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畑と宇宙と食卓と。衛星データとテレビ広告の連動による需給連携の最適化
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2022/09/14

昨晩あなたが食べた回鍋肉がとてもおいしかったのは、そこに宇宙が関係しているからかもしれません。一昨日あなたの畑で収穫したキャベツが遠く離れた町でよく売れたのは、そこにAIが介在しているからかもしれません。そんな雲をつかむような話を、電通九州で宇宙ビジネスに関わる山本圭さんがわかりやすく解説します。キーワードは「需給連携」。

畑と宇宙と食卓と。衛星データとテレビ広告の連動による需給連携の最適化

みんなにメリットをもたらす「需給連携」とは?

とある日の夕方。とある町のスーパー。野菜売り場のいちばん目立つ場所に大量に陳列されたキャベツにAさんの目は止まる。形もいい。色もいい。価格も安い。「おっ、今はキャベツが旬なんだ……」と1玉手に取ったそのとき、昨日テレビで何度か見た回鍋肉のもとのCMを思い出す。「そうだ、今夜は回鍋肉にしよう」と心の中でAさんはつぶやく……。

その日、キャベツが旬を迎えていたのも、その日、野菜売り場のいちばん目立つ場所にキャベツが陳列されていたのも、その前日、Aさんが何度となく回鍋肉のもとのCMを目にしたのも、偶然じゃないと言ったら、あなたは驚きますか?

でも、こうしたことが、今、現実になりつつあるのです。

キャベツのイメージ写真

キャベツは、収穫時期によって「春キャベツ」「夏秋キャベツ」「冬キャベツ(寒玉)」に分けられ、一年のうちに何度か最旬期を迎えます。最旬期を迎えて、収穫量が増え、供給が増えると価格は下がります。キャベツに限らず、おいしい旬の時期がもっとも安いのです。

ところが、この最旬期というのは、その年の気温や降水量などの気候条件に影響されて変動するもの。だから、旬を迎えても、消費者側へ十分に購買喚起しなければ、すべては出荷されず、廃棄が生じてしまうのです。いわゆる、食品ロスです 。

逆に言えば、キャベツの最旬期=安くなるタイミングが正確に予想できれば、それに合わせて食品メーカーは自社の調味料商材のテレビCM投下量を最大化したり、スーパーは目玉商品として売り場をつくったり、動的な施策で購買喚起ができます。

今年7月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)電通グループの間で事業コンセプト共創(JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ協定)が結ばれました。JAXAの地球観測衛星の利用技術と 、電通グループが開発した運用型テレビ広告システム「RICH FLOW」による広告の高度化。この二つを連動させることで、「需給連携の最適化」の実現を目指します。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)と電通グループの事業コンセプト共創イメージ図
キャベツを巡る冒頭のエピソードに話を戻しましょう。このエピソードの中に、どんなメリットが隠れているのでしょうか?それは、こうです。キャベツ農家は、大量に収穫した最旬期のキャベツを廃棄することなく流通に乗せることができる。スーパーは、旬のキャベツを目玉商品にしてをつくり、売り上げを伸ばすことができる。食品メーカーは、キャベツが旬のタイミングに合わせて、調味料、ソースなど、関連商材の テレビCMを投入することができる。生活者は、旬のキャベツを使った料理を、おいしく、安く食べることができる。みんなも社会も得する仕組み。すべてにメリットをもたらす「需給連携の最適化」です。

需給連携の裾野を広げ、パブリックな仕組みに

この章では、「RICH FLOW」システムのプロジェクト担当者、電通ラジオテレビBP局岸本GMとデータ解析・価格予測モデルを担うFusicの納富社長の対談を通して、需給の最適化に向けた取り組みと将来展望について紹介します。

電通岸本MD(左)とFusic納富社長(右)
電通 岸本GM(左)とFusic 納富社長(右)

納富:テレビ広告システム「RICH FLOW」は運用型ということですが。
 
岸本:CM枠は、常に混み合っているうえに、CM枠の放送スケジュールの作成(作案)は放送局の作案デスクが主に人手で行っているので、広告主ができあがったスケジュール案に対して変更(改案)を希望しても、その要望に応えることが難しい場面があります。

そこで、広告主それぞれに適した放送枠や流したいタイミングに対応できるよう、視聴率予測AI、組み換えアルゴリズムを活用し、広告主間での大規模なCM枠の組み換えをシミュレーション可能にするシステムを開発しました。それが、運用型テレビ広告システム「RICH FLOW」です。将来は、量子コンピューターも使って、予測値はAI、アロケーションが量子計算と、こうした組み合わせも視野に入れています。
 
