Z世代、動画、SNS、AI……生活者とメディア行動の「今」を読み解く
2024/01/19
Z世代のトレンドの生まれ方とは?
AIの普及は、情報接触をどう変えたのか?
コロナ禍やSNSの進化を経た生活者の消費行動や価値観、メディア行動はどうなっているのか。Z世代にフォーカスしながら、生活者とメディアの関係性の「今」を読み解きます。ビデオリサーチ ひと研究所の渡辺庸人氏をモデレーターに、生活者研究の第一線で活躍する、SHIBUYA109 lab.所長の長田麻衣氏、電通メディアイノベーションラボ主任研究員の天野彬氏が語りました。
※この記事は2023年11月28日に行われた「VR FORUM 2023」の「セッション:メディア行動はどう変わる?」をもとに編集しました。
今を読み解く視点①インターネット動画の普及。視聴ジャーニーを捉える。
ひと研究所は映像視聴について研究をしていますが、コロナ禍の3年でいろいろな変化がありました。最も大きな変化はインターネット動画が広く普及したことだと思います。YouTubeの3か月以内利用率は9割に、他のインターネット動画サービスの利用者もこの3年間で3~5倍に急増しました。コロナ禍で「楽しみの空白」が生まれ、レジャーができない・人に会えない中で、いかに楽しいコンテンツを得られるか、そこに時間を費やすようになったことが後押しとなりました。
渡辺:同時に、リビングでの過ごし方も変化しました。コネクテッドTVというテレビのインターネット結線の拡大に加えて、「家族がテレビを見ていても自分は気にせずスマートフォンなどでネット動画を見ることが増えた」と回答した人が13%もいました。コロナ禍を経て、生活習慣や気持ちの変化が起きていると感じています。
このような変化の中、コンテンツはただ見るだけでなく、「視聴体験」になっていると考えます。視聴前の情報収集や視聴後のSNS発信など、コンテンツの周辺にある生活者の行動も含めて「体験」であり、その一連を「視聴ジャーニー」と提唱しています。視聴体験の満足度をあげるためには、「視聴ジャーニー」を捉えることが重要だと考えます。
まとめると、「楽しみ」の空白を埋めたいというニーズから、行動・習慣が変化したことにより、「視聴体験」の重要性が増大。企業(放送局や広告出稿企業も含む)は「視聴ジャーニー」を捉え、生活者と同じ視線で盛り上げ、視聴体験の満足度を高めていくことが重要だと考えます。
今を読み解く視点②Z世代の「界隈消費」と親近感
渡辺:メディアに関する社会的な変化から、生活者全般についてお話ししましたが、Z世代にフォーカスすると、今はどんな消費行動や価値観があるのでしょうか。長田さんからお願いします。
長田:はい。私はSHIBUYA109 lab.という若者を研究するラボで、毎月200人の15~24歳の若者と話し、トレンドや消費価値観を日々調査しています。その知見から、Z世代の消費行動や価値観についてご紹介します。
Z世代の消費行動では大きく4つのキーワードがあげられます。
- 「体験消費」“モノ”よりも、共有・共感できる“コト”に価値を感じる。
- 「失敗したくない消費」買い物やコンテンツ消費、キャリアでも、失敗したくない。
- 「メリハリ消費」膨大なコンテンツの中で、取捨選択をしてお金と時間をかける。
- 「応援消費」推し・推し活といった、人を応援する、貢献することにお金を使う。
そして、最新の、Z世代の大きな特徴としてあげられるのが「界隈消費」です。価値観や好みが細分化・多様化してマスがなくなり、この「界隈消費」が増えています。ファッションの好みや、同じ推し、趣味といったゆるい軸の小さなコミュニティ(=界隈)で、ひとつのトレンドを熱量高く楽しむという消費行動です。
この「界隈消費」により、トレンドの生まれ方も変わってきていて、ひとつの界隈から少しずつ伝搬してマスになっていくようになっています。トレンドをつくるためにもひとつの界隈をきちんとおさえるのが大事になっています。
今日の主題でもあるメディアやコンテンツという視点のお話もすると、すごい量のコンテンツに触れているので、信ぴょう性にとてもシビアになっています。彼らが信ぴょう性を判断する上で、重要になるのが「親近感」が持てるかどうか、だと思います。
例えば、TikTokでクオリティの高い映像を見ても、なじみがないため素通りされてしまいますが、逆に映像の粗い、自分と同世代の人が作っているとわかる動画の方が、親近感を持って見てくれる。彼らにアプローチするためには、クオリティの高いクリエイティブだけでなく、なじみやすいクリエイティブまで、幅を持つことが重要だと思います。
天野:確かにそうですね。クリエイティブの幅だけでなく、コンテンツやプラットフォームが多様化している中、いろいろ出し分けていくことも大事ですね。僕はK-POPが好きなんですが、公式のMVもあれば、ダンス動画もあれば、メンバーごとにフォーカスしたものもあって。LIVEになれば撮影OKでファンから映像や画像が拡散されます。いろいろな角度や打ち方でユーザーに届けていますよね。
