「IoT家電」はマーケティングに何をもたらすのか?domus optimaの挑戦No.1
IoT家電データが“イエナカ”を可視化!スマートライフ時代の生活者インサイト
2021/10/18
あらゆる“モノ”がインターネットにつながる「IoT」(Internet of Things)が、私たちの生活に浸透しつつあります。
中でも存在感を高めているのが、生活者に便利で快適な生活=スマートライフをもたらす「IoT家電」です。本連載では「IoT家電データ」を用いることで、企業が生活者にどんな体験を提供できるのかご紹介していきます。
第1回では、シャープからSmart Appliances & Solutions事業本部の中田尋経氏、同社グループのAIoTクラウドからデータビジネス開発部の稲本憲氏をお招きし、電通データ・テクノロジーセンターの塩田悠人が語り合います。
<目次>
▼AIoT家電はユーザーの暮らしを学んで進化する“生活パートナー”
▼企業が「生活者のリアルな暮らし」をイメージできる粒度の分析が可能に
▼“イエナカ”のデータ分析で商品・サービスの“潜在的ニーズ”が浮き彫りに!
▼データ利活用の「考査」がIoT家電の信頼性を高める
AIoT家電はユーザーの暮らしを学んで進化する“生活パートナー”
塩田:今日は、IoT家電が企業や生活者にどんな変化をもたらすのかについて、domus optimaの紹介を交えながらお二人と語り合えたらと思います。
“イエナカ”を変える「domus optima(ドムス・オプティマ)」
IoT家電データを活用した統合マーケティングにより、生活者に家の中・家の外での豊かな生活体験を提供する、電通のソリューション。
第一弾として、「AIoT家電データ」(※)の利活用を推進するシャープと連携し、全国約40万台のIoT家電データから導き出したインサイトをもとに、広告配信や効果検証を行なっている。
https://www.dentsu.co.jp/news/sp/release/2021/0607-010387.html
※ AIoT
AI(人工知能)とIoT(モノのインターネット)を組み合わせ、あらゆるものをクラウドの人工知能とつなぎ、家電製品を人に寄り添う存在に変えていくビジョン。シャープの登録商標。
総務省の調査によると、2022年には、世界のスマート家電やIoT化された電子機器の台数が2015年の3.9倍まで増加すると予測されています。
塩田:私たちは近い将来、IoT家電が日本にも広く浸透することを見据えてdomus optimaを開発しましたが、クライアントからは「IoT家電って何ができるの?」「本当に普及するの?」といった質問を頂くことも少なくありません。
そこでまずシャープでAIoT事業を推進されている中田さんに伺います。AIoT家電の特徴や、現在の普及状況についてお話しいただけますか。
中田:私たちの「AIoT家電」は“人に寄り添うIoT”を掲げ、ただの便利な道具ではなく、お客さまの生活に寄り添うパートナーになることを目指しています。AIoT家電の大きな特徴は、「お客さまに最適化し、機能・サービスも進化し続ける」点です。
従来の家電は購入時が「一番いい状態」でした。基本的に機能は進化せず、時間がたつごとにモノは劣化していきます。新製品に買い換えれば新しい機能が得られるかもしれませんが、設定はイチからやり直さなければなりません。
一方、AIoT家電は、購入してから時間がたつほどに「一番いい状態」になっていきます。お客さまの家族構成や日々の使い方を学習して、データをクラウド上の「AIoTプラットフォーム」に蓄積し、常にお客様の暮らしに最適化し、機能やサービスも進化し続けるのです。
そしてもし買い換えることになっても、これまでの学習履歴が引き継がれるので、次の製品を買ったその日から「今まで通り我が家に最適化された家電」を利用できます。
塩田:使えば使うほど、便利に快適になっていく。新品に買い換えても、その快適さは引き継がれる。一度AIoT家電の魅力を知ってしまうと、もう従来の家電には戻れないかもしれませんね。
中田:また、そうした AIoT家電の学習機能を活用するために、「COCORO AIR」「COCORO KITCHEN」といった各種サービスを提供しています。これらのサービスを利用するかどうかは、もちろんお客さまが決めることができます。
中田:もう一点、重要なポイントが、私たちの「AIoTプラットフォーム」はシャープ製品だけに閉じたものではなく、オープンなプラットフォームだということです。他社の製品やサービスにも接続できるので、お客さまの暮らしに合わせて柔軟に「スマートホーム化」を進めることができるのです。
塩田:実際、市場的にはAIoT家電のニーズは高まってきているのでしょうか?
