既成概念からの脱却!若手BXクリエイターの挑戦(前編)
2023/02/24
1954年の創業以来、水、空気、ガスといったライフライン設備の設計・施工を請け負うプロフェッショナルとして、長らく地域に愛されてきた若林設備工業。
同社は100年続く「三方良し」の経営を目指し、新たなコンセプトと経営戦略を立案。それを体現する新規事業として、電通とともに空間サブスクリプションサービス「room tailor」を開発しました。
若林設備工業に新規事業への思いをお聞きした第1回に続き、今回は当プロジェクトの電通クリエイティブチームに、room tailorにおけるチャレンジや、BX(※)を通じて新規事業を成功させるためのポイントを聞きました。
(※)=BX(ビジネストランスフォーメーション)
顧客企業の事業成長と企業変革を実現するビジネス変革領域。顧客企業のトップラインを伸ばすために、既存事業の変革や新規事業の創出、企業のインナー改革を含めた支援を行い、成長にコミットする。
【room tailorとは】
若林設備工業による空間サブスクリプションサービス。暮らしに自分だけのテーマを設定し、テーマに合わせてクリエイター/女優/インフルエンサー/フィットネスモデルなど、第一線で活躍するプロのアドバイザーが必要な家具・家電を選定。入居後もアドバイザーと定期的にオンライン相談が可能で、今まで以上に暮らしを充実させていくことができる。
https://roomtailor.jp
若手主体のクリエイティブチームによる、ユーザー目線での開発
──はじめに、皆さんの自己紹介をお願いします。
アーロン:私は電通BXCC(ビジネストランスフォーメーション・クリエーティブ・センター)に所属しており、主に新規事業開発領域の事業開発プロデューサーを務めています。従来の広告の仕事だけでなく、今回の事例のように経営者と一緒に事業を作っていく仕事も多く担当しています。
山口:アーロンさんと同じ部署でアートディレクターをしています。私も新規事業開発をはじめ、エンドユーザーの視点からアプローチして未来のサービスのあり方をビジュアライズしていくような仕事が多いです。
油井:BXCCでプランニング、アプリやリアルな場の体験設計などをメインで担当しています。また、クリエイティブテクノロジストとしてテクノロジーを活用した企画にも携わっています。
金塚:私はパブリック・アカウント・センターという局で、中央省庁や地方自治体など公共のクライアントの課題解決に向けて、民間企業と連携しながら新規事業開発や既存事業の拡張を支援しています。
──今回はどのような視点でメンバーを集めたのでしょうか?
アーロン:まず新規事業は完成するまで形が見えないですし、すぐに売上が立つものではないので、そこに込められた企業の思いや価値を可視化することがとても重要です。そこで、デザインやビジュアライズのプロであるアートディレクターとして山口さんに入ってもらいました。
油井さんはUI/UXのスペシャリストとして上司から紹介してもらいました。今回はウェブサイトなどの実装やサービスの体験設計も必要になると考えていたので、とても心強い存在でしたね。
アーロン:そして、金塚さんは自ら手を挙げて参加してくれたんですよね。
金塚:そうです。当時、私はクライアントからのオーダーに対して、電通グループの中にあるアセットを組み合わせてご提案するような仕事が多かったのですが、もう少し異なるアプローチのビジネスの作り方を学びたいと考えていました。ちょうどそのタイミングでたまたま今回のプロジェクトのことを知り、ぜひチャレンジしたいということでアーロンさんに連絡しました。
アーロン:金塚さんはリサーチが得意なので、市場環境の調査やユーザーインサイトの発掘など、新規事業開発を前に進めるために欠かせないファクトを集めてくれました。みなさん、所属や専門領域は異なるのですが、共通する要素として“やる気に満ちあふれた人たち”の集まりと言えるかもしれません(笑)。やはり新規事業開発は形にするまでの道のりがとても険しく、形になる前に頓挫するケースも多々あります。だからこそ、そこに携わるメンバーの強い気持ちや思いがプロジェクトの推進力になると実感しています。
油井:個人的には関わるメンバーが少人数だったことで、必要以上のコミュニケーションコストをかけずにスピーディに物事を進められたことが良かったと思っています。アーロンさんが若手の僕たちに自由にやらせてくれたこともあって、スタートアップ企業のようなスピード感で新規事業開発ができました。
山口:そうですね。特に今回はリーダーのアーロンさんが先頭に立ち、本気でクライアントと同じ目線で新規事業に向き合っていたので、僕たち若手主体のクリエイティブチームもその姿に刺激を受けました。
金塚:“暮らし”という身近なテーマだったこともあって、みんなどんどん自分ゴト化しながらアイデアを出し合いましたよね。
油井:そうそう、イチ生活者としての「こういう暮らしがしたいよね」という憧れや、「住まい探しのココが不便」という課題を出しながら、若林設備工業の強みや特徴とも重ね合わてサービス開発や体験設計を進めていきました。
新規事業開発における、“地に足が付いている会社”という強み
──クリエイティブチームから見て、若林設備工業の強みや特徴はどのようなところにあると思いましたか?
アーロン:新規事業開発という観点でいえば、前回の若林社長との対談でもお伝えしたように、“同族企業”という点に強みがあると思っています。新規事業は目先の利益を追うのではなく、数年先の未来を作るプロジェクトです。しかし、実際には組織のトップや経営層が入れ替わったタイミングで、1〜2年かけて取り組んだ新規事業が黒字化していないことを理由に頓挫してしまう、というケースを何度も目の当たりにしてきました。一方、同族企業であれば、一族が長期的に経営戦略に携わるケースが多いため、長期的な視点で変革にチャレンジできるという点で、新規事業との相性がとても良いと思っています。
金塚:それから、水、空気、ガスといったライフライン設備の設計・施工を担うプロフェッショナルとして、社会のインフラを支える技術を持っていることも強みだと思いました。「暮らしにテーマを」という理想を掲げた時に、それを具体化してアウトプットすることができる。コンセプチュアルなものを形にする力があるからこそ、そのコンセプトにも説得力が生まれるのかなと思います。
アーロン:“地に足が付いている会社”ですよね。長らく地域のインフラを支えてきた既存事業の基盤は、新規事業にチャレンジする上で大きな武器になります。
山口:これはプロジェクトを進める中で気が付いたことですが、若林設備工業が寮のような場所を所有していたことで、スムーズに実証実験ができたことも良かったと思います。おかげさまで、ユーザーテストを通じてサービス設計をブラッシュアップしていくことができました。
油井:確かに、「暮らしにテーマ」というコンセプトから生まれるアイデアは無数にあるので、その中でもユーザーに響くテーマがどのあたりなのかを絞り込めたことは大きかったと思います。
(後編に続く)