誰もがデジタルヒューマンをつくれる世界へ。韓国発AIスタートアップの挑戦
2025/02/05
近年、生成AI技術の飛躍的な進歩に伴い、人間にそっくりな姿で自由自在に動く「デジタルヒューマン」の実用化に向けた取り組みがさまざまな業界で進んでいます。
すでに海外ではデジタルヒューマンを活用した多言語対応サービス、報道番組、バーチャルインフルエンサーなどの展開が実現しており、コンテンツやサービスの可能性を拡張しています。
そこで今回は、デジタルヒューマン領域でグローバル規模の注目を集める韓国発AIスタートアップ「Klleon」(クレオン)の取り組みについて、電通BXクリエイティブ・センターのアーロン・ズーが紹介します。
急成長する世界のデジタルヒューマン市場
いま、デジタルヒューマンが世界的なトレンドになっています。
Emergen Researchの調査によると、世界のデジタルヒューマンアバター市場規模は2022年に295億ドルを超え、2032年までに5611億ドルに達すると予測。年間平均成長率(CAGR)は34.2%と、驚異的な成長が見込まれています。
以前の記事でもお伝えしたように、デジタルヒューマンの技術自体は新しいものではありません。しかし、ここ数年で急速に進歩した生成AI技術によって、テキスト、音声、画像、映像をリアルタイムで生成する機能が飛躍的に向上し、パーソナライズされた自然な対話をデジタルヒューマンで実現できるようになりました。
すでに海外ではデジタルヒューマンの実用化が進んでおり、店頭のデジタルサイネージを活用した多言語対応サービス、SNSや動画、番組など各種コンテンツでの活用などが実現しています。しかし、日本では芸能事務所をはじめとする一部の企業では活用が進められているものの、「デジタルヒューマンって何がすごいの?」「どんなことに使えるの?」という疑問を持っている方も多いと思います。
そこで今回紹介したいのが、デジタルヒューマン領域で世界的な注目を集めている韓国発AIスタートアップのKlleon(クレオン)です。
最先端テクノロジーを活用し、簡単に高品質なデジタルヒューマンを生成可能に
2018年に設立されたクレオンは、最先端の生成AI技術を活用し、インタラクティブなデジタルヒューマンを活用したソリューションを提供しているスタートアップ。「誰もが映像やバーチャルコンテンツを簡単に作れる世界」をミッションに掲げ、生成AI技術によって少量のデータで写真や音声、動画コンテンツを生成することを可能にしています。同社は世界最大級のデジタル博覧会CES 2022で2つのプロダクトでイノベーションアワードを受賞する快挙を成し遂げ、2人の共同経営者はフォーブス「30 Under 30 Asia」にも選出されています。
なぜ、クレオンはグローバル規模でこれほどまで高い評価を受けているのか?その理由の一つが、高品質なデジタルヒューマンを簡単に生成する最先端テクノロジーにあると考えます。
例えば、同社のHead Swap技術は、写真や動画に写っている人物の顔や表情のニュアンス、髪型を自在に変えることを可能にしています。これにより、特定のシーンや対話内容に合わせて柔軟にデジタルヒューマンを生成することができるようになります。ほかにも、音声や言語と同期した自然な唇の動きをつくるLip-sync生成技術、たった1本の動画から3Dアバターを作成するFull-Body生成技術などの最先端テクノロジーを組み合わせることで、少量のデータや追加学習なしで容易にインタラクティブなデジタルヒューマンを活用することができるのです。
韓国では放送局MBNが同社の技術を活用したバーチャルレポーターを報道番組に起用するほか、ショッピングモールや店舗のキオスク端末への活用、アパレル業界におけるコンテンツの多言語化などにデジタルヒューマンが活用されており、話題性も含めて大きなインパクトを生み出しています。
同社は2024年にデジタルヒューマン制作のプラットフォーム「Klleon Studio」(クレオンスタジオ)をローンチしました。クレオンスタジオでは外国語の先生、カスタマーセンターのオペレーター、マーケティング担当者、旅行ガイド、アナウンサー、店舗案内など、さまざまなシーンに合わせた50種類以上のデジタルヒューマン用のソフトウエア開発キット(SDK)を提供。専門的な知識がなくても簡単にカスタマイズされたデジタルヒューマンを生成することができます。
今回はホリプロ×電通によるデジタルヒューマンのキャスティング共同事業でご協力いただいている足立梨花さんのデジタルヒューマンを、実際にクレオンスタジオで生成してみました。
デジタルヒューマンは音声を聞き取ってスムーズな対話を実現することはもちろん、対話中は自然なモーションで全身や表情が動きます。5カ国語に対応しており、言語に合わせて唇も自然に動きます。
例えば、観光案内所のガイドやショッピングモールの案内サービス、英会話の授業などに足立さんのデジタルヒューマンを活用することで、コンテンツ/サービスの顧客体験や話題性を高めるだけでなく、人手不足やグローバル対応などのビジネス課題解決にも貢献できる可能性があります。
日本におけるデジタルヒューマンの可能性とは?
