イベント会場探しを支援「VENUE LINK」 開発の背景に電通ライブの思いと知見
2023/09/07
コロナ禍による行動制限が緩和され、リアルイベントに再び注目が集まっています。ビジネス関連で開催を検討している企業も多いのではないでしょうか。
イベントを成功に導く鍵の一つが会場の選定。イベントの狙いやイメージに最適な会場を選べるがどうかは、主催者や制作会社にとって大きな関心事です。
電通ライブは、企業のイベント担当者向けに、会場情報検索サービス「VENUE LINK(ベニューリンク)」を開発、提供を開始しました。サービスには、「利用イメージから会場を絞り込める」「マップから検索して会場をリストアップできる」など、これまで多くのイベントを手掛けてきた電通ライブならではの視点と工夫が詰まっています。
記事では、「VENUE LINK」の開発において中心的な役割を担った、電通ライブ ビジネスクリエーションユニットの野田真史氏と小俣恵里香氏に、開発背景や具体的な機能や特徴、さらに今後の展望について聞きました。
※本記事は、Transformation SHOWCASE掲載の記事をもとに、追加取材を行い、再編集しています
主催者・会場側・運営側、三者三様の悩み
──はじめに、お2人が所属する「ビジネスクリエーションユニット」という組織について教えてください。
野田:コロナ禍で「リアルイベント」の需要が急減したことをきっかけに、「時代に即した、新たな活動領域の模索、さらには、従来型の請負・受け身型ビジネスから脱却し、電通ライブ独自のフロントモデルを構築」といった機運が一気に高まり、2022年1月にビジネスクリエーション室が発足しました。イベント・スペースのプロフェッショナリズムは保持しながらも、新規ビジネス、事業創案、広告主との直商流開拓に取り組む組織としてスタートし、23年には、IP事業・関西チームも合流し、ビジネスクリエーションユニットというさらに進化した組織に発展しました。
小俣:コロナ禍などを経て、イベントのやり方は大きく変化していると思います。その大きな流れに対応するために、ビジネスクリエーション室が誕生し、ビジネスクリエーションユニットへと発展し、大きなチャレンジの1つが「VENUE LINK」です。
──「VENUE LINK」の開発背景として、イベント業界にはどのような課題があったのでしょうか?
小俣:主催者・会場側・運営側にヒアリングする中でわかったことは、それぞれの立場で、それぞれの課題を抱えているということです。
主催者は、「会場の効果的な探し方がわからない」「会場が自社のイベントにちゃんと合っているのかわからない」といった、探し方とマッチングに課題や不安を感じていました。普段から広告会社やイベント会社と付き合いのある部署や会社の方は相談することもできますが、そうした付き合いがなく、自分たちで会場を探して、備品もレンタルして、大変な思いの中でイベントを実施している方もいらっしゃいます。そのような方々の負担の軽減が課題の一つとしてあります。
一方、会場側としては、年間を通じて利用予約が埋まっている状態にあるのが理想ですが、どうしても閑散期が生まれてしまうことがあります。会場側から主催者や企画者へアプローチをしようとしても、現状では機会や手段が限られています。インターネットで検索してもらう、口コミで知ってもらうなど、基本的に受け身の営業スタイルなので、「イベントを実施・企画する方へ積極的にアプローチをしていきたい」という声がありました。
また、「利用者から求められている情報を精査して、しっかりとアピールできる、ニーズにマッチした情報項目を掲載したいが、自社のホームページではなかなかできていない」といった声もありました。細かい情報が知りたいイベント会社の担当者、シンプルに基本情報が知りたい主催者など、さまざまな立場の方が閲覧するサイトというのは、情報の整理が難しいんです。
運営側においては、「リサーチ作業を効率化したい」という声が一番多いです。会場探しというのは、実はとても時間がかかる作業で、かつ、イベント会場選びを重視するクライアントも増えています。いわゆるユニークベニューというものです。その一方で、クライアントへの提案に際して、案件ごとに提供する会場情報にバラつきがあるイベント会社も多いという実情があります。その背景には、イベント会場情報が集約されていないという課題があり、そのような状況を少しでも改善するため、情報を一元化し、条件にあった会場を探しやすくする必要がありました。
電通ライブの思い、知見、ノウハウが詰まったサービス
──「VENUE LINK」の設計思想や具体的な機能について教えてください。