納富:その「RICH FLOW」と、衛星データを使った収穫予測、価格予測を連携させ、生産者、消費者、社会によい仕組みをつくる、そのコンセプトに共感しました。

そこでFusicも試験的に、キャベツ、ほうれん草農家さんの衛星画像の解析に取り組んでいます。価格予測のためには、一つの畑でなく、産地をある程度マクロで押さえたい。画像としてはドローンのほうがわかりやすいけど、衛星ならマクロに拾えます。
 
岸本:やってみてどうでしたか。苦労したこととか。
 
納富:まずは教師データがないことです。衛星でこう見えているが、畑ではどうなっていたのか、答え合わせをする必要があります。現地に行って作業している方に、この畑はどんなスケジュールで栽培しているのか、いつごろ収穫したのかなど、直に教えてもらう必要があります。苦心しましたが、何とか収穫期は読み取れるめどは立ちました。ただ衛星から画像を受け取るタイミングはリアルタイムではないので、課題はあるかなと思います。

あとは予測の評価をどう担保するか。価格予測ならば、ある消費地に供給しているすべての畑を観測したいが、それは衛星で見つけるのか、あるいは、どの畑で、いつ頃、何をつくっているかがわかる台帳のようなものがあって、それと照合できるかなど。これらはやってみてわかったことですが。

Fusic納富社長

岸本:確かに農家さんとの連携が必要ですね。しかし、現地に足を運ぶにも限界があります。このプロジェクトをきっかけに、農家さんにもメリットを理解していただける機会があるとうれしいですね。生産計画が立てやすいとか、廃棄が減らせるとか、具体的なベネフィットを感じてもらえば、情報をどう出せばいいか、何をそろえたらいいのかという具合に、インバウンドな流れが期待できると思います。

食品メーカーさんも、流通、小売店さんもそうですが、サプライチェーンが同期して「こういうふうにタイミングを合わせていけば、もっと売れる」というふうに、連携の仕方が見えるようにしていければと思います。
 
納富:みんなのベクトル合わせですね。ポイントはチェーンの出口、消費者かな。
 
岸本:
以前、農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構:茨城県つくば市)にお伺いし、AIを使った先端農業のことについて教えていただきました。すごい技術を研究されているのですが、お話で印象に残ったのは、供給側はテクノロジーで最適化を進めているが、需要がいつ高まるかわからない、買い手が欲しいタイミングがわからない、とおっしゃっていたことです。
 
納富:需要側と連携できないと、真の最適化にならないということですね。
 
岸本:はい。それで今回のプロジェクトはこれを全部とは言いませんが、一部解決できる可能性はあると思います。

また産地連携が課題という話も伺いました。全国に青果市場が50カ所くらいあり、ある産地では生産量が多くなりすぎて市場に供給過多、別の市場には足りていないとか、最適な物流の配分が出来にくい現状がある。農家さんにとって、もっと高く売れる地域があるのに機会損失が生じている場合もあるそうです。

こうした課題に対して、産地を俯瞰(ふかん)で見ることができるデータがあり、CMで需要も喚起できるとなれば、お役に立てる可能性がでてくると思います。消費者も生産者も流通も、大きな価格変動がなく、安定価格で一定量を売り買いできる、という状態がよくて、ここにみんなの目線を合わせて、この仕組みをパブリックなものにしていけると理想だと思います。

電通岸本MD

納富:キャベツの値段も他のモノも同じかもしれませんが、高く売りたい人と、安く買いたい人がいて、それぞれに恣意性(しいせい)がある。それで供給を増やしたり、絞ったり。部分最適にはなるけど、果たして全体の利益にかなっているかという問題がありますね。全体最適のためには、まずファクトの見える化、そして自動運転が交通渋滞を解消するように、人の意思決定が介在しないことかな。
 
岸本:キャベツの価格安定化において、意思が介在しないという状態は、例えばでいうと、衛星などを使って高度なキャベツの価格予測が実現され、CM枠が自動で組み換えされて、消費者が旬な時期に野菜を購入でき、おいしい料理が食卓に並んでいる、という状況でしょうか。広告主には、この仕組みを活用するという意思決定をしていただければ、多くの人手を排除でき、恣意性もなく、全体最適も進むという未来がくるかもしれないですね。

