イベントはBXに貢献できる! ~専門力と創造力で未来を拓く電通ライブのイノベーターたちNo.1
BXにつながる、電通ライブの「体験デザイン」とは?
2025/08/05
国内最大規模のイベント・スペース専門会社である電通ライブ。リアル、バーチャルを問わずさまざまなイベントを企画・運営し、空間デザインも手掛けています。
本連載でお伝えするのは、電通ライブの「体験デザインを活用したビジネス変革(BX)」。現状では「プロモーション」として位置づけられがちなイベント事業を、BXのアプローチの一つとして捉え、活用していく可能性を探ります。
記事では毎回、高い専門性を有する電通ライブのメンバーが登場。ビジネスにおける「イベント」の新しい可能性について、事例を交えながらお伝えします。
今回お話しいただくのは、サーキュラーエコノミー統括の堀田峰布子氏。ご自身が手掛けた資源循環プラットフォームの実証実験の事例を交えて語っていただきました。

電通ライブが提供するのは、「体験デザイン」という価値
──初めに自己紹介をお願いします。
堀田:電通ライブのサーキュラーエコノミー統括を務めています。私は、サーキュラーエコノミーの専門家として、さまざまなサーキュラービジネスを企画・運営しています。
なぜ電通ライブにサーキュラーエコノミー専門家がいるのか疑問に思われるかもしれませんが、実はイベント業界こそ、サーキュラーエコノミーの恩恵を受けやすい業界です。日程・機材・廃棄物が事前確定される計画経済的性質により、他業界と比べてサーキュラーエコノミーの計画・実行・効果測定が容易な優位性があります。また、従来の「調達→制作→設営→撤去→廃棄」のワンタイムモデルから脱却し、サーキュラーエコノミー導入により環境・経済・社会価値を創出できると考えています。
──電通ライブの事業について教えてください。
堀田:当社は、国内最大規模のイベント・スペース専門会社です。イベント事業は、モビリティショー、スポーツ大会、展覧会、大手商業施設の開業イベントなど、多くの人を動員するリアルなものから、バーチャル領域まで幅広く手掛けています。スペース事業は、企業ミュージアム、車両デザイン、ディスプレー、ポップアップストアなど多岐にわたります。当社には、一級建築士や一級建築施工管理技士をはじめ、専門的な知識・技術を持つ人財が多数在籍し、世の中に新しい体験を提供しています。

堀田:電通ライブは、イベントやスペース領域の会社だと、多くの方が認識されていると思いますが、私はその上位概念として「体験デザイン」の会社だと捉えています。
──体験デザインとは、どのようなものでしょうか?
堀田:ユーザーが製品・サービスと接触する全てのプロセスで得られる価値、感情、記憶を総合的に設計することで、ユーザーの意識や行動の変容を多角的に促進することです。
ビジネスにおいて、一般的にイベントは、商品・サービス開発のフェーズの最終段階に位置し、商品を世に送り出すプロモーションの役割を担います。しかし、イベントを「体験デザイン」と捉えると、開発の上流工程に戦略的に組み込むことで、BXにも活用できると考えています。例えば、新規事業や商品・サービスの開発工程の「テスト・検証フェーズ」に「体験デザイン」を組み込むことができます。
商品開発のプロセスにおいては、ユーザーインサイトや市場調査の結果に基づいて開発を進めたものの、完成した商品やサービスをいざ市場に投入してみると、企業が想定していた商品イメージを消費者に抱いてもらえなかったり、狙った顧客層を獲得できなかったりすることがあります。そのようなギャップを防ぐために、「テスト・検証フェーズ」で「体験デザイン」を活用することができるでしょう。

──「テスト・検証フェーズ」における、「体験デザイン」の活用とは、どのようなものですか?
堀田:一言で言うと、リアル体験型のテストマーケティングです。商品やサービスをどのようなイメージで、どういったお客さまに提示するのか。カスタマージャーニー全体を通して、よりリアルな体験機会を設けて検証するということです。そこで得た結果を開発にフィードバックすることで、新規事業や商品・サービスをリリースしたときに、狙った顧客層をつかみ、エンゲージメントを高めていくことが可能になります。
さらに重要なのは、「体験デザイン」を通じて取得できる高品質な意識行動変容データです。「テスト・検証フェーズ」では、従来の市場調査では得られない、顧客の実際の行動パターンや情動データを取得できます。このデータを元に、実際の商品のローンチ時に活用できるデータドリブンなBX戦略の構築に寄与できると考えます。また、「体験デザイン+データ取得活用」によりmROI(Marketing Return on Investment:マーケティングの投資対効果)への貢献の可視化も可能になると思います。

