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新CEO 佐野傑氏に聞く
dentsu Japanが取り組む変革。真の「Integrated Growth Partner」へ

2024/08/13

※この記事は、2024年5月17日「日経ビジネス電子版SPECIAL」で公開されたコンテンツを一部編集し、掲載しています。

 

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「広告の雄」と言われた電通が、ビジネスモデルを大きく変革している。dentsu Japanのグループ約150社、2万3000人の専門知識とノウハウを最大限に生かし、顧客企業の成長に寄与するパートナーとなるべく、事業領域の拡大と充実を図っている。これまでの広告・マーケティング領域の進化とともに、経営、人財、組織、事業など、企業活動全般をカバーするコンサルティング事業を拡張させ、その統合力で大きな飛躍を目指す。今年1月にCEOに就任した佐野傑氏に、その狙いと成長戦略を聞いた。

(聞き手 日経ビジネス発行人 松井健)
 
 


企業と社会の「成長」と「活力」を、ともにつくり出す存在へ
 

広告領域にとどまらずに
事業領域を拡大 


電通がビジネスモデルを拡張しようとしている。看板を「広告・マーケティング会社」から「Integrated Growth Partner(IGP)」に掛け替え、「企業の成長」を統合的に支援している。

広告コミュニケーションで培ってきた「人の心を動かす力」を強みに、経営、人財、組織、事業を含む企業活動全般を支援。戦略を立案するだけではなく、クリエイティブやテクノロジーのノウハウを生かして具体的な施策を提案し、実行し、最終的な成果を分析・改善するまで伴走する。

「広告領域以外の売上総利益が、すでに全体の約3割を占めています」と語るのは、2024年1月にdentsu JapanのCEOに就任した佐野傑氏だ。

佐野氏は、営業を長く経験してきた。その過程で、幾度となく歯がゆい思いをしたという。「広告やマーケティングだけでは、顧客企業の成長に貢献しきれないケースがあるからです」(佐野氏)

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dentsu Japan CEO   兼(株)電通 代表取締役 社長執行役員 佐野 傑 氏


例えば、ある商品の売り上げが上がらないのはなぜか。広告担当として顧客企業と向き合うなかで、広告とは違う次元の課題も見えてくる。「商品は良いのだが、販売戦略と合っていない」「そもそも事業戦略が経営戦略と合っていない」「組織が縦割りで、部署間の連携ができていない」「経営戦略を実現するための人財が不足、あるいは組織風土がそれに適応していない」などだ。しかし、「広告会社」という認識をされている立場で経営戦略まで提案することは難しい。

「私たちは本来、そこまでお手伝いできるはず、という自負があります。当社はストラテジスト、クリエイター、ITエンジニアなど、『人の心を動かすプロ』をたくさん抱えているからです」(佐野氏)

企業の変革を実現するには、まず従業員のマインドを変える必要がある。経営のメッセージを組織の隅々にまで浸透させ、従業員を巻き込む力が必要だ。

生活者に広告を通して働きかけることも、組織を変革することも、要諦は「人の心を動かし、行動を変えること」にある。そこに、同社が培ってきた技術とノウハウを生かせる。広告領域を超えて、dentsu Japanが持つ能力を、もっと広い視野で企業の成長や社会の発展のために役立てようというわけだ。


広範囲をカバーし
企業の成長のために伴走


サービス対象を「企業活動全般」と広く設定しているのはなぜか。佐野氏は「企業は全ての組織がつながって存在しているからです」と述べ、人体になぞらえて説明した。

人の臓器は個々に独立しているわけではなく、全てが連携して1つの体を形成している。例えば腰痛の原因が骨や筋肉だけでなく、内臓疾患や精神的なストレスなど、さまざまな要因が複合的に作用した結果である場合がある、ということだ。