渡辺:幅のあるクリエイティブ、打ち出し方によって、いろんな方向から接触が積み重なっていくと、結果として視聴時間や接触量が長くなりそうですね。
今を読み解く視点③AI・アルゴリズムで情報の出会い方が変わる
渡辺:TikTokの話がでましたが、天野さんからTikTokに代表されるショート動画の影響や、情報接触の変化について教えてください。
天野:メディアの進化と情報変化について、大きくまとめていますが、今までは「伝統的メディア」で発信するところが限られていました。その後、GoogleやYahoo!といった「サーチエンジン」がでてきて、みんなが発信できる双方向のディストリビューションになりました。その後は「SNS」の時代。ソーシャルグラフといわれる人と人のつながりが確立されて、友達やフォローしているインフルエンサーなど、この人が言っているから信じられる、というような受け手と発信側のエンゲージメントが重要になりました。
そして、今の2020年代。情報との出合い方をAIやアルゴリズムが担うようになっています。TikTokはまさにそうで、自分がフォローしている人ではなく、お薦めやバズったものを見る行動になっています。つまり、これまでのエンゲージメントよりも、レコメンドに影響する視聴時間などの「アテンション」が大事になってきています。(図表1)
天野:情報やコンテンツとの出合いをアルゴリズムが担うことにより、情報行動モデルも変わります。これまでは、情報を受動的に受ける「AIDMA」でした。それがサーチエンジンの登場により能動的に情報を取る「AISAS」へと変化。そしてAIやアルゴリズムにより、今は「ALSAS」へと変化したと考えます。アルゴリズムは自分が見たものを機械学習してお薦めしてくれるので、実は能動でもあり受動でもあります。つまり中動的な情報との出合いになっているのです。(図表2)
天野:この「出合い」で重要な役割を持っているのがショート動画です。先ほど、クリエイティブの幅をつくって出し分けていくことが大事、というお話がありましたが、アテンションで見られるTikTokやYouTubeの切り取り動画などのショート動画は、主要コンテンツに誘導するための「先頭打者」の役割があると言えます。
渡辺:自分自身も、YouTubeの面白いところだけを抜き出したショート動画から、本動画へ思わず誘導された経験があります。まさに先頭打者ですね。長田さんに伺いたいのですが、AIやアルゴリズムについてZ世代はどう捉えているのでしょうか。
長田:Z世代は、SNSはアルゴリズムによって情報を最適化してくれていると認識していて、情報収集の中で自然に活用しています。プラットフォームでの違いも理解しています。AIもうまく活用していて、就活のエントリーシートをChat GPTで作ったりしています。支配されるのではなく、テクノロジーを理解して、フラットな友達ぐらいの気持ちで向き合っていると思いますね。
天野:テクノロジーを理解することは、コンテンツの発信側にとっても重要です。テレビや新聞など伝統的なメディアにとって、これまでコンテンツの発信の場はひとつしかありませんでした。ですが、今はネットやSNSなどさまざまなところに場が開かれています。テレビや新聞のコンテンツが強いことは変わりがないので、テクノロジーを理解し、さまざまな発信の場を活用していくことが重要になってくると思います。
今を読み解く視点④「世界観」はコミュニケーションツール
渡辺:お二人は、研究から見えてきたZ世代の知見やSNSの知見をまとめた著書を発刊されています。その著書の中で、共通して言及されていたのが「世界観」の重要性でした。改めて、生活者にとって「世界観」はどのような機能・効果を持っているか、企業はどのように理解するべきかを教えてください。
長田:若者にとって「世界観」はコミュニケーションツールです。私たちは、ビジュアルコミュニケーションと呼んでいますが、動画や画像の世界観で、自分と相性がいいかとか、仲良くなれるかを判断しています。先ほどお伝えした「界隈」の中でも、世界観はとても大切にされていて、コミュニケーションの軸と言ってもいいかもしれません。例えば、若者に「エモい」という感覚を説明してほしいとお願いすると難しそうにするのですが、「エモい写真を持ってきて」とお願いすると、みんな同じような画像を持ってくるんです。SNSの発達でビジュアルが共通言語になったことで、コミュニケーションの軸も自然と視覚的なものになっているのだと思います。
世界観は商品を選ぶ時にも影響しています。例えば、ファッションでいうと、フレンチガーリーが好きな若者からすると、フレンチガーリーの世界観がまずあって、その世界観に必要なものだからこの商品を買う……という行動がなされています。つまり、大事にしたい世界観があって、その世界観から逆算した消費が当たり前になってきています。
