【続】ろーかる・ぐるぐるNo.183
リーダーの「問う力」
2023/11/24
リーダーが組織を動かすためには、大きく2つの方法があります。
もしあなたが組織を“素早く”動かしたいなら、「正しい指示」が有効です。きっと組織は軍隊のように効率的に機能するでしょう。しかし、もしあなたが組織の創造力を最大限に活用したいなら、その時に必要なのは良き「問い掛け」です。「正しい指示」はメンバーひとりひとりが持つ創造力を殺してしまう可能性があるからです。
「問いのデザイン」を学ぶ
さて、この良き「問い掛け」について、大変参考になる書籍に出合いました。それが「問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション」です。
この本は、学者と実務家という2つの顔を持つお二方による共著。
そのお話は、組織変革やイノベーションを求めているのに「変わりたくても変われない」問題の本質は、
- 「認識の固定化」(=「なぜこうなっているのか?」を改めて考えなくなる状態)
- 「関係性の固定化」(=コミュニティの中で暗黙のうちに形成された関係性)
の2つにある、という指摘から始まります。
さらに、この2つの固定化を解消する方法として提案される「問いのデザイン」を、「課題のデザイン」と「プロセスのデザイン」という二段階に整理して説明しています。
詳細はぜひ手に取っていただきたいのですが、特に印象に残ったのが次のポイントでした。
①ワークショップである必要性
大前提として、この本の舞台は徹頭徹尾「ワークショップ」であり、主人公は「ファシリテーター」です。こう書くと、もしかしたら「研修」のような、ちょっと特殊なシチュエーションに映ってしまい、実際のビジネスの参考にはならないと考える人がいるかもしれません。しかしそれは早合点というものです。
一般に“日常的なビジネス”は、固定化された認識や関係性の枠組みの中で、分析的で論理的な「正しい指示」により展開されます。なぜならそれが一番効率的だからです。しかし、固定観念を揺さぶり、そして集団の関係性を揺さぶらない限り、新たなアイデアは生まれません。
筆者のお二人はワークショップのエッセンスを「非日常性」「民主性」「協働性」「実験性」で説明していますが、これらはすべて固定化された枠組みを揺さぶる要素です。アイデアを必要とする実務家は誰でも、(外部からファシリテーターを呼ぶかどうかは別にして)効率性にしばられない、日常から独立した「ワークショップ」的な「場」を意識的に作らなければならないのです。
②社会的意義と内発的動機の誘発
この本において、「課題」とは「関係者の間で『解決すべきだ』と前向きに合意された問題のこと」と定義されています。そんな「課題のデザイン」に関する章の中に、「良い課題の判断基準」として「効果性」と「社会的意義」「内発的動機」が挙げられています。
「効果性」に関しては、組織を素早く動かす軍隊的な「正しい指示」においても同じく重要なファクターでしょう。その上で、さらに組織の創造力を活性化させる「問い掛け」には、「それで、どれだけ良い社会の実現に貢献できるのか?」という社会的意義と、「それは、本当にメンバーが自分ゴトとしてワクワク取り組めるのか?」という内発的動機、2つの視点が不可欠であることを確認できました。
③「問いの視座」のマトリクス
ビジネスにおけるあらゆる「問い」の中には、実は、すでに参加メンバーの方向性を規定する「視座」が含まれています。たとえば同じモビリティに関する質問でも、「これまでの移動にまつわるイライラとは?」と「日本社会における最適な移動のあり方とは?」とでは、思考の内容が変わってくるでしょう。だからこそリーダーには、組織に「問い掛け」をする際、その中に含まれる「視座」を意識的にコントロールする技術が求められます。
「プロセスのデザイン」に関する章の中で紹介されている「問いの視座のマトリクス」は、そのような時に大きな助けとなりそうです。いま発せられた「問い」はどの程度社会的、あるいは個人的なのか。そして、その時間軸はどうなっているのか。そういった複数の視座を組み合わせることによって、メンバーに「抽象」と「具体」の間を行ったり来たりさせ、対話の解像度を上げることができるからです。
「問いのデザイン」へ問う
一方で、著者のお二人に聞いてみたい、3つの新たな「問い」も湧いてきました。
ひとつは、「答え」について。
この本では「問い」に関しては筆を尽くして説明がなされていますが、その相方である「答え」については「新たな意味やアイデア」という程度の記述にとどまり、正体がよくわかりませんでした。効率性にしばられない「ワークショップ的な場」で獲得すべき答えの“目標品質”はどうすべきなのでしょうか。
ぼくは、それを「新たな意味としての『コンセプト』―その『ひとこと』を手に入れること」だと考えています。そして単なる着想を超えて十分に機能する「コンセプト」を手に入れるためには、たとえば2日とか5セッションとか、時間にしばられた中で行う「ワークショップ」だけでは限界があると思うのです。
もうひとつはタイトルにも登場する「デザイン」について。
この言葉もいろいろな定義がありますが、ぼくは「意図をカタチにすること」だと理解しています。そしてその最大の特徴は、「意図」と「カタチ」に順番はなく、意図をカタチにしながら、カタチにこもった意図を読み解く、永遠の相互運動であることだと考えています。筆者の方々が「問いのデザイン」というタイトルに込めた思いを知りたいのです。
というのも、この本ではあくまで先に「課題」を設定し、その後で「創造的なプロセス」を通じて「答え」を求めていくという順番になっています。時間が限られた中でワークショップを機能させるために必要な方法だと理解しているのですが、あらゆるビジネスにおいて「ワークショップ的な場」づくりをしていくとなると、本質的には(デザイン同様)「課題」と「答え」に順番などなく、その永遠の相互運動こそが大切だと思うのですが、どうなんでしょう?
最後のひとつは「リーダー」の在り方について。
この本のテーマは、あくまでファシリテーターが主導する「ワークショップ」であり、そのエッセンスのひとつは「民主性」にあります。たとえば「ビジョン」もみんなで対話を重ねてボトムアップで練り上げていくものとして扱われています。
たしかに創造的な対話に民主性は欠かせませんが、一方でリーダーの「現実的な理想主義」や「いま、ここで、何をすべきか?」という強烈な思いがメンバーの創造性に火をつけることも、また事実と思われます。
つまり、リーダーに求められる「問う力」というのは、ファシリテーター的に思考を刺激する技術だけに限らないのではないか。さまざまな要素が複雑に絡み合う状況下で、「いま、ここ」の文脈の中で何をすべきかを、ある種「強制的」に組織メンバーに示すことで思考をリードすることこそがリーダーの大きな役割ではないか、と思うのです。
ところで、電通が提供しているIndwelling creators というサービスの中核にあるのが「創造的対話(Creative Dialogue)」です。仲間内でこの言葉を使い始めたのが2021年秋。一方、この「問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション」が出版されたのはそれより1年以上前であることを、今回初めて知りました。
たまたま出合ったこの本から多くの刺激的な知識を得ることができ、さらに(同書の主題である)「問い」にまつわる新たな「問い」が生まれたことがうれしい限りです。
さてさて。
先日行った山形で「昼飯、どうする?」という「問い」の答えは、蕎麦一択。いまから30年以上前に雑誌で見かけた、かやぶき屋根の古民家で食べられる田舎蕎麦を、ついに味わうチャンスの到来です。
細長く大きな木箱に盛られた、太くコシの強い蕎麦は、のど越しというよりも、しっかりかみしめてその風味を味わう逸品でした。四半世紀以上片思いを続けた、自分の直感に拍手。11月は新蕎麦のシーズンだから、また食べに行きたいなぁ。
どうぞ、召し上がれ!