資源循環プラットフォーム「で、おわらせないPLATFORM」における、「体験デザイン」
──「テスト・検証フェーズ」に「体験デザイン」を組み込んだ事例を教えてください。
堀田:電通グループでは、2023年12月~2024年1月の2カ月間、「で、おわらせないPLATFORM」の実証実験を行いました(リリースはこちら)。「で、おわらせないPLATFORM」は、製造や流通メーカーの“動脈”、リサイクラーの“静脈”、生活者をデジタルで連携させる、サーキュラーエコノミーの取り組みです。
堀田:実証実験では、明治、ローソン、ナカダイホールディングスと協業して、空容器などの「回収・リサイクル」に、クーポン・ポイントなどの「販促」を組み合わせた、「体験デザイン」を構築。消費者が、「明治おいしい牛乳」をはじめとする、ローソン店舗で取り扱っている紙パック商品を、ローソン店舗に設置した資源循環ボックスに投函。投函時に、紙パックのJANコードを読み取ると、「明治おいしい牛乳」のクーポンを取得できる仕組みにしました。
──実際に消費者が回収・リサイクル行動に参加できる「体験デザイン」を構築したのですね。どのような収穫がありましたか?
堀田:実証実験の結果、参加者の意識行動変容のデータ取得と分析ができて、今後のサーキュラーエコノミー事業に活用できる基本となるモデルを作ることができました。また、いくつかの興味深いファインディングスがありました。
認知から行動への転換率モデル化
回収活動の認知率を100%とした場合、最終的な回収完了率は5~10%という具体的な転換率を把握しました。これにより、サーキュラーエコノミーの課題である、顧客からの回収において、各段階での離脱要因に対する具体的な対策立案が可能になりました(※)。
※一般的なクローズドキャンペーンと電通グループ実証実験の実績値からの推計
消費者の行動パターンの可視化
当初、回収場所への持参行動が最も離脱が大きいと仮説を立てていました。しかし、空き容器の保管フェーズも離脱の大きな要因になることが分かりました。実証実験の結果、消費者は家庭で空箱をいくつか保管して、たまったら店舗に持参するという行動パターンが見えてきました。これは、当たり前と言えば当たり前ですが、家庭での保管については、空箱や空容器を保管しておく場所がないと保管が面倒になり、回収行動から離脱しやすくなります。つまり、回収事業をする際には、併せて保管袋や保管ボックスなどの提供も検討した方が良いというファインディングスがありました。
顧客セグメントごとの行動変容率
実証実験に参加した顧客をセグメント化して、行動変容率を分析しました。その結果、これまで回収に参加したことがなかった参加者の内、この施策によって回収に参加したという行動変容率を比較すると、「明治おいしい牛乳」のロイヤルカスタマーが5.9%で、非ロイヤルカスタマー層2.8%と比較して、行動変容に大きな違いが表れました。つまり、いままで回収に参加していなかったロイヤルカスタマーは、回収場所が近くにあれば、行動変容が起こりやすい顧客ということです。よって、ロイヤルカスタマーに対してアプローチしていくことが、継続的な購買と回収が行われ、事業性と社会貢献性の両立にも寄与することが見えてきました。
他にも、実証実験では、来店客数の変化、回収活動への参加人数、参加頻度、売り上げへの貢献、施策によるブランドイメージへの影響など、さまざまなデータを取得できました。リアル体験型のテストマーケティングとして、実店舗で実証実験を行ったからこそ、リアルな体験デザインの提供ができ、消費者の意識行動変容を「オフライン×デジタル」の融合で詳細につかむことができたと考えています。
──「テスト・検証フェーズ」に「体験デザイン」を組み込むことで、さまざまなデータが取得でき、消費者の行動モデルがつかめることが分かりましたね。
堀田: 電通グループには、データテクノロジーセンターや電通デジタル、電通マクロミルインサイトといった、データに強い会社もあります。これらの会社が、人の機微や動きの知見を集積した電通ライブと連携できます。例えば、「体験デザイン」に、IoTやアイトラッキング(視線計測技術)、生体反応測定なども活用すれば、参加者の情動や行動データを定量的に分析して、確度の高いマーケティングが実現できるでしょう。
今回紹介した実証実験以外でも、体験デザインを構築し、データを取得・活用することで、新規事業や商品・サービスの精度を上げることができます。
この連載では、イベント領域で培った統合的な体験価値をビジネスに柔軟に組み込むことでビジネスに変革を起こす電通ライブの取り組みを引き続き紹介していきます。