セカイメガネNo.5
C.D. 、レオンに出会う
2013/06/19
これは昨今、香港の広告業界で語られている物語だ。
深夜2時、C.D.(Chen Dong)こと陳東は、疲れた体を引きずるように退社した。無数の広告照明が街を昼間のように照らしている。「光害」と呼ばれる現象は日を追うごとにひどくなっている。某広告会社でクリエーティブ・ディレクター(CD)の肩書を持つ彼は、街の惨状に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだ。疲れがひどいせいか、突然首の後ろに痛みを覚え、目の前が真っ暗になった…。
目覚めるとC.D.は廃屋の中で椅子に座らされ、両手を背もたれの後ろに縛られていた。机には花が置かれ、ニット帽と丸いサングラスの男が目の前に立っていた。C.D.はすぐさま、映画「レオン」の主人公を思い出した。「正直、クライアントからCDを殺すように依頼されたのは初めてだよ」。“レオン”が切り出した。「私が賞取りのためにインチキ広告を作ったとでも言うのか?」。C.D.は聞いた。「違う。以前、SNSで商品発表会の宣伝を行ってほしいと依頼したクライアントを覚えているか?」「覚えている。その夜、会場には2000人集まったじゃないか。成功だ」「クライアントが怒ったのは、15歳かそこらの学生が10セントも使わず、たった一晩でネット上に12万人集めたからだ」。レオンは手の中のピストルをいじった。「あれは政府の教育政策に反対する集会じゃないか!」。C.D.は反論したが「バン!」という音とともに頭をかがめた。
C.D.が両目を開けると、プラスチックの弾が落ちていた。「これはどういうことだ?」。レオンはピストルをしまい、黒のコートを着た。「私に感謝するな。クライアントが土壇場で予算を削ったからだ。ここまで切り詰められると、私だって仕事道具を妥協するしかない。おもちゃのピストルは本物より常に安いからな」
レオンはどこかへ行ってしまった。涙で顔がクシャクシャになったC.D.こと陳東は、クライアントが「予算削減」したことに生まれて初めて心底感謝した。
クライアントは従来の広告メディア料金の高さに耐え切れなくなっている。一方、当地での創作活動ではデジタルに代表される西洋文明の影響が依然大きい。ローカルクライアントの大部分はSNSなど新しいメディアの役割を把握できていない。その中で、制作予算はますます削減の方向に向かっている。
C.D.の物語が事実かどうか、定かではない。
(監修:電通イージス・ネットワーク事業局)