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F/CE.×藤田金属。町工場のブランド力を高める「ワークウエア」のチカラ

2023/07/31

藤田金属
画像をクリックすると、「FUJITA KINZOKU KOBA-FUKU」のウェブサイトがご覧いただけます。

人手不足や技術の継承問題など、さまざまな課題を抱えている町工場。課題に向き合うべく、自社ブランド・製品の開発・販売を通してブランド力を強化する企業は年々増加しています。

今回ご紹介するのは、そうした「プロダクト」基点ではなく、「働く場所」や「働く人」に着目した町工場のブランディング。大阪・八尾市を代表する町工場・藤田金属とアパレルブランド F/CE.®(エフ シーイー/以降、F/CE.と表記)のコラボレーションから生まれた「ワークウエア」の制作プロジェクトです。

コラボレーションが実現した経緯やワークウエアの特徴、町工場ブランディングのポイントとは……?藤田金属 代表取締役社長の藤田盛一郎氏、F/CE.デザイナーの山根敏史氏、ワークウエアの素材提供を行った帝人フロンティアの中野茂氏、そしてプロジェクトの企画・プロデュースを務めた電通 ソリューション・デザイン局の寺田昌樹氏の4者が語ります。

町工場ブランディング

「人材」という課題に向き合い生まれた、町工場×アパレルのコラボレーション

寺田:藤田さんと初めて出会ったのは、町工場のものづくりを体験できるオープンファクトリーイベント「FactorISM(ファクトリズム)」がきっかけでしたね。お話を伺っていくうちに、「人材」に関して悩みを抱えているとご相談いただいたことが、今回のプロジェクトの発端でした。

藤田:そうですね。弊社は、大手企業の下請けとしてものづくりを行うだけでなく、自社ブランドの製品開発にも力を入れています。高品質の厚手の鉄板でおいしく調理ができ、さらに取っ手を簡単に取り外して皿としても使える「フライパンジュウ」などは非常にご評価いただいています。おかげさまで藤田金属の認知度を上げることはできたのですが、「藤田金属で働きたい!」という人を増やしたり、社員のモチベーションを高めたりするのは難しく、ずっと悩んでいたんです。

藤田金属
藤田金属
大阪府八尾市で1951年に開業。四代にわたって受け継がれる高い技術力を生かし、フライパン、鍋、ヤカン、コップなどの金属製品を作り続けている。近年は「フライパンジュウ」や「テーブルランプ イチ」など、独創的な自社ブランド・製品の開発にも力を入れ、ドイツの「Red Dot Award 2021」「iF Design Award 2021」など、国内外のさまざまな賞を受賞している。
寺田:クリエイティブな製品を数多く生み出し、メディアからも注目を集めている藤田金属がそうした課題を持っているのは正直意外でした。では、どうすれば人材に関する課題を解決できるのか……。思いついたのが、ワークウエアの制作です。「プロダクト」ではなく、「働く場所」や「人」を基点としたブランディングとして、提案させていただきました。

藤田:寺田さんからこのプロジェクトの提案をいただいた時、率直に面白いなと。F/CE.というブランドが手掛けるカッコいいウエアを着て働けるということで、社員のモチベーションアップにつながりますし、弊社は工場の2階にあるショップから、社員のものづくりの様子を見学できるようになっているので、訪れた人にもここで働く人のカッコよさを感じてもらえると思いました。

藤田盛一郎

寺田:F/CE.の山根さんにお声掛けしたのは、ファッション性と機能性を掛け合わせたプロダクトを生み出しているという点が、藤田金属のワークウエアにマッチするのではないかと考えたからです。今回のプロジェクトに賛同していただいた理由について伺ってもよろしいでしょうか。

F/CE.
山根敏史氏と山根麻美氏が手掛けるファッションブランド。コンテンポラリーファッションをベースに、機能的かつ高品質なウエアとバッグを製作。毎シーズン、「世界中から選ばれたひとつの国」をテーマにコレクションを展開。テーマとした国を実際に訪れて、生活、歴史、建築、アート、音楽などに触れて、現地で感じたインスピレーションをデザインとディテールに落とし込んでいる。
山根:以前、資生堂のユニフォームを手掛けたのですが、その際にワークウエアづくりの面白さを感じていました。ワークウエアは一般的なファッションとは異なり、多くの制約がある中でデザインしなくてはなりません。ユーザーの声を聞きながら、機能性や利便性を考えた上で自分らしさを発揮する……。今回のプロジェクトでも、そうした目線でものづくりをしている自分の強みが生かせると思い参加しました。

