【続】ろーかる・ぐるぐるNo.184
コンセプトを生み出す3つの「ゆらぎ」とは?
2024/01/12
新年、おめでとうございます。
さて、本年最初の回では、少しこれまでの振り返りをしつつ、改めて「コンセプト」について考えてみたいとおもいます。
イノベーションの実現に向けて、思わず「その手があったか!」と叫びたくなるようなコンセプトを手に入れるためには、意図的に大きく3種類の「ゆらぎ」を生み出し、そのチカラを借りることが有効です。
ひとつは、目の前の「具体策(現実)」と組織の「ビジョン」の間の「ゆらぎ」。
手元の古い辞書に「ゆらぎ」の項目はなく、その代わり「揺らぐ」の説明には、①玉などが触れあって音を立てる②揺れる③物事の基盤がぐらついて危うくなる、とありました。
一方、「ギャップ」の説明には①割れ目、すきま、間隙②へだたり、食い違い、懸隔、とあります。つまり「ギャップ」が静的な状態を指すのに対し、「ゆらぎ」は本来、不安定で動的なニュアンスがあるようです。
つまりここでは、まさに現場の現実を揺さぶるような「現実的な理想主義(ビジョン)」を提示することで、「物事の基盤がぐらついて不安定になる」状態を意図的に仕掛けるのです。
かつて富士ゼロックスの「モーレツからビューティフルへ」というキャンペーンがありました。これを「時代の気分に共鳴する広告表現」として評価する人がいますが、それだけでは十分でないように思われます。
この広告の本質は、富士ゼロックスの現場を中心とした関係者全員が「いままで当然と思ってきた『モーレツ』価値観にも限界があるぞ」「ビューティフルな生き方・ビジネスとは何だろう?」と揺さぶられ、考え始める点にあります。まさに(静的で絶望的な「ギャップ」ではなく)前向きに取り組めば何とか解決しそうな「ゆらぎ」を意図的に仕掛け、イノベーションを求めたのだと考えられます。
ふたつ目の「ゆらぎ」は、「ターゲット」と「商品・サービス」の間で起こすことができます。「今までにない価値観を持った生活者が台頭してきたぞ。さぁ、どうする?」とか「新しい技術で、どんな顧客創造ができる?」といった問い掛けがそれにあたります。たぶん、いちばん一般的に使われている「揺さぶり」の視点でしょう。
イノベーションに必要な、このふたつの力学をまとめたものが、このコラムでも繰り返しご紹介している「十字フレーム」です。この構造を頭に入れておけば、コンセプトをつくるとき、迷子にならずに済みます。
しかしこの十字フレームでは説明できていない、もうひとつの「揺さぶり」ポイントがあります。それが「組織メンバー間のゆらぎ」です。
そもそも、常識を破る新しい視点としての「コンセプト」は、今までの常識に縛られた「客観」を分析するだけでは生まれません。それは必ず個人の「主観」が出発点となります。それぞれに異なる経験や価値観を持ったメンバー間の「ゆらぎ」もまた、イノベーションを生み出す大きな原動力となるのです。
最近ではすっかり一般的になりましたが、所属セクション(職能)の垣根を越えた多様なメンバーを集めてプロジェクトチームを結成する理由も、ここにあります。その際も、リーダーが(同じようなメンバーを集めて無難に進めるのではなく)どのような個性を集められるかこそが大きな腕の見せどころです。
実は、いまぼくが担当している明治学院大学(経営学)の講座では「テレビ神奈川の新規事業を考えなさい」という期末課題に対し、二人一組のペアで取組んでもらっています。ひとりでやった方が学生さんは気楽かもしれませんが、昨年4月から一年間、講義等々のやり取りで感じた一人一人の個性を見極め、いろいろな掛け算を考えて、ぼくの方でチーム決めをしました。この挑戦がどのような成果を生むのか、楽しみです。
いままでの延長線というのは、たいてい居心地が良いものです。だからこそ、そこから逸脱するようなイノベーションを起すためには、リーダーが組織メンバーに「揺さぶり」をかけなければなりません。①現実とビジョン、②ターゲットと商品・サービス、そして③組織メンバー間という「3つのゆらぎ」を理解していれば、いつでも効果的に組織を活性することができます。
さてさて。
プロフェッショナルは意図して「ゆらぎ」を使いますが、アマチュアは“結果的”に「ゆらぎ」が生じてしまうものです。ぼくの料理などがそんな素人芸の典型で。
毎年作っているはずのおせち料理も、今年はペース配分を間違えて、大晦日は完全にパニック。「あれ?あと3時間で5品つくらないと、間に合わないぞ」「しまった!慌ててお重に松風を入れるの、忘れてた!!」等々大騒ぎで、安定した品質管理どころではありませんでした。
それでも何とか間に合って、家族みんなが元気に、そして多くの友人たちともお膳を囲める幸せを実感したのでした。
どうぞ、召し上がれ!