中田:シャープでは、家電におけるAIoTの割合は右肩上がりで増えています。すでに11カテゴリー580機種以上が、全国のご家庭でAIoT家電として稼働しています。
データ分析を通じてお客さまの声をタイムリーに反映したサービスを提供できるので、今後データが集まるほど、AIoT家電の価値は加速度的に高まっていくと考えています。
もちろんデータはあくまでもお客さまからお預かりしているもの。利用規約の範囲の中で、お客さまの暮らしに新たな価値を還元し続けることがメーカーの責務です。
企業が「生活者のリアルな暮らし」をイメージできる粒度の分析が可能に
塩田:ユーザーの暮らしをより便利で快適にするために、さまざまなデータを活用しているのですね。そのデータの展開先の一つであるdomus optimaは、現在はまだβ版ですが、シャープのAIoT家電データを分析することで生活者の“潜在的な需要”を推定し、ユーザーに有益な情報を最適なタイミングでお届けするマーケティングソリューションを提供しています。
その基盤となるAIoTプラットフォームを開発・運営するのがAIoTクラウドです。AIoTクラウドと電通の取り組みは、長いお付き合いだと伺っています。稲本さん、電通との協働を開始した当時の経緯を教えていただけますか?
稲本:もともと当社では、「テレビ機器から収集できる視聴データ等を活用したポータルサイト」の企画運営をしていました。そこで蓄積された膨大な視聴データを有効活用するために、テレビ視聴データの分析や利活用に強い電通に相談し、2012年からマーケティングソリューションへのテレビ視聴データ活用をスタートさせたのが始まりでしたね。
その後、シャープでは「白物家電のAIoT化」が進み、これまでにない“イエナカ”のデータが集まってきました。これらのデータをテレビのデータと同様にマーケティングに活用したいということで、電通とのディスカッションを経て、今回のリリースに至りました。
塩田:非常に長いお付き合いをありがとうございます。おかげさまでdomus optimaはリリース直後から、業種を問わずたくさんのお問い合わせを頂いています。コロナ禍でユーザーとコミュニケーションを取る機会が減り、“イエナカ”での接点を模索されている企業が多く、このタイミングでのリリースが注目を集めたのだと思います。
稲本:当社にもマスメディアや、同業他社メーカーからのお問い合わせがありました。反響の大きさから、“イエナカ”への関心の高さを実感しています。
塩田:続いて、domus optimaにご提供いただいているAIoT家電データについて、具体的にどんなデータなのかを解説いただけますか?
稲本:現在はエアコン、空気清浄機、オーブンレンジ、自動調理鍋、洗濯乾燥機の5機種、約45万台のデータを提供しています。
各機器の電源のオンオフ状況はもちろん、エアコンであれば「室外の温度」や「室内の温度・湿度」「運転モード」などを15分に1回取得しています。空気清浄機は「室内の温度・湿度」に加えて「匂い」「埃の汚れ度」「PM2.5」などの情報も含みます。
調理家電はいつ何を調理したのかという「調理履歴」、洗濯乾燥機は「洗濯コース名」「すすぎ、脱水、乾燥のプロセス詳細」を日時とひもづけて提供しています。
塩田:家電の利用状況だけでなく、室内外の温度などの周辺データもご提供いただけるおかげで、生活者の「リアルな暮らし」をイメージできる、粒度の高い分析が可能になっています。
“イエナカ”のデータ分析で商品・サービスの“潜在的ニーズ”が浮き彫りに!
