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今、企業に求められるデータプライバシーとはNo.1

プライバシーへの配慮が企業価値になる。データ活用に関する生活者の意識調査

2024/08/30

ユーザープライバシー保護の潮流の中で、法律の変化やブラウザ事業者によるCookieをはじめとした識別子の制限により、企業はお客さまのパーソナルデータを活用することが求められています。しかし、生活者から見ると、自身のデータが企業に活用されていることに抵抗を感じる方も多いでしょう。

「どうすれば生活者に安心してデータを提供してもらえるのか?」

データ活用の時代、これはあらゆる企業にとって共通の悩みではないでしょうか。法令順守はもちろん大前提ですが、それだけでは足りません。新しいデジタル広告技術の理解、生活者のインサイトの把握、そしてPIA(プライバシー影響評価)をはじめとしたリスク評価やガバナンスなど、さまざまな要素を統合的に考慮する必要があります。

電通グループ各社でも、データプライバシーの専門チームを結成し、企業のデータ活用ニーズと生活者のプライバシー保護の両立を目指しています。

本連載では、「生活者のインサイト」に焦点をあて、企業のデータ活用に関するリアルな声を、調査結果を基にお届けします。

今回は、3000人を対象に行ったデータ活用に関する生活者意識調査の結果を、電通デジタルの市岡侑也氏が解説。さらにマクロミルの原田俊氏がデータプライバシーにおける企業の課題解決のヒントをお伝えします。
 

<目次>
生活者の約6割が企業へのデータ提供に不安を感じている

企業のプライバシー保護の取り組みは十分か?

プライバシーポリシーの閲読率はたった20%。その対策は?

プライバシーは企業のブランディング戦略と密接に関わっている
 
生活者のプライバシー保護が重要視される新しい時代のデータ活用

企業のデータプライバシーにおける課題を解く「方程式」はこれだ! 

 
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生活者の約6割が企業へのデータ提供に不安を感じている

まず生活者は、企業にデータを提供することにどのくらい不安を持っているのかを調査しました。

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結果をみると、「不安に思うことはない」「あまり不安に思うことはない」と回答した生活者が計10.1%に対して、「やや不安に思うことがある」「不安に思うことがある」と回答した生活者は計64.1%となりました。

また、性別で比較すると女性の方が不安を感じやすく、年代別では年齢が高くなるほど不安を感じやすい傾向が見られました。

他の質問への回答でも、データ提供に対する生活者の受容性や不安の感じ方は、生活者の属性や企業のデータ利用目的、提供するデータ項目ごとで異なる特徴が見られました。こうした不安感は、複雑な条件によって作り上げられると考えられます。こうした生活者の不安感については、後ほどマクロミルの原田氏に解説していただきます。

企業のプライバシー保護の取り組みは十分か?

「企業のプライバシー保護の取り組みについて、どのように思いますか?」と質問をしてみると、以下のような回答が得られました。

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※構成比(%)は小数点以下第2位で四捨五入しているため、合計しても必ずしも100%にならない場合があります。

約60%の生活者が、企業がプライバシー保護のために透明性の高い方針や説明を提供することを求めています。

つまり、企業のプライバシー保護の取り組みは、足りていない、もしくは生活者には届いていないことが分かります。この理由を考えていきましょう。

プライバシーポリシーの閲読率はたった20%。その対策は?

企業のプライバシー保護の取り組みを生活者に伝える方法として、最も代表的なものが「プライバシーポリシー」です。最近の法規制の変化を受け、多くの企業がプライバシーポリシーを改訂しています。

しかし、実際にどれくらいの生活者がプライバシーポリシーを閲読しているのでしょうか。

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プライバシーポリシーを読んでいるユーザーはわずか2割程度で、大半が読んでいないことが分かりました。読まない理由として、「文章が多い」「読んでもわからなそう」といった声が挙がっています。

つまり、企業がどんなに法令を順守したプライバシーポリシーを構築しても、データの利用目的やユーザーの同意内容、企業のプライバシー保護の取り組みといった大切な情報が、生活者には届いていないことになります。

これでは、「データ提供に同意した覚えがない」「勝手にデータが使われている」という不安を生み、企業にとっては生活者からの信用低下を招く危険性もあります。

法令を順守するという側面が強いプライバシーポリシーとは別に、生活者の安心に寄与するため、データの利用目的や同意形成をしっかり行う必要があります。その一つの対応策として、「プライバシーセンター」の設置が考えられます。

