
日々進化し続けるCX(カスタマーエクスペリエンス=顧客体験)。
今やあらゆるシーンで求められるCX領域に対し、電通のクリエイティブはどのように貢献できるのか?
その可能性を解き明かすべく、電通のCX専門部署「CXCC」(カスタマーエクスペリエンス・クリエイティブ・センター)メンバーがCXとクリエイティブについて情報発信する連載。それが「月刊CX」です(月刊CXに関してはコチラ)。
今回ご紹介するのは、Android の機能「かこって検索」のプロモーション施策として行われた「検索して楽しむ新感覚MV! Android かこってMUSIC 」です。人気VTuberを起用したMVでSNS上での発話を促し、多くの反響があった本施策。具体的にはどのような内容だったのか? 制作をする上でどのような工夫があったのか? クリエイティブを担当した豊田伸治氏、相羽くるみ氏に話を聞きました。
(左から)【豊田伸治氏プロフィール】
電通
カスタマーエクスペリエンス・クリエイティブ・センター
クリエイティブ・ディレクター
マーケティング戦略からメディアプラン、CRのアウトプットまでを統合的にディレクションし、マスからデジタル、ソーシャル、PRまでブランド体験を360°トータルにデザインする「統合プランニング」を得意とする。
【相羽くるみ氏プロフィール】
電通
カスタマーエクスペリエンス・クリエイティブ・センター
プランナー / デジタルプランナー
PR・デジタル領域の部署を経て、現在はWEB動画からTVCMまで含む映像企画と、SNS投稿やオンラインイベントなどのデジタル施策にプランナーとして携わる。趣味のVRを生かしてメタバースの体験企画も行っている。
※所属・役職は取材当時のものです。Android を使ってワクワク!機能体験×推し活の新感覚MV
月刊CX:「検索して楽しむ新感覚MV! Android かこってMUSIC」の概要をお話しいただけますか。
星街すいせいを解き明かせ!MV / Stellar Stellar【#Android かこってMUSIC】
※画像をクリックすると、動画を見られます豊田:Android の機能「かこって検索」をZ世代にアピールする施策として、この世代に人気のVTuber・星街すいせいさんとのコラボミュージックビデオ(MV)を制作しました。
「かこって検索」は、スマホ画面上で対象を指でかこむと、その場で検索結果が表示される機能です。この施策では、星街さんのファンにMVを見ながら検索してもらうため、星街さんの部屋を再現したセットに、彼女の思い出の品や好きな物など20点以上のアイテムを配置しました。
MVで機能を紹介して終わるのではなく、能動的に検索してもらう、検索した情報や想像したことをSNSに投稿してもらう、MV公開後のライブ配信でアイテムにまつわるエピソードを星街さんに解説していただく、という3段階構成になっているのも特徴です。
【#Android かこってMUSIC】解説配信
※画像をクリックすると、動画を見られます相羽:新感覚のMVとしてSNS上でも大きな話題となり、Xではリポストも含めて7万件以上の反応がありました。公開後1日で30万再生され、ライブ配信には1万700人が同時接続し「かこって検索が便利」「Android を使いたい」といったポジティブな反応が1800件以上寄せられました。
月刊CX:この施策が生まれた経緯を教えてください。
豊田:クライアントから「Z世代に Android の便利さを体験してワクワクしてほしい」 という要望をいただいたことが始まりでした。
かこって検索の面白さ・便利さをアピールするためには、生活者がどんどん検索したくなるような仕掛けが必要だと考えてチームでアイデアを出し合い、最終的にたどり着いたのが音楽と推し活を掛け合わせる案だったのです。
月刊CX:音楽×推し活という文脈で、なぜVTuberを起用しようと思われたのですか?
相羽:VTuberはリアルな生活が見えにくいため、ファン心理として普段使用しているアイテムが気になって検索したくなるのではないかと思いました。それに、VTuberのファンはZ世代も多くSNS発信も活発なので、今回の施策とも相性が良かったのです。
月刊CX:数多くのVTuberがいる中で、星街さんを起用された理由が気になります。
相羽:星街さんは280万人以上のチャンネル登録者を持ち、音楽アーティストとしてVTuberの新しい境地を開いている方であり、MV起点のキャンペーンにぴったりの存在でした。そこで今回は、星街さんの原点曲でもある「Stellar Stellar」を通して、ファンが彼女のルーツを探るというストーリーをクライアントに提案し、採用していただきました。
さまざまな技術を組み合わせた、前例のないMV制作の裏話
月刊CX: MVを制作するにあたって、大変なこともあったそうですね。
相羽:はい。このMVは、2D、3DCG、実写を行き来するのですが、一般的なVTuberのMVは2Dもしくは3DCGのみで制作されているものがほとんどです。全てを掛け合わせたMVはあまり前例がなく、クライアントに説明するのも大変でした。