小俣:このサービスの根底にあるのは、電通ライブの「世の中に1つでも多くの感動体験を生み出すきっかけをつくりたい」という思いです。たくさんの人により良いイベントを開催してもらうため、イベント開催を検討しているクライアントさまや制作会社さまと、そのイベントに最適な会場情報をマッチングさせることが、このサービスの狙いです。
イベントや会議などに使用する会場検索サービスは既に存在しますが、「VENUE LINK」は主としてビジネスユースでの利用を意識して、それに適した会場の情報に絞り込んでいます。掲載する会場の選定から検索方法に至るまで、電通ライブの知見とノウハウを取り入れることで、初めてイベント開催を担当するというユーザーの方にも、使いやすくわかりやすい、そして、イベントのイメージが膨らむような検索サービスとなることを目指して設計しています。
具体的には、第一に、「利用イメージ検索」という検索スタイルを設けています。これは、「車両展示ができる」「オンライン配信イベントが得意」「長期のイベント開催ができる」など、ユーザーが利用したいイメージと会場の特色を結び付けた検索スタイルです。この機能で会場をピックアップし、その中から必要条件を加えて選択すれば、大きなミスマッチを防ぐことができます。
会場探しは、イベントに合わせた条件で絞り込んでいくと考えると、どうしてもシステマチックになりがちです。でも「イメージで検索」というツールは、さまざまな利用イメージを見ているだけで、イベントに対するイメージが膨らみ、アイデアがどんどん湧いてくる。それが結果的に感動するようなイベントづくりにつながるのでは、と思っています。そのため、サイトづくりに際しては、会場検索サイトに限らずさまざまな情報検索サイトをリサーチし、「眺めるだけで楽しくなる」「わくわくする検索」といった要素をサイトに反映させました。
第二に、必要条件について、ユーザーにとってより有効な項目を設定しており、目的や実施スタイルに合わせた検索が可能です。実際にイベントを開催する際には、会場の広さや設備だけでなく、設置や撤去の作業は24時間行えるのか、荷さばき場の有無、来賓を誘導するためのルート、といった制作・運営視点での情報が非常に重要です。会場探しの時点でそうした検索項目があれば、希望のイベントスタイルにマッチした検索が実現できると考え、今回、詳細検索の条件項目に入れ込んでいます。
野田:サイトの設計面では、ユーザーにとっての利便性や実用性の高さを強く意識しています。例えば、エリア検索の結果は、マップ上でも確認できます。「新宿エリア」「渋谷エリア」といったくくりでの会場リストアップでは、すぐ近くのエリアにある会場がリストに載らないということが多くあります。しかし、マップからの検索ができれば、イメージしていたエリアからほんの少しだけ外れている会場を見落とさずに済みますし、「山手線の内側」といった、住所だけでは探しにくい検索も可能です。会場自体だけでなく、周辺のロケーションも含めて、よりイベントに適した会場を検討するために役立つと思います。
また、会場を検討する際、いくつかの候補を比較して検討することが多くありますが、この「VENUE LINK」では、複数の会場検索結果の比較表をサイト内で簡単に作成することができます。私たちがこれまで会場探しや提案資料づくりに携わってきた経験から、あれば役立つ、便利だなと思える実用的な機能はなるべく実装しています。
小俣:もし、ユーザーが解決できない課題が生じた場合や、よりグレードアップした提案をしたい場合には、ワンクリックでプランニングを依頼できる「プロに相談」という窓口をサイト内に設けています。イベントのプロとしての電通ライブのスタッフがご相談に応じることも可能です。
野田:サイトでは、検索だけでなく、イベントのプロの視点で編集された最新のトピックス記事や会場特集記事なども発信していきます。その記事の情報が、イベントをはじめとした感動体験を考える上でのヒントになってくれたらと思っています。
加えて、まだ実装はできていないのですが、会場でのイベント事例からも検索できるようにしたいと思っています。事例から検索できれば、イベント開催に不慣れなユーザーも、イメージ通りのイベントを開催しやすくなります。システム的なユーザビリティだけでなく、ユーザーが求めているものをかなえるために何が必要かを考え、機能を追加していくことで、最終的には、ユーザーに「この会場でイベントをして良かった」と満足してもらえればいいですね。また、会場にも「このイベントに使ってもらって良かった」と思ってもらえるような、仕組みを構築できればと考えています。
イベント業界全体の活性化につなげたい
──想定ユーザーは、ビジネスユースでのイベント開催を考えている企業や制作会社の担当者ということですが、どのような規模のイベントを想定しているのでしょうか?
