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androp内澤崇仁氏と荒谷翔大氏に聞く、アーティストタイアップの理想のカタチ

2024/10/08

lulu

第一三共ヘルスケアのかぜ薬「ルル」は、日本の伝統工芸職人が手作りしたくすり箱を抽選でプレゼントするキャンペーン「家族をつなぐ くすり箱プロジェクト」を展開。第4弾では「家族のつながり」をテーマに、andropが書き下ろしたキャンペーンソング「Tayori feat.荒谷翔大」をウェブムービーとともに公開しました。

公開直後から楽曲への感想も含めた好意的な反響が多く、アーティストサイドからも「楽曲が作りやすかった」「大切な曲/案件になった」という感想をいただき、PRや情報発信を自発的に取り組んでいただいた結果、キャンペーン応募数の増加につながりました。

アーティストと広告主、クリエイターが理想的な関係を築くためには、どんなコミュニケーションが必要なのか?androp内澤崇仁氏と荒谷翔大氏、プランニングを担当した電通の萩原志周氏、鈴木章太氏が語り合います。

(ファシリテーター:電通 鈴木章太氏)

第一三共ヘルスケアについて
第一三共ヘルスケアは、第一三共グループの企業理念にある「多様な医療ニーズに応える医薬品を提供する」という考えのもと、OTC医薬品の事業を展開。現在、OTC医薬品にとどまらず、機能性スキンケア・オーラルケア・食品へと事業領域を拡張、自分自身で健康を守り対処する「セルフケア」を推進している。
 

キャンペーンテーマ「家族のつながり」と、andropの楽曲に感じた共通点

鈴木:今回、内澤さんと荒谷さんには素晴らしい曲を作っていただいただけでなく、PRにも協力的に動いてくださって本当に感謝しています。おかげさまで非常に好意的な反響が多く、クライアントにも喜んでいただき、私たちも含めて関わったみんながハッピーになったプロジェクトだったのかなと思っています。

このようなアーティストタイアップのカタチが世の中に増えていってほしいという思いから、本日は皆さんがどのようなコミュニケーションを取りながらプロジェクトを進めていったのかをぜひ語り合っていただきたいと考えています。はじめに、萩原さんから改めてプロジェクトの概要を説明していただけますか?

萩原:「家族をつなぐ くすり箱プロジェクト」は、第一三共ヘルスケアの総合かぜ薬「ルル」において、家庭に薬を常備することは家族を想うこと、というコンセプトのもとで家族の絆・温かみを伝えていくキャンペーン施策です。ウェブムービーとともにプレゼントキャンペーンを展開し、当選者には日本の伝統工芸職人が製作した「ルル」オリジナルくすり箱をプレゼントしています。

第4弾となる今回の施策では、春に家族を離れて上京する姉妹と母親の想いにフォーカスを当てたウェブムービーを、andropの書き下ろしキャンペーンソング「Tayori feat.荒谷翔大」とともにお届けしました。

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鈴木:andropと荒谷さんのキャスティングも含めて、どういう経緯で企画が成り立っていったのでしょうか?

萩原:家族のつながりをテーマに検討を重ねる中で、「あたたかい、嘘のない映像にしたい」という話をクライアントとしていました。そのような温度感やリアルさを伝えるためには音楽がカギになると考えた時に、以前からandropの楽曲を聞いていると自然に思い出が蘇るような温かさを感じていたのと、何よりも内澤さんの声の“濃さ”が今回の温度感に合うんじゃないかと勝手に思ったんです。それからandropの曲を聞き込み、ライブにも足を運んだりしながらイメージを膨らませていきました。

鈴木:年末に内澤さんの弾き語りイベントを一緒に見に行きましたよね。

萩原:そう、鈴木さんに誘っていただいて。ライブを見て、改めて素晴らしい歌声だと感じたことはもちろん、演者もお客さんも含めてみんな笑顔で温かい空間が生まれていたのがすごく印象に残っています。