2D、3DCG、実写が融合されたMV豊田:実写の背景から2Dに変わるときの映像作りも四苦八苦しましたね。いきなりガラッと変化するのではなくスムーズに切り替えるために、監督が計算をしながら演出を考えて、美しい映像に仕上げてくださいました。
MVのワンシーン月刊CX: このMVのポイントを教えてください。
豊田:普段星街さんが配信をしているときの背景として映っている部屋を忠実に再現しています。ファンが想像するすてきな部屋を作り上げるために、美術スタッフが総力を注いでくれました。
相羽:「自分の部屋なら、着る服を選んだり、ベッドでくつろいだりするはず」と考え、そういった私生活が映り込んだようなシーンもあえて盛り込みました。この施策のメインターゲットは星街さんのファンですが、他のVTuberファンが見たときに「自分の推しの部屋も見てみたい」と感じられるようなMVにできたと思います。
MVのワンシーン月刊CX:UXの視点で意識していたことはありますか?
豊田:「いかにもプロモーションだ」と感じられてしまうようなコンテンツにしないことを意識していました。Z世代は広告を避ける傾向にありますが、参加型・体験型の楽しいコンテンツであれば、広告であるかどうかに関係なく楽しんでくれます。
その上で、SNSでの発話を促すため、まずは第1弾としてMVでかこって検索をしたくなるような体験設計を意識しました。最後に生配信で星街さんから種明かししていただくことで、ファンの満足感につなげられたと思います。
相羽:UXの視点で「思わずかこって検索したくなるようなアイテム」が何かを考えましたね。これまでの画像検索でも検索しやすいもの、商品名が大きく入っているものは除外するなど……さまざまな縛りがある中で、選定を行いました。スマホ画面で視認できる秒数やアングルも徹底的に検証し、検索しやすい見せ方についても工夫しました。

タイミングが功を奏し、新たなファンにも届けられた
月刊CX:7万件の反応があったとのことですが、ここまで盛り上げることができた理由はなんだと思いますか?
相羽:アイテムの中に東京ドームの写真があり、そこで「東京ドームライブ」という、星街さんの夢が初公開されたんです。MVを公開するタイミングで武道館ライブが決まっていたこともあり、次のステップが示されたことがファンにとってうれしいサプライズになったのだと思います。
また、公開翌月に星街さんがアニメ「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」のエンディングテーマを歌うことが発表されるなど、星街さんのメディア露出が増えたタイミングとMV公開の時期が重なったことも、この施策の盛り上がりにつながったのだと思います。
月刊CX:SNSで印象的だったコメントはありますか?
相羽:「MVのクオリティが高い」「配信部屋が再現されていて、うれしい」「かこって検索を初めて使ったけど便利だった」という声があがっていました。 MVと Android 機能の両方に関する発話があり、私もうれしかったです。
豊田:「Android ユーザーがうらやましい」「Android ユーザーであることを誇れる」「これからは自信を持って Android を使える」といった声もあり、Android の機能に対するワクワク、満足感を創出できたのは大きな成果だと思います。
視聴者、出演者、クライアントの三者がWinになるプロモーションを仕掛けたい
月刊CX:この施策を通して得られた気づきがあれば教えてください。
相羽:ファンの力の大きさです。私個人としても星街さんをはじめとするVTuberのファンであり、アーティストへの愛情をMVで表現できました。制作側にファンならではの目線があったからこそ、同じ思いを持つファンが反応してくれたのかなと。「かこって検索」を機能として紹介するだけでは、ファンに振り向いてもらえなかったと思います。
私は常にWin-Winを意識していて、まずは見ている人が楽しんでくれることを意識しています。結果的に、それが一番広がりを生むと思うんです。ファンはアーティストのことをより深く知ることができてWin、アーティストもファンが喜んでくれてWin、広がりが生まれてクライアントもWin。ファンマーケティングは、関係者全員が幸せになることが重要であり、制作には愛とこだわりが必要なのだと思います。
豊田:大切なのは、文字通り「カスタマーエクスペリエンス(CX)」だと思っています。訴求したい機能を面白おかしく言い換えるだけの広告表現ではなく、いかに生活者にブランドとの体験を楽しんでもらうか。そうした体験の創出は、生活者のことを深く理解している電通だからこそできることだと思います。今の時代は、こうしたCXの積み重ねこそが、クライアントの成長につながるのではないでしょうか。
今回の施策では、クライアントに異を唱え、“生活者を楽しませるプロ”として、こちらの意見を押し通した部分があります。終了後にはクライアントから「あのとき譲らずに意見を通してくれてよかった」と言っていただけました。生活者(ファン)の側に立って、愛を持って意見を伝えることが重要なのであり、そういった行動が結果につながるのだとあらためて勉強になりました。
月刊CX:今後挑戦したいことはありますか?
相羽:かこってMUSICでは、第2弾のChroNoiRさん、第3弾のVOLTACTIONさんのMVが公開されている他、12月末頃にはROF-MAOさんとのコラボMVも公開が決定しています。今後については、VTuberだけでなく、リアルで活動しているタレントやインフルエンサー、キャラクターなどにも拡大していけると面白そうだなと。
個人的なところでは、見た人が楽しくなって自然と関わりたくなるような広告を作っていきたいです。
豊田:ファンと同じ熱量で、みんなが幸せになるような施策に挑戦していきたいですね。バーチャルに限らず、ゲーム、アニメ、ドラマなど、領域を問わず、ユーザーボイスを増やす施策に取り組みたいです。
(編集後記)
今回は、Android の機能「かこって検索」のプロモーション施策「検索して楽しむ新感覚MV! Android かこってMUSIC 」について紹介しました。
推し活が浸透している中で、ファンマーケティングの手法は多様化しています。今回の施策を通して、どれだけ手法が変わろうとも「周囲への思いやり」「愛情」が重要であることには変わりなく、それがなければ目標達成は成し得ないのだろうと思いました。
今後こういう事例やテーマを取り上げてほしいなどのご要望がありましたら、下記お問い合わせページから月刊CX編集部にメッセージをお送りください。ご愛読いつもありがとうございます。

月刊CX編集部
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