藤田金属にはさまざまなプロダクトがありますが、個人的には、キャンプが好きなので、取っ手を外して皿として使える「フライパンジュウ」にも興味がありましたし、町工場の「変わらないものづくり」に引かれたというのも一つの理由です。受け継がれてきた職人の技術力と利便性が光る藤田金属のプロダクトに恥じないようなワークウエアを作らなければいけないなと、強く意識しましたね。

町工場ブランディング
(左)F/CE.デザイナーの山根敏史氏、(右)藤田金属 代表取締役社長の藤田盛一郎氏、

工場で働く人に寄り添う「機能性」と普段使いできる「ファッション性」を兼ね備える

藤田金属
画像をクリックすると、「FUJITA KINZOKU KOBA-FUKU」のPVサイトがご覧いただけます。

寺田:藤田金属とのコラボレーションにより、オーバーオール、スウェット、Tシャツ、キャップが誕生しました。制作にあたってのこだわりやポイントを教えてください。

F/CE.
オーバーオール。ズボンの裾には丈を調節できるドローコードや、前あて部分を下ろして着用する際に便利なベルトループなど、夏場の作業も快適に行える工夫が施されている。

山根:一つ目のポイントは、やはり機能性です。工場を見学した際、作業工程が多岐にわたることを知りました。そこで、長時間座って作業をしている人や、かがんで機械を動かしている人など、どんな作業をしている人にも動きやすいワークウエアを作ろうと考えました。例えばオーバーオールの膝部分に「くの字型」のタックを施し、膝の曲げ伸ばしがしやすくなるようにしたり、工具を入れるポケットの位置やサイズなどにもこだわっています。そうした細かな機能性を意識し、オールシーズン着ることができるワークウエアとして制作しました。

藤田金属

山根:「SOLOTEX®︎(ソロテックス)」(※)という素材を採用したのも、そうした理由からです。「ソロテックス」は、動きやすくて、しわが付きにくいだけでなく、丸洗いできて速乾性もある素材です。採用にあたり、繊維専門商社である帝人フロンティアの中野さんにご協力いただきました。

※SOLOTEX®は帝人フロンティア(株)の素材です。


中野:「ソロテックス」は、優れたストレッチ性としわが付きにくい高い形態回復性を持っている点が大きな特徴です。F/CE.のウエアにも採用していただいていたことから、山根さん経由で今回のお話を伺いました。藤田金属と同じものづくりの会社として、日本の産業を支える町工場を素材提供という面からバックアップしていきたいという思いもあり、プロジェクトに参加しました。

火の粉が飛ぶ作業環境を考慮して、スウェットとTシャツには、火に強いコットンに「ソロテックス」を複合したオリジナル素材も提案させていただいています。弊社は素材を提供して終わりというお仕事が多いのですが、現場やユーザーに寄り添っていくことが大切だと感じていた私にとっても、有意義なプロジェクトになりましたね。

F/CE.
F/CE.
(上)スウェット(前・後)、(下)Tシャツとキャップ。スウェットとTシャツは、藤田金属が扱うヘラ絞り機や型からインスピレーションを得て生まれた丸型のモチーフが施されている。また、職人はさまざまな道具を持ち歩くことが多いので、スウェットやTシャツにもポケットが付いている。

山根:もう一つのポイントは、普段着としても使えるファッション性です。これが、制作における大前提だったんです。例えば、通勤時に家から着ていったり、休みの日に家族で買い物に出かける時に着てみたり。藤田金属のロゴが入っているので、外出先でこのウエアを見た人が「藤田金属って何だろう?」と気になって、調べるきっかけにもなるかなとも考えていました。だからこそ「ソロテックス」という丈夫でクオリティの高い生地を使用し、普段着ていても「カッコいい」と感じるデザインに仕上げました。

藤田:最初のラフをいただいた時から、「めっちゃカッコええやん!」と思っていました(笑)。社員からも大好評で、「普段から着たいので、追加で購入できないか」という声もあがっています。収納力もあって動きやすく、なによりデザインが良い。社員のモチベーションアップにつながりました。