塩田:ここで私から、AIoT家電のデータをもとに、domus optimaでどのような分析を行っているのかを少し紹介させてください。以下の図は、5機種の使用時間の分布をグラフ化したものです。
塩田:例えば、朝何時ごろに起床し、何時に朝食を取り、午前中に洗濯機をかけて、お昼ご飯はレンジでチン。夕方から自動調理鍋で夕食の準備を行い、それを追う形でオーブンレンジが稼働し、20時前に夕飯。0時ごろにエアコン使用量が下がるので就寝。
と、家電の状況からどのような生活リズムを送っているのかをひもとけます。
これらのデータは、広告配信への活用も可能です。大手食品メーカーと行った実証実験では、「オーブンレンジを週1回以上利用しているユーザー群」に絞って、温めるだけで本格料理が作れる商品を訴求したところ、CTRが35%向上しました。
塩田:また、機種ごとの比較分析により、「ファミリー向けオーブンレンジを利用しているユーザー群」のクリック率が高いことが分かり、「その商材はファミリー訴求が有用」という推定ができました。
塩田:さらに、使用目的別分析では、「“冷凍食品の解凍”機能を利用するユーザー群」よりも「“パンやピザのあたため”機能を利用するユーザー群」のクリック率が高いため、比較的料理意識の高いユーザーに、この商品のニーズがあるのではないかと推察できます。
塩田:このように家電データを活用することで、これまで見えてこなかった生活シーンや消費行動に基づいた分析ができます。
現在、対象の家電数は45万台ですが、顧客インサイトを知るための分析基盤としては、十分な台数です。domus optima分析で得られた知見をさまざまなマーケティング施策へと活用することで、現状でもクライアントのマーケティング課題を解決できると考えています。
稲本:ここで改めて“イエナカ”のデータで重要なポイントだと感じるのが、「利用許諾のプロセス」ですね。あくまでも個人を特定できないデータを分析しているとはいえ、一つ一つのデータ自体はお客さまのものであり、これらの取り組みは、お客さまのご理解とご協力なくして成り立ちません。
塩田:ユーザーから同意を得るために、心がけていることはありますか?
稲本:収集するデータ内容と収集する目的、どのような企業に第三者提供するのかを、いかに分かりやすくお伝えするかという点を心がけていますし、実際に常に改善を重ねています。あくまでも製品の利便性を上げることでお客さまにより良い生活を提供することが目的なので、お客さまの意図しない形でデータが勝手に活用されることは、絶対にあってはならない。
そのためには、個人情報保護法なども社会状況に応じて都度改正されますが、常に動向をウォッチしながら、国のガイドラインにのっとった形で対応できるように取り組んでいます。
塩田:ユーザーから許諾を頂く際に、データの利用範囲や内容について、よりわかりやすくお伝えすることが不可欠ですよね。その上で、ユーザーに「許諾することのメリット」を感じ続けていただけるように、コミュニケーションも含めたサービス設計を心がける必要があると、われわれも考えています。
データ利活用の「考査」がIoT家電の信頼性を高める
塩田:今後、IoTはますます普及していくことが予想されます。お二人はAIoT家電で、この先どのような未来を作っていきたいですか?