今回はキャベツと調味料商材という身近な素材ですが、他の商品・サービスにおいても、同様の仕組み化が可能になるかもしれません。クライアント・生産者側で整えられているDX基盤と「RICH FLOW」のような動的なマーケティング基盤が連携することで生み出される新しい価値は他にもたくさんあると思います。

衛星などオルタナティブデータ(※人工衛星・IOT機器・SNSなどから得られるビッグデータを指す。対義語はトラディショナルデータ=政府機関の統計や企業の経営・ESG情報など)の利活用で、今まで可視化されなかったファクトが、可視化され、新しい世界が現れる。需給連携というコンセプトのもとに、可能性を広げていきたいと思います。

納富:衛星データの活用例でいうと、オービタル・インサイト(※米国シリコンバレーのAIスタートアップ)は有名ですね。石油産油国の貯蔵タンクを観測して、備蓄量を計測する。情報は投資家が購入し、株式や商品市場での投資判断に活用しているといいます。(※著者注:石油のタンクは「浮き屋根」で屋根は原油に浮いている。中身の量で上下するので、上からタンク壁面の影の大きさを見ると備蓄量がわかる)このように、マーケティングの活用事例を作り出す。

岸本:広告だけだとわからないことも多いのですが、農業の現場や工場の生産ラインなどでは、需要予測というものにいろいろな取り組みやニーズがあって、それらと衛星データのよさが重なり合うところがあれば、キャベツに続いて、第二第三の素材発見やユースケースにつながると思います。
 
納富:そうですね。あるいは、コーヒー豆のような嗜好品(しこうひん)の場合、酸味や苦み、どの産地で栽培されたものが、その人が求める嗜好(しこう)と合っているのか、衛星が教えてくれるなど。マーケットプレイスをつくるコア技術として、新しい販路や需要を増大させることもあるかもしれません。

ところで、プロジェクトの将来的な課題はどう考えますか。
 
岸本:この仕組みをパブリックにしていきたいですが、そのためには、どのステークホルダーにとっても価値ある仕組みにしていく必要があると思います。売り手は出来るだけ高く売りたい、買い手はできるだけ安く買いたい、その間に立っているプレイヤーは出来るだけ利益を上げたい、本来それぞれの目的は相反するケースが多いと思いますが、今回のプロジェクトでは、安定価格で一定量の野菜とそれに関連する調味料商材が流通し、販売総量が増え、全体の売り上げ向上につながる、そういった仕組みを構築できるかどうかが非常に重要なポイントだと思います。また、このような取り組みによって、野菜が旬な時期に食卓に並ぶ、食品ロスが減ることなどを通して、消費者に支持される取り組みになるかどうか、が非常に重要になってくると思います。プロジェクトとしてはまだスタートラインに立ったばかりですが、是非そのような未来を目指していきたいですね。
 
納富:このプロジェクトはAIやITだけでなく、幅広い分野から参加があるといいです。例えば、農業の専門家、食品流通の専門家、銀行のような地域の専門家。需給連携という事業のもとに、いろいろな分野の人がジョインしてくれると、いろいろな需要創造ができそうです。やって感じたことですが、宇宙事業に関わっている人たちは懐が深い。なので、アライアンスメンバーを大募集です。ウチの会社もマジメに採用募集中です(笑)。

「RICH FLOW」を基盤に、需要側と供給側を同期

今回の取り組みを簡単に言えば、人工衛星でキャベツ畑を観測し、最旬期と小売価格を予測。運用型テレビ広告システム「RICH FLOW」と連動させ、調味料商材のCMのオンエアスケジュールを組み換えなどで増やし、消費を喚起するというものです。JAXAの側も、衛星の使い方として、需要創造という点に関心を持っているそうです。

下の図は、需給連携の仕組みを表したものです。サプライチェーンを効率化するカギは、需要側と供給側を同期させること。この考え方に基づいて、需要を増やして、ロスを減らし、みんなが得をするような持続可能なモデルが構想されています。その基盤となるのが「RICH FLOW」です。

「RICH FLOW」を基盤に需要側と供給側を同期させたモデル図
このシステムのおかげで、オルタナティブデータが分析だけではなく、チェーンの出口である消費までつながっている。この点が新しい。対象はキャベツを想定していますが、他の品目や農業以外の分野の実装も目指すとのこと。このビジネスの話は常に変化するので続報します。
 

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