同様に、ヒット商品が出ないのは開発部門だけの問題ではない可能性がある。その背景に、もしかしたら変化を好まない組織風土、経営戦略と事業戦略のズレ、縦割り組織の弊害など、複数の課題があるかもしれない。「部分最適ではなく、全体像で捉えていかなければ、企業の変革はできません」(佐野氏)

こういった複合的な課題を解決していくため、dentsu Japanは、企業や社会に3つの価値を提供する。AX(アドバタイジング・トランスフォーメーション)とCX(カスタマーエクスペリエンス・トランスフォーメーション)を含む「Marketing」、BX(ビジネストランスフォーメーション)とDX(デジタルトランスフォーメーション)を含む「Transformation」、スポーツとエンターテインメントを含む「Contents」だ。

これらを、2006年から企業経営を支援してきた電通コンサルティングや、戦略コンサルのイグニション・ポイント、ドリームインキュベータ、DXをリードする電通総研、またデジタル領域をけん引する電通デジタル、セプテーニ・ホールディングスやCARTA HOLDINGSなど、dentsu Japan各社の専門性や強みを統合して実現していく。顧客企業のニーズや課題に合わせて最適なプロジェクトチームを組み、全案件にオーダーメードで挑む点が高く評価されている。

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Integrated Growth Partnerとして推進するABCD-Xの事業領域。この4領域に加えて、コンテンツ領域にも注力する
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「Integrated Growth Solutions」を掲げ、競合他社より広いエリアをカバーする唯一無二の存在を目指す


2万3000人の掛け算で
大きな力を発揮する


顧客企業のパートナーとして唯一無二の存在となるため、今年からdentsu Japanでは、5つの「重点変革領域」を設定している。「人財の成長」「事業成長」「ブランディング/マーケティング」「マネジメント」「企業文化」だ。

そのうちの1つである「人財の成長」。dentsu Japanの最大の財産は人であり、それが競争力と差別化の源泉になる。多様な人財を採用し、その能力を伸ばし、最大限に発揮してもらえる環境をつくる。そのために、グループ初となるチーフ・ピープル・オフィサー(CPO)を設けた。

人は理屈では動かない。企業戦略の実現には、人の心を動かすクリエイティブ・ジャンプが必要だ。それはまさしく「左脳と右脳の掛け算」であり、dentsu Japanはサイエンスや論理に基づくイノベーション・アイデアを最大の強みとする。

「人の能力の掛け算を重視します」(佐野氏)。グループ2万3000人の化学反応で、これまでにない価値の創出を目指す。


企業や社会の次なる成長に
貢献したい


5つの重点変革領域のなかで、もう1つ特筆すべきは「企業文化」であろう。dentsu Japanにおける新たなリーダーシップを「周囲の人にポジティブな影響を与えること」と定義した。仲間を大切にし、利他的なセンスでお互いの能力を発揮し、成長を助け合える企業文化を醸成する。これにより、「人と人の掛け算」を生み出せる組織をつくる。

「電通が率先して元気になって、社会を元気にしてほしい。顧客企業の皆さまによくそう言っていただきます」(佐野氏)。そのためには、まずdentsu Japanのメンバーが自身の能力を磨き、自信と活力をもって顧客と接する必要があると佐野氏は話す。

dentsu Japanに期待される役割が時代とともに変化している。企業や社会の次なる成長のために、グループ全体の持てる能力を最大限に発揮していく考えだ。


取材を終えて(日経ビジネス発行人 松井健)
電通が大きく変わろうとしている。そのかじ取りを任された佐野氏は、多くの経験を持つ営業領域に加え、BX領域では国内グループだけでなくグローバル全体もけん引した。IGPという新たなコンセプトを体現する人物と言えるだろう。根底には、顧客企業に日本一、世界一になってもらいたいと伴走してきた、営業時代からの思いがある。電通の伝統とアイデンティティを理解しつつ、時代の要請に応える新たな変化に挑む。新時代の若きリーダーとして、その活躍に注目したい。

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