中田:新しい価値を生み出すためには一定の普及率が必要で、具体的な数字で言えば、「クラウドへの接続率」が日本全体の3割を超えると、一気に世界が変わると考えています。家電の位置づけが急激に変わり、お客さまにとって本当になくてはならないもの、お客さまに寄り添うパートナーになれると期待しています。
そのために重要なのは、他社との協力関係です。データをただたくさん集めるだけなら1企業でもできますが、その価値を大きく広げていこうとすると、1社でできることはものすごく限られた、狭い世界になってしまう。だからこそAIoTプラットフォームを、競合や業種といった枠組みを超えて、さまざまな企業と一緒に連携していけるオープンなものにしていきたいのです。
稲本:お客さまにより良いサービスを提供する、お客さまの生活を豊かにすることを追求していきたいですね。これまでテレビから始まって、今回のような白物家電まで、さまざまなデータが蓄積されてきました。日々そうしたデータに接する中で思うのは、これらは生活者の“生活そのもの”を表したデータだなということです。そのさまざまなデータを組み合わせることで、今までできなかった生活者理解がさらにできるようになっていくはずです。データの活用の範囲についても、デジタルマーケティングだけでなく、さまざまな可能性があります。
AIoTクラウドには、ビッグデータを蓄積し、クラウド間連携をしたり、サービスに活用したりといったさまざまなノウハウがあり、新たなシステムづくりも進めています。今後はそうしたシステムにより、多くの企業と連携していきたいですね。
塩田:ありがとうございます。私からはdomus optimaとIoT家電データの今後について、3つ述べさせてください。
1つ目は、データの掛け合わせによる価値の創造です。企業のマーケティング課題を解決するにあたり、家電データだけではもちろん完璧ではありません。“イエソト”の購買データやその他さまざまなデータと掛け合わせることで、より大きな価値を生むことができます。
「データの掛け合わせ」をする上では、法令やビジネス、セキュリティなど大事なことはたくさんありますが、「ユーザーが不快な思いをする手法になっていないか?」「利用許諾をした後も、ユーザーが許諾を取り消すことができるか?」「データの利用のされ方が事前に提示できているか?」などの顧客体験も重要な視点だと考えています。
広告表現の世界では、顧客体験を考えるうえで、「考査」というものがあります。モノが売れる・売れないよりも一歩手前で、「そもそもユーザーが情報を受け取って不快に感じないか、メリットを感じていただけるか」を事前に確認します。ユーザーを第一に考えたデータ利活用においても、この考査を参考にプランニングしていく必要を感じています。
2つ目は、生活基盤“イエナカ”からさまざまな生活をより豊かにしていくということです。近年、自宅でも職場・学校でもない「サードプレイス」に注目が集まっていますが、やはりどこまで行っても生活の基盤は、安心が担保された自宅である「ファーストプレイス」、つまり“イエナカ” にあります。コロナ禍の時代だからこそ、「イエナカを起点に、ユーザーの生活全体をより豊かにする」ということに、domus optimaを通して取り組んでいきたいです。
3つ目は、「思いやりの可視化」です。さまざまな分析をしていて感じることは、家電データはただの利用ログではなく、「誰かが誰かのために行動した足跡」だということです。家電データにはある種“家族の思いやり”が反映されている部分があるのかなと。domus optimaを通じて、そういうなかなか可視化されない「思いやり」にフォーカスを当てていけたらと思っています。
稲本:domus optimaでは、電通のデータテクノロジーと経験で、デジタルマーケティングにとどまらない新しい世界を切り開いていただいていますね。今後も連携を深めて、お客さまにとってより良い世界を作っていきましょう。
中田:domus optimaで、さまざまな企業がたくさんのデータを活用して、日本に新しい価値を生み出していく、ひいては世界にも広げていく、そういう起爆剤になると期待しています。AIoTプラットフォームをオープンなものだと言いましたが、いろいろな企業と新しい価値をつくっていくためには、多くの企業との関係をうまく回していく経験を持った電通の力も頼りにしています。
塩田:ありがとうございました。この記事を読んでdomus optimaの活用に興味がある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください!
また、最後に宣伝です。今回ご紹介した「domus optima」について、CEATEC 2021 ONLINEに電通として登壇することが決定しました!
CEATECとは、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が主催する、アジア最大級の規模を誇るIT技術とエレクトロニクスの国際展示会です。
家電メーカーや自動車メーカーの技術者が参加者の多くを占める中、今回、マーケティング領域や広告業界の企業として参加しますので、ぜひご覧ください。