プライバシーセンターとは、プライバシーポリシーや利用規約では伝わりづらい、企業のプライバシー保護方針やデータの利用目的などを、図やイラストを交えて生活者に分かりやすく説明、補足するウェブページです。

昨今プライバシーセンターを設ける企業も増え、一般的な取り組みとなっています。これにより、生活者は自身のデータがどのように活用されているかを把握し、必要に応じてデータのオプトアウト(データ利用同意の取り消し)設定を行うことができます。

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プライバシーセンターでは、プライバシーポリシーでは伝わりづらい、細かなデータの活用方法や、利用目的、また、お客さまから信頼を得た上で、データを預けていただけるような企業としてのメッセージ・指針をイラストなど交えて分かりやすく伝えることができる。

プライバシーセンターについての調査では、5割弱の生活者が「プライバシーポリシーよりもわかりやすい・読みやすい」と回答しました。

生活者に安心して企業にデータを預けてもらい、しっかり同意をいただいた上でデータを活用するためには、多様な対応が必要です。

プライバシーセンターはその一つの手段です。電通グループでも、企業がプライバシーポリシーの改定・構築に加え、生活者に分かりやすく説明するためにプライバシーセンターを導入する際のサポートを行っています。

プライバシーは企業のブランディング戦略と密接に関わっている

最後に、プライバシー保護の取り組みが、生活者の企業への信頼度・好意度につながるかを考えるために、具体企業名をモニターに提示し、「企業がプライバシー保護の取り組みを行うことで、企業への好意度が高まるか」を調査しました。

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プライバシー保護の取り組みには、以下のような例があります。

■プライバシーポリシーやプライバシーセンターを通じた、生活者への説明
■PIA(プライバシー影響評価)の実施
■CMP※(同意管理プラットフォーム)などを活用した、生活者の同意管理
■プライバシーを保護するための技術である、プライバシー強化技術(PETs)の導入

調査の結果、プライバシー保護の取り組みを実施することで、企業に対して「好意を持つ」と回答した人が40.1%、「好意を持たない(プライバシー保護の取り組みを行っても好意は変わらない)」と回答した人が13.1%、「不明(内容次第)」が46.8%となりました。

日本においてプライバシー保護の取り組みはまだ十分に浸透しておらず、生活者の認知度も低いため、生活者は企業のプライバシー保護の取り組みをイメージしづらいこともあり、不明層(どちらともいえない、わからないと回答した生活者)が多いことが分かります。しかし、不明層を除くと、「好意を持たない」と回答した生活者よりも、「好意を持つ」と回答した生活者は3倍以上多く存在していることが分かります。

プライバシー保護の取り組みは、単に法令を順守するための守りの対策として捉えられることが多いですが、企業の好意度・信頼度を高めるブランディング戦略として捉えるべきでしょう。

今後、電通・電通デジタルでは、企業の業種ごとに「購入意向」「継続利用」「企業イメージ」など、企業がKPIと設定するさまざまな指標と、プライバシー保護施策の関係性を検証していく予定です。

※CMP (Consent Management Platform):ウェブサービスなどを利用するユーザーに対してデータの取得や利用の同意を求めるためのツール。同意管理プラットフォームとも呼ばれる。

生活者のプライバシー保護が重要視される新しい時代のデータ活用

今回見てきたように、生活者にとって分かりにくいプライバシーポリシーを提示して一方的に「同意」を取り、データを利活用する従来の方法だけでは、企業にネガティブな影響をもたらす可能性があります。つまり、「マイナス」です。

しかし同時に、プライバシー保護の取り組みを行うことで、企業への好意度が高まる傾向も明らかになりました。生活者に真摯(しんし)に向き合ったプライバシー保護の取り組みは、単にマイナスをゼロにするだけでなく、生活者の好意度を高める「プラス」のブランディング施策でもあるといえるでしょう。

プライバシー保護は、生活者との信頼関係を築くために重要な要素であり、データマーケティングの新たな可能性を開くカギでもあります。

電通、電通デジタルでは、生活者のプライバシー保護を尊重した企業のデータ活用を網羅的にサポートできるよう取り組んでまいります。

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企業のデータプライバシーにおける課題を解く「方程式」はこれだ!