野田:ビジネスユースというと大規模なイベントを想定しがちですが、例えば開発部が新製品の展示会をやりたいとか、営業部がクライアントとの懇親会を行いたいなど、社内で完結するようなイベント規模も想定しています。普段、広告会社やイベント制作会社とお付き合いのない方々にもぜひ使っていただき、会場探しに役立てていただけたらと思っています。
小俣:主催者はもちろんなのですが、広告会社さまやイベント制作会社さまにもぜひ使っていただきたいと考えています。イベント開催に欠かせない会場探しにかかる労力とコストをカットすることで、多くの人にイベントを開催できるようになってほしいですし、イベント制作のプロたちにも、もっと積極的にイベントの提案をしてほしい。そのお役に立ちたいという思いです。「VENUE LINK」がイベント業界全体の活性化につながっていくことを願っています。
──「VENUE LINK」の収益化については、どのようにお考えですか?
野田:ユーザーからは見えにくい側面ではあるのですが、「VENUE LINK」は掲載する会場から一切の掲載料をいただいていません。私たちがイベント開催に適していると考える会場を、可能な限り多く掲載したいという思いから、会場側の皆さまにとっても参加しやすい仕組みにしています。実際、検索サイトなどの掲載を断っていた施設でも、電通ライブでの使用実績や担当者との信頼関係を基に掲載の許可を出してくれたところもあります。ユーザー側にとっても会場側にとっても利点がある、より良いイベント開催のためのサービスが、「VENUE LINK」なのです。
先ほども小俣がお話しした通り、このサービスの基本にあるのは、イベント開催の大きなハードルとなる会場探しを簡単にすることで、「世の中に一つでも多くの感動体験を生み出すきっかけをつくりたい」という思いです。例えば会場側から掲載料をいただくとか、ユーザー側から使用料をいただく、といった形での収益化に価値を見いだすのではなく、当社が少しでも多くの方の感動体験をお手伝いすることが重要だと考えています。「VENUE LINK」は、あくまでもそのための入り口の一つです。
社の対外発表で、「電通ライブが培ってきた経験と実績、データをフル活用した会場マッチングを軸に、イベント領域のプラットフォーマーを目指す」とうたっている通り、より良いイベントを開催したいというユーザーのニーズと、会場の価値を正しく評価してくれる利用者を呼び込みたいという会場側のニーズを満たすことが電通ライブの果たすべき役割ですし、だからこそ「VENUE LINK」は、感動体験の担い手としての電通ライブが広く提供すべきサービスだと思っています。
──最後に、コロナ禍を経た現在、改めてイベントの価値をどのようにとらえていますか?
小俣:コロナ禍によりイベントのオンライン化が進む一方で、改めてリアルな場・体験の価値が見直されており、リアルイベント開催のニーズが高まっていることを、さまざまなクライアントさまとお付き合いする中で感じています。
イベントの価値については、コロナ禍を経て、改めて明確化・言語化されたように思います。個人的には、イベントは、「新たな出会いを創る場」であり、その出会いを、より強くつなげる「コアな体験を提供できる」ものだと思っています。コロナ禍の前から、感じていた価値と本質的には変わりありませんが、さまざまなクライアントさまの案件や、自身の体験を通じて、改めて言語化することで、イベントでしかできないことをこれまで以上に深く意識し、イベントを計画しています。
リアルな場での体験には、「場」が必要不可欠です。そこに電通ライブが培ってきた経験やイベント企画の視点を生かし、イベント開催を考える上で不可欠な、イベント会場に関する本当に価値のある情報やサービスを提供することで、会場側や運営側、主催者や利用者の思いやニーズをマッチングし、イベント業界全体を活性化してきたいと思っています。