内澤:年末のお忙しいであろう時期に、わざわざ足を運んでライブを見に来てもらえて、すごくうれしかったですよ。その時に初めてご相談いただいて、ぜひお手伝いしたいなって思いました。

androp内澤崇仁氏
androp 内澤崇仁氏

萩原:早速クライアントに内澤さんのことをご提案すると、担当者の方もandropをご存じで「むしろ、良いんですか?」と賛同してくださったのを覚えています。荒谷さんとのコラボのアイデアはその後に生まれたのですが、それも鈴木さんがきっかけでしたよね。

鈴木:そうでしたね。萩原さんから「若年層にもターゲットを広げたい」という相談をもらった時に、真っ先に思い浮かんだのが荒谷さんでした。2年ぐらい前に内澤さんの弾き語りイベントで荒谷さんと一緒にコラボしたライブが本当に素晴らしくて。ものすごい熱量で萩原さんにプッシュした気がします(笑)。

電通 鈴木章太氏
電通 鈴木章太氏

萩原:恥ずかしながら荒谷さんのことはその時に初めて知ったのですが、歌詞の情景が思い浮かぶような温もりのある歌声がとても魅力的で感動しました。そして、映像の構成も子どもの上京を応援する親の視点と、上京する若者の視点、両方を大切に描きたいと思っていたので、親世代も含めて幅広い層に人気のあるandrop、若年層から熱烈な支持を集めている荒谷さんのコラボはまさに理想中の理想でした。

電通デジタル 萩原志周氏
電通デジタル 萩原志周氏

鈴木:ちょうど荒谷さんがソロアーティストとして新しい一歩を踏み出すタイミングと重なっていたので、旅立ちを描くストーリーとの親和性の高さも感じましたよね。そして、内澤さんは青森出身、荒谷さんは福岡出身と、二人とも上京を経験しているので、いろんな思いを歌や歌詞に乗せてもらえるんじゃないかと思いました。

荒谷:最初にご相談いただいた時、僕はandropのファンだったので、本当に内澤さんの曲に参加して良いのか!?と恐れ多い気持ちがありました。でも、いま鈴木さんが話してくれたような「旅立ち」や「上京」というコンセプトをご説明いただいて、自分の中でもすごく腑に落ちたのを覚えています。

荒谷翔大氏
荒谷翔大氏

複数の企画案から本質的なコンセプトを感じ取り、インスピレーションが広がるきっかけに

鈴木:実際に作曲していただくにあたってオリエンテーションをしますよね。その際に気を付けていたことはありますか?

萩原:自分は曲を作ったことがないし、音楽の知識がすごくあるわけでもないので、曲調やテンポなどをオーダーするのではなく、根幹のコンセプトをお伝えすることに注力しました。

内澤:自由度が高かったですよね。リファレンスとしてandropの曲を何曲か挙げていただきつつ、「こういうのが合うかもしれません。でも、縛られずに考えていただいて大丈夫です」という、絶妙な余白を残してもらえたというか(笑)。

鈴木:自由度があった方がやりやすいのか、曲調やワードなどに明確な条件があった方がやりやすいのか、お二人はどちらのタイプですか?

荒谷:条件というよりは、相手が何を大切にしているのかを知ることは重要だなって思います。例えば、好きな曲を挙げていただいたときに、その曲のどんなところが好きなのか、そのポイントは知りたいです。

荒谷翔大氏

内澤:なんでも自由にどうぞって言われると幅が広すぎるので、ある程度の条件はあった方がやりやすいかもしれません。ただ、今回のプロジェクトはすごくしっかりした企画書をもらえたのが大きかったです。5パターンぐらいの企画案を全て共有していただきましたが、どれもコンセプトが明確だったので、そこからキーワードを拾ってイメージを膨らませることができました。

萩原:決定した案や有力な案に絞り込んで共有することも多いので、全部の案をお渡しすべきなのかは悩んだところでした。

内澤:むしろ複数の案を送っていただいたことで、全てのアイデアに共通する本質的なコンセプトを感じ取ることができた気がします。

鈴木:その意見はけっこう新鮮かもしれません。私たちは余計な情報を削ぎ落とした方がやりやすいんじゃないかと考えがちなんですが、逆なんですね。

内澤:もちろん人によると思いますが、僕の場合は全体感を掴めた方がインスピレーションにつながりやすいです。

荒谷:確かに。情報はいっぱいもらえる方がうれしいかも。

萩原:ちなみに先ほどリファレンスの話がありましたが、今回はプロジェクトメンバー全員でandropの曲を聴き漁り、andropの曲だけを厳選して参考に挙げさせていただきました。その方が作りやすいのか、他のアーティストの曲も挙げた方がより俯瞰的に見られるのか、どちらでしょう?