山根:そして「普段着としても使える」というコンセプトは、ものを無駄にしないとか、リユースできるとか、自分の中にあったサステナブルな考え方から生まれたものでもあるんです。

寺田:確かに、「サステナブル」は大きなテーマになっていると思います。工場で着用するワークウエアは、大量生産品を選ぶのが一般的です。でも、藤田金属をはじめとする町工場の製品はそうじゃない。長く使ってもらうためにと、一点一点丁寧に作られていますよね。だからこそ、自分たちが使うものも長く使えるものを選択する。そうした考えを発信するのは、世の中へ一石を投じることだと感じています。

中野:この生地は耐久性もあって劣化しづらいので、「長く使える」という点ではぴったりだと思いました。このワークウエアを通して、着古したらすぐ捨てるという消費の形が少しでも変わっていったらうれしいですよね。

中野茂

寺田:帝人フロンティアとして、今回のようなプロジェクトに参画する意義はどのようなところにあると感じますか?

中野:先ほど生地提供で町工場をバックアップしたいと言いましたが、生地提供を通して日本の技術を守りたい気持ちが大きいですね。群馬県の桐生シルクや、愛知県・岐阜県の尾州ウールなど、日本には生地の産地がいろいろあります。今回は和歌山県のオカザキニットに別注で生地を作ってもらいました。繊維業界のものづくりと町工場のものづくりをつなげられればという気持ちで取り組んできました。それと、今回のようなプロジェクトを通して、ウエアを実際に使用した方から素材についてフィードバックをいただけるのは、われわれの事業にとってプラスになります。

企業の「中」を発信することで高まる町工場のブランド力と広がる新たな可能性

藤田金属
寺田:町工場のブランディングを考える際に基点となるのは、やはり「ものづくり」だと思います。藤田金属でいえば「フライパンジュウ」など、プロダクトを入り口に会社のファンになるという流れは、これまでにも多くありました。ですが、今回のワークウエアのように企業の「中」を見せていく取り組みはまだまだメジャーではありません。「働く環境」やそこで「働く人」の魅力を見せていくことができたら、町工場にとっても大きなチャンスになるでしょう。

藤田:実際に、藤田金属の製品に憧れて求人の問い合わせをしてきた社員もいますからね。そこに「ワークウエアへの憧れ」が、入り口の一つとして加わっていけばいいな、と思います。SNSやYouTubeなどで藤田金属を知って面接に来る方も多いので、カッコいいウエアを着た社員を見て「これが着られるんだ!」と感じてもらい、藤田金属で働きたいと思うきっかけになってくれたらうれしいです。

寺田:F/CE.とのコラボレーションという視点から見ると、アパレル業界のみなさんが藤田金属を知るきっかけにもなるはずです。今回のワークウエアは、数量限定ではありますがF/CE.のECサイトで一般発売もされますので、他業界の人たちの目に触れることも多いと思います。「町工場がこんなかっこいいワークウエアを着ているんだ」と興味を引いて、藤田金属の製品に入っていく。そうした流れを作ることができたら、藤田金属にとっても大きなメリットになります。ワークウエアを基点として、また次のコラボレーションにつながっていく、なんてことも考えられますよね。

寺田昌樹

山根:私としても、ファッションとはまた違う、新しい世界を見せてもらえるのではないかと期待しています。F/CE.の母体となる会社、OPEN YOUR EYESでは、デンマーク発のアウトドアブランド「ノルディスク」の世界初のコンセプトストアを運営しているので、そうしたアウトドアプロダクトの面で、藤田金属に力を借りることができたらいいなと考えています。たき火台とか、作ってみたいですね。

寺田:アウトドアアイテムは、特に機能性が求められている部分がありますからね。高い技術力で機能性の優れた製品を生み出す町工場の強みを、存分に生かせる分野だと思います。

中野:町工場のワークウエアに関しても、シリーズ化して同じような取り組みが広がっていくと面白そうですよね。

寺田:そうですね。今回のような取り組みを一回きりで終わりにせずに、他のものづくりの現場でも「ワークウエア」から「カッコいい町工場」をアピールしていけたらうれしいです。

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