を購入することで、応援アニメーションやメッセージをリアルタイムでチームや選手に送ることができる。
スマートフォンに最適化されたバーチャル観戦アプリの「SpoLive」(スポライブ)。会場でリアル観戦できなくても、「デジタル応援グッズ」を購入することで、応援アニメーションやメッセージをリアルタイムでチームや選手に送ることができる。

NTTコミュニケーションズの社内起業から始まったスタートアップ、SpoLive Interactive。

同社が開発した「SpoLive」(スポライブ)はスマートフォンに最適化されたバーチャル観戦アプリであると同時に、リアルタイムで現地へ「応援」を届けられるツールだ。

ファンはどこにいても実況・解説付きで試合をライブ観戦でき、ルールや選手データ、活躍中の選手の状況などをその場で知ることができる。また「スーパー応援」といういわゆる“投げ銭”系の機能も搭載。ファンは「スーパー応援」を購入することで、試合会場以外の場所からも、チームに応援アニメーションや、メッセージを送ることが可能だ。

今の時代、スマホやテレビでスポーツ観戦しながら、若手選手が思わぬスーパープレーをした時に、「どんな経歴の選手だったっけ?」と調べたり、SNSで他のファンの声を確認したりしているサポーターは多い。同社の調査でも「チームがそういった情報をまとめて発信してくれればいいのに」という声があがったという。

しかし一方で、限られた人数で運営している競技団体やスポーツチームには、情報配信のデジタル化になかなか人員や時間をかけられない事情がある。

その点、代表の岩田裕平氏の「スポーツ団体が極力稼働をかけずに運用できて、ファンがさらにスポーツを楽しめるプラットフォームを作りたかった」という熱い思いから開発されたこのアプリは、「運営側の管理のしやすさ」が大きな特徴だ。

スポーツ団体に提供される「管理クラウド」は、極力手間をかけずに運用できるように設計されており、各チームのスタッフ体制やコンテンツ内容に合わせて、これまで手作業で行われていた部分を自動化したり、効率化したりできる。

今回プログラムに一緒に取り組んだ3x3. EXE PREMIERの中村氏(前出)は「試合の映像と共に選手の情報や他のファンの応援を届けるといった見せ方の工夫だけでなく、運営側の負荷も考えていただいているのはとてもありがたい」と絶賛。今後もサービスを活用しながら、さらなる機能の充実に協力していきたいと熱い期待を寄せた。

スポーツは人と人、アイデアとアイデア、課題と課題を結びつける力が非常に強い。現地に行けなくてもその場にいるような視点での観戦体験や、試合をより複合的に味わえる情報サービス、応援チームとの親密交流やオフシーズンを充実させるサービスが、テクノロジーの力で着々と実現しつつあることを確信させられるデモデイとなった。

課題と課題、人と人がくっつき、プロジェクトが生まれる

INNOVATION LEAGUEのアクセラレーションでは、採択企業がアイデアやテクノロジーを持ち寄り、一方のスポーツ団体である日本バレーボール協会と3 x 3. EXE PREMIERが現場の課題を持ち寄ることで、双方が単独では生み出せない価値を作り出した。

また、「INNOVATION LEAGUE コンテスト」授賞式では、設けられた4カテゴリーの受賞者いずれもが、「大企業とスタートアップ」「スタートアップと地域」など、異なるもの同士がつながった取り組みだった。

2020年から現在に至るコロナ禍において、スポーツもビジネスもさまざまな制約を受け、社会全体が身動きを取れずにいる。あらゆる立場の人が、それぞれの課題を抱えている今だからこそ、単独ではなく2者、3者、それ以上で一緒になることで、どうにかしようという気持ちが強まっているように感じる。

デモデイの会場で、コンテストの受賞者同士が控室で雑談しているうちに、その場で共同プロジェクトが決まったことは非常に印象的な出来事だった。

元来、スポーツは人や情熱を引き寄せ、つなげてきた。その力が今、ビジネスや社会的活動など広い枠組みの中で、一段と強く発揮されようとしている。(SPORTS TECH TOKYO 薬師寺肇)


STARTUP x DENTSU

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