荒谷:僕はどちらでも大丈夫です。他のアーティストの曲を聞かせてもらって、自分だったらこうしてみよう、というインスピレーションが生まれるきっかけにもなるので。他の人の曲そのまんまって言われたらちょっと困りますけど(笑)。

内澤:僕も荒谷くんと同じです。多分、人によって違うんでしょうね。だから、その人がどういうタイプなのか、コミュニケーションを取りながら提案できると良いのかもしれないですね。

androp内澤崇仁氏

androp×荒谷翔大 二人の共通する思いを歌詞に込める

鈴木:オリエンを受けてデモを作る段階で、内澤さんが工夫したことはありますか?

内澤:「春」や「桜」、「上京」といった映像のプロットと尺の長さは決まっていたのですが、曲としては春だけを描くのではなく、春夏秋冬のストーリーを歌詞で表現しました。曲全体には季節の移ろいがあるのですが、映像で使うパートだけをつなげると春になるという。

萩原:あれはすごく驚きました。企画書には春のストーリーしか書いていないのに、こんなに広げられるの?って。

内澤:それから、ルル自体が何十年も続いてきた歴史があり、くすり箱にまつわるストーリーもずっと続いていくものだとすれば、一過性で終わる曲にしたくないという思いがありました。なので、歌詞も現代っぽい言葉にするのではなく、卒業式に歌えるくらいの普遍的な言葉を意識的に選んでいます。普通なら「消えない思い出」と書くところを、「消えぬ思い出」という言葉づかいにしたりとか。

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萩原:デモも4パターン作ってくださって、それぞれ方向性は違うんですけれど全部の案が本当に素晴らしかったです。しかも、オリエンから2週間ぐらいでお送りいただきましたよね?天才すぎる!って思いました。

内澤:それはコンセプトが明確な企画書のおかげですよ。

鈴木:褒め合いになってきましたね(笑)。クライアントの反応はいかがでしたか?

萩原:最終的に4案の中から一つに絞り込んでご提案したのですが、とても喜んでいただいてすぐにOKをいただくことができました。

鈴木:一発OKってすごいですよね。案件によっては修正のご要望をいただくケースも少なくないですから。ちなみに、タイアップだと歌詞やメロディなどに手直しが入る場合もあると思いますが、そのようなご相談はどこまで許容できますか?

内澤:僕は100%納得していただくまで、やり切りたいタイプです。もちろん、自分が納得できるものであることが前提としてあるのですが、きちんとお互いが納得できて、良いものを作りたいですね。

荒谷:一緒です。譲れないラインは出てくるかもしれないけれど、やれるところまでは全力でやりたいです。

鈴木:荒谷さんはこの曲を最初に聞いた時にどう思いましたか?

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荒谷:歌詞が素晴らしくて、ストーリーに惹き込まれました。自分が作った曲ではないのですが、自分の気持ちと重なる部分がたくさんありますし。僕が歌うパートが決まった状態で渡してもらったのですが、歌を練習するというよりも、線路沿いや青空の下で散歩しながら、自分の中に染み渡らせるような感覚で何度も聞いていました。すごく贅沢な時間で、今でもけっこう思い出しますね。

内澤:実はこの歌詞は、荒谷くんとコラボすることが決まってから作っているんです。最初に出会って話をした時に、生まれ育った場所は北と南で違うけれど、お互いに東京にやってきて、音楽活動に対する葛藤や悩みなども含めて似たようなものを抱えていると感じていました。きっと、荒谷くんなら共感できるだろうという、そんな思いを歌詞に込めたんです。実際にレコーディングで荒谷くんの歌を聞いた時は泣きましたから。

荒谷:全部の歌詞が好きなんですけれど、特に「少し崩れた“元気でいて”の文字を見て」のところは、僕も歌っていてグッとくるものがありました。

内澤:いやぁ泣きましたよ。朝早いのに、こんなに泣けるんかと(笑)。

鈴木:ちなみに荒谷さんはバンド活動も含めてブラックミュージックをルーツにした曲を歌っているイメージが強いのですが、今回の楽曲はまたひと味違ったテイストですよね。そこに対する新鮮さはありますか?