クレオンは韓国、アメリカに拠点を持つほか、2022年に日本法人を設立し、日本国内クライアント向けにデジタルヒューマンを起点としたコンテンツ/サービス開発のサポートにも注力しています。
同社は日本におけるデジタルヒューマンの可能性をどう捉えているのか?クレオン共同設立者兼CEOのジン・スンヒョク氏に、日本でデジタルヒューマン事業を展開するアーロン・ズーがインタビューを行いました。
アーロン:日本におけるデジタルヒューマン活用は、まだ開発途中やPoC段階のものが多いのですが、韓国やアメリカではどのようなビジネス活用が実現していますか?
ジン:Klleon(クレオン)は2023年までに100件以上のPoCを行った後、2024年から実際に実用化した事例を作ってきています。たとえば、サムスン電子など韓国の大企業で英語が必要な社員にAI英語講師サービスを提供していますし、仁川国際空港に多言語案内が可能な対話型デジタルヒューマンを提供しています。また、韓国の大手芸能プロダクションであるSMエンタテインメント所属のアーティストを対話型デジタルヒューマンで製作するプロジェクトも進めています。
アーロン:さまざまな業種やシーンで活用が進んでいるのですね。デジタルヒューマンの技術を持つ企業は多数存在しますが、クレオンの強みや特長を教えてください。
ジン:クレオンは6年以上、リアルタイム対話型デジタルヒューマンを構築するのに必要なコア技術を研究してきました。 断然クオリティが一番重要だと思っております。クオリティとは、応答速度が1秒以内でなければならず、応答に合った音声と表情、体の動作を具現できることを意味します。また、商用化の過程で最も重要だったところは、大容量トラフィックを安全に伝達しながらも、合理的な価格で提供する部分でした。クレオンはこのような点において世界最高水準にあると自負しています。
アーロン:クレオンは日本国内でも事業を展開していますが、日本のビジネスのどのような課題やニーズに応えることができますか?
ジン:クレオンは2022年に日本支社を設立し、現地での要望や依頼を直ちに解決できるようにしております。実際に日本国内でも、TOPPAN、アダストリアなどの大企業と協業しながらスムーズにプロジェクトを推進することができています。
アーロン:デジタルヒューマンは日本のコンテンツやサービスをグローバル展開できる可能性を秘めていると思います。日本のコンテンツならではの優れた点や、ポテンシャルを感じている点があれば教えてください。
ジン:私はアメリカ、韓国のほかに中東、東南アジアでも事業を進めています。長年の経験から日本が持っている潜在的なポテンシャルと力は明確です。そして、日本の方々はどの国よりもコンテンツを愛し、コンテンツの細かいところまでこだわっていると感じています。対話型デジタルヒューマンを作るにあたって、技術的な部分も無視できませんが、結局一番大事なところはどれだけ魅力的なコンテンツを製作できるか、であると考えています。そういった意味で電通と一緒に連携できる機会ができたことにとても感謝しています。
アーロン:今後、ビジネスを通じて実現したい世界やミッションを教えてください。
ジン:私は人びとから最も愛される魅力的なデジタルヒューマンと世界をつなぐ役割を担っていると思っております。全世界で発生しているコミュニケーションの欠如による多様な問題を解決したいです。
アーロン:ありがとうございました!
デジタルヒューマン事業を展開する電通では、今後クレオンとも連携しながらコンテンツ/サービスの可能性を拡張し、新たな顧客体験や価値創造にチャレンジしていきます。
ご興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
【事業に関する問い合わせ先】
株式会社電通 BXクリエイティブ・センター
アーロン・ズー(Aaron Z. Zhu)
Contact:https://dentsu-bxcr.com/contact