ここからは、マクロミル・原田の提唱する「生活者受容性の方程式」をご紹介します。

私はデジタルマーケティングにおけるデータ活用の高度化と、生活者のプライバシー保護の両立を目指して、日本のネット広告の黎明(れいめい)期から10年以上活動してきました。

これまでの活動の一部を紹介しますと、アン・カブキアン博士「プライバシー・バイ・デザイン」の翻訳プロジェクトへの参画、DDAI共通オプトアウトサイトの運営、自社DMPプライバシーダッシュボードの開発・提供、GDPR準拠のCMP(同意管理プラットフォーム)の輸入・販売などを経験しました。

今回の電通・電通デジタルの調査では、マクロミルが独自に実施した調査および考案したフレームワークにご賛同いただき、考え方などをご活用いただきました。

ネット広告の有名なプライバシールールは「Notice and Consent(通知と同意)」です。(最近では「Notice and Choice(通知と選択)」と言われることも)。

生活者個人に関するデータを使わせていただく以上、生活者にきちんと知らせて、同意あるいは離脱(オプトアウト)していただく必要があります。

言い換えますと、企業は生活者に対してデータ活用の「透明性」と「制御性」を提供することが必要不可欠なわけです。従来はこれらの機能をプライバシーポリシーや利用規約が担っていました。しかし、前半の市岡氏のパートでも解説されていた通り、昨今ではユーザーに読まれなかったり、ユーザーが理解できなかったりと、機能不全を起こしているといえましょう。

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パーソナルデータ提供における生活者受容性の方程式(フレームワーク)

さて、上の図を見てください。私の提唱する「パーソナルデータ提供における生活者受容性の方程式」の中では、「生活者受容性」(Customer Acceptance Rate)に影響を与える5つの要素があるという仮説を立てています。ちなみに、生活者受容性とは、生活者が企業や組織に対して「自分のデータを利活用してもよい」と考える度合いのことです。

1.生活者属性

2.データ提供先への信頼度・好意度

3.データの種類

4.データの利用目的

5.プライバシー保護施策

企業のデータ活用に先行して、生活者の「属性」や「データ提供先への信頼度・好意度」があり、それに対して、企業が利活用したい「データの種類」や「利用目的」、企業が提示する「プライバシー保護施策」によって、生活者受容性が大きく変わるという仮説です。

これらの要素のうち「プライバシー保護施策」が、透明性と制御性に関わります。

マクロミルの調査では、プライバシーセンターやCMPといった透明性・制御性を高めるツールの認知はまだまだ低いものの、それらが導入されていることによるデータ提供意向が一定の割合で存在しており、生活者の期待の高さも見て取れました。

これらのツールでサイトやアプリ訪問時に分かりやすく説明をしてユーザーの不安を解消し、かつデータ提供によるメリットを想像させ、希望にあったデータ活用を実現する。見落とされがちですが、プライバシーセンターやCMPも、「顧客体験」を構成する重要な要素なのです。

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また、生活者の目には直接触れませんが、データを暗号化したまま分析を可能にする「秘密計算」や、企業間のデータ連携におけるセキュリティを高める「データクリーンルーム」などのプライバシーテックも、重要視されていることが分かっています。

こうしたプライバシー施策を分かりやすくアピールしていくことで、生活者受容性の向上がより期待できるでしょう。

今回の電通・電通デジタルの調査は、今の時代の生活者インサイトがよく分かる結果となっていました。今後はさらにクライアントごとのプライバシー保護レベルを測る調査が進められていくと思います。調査結果が蓄積されることで、各プライバシー保護施策によってどれくらい生活者受容性が向上されるかを解き明かしていただきたいです。

「データ提供先への信頼度・好意度」を構成する企業ブランディングやCRM活動がどれだけ生活者受容性に影響を与えているかは、まさに電通グループの得意とするところだと思いますので、「生活者受容性の方程式」完成に向けて、大いに期待を寄せております。

【調査概要】
調査名:データ利用に関する一般生活者意識調査
調査対象者:男女20~69歳 3000人
対象エリア:全国
調査方法:インターネット調査
調査期間:2023年12月25日~12月29日
調査主体:株式会社電通
調査委託先:株式会社電通マクロミルインサイト

 

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