荒谷:めちゃくちゃありました。こういう曲を世の中に出したことがなかったので、うれしい反面、不安な気持ちもありました。ただ、自分で書くとなるとハードルが上がる気もするのですが、内澤さんが書いた曲に乗っからせてもらう形だったので、結果的に自分の可能性も広がりましたし、すごく良い経験をさせてもらえたなって思っています。

内澤:そうか、そうか。良い仕事したな(笑)。

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全員が同じ熱量で、同じ方向に向かうことが大事

鈴木:今回の楽曲がお二人にとってどんな存在になったのか、改めて感想をお聞かせください。

荒谷:いまの自分にとっても響く曲ですし、いつか親になった時にこの曲を聞いたらどんな気持ちになるのかを想像することもあります。その時に胸を張ってこの曲を歌えるように、がんばろうという気持ちにさせてもらえる曲ですね。

内澤:自分の音楽人生にとって大切で、ずっと歌い続けたい曲になりました。そして、荒谷くんと一緒に作れて本当に良かったなって思います。そのような機会をいただけたことに感謝しています。

鈴木:こちらこそ、本当に素晴らしい楽曲を提供してくださってありがとうございます。萩原さんは今回のプロジェクトを振り返ってみて、改めて理想的なアーティストタイアップを実現するために大切なことは何だと思いますか?

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萩原:一番大切なのは、クライアントやアーティスト、クリエイター、プランナー、営業も含めてみんなが同じような熱量で、同じ方向に進むことだと思います。今回は内澤さんと荒谷さんが本当に温かくて優しいお二人だったこともあって、全員がお互いをリスペクトするような環境を作れたことが良かったんじゃないかと感じています。

内澤:萩原さんの飾らない雰囲気や、壁を作らずに接してくれたことも大きかったと思います。

鈴木:andropが自分たちでマネジメントをされていることもあって、内澤さんと直接コミュニケーションを取れたこともプラスに作用しましたよね。多分、ほとんどのプランナーやクリエイターがアーティストと直接対話をする機会がないので、変に気をつかいすぎたり、偏見を抱いていたりすることもあると思うんです。

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萩原:正直、前回 第3弾でご一緒したTHE CHARM PARKさんの時もそうだったのですが、アーティストに対してちょっと怖いイメージを持っていました。

鈴木:どんなイメージですか。

萩原:意見を言うと怒られそう。話を聞いてくれない。全てのジャッジはアーティストに委ねられている、みたいな。

内澤:最悪な印象じゃないですか(笑)。

萩原:失礼ながらそんな先入観を抱いてしまっていたのですが、THE CHARM PARKさん、そして今回内澤さん、荒谷さんと出会ってそれが偏見だったことに気付かされましたし、心からのリスペクトを持ってコミュニケーションを取ればお互いに寄り添うことができることを実感しました。

内澤:リスペクトはすごく感じましたよ。何よりも、こういうものを作りたいんだっていう方向性を熱量高く示してもらえたので、僕らも一緒に同じ方向に向かって良いものを作ろうとグッと力が入ったように思います。そういう作り手側の熱量って、きっと受け手側にも伝わりますよね。同じような熱量で、同じ方向を目指す。それってすごく大事なことだなって思いました。

鈴木:アーティストタイアップに難しさや苦手意識を抱いている企業の宣伝担当者や広告会社の人たちもいると思いますが、このように相思相愛のタイアップの形も実現できることを知っていただき、世の中に素敵なアーティストタイアップが増えていくことを願っています。本日はありがとうございました!

androp内澤崇仁氏×荒谷翔大氏
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