そう考えると、企業の商品開発も変えていくべきで、商品の中だけで世界観が完結してしまうと選ばれません。企業が一方的に提供するのではなく、みんながつくっている世界観のトレンドに入っていくスタンスが必要になると思います。
天野:企業やブランドからのコミュニケーションで言うと、生活者から見て、企業やブランドが一貫した存在として見られているか、というのもとても大事だと思います。企業やブランドが発信する文脈や思想からくる「世界観」ですね。昔と言っていることや態度が違うと今はすぐ暴かれてしまいます。生活者からどう見られているか、どんな世界観だと思われているか、それをまず知った上で、どうマッチしていくのかが大事です。
渡辺:生活者側から見える世界観とのマッチングに気を付けていかないといけないということですね。
企業と生活者、関係性の深め方
渡辺:これまで、Z世代や生活者全般の価値観や消費行動、メディア行動の変化をお話ししてきました。では、企業はそんな生活者とどう関係性をつくっていけばよいでしょうか。前提として人口減少という大きな課題がある中、企業は誰にどうやって向き合うべきでしょうか。
長田:確かに、特に若者世代の人口は減っていきます。企業の方に、若者に向けてマーケティングを行う必要があるのか、と言われることもあります。ですが、若者はSNSで拡散することやトレンドをつくることは他の世代よりも長(た)けており、単純な絶対数でははかれない影響力を持っています。マリトッツォも若者からうまれて世の中に広がったトレンドですよね。あの力は他の世代にはないものだと思います。
この力を味方につけられるかは企業にとって重要です。どの界隈の若者を味方につけるか。そしてどうやって一緒に熱量を高めて、盛り上げるお手伝いをしてもらえるか、そこが企業と若者の関係性づくりで必要になります。
渡辺:若者全般ではなく、どの界隈を味方につけるか、という視点が必要なんですね。
天野:企業と生活者の関係性では、先ほども述べた通り、企業やブランドの一貫性が重要だと思います。例えば、SDGsの取り組みについて発信する企業も増えていますが、もともと環境にいいことをしている企業であれば受け入れられますが、そうでない企業だと「取って付けたよう」に見られてしまう。どんな界隈が自分たちを応援してくれるのかをしっかり見ることが必要です。SNSによって生活者からの印象は見えやすくなっていると思います。
もうひとつ、気になっているキーワードに「消齢化」があります。SNSで情報が共有されやすくなっていることで、みんなが同じものを好きになりやすくなっています。年齢で区切らない消費行動が今後増えていくと思いますので、関心高く見ていきたいですね。
渡辺:企業として応援してくれる生活者とマッチングできれば、年齢関係なく関係性を深めていくことができるかもしれませんね。
これからの生活者への展望
渡辺:最後に、これからの生活者への展望について、それぞれからお話しいただきたいと思います。
ひと研究所からは、企業視点で大切なこととして、生活者の「選択コストを下げたい」というニーズが高まっている中、企業は、AI・アルゴリズムが提示する情報の中に“自社のもの”を入れてもらう必要があるということ。もう一方で、生活者の「新しい時間」や「お金や労力の使い方」も見つけていく必要があるということです。
天野:僕は3つのポイントを見続けたいと思います。「AIが世代やパーソナリティごとにどれだけ浸透するか」「SNSにより細分化された中でHYPE※のような大きなムーブメントはどのように生まれてくるか」「変わる価値観に目がいきがちですが“変わらない”ものは何か」です。今後も、メディアの使い方と人の価値観は互いに連動していきます。そこにまた新たな課題が生まれて、新しいビジネスチャンスにつながっていくと思います。
※HYPE……誇大広告という意味で使われていたが、直近は「旬ではやっている、熱狂的に受け入れられる」という状況を指すようになっている。(天野氏)
長田:ゲーム、NFT、バーチャルの世界が当たり前の世代が大人になって、時間やお金の使い方がどう変わるか、どんなプラットフォームを使って、どんなコミュニケーションなされるかに注目したいです。
もうひとつ、幸福に対する価値観が変わってきていると思います。成長や成功といったこれまでの軸が、若い世代には必要なくなってきている。とても根本的なニーズで、消費行動にもつながるところだと思うので、研究したいですね。
渡辺:今回のセッションを通して、企業は新たなビジネスチャンスをつかむためにも、価値観やメディア行動などさまざまな視点から生活者の解像度をあげていくことが大事だと改めて感じました。そのヒントがたくさんあったと思います。本日はありがとうございました。