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公開日: 2025/12/15

誰もが自分らしく活躍できる場所であるために。現場発のERGと経営の連携が生み出す、個性と強みを生かす職場のかたち

dentsu Japanでは、DEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)を重視し、「全員活躍」を実現するための多様な取り組みを進めています。その一つが、従業員一人一人の声や思いからボトムアップで生まれたEmployee Resource Group(従業員リソースグループ、以下ERG)です。

2025年からは経営陣がスポンサーとしてERG活動を積極的にサポートし、従業員発の取り組みがさらに力強く推進されています。多様なバックグラウンドやライフステージ、個々の事情を持つ誰もが自分らしく活躍できる環境づくりを目指し、dentsu Japanの全員活躍を支える重要な要素となっています。

本記事では、dentsu Japan内で展開されている複数のERGの活動とその意義について、代表者や運営メンバー、そして経営陣の声を通じてご紹介します。

従業員一人一人の思いと自発的なアクションが、ERG誕生のきっかけに

dentsu Japanでは、従業員一人一人の多様な個性が掛け合わさることで、新しい可能性や価値が生まれると考えています。特に、DEIに関する課題の解決に向けて、従業員みずからが主体的にアクションを起こすボトムアップの力を、dentsu Japanならではのカルチャーとして大切にしています。

ERGもまた、DEI課題を感じている当事者や、その支援者の自発的なアクションを推進するカルチャーから誕生した組織です。現在は10個のERGが、ライフステージ、ジェンダー、心身の状態など、さまざまなテーマや課題に沿って活動しています。

dentsu Japanで活動しているERG

当事者の声がつながりと力になる。ERGが生み出す共感と支援の輪

ERGでは、座談会の運営や情報発信などによって、当事者が抱える課題を率直に共有しあえる環境が生まれています。こうした活動は心理的安全性を高めるだけでなく、参加者同士が新たな気づきや前向きな力を得る場にもなっています。今回はラベンダーカフェとCarers Hugの活動内容を紹介します。

■ラベンダーカフェ(がんサバイバーのERG)

がんサバイバー(経験者)が相互に悩みを相談したり、情報交換したりできる自助グループで、がんになっても安心して働けるようになることを目指して活動しています。対話イベントや部下ががんになったときの管理職の対応などについての研修開発なども行っています。


代表者:高田愛氏(電通/がんサバイバー当事者)
スポンサー:北風祐子氏(電通グループ グローバル・チーフ・サステナビリティ・オフィサー/がんサバイバー当事者)・鈴木宏美氏(電通 コーポレート執行役員)

左から代表の高田愛氏、スポンサーの北風祐子氏。北風氏もがんサバイバーであり、このERGを立ち上げた発足人の一人でもある

高田:ラベンダーカフェは、「がんサバイバー同士がカフェのように自由に雑談できる場所」として運営しています。何を話してもいいし、出入りも自由な参加しやすい場にするため、勤務時間外でカフェを開催しています。

雑談の中で、がんサバイバーになる前には感じたことのなかった生活上の不便について情報交換が行われることも。例えば、「リンパ浮腫※1を予防するための着圧タイツが高価なため、補助を受けられないか」、「傷跡が乾燥しているが、良いボディクリームはないか」といった話題です。

当事者になって初めて気づくアンメットニーズ※2を分かち合うことで、「自分だけの苦労ではなかった」と安心し、前向きな気持ちにつながる環境が形成できています。

※1 リンパ浮腫:本来リンパ管に回収されるべきリンパ液が、リンパ管に回収されずに皮膚の下にたまってむくんだ状態になること。がん患者の場合、がんの手術でその周辺にあるリンパ節を切除した場合や、放射線治療によりリンパ管を圧迫した場合などに起こりやすくなる。

※2 アンメットニーズ:まだ満たされていないニーズのこと。医療・製薬業界においては、現在の医療では十分に対応できていない患者のニーズを指してアンメットメディカルニーズとも呼ばれる。

北風:現在、当事者向けのカフェは年に5回、がんサバイバーのサポーター向けの集まりは年1回設けています。

このカフェで大事にしているのは、「あえて何かを生み出す場にしない」ということ。そのため、カフェの活動から施策を打ち出したり、社外と連携して活動をアピールするなど、成果を追い求めることは一切行いません。参加者が、その時の自分が思っていることを、ありのままの気持ちで話しても、温かく共感しあえる環境を維持することで、参加者の心理的安全性を確保しています。

自分の気持ちを安心して話せるラベンダーカフェがあることで、「次の開催まで元気に過ごそう」という生活のモチベーションにもつながっていると聞きます。中には、「この会社で、まだまだ頑張ろうと思えます」と話してくれる参加者もいらっしゃいます。

ラベンダーカフェの存在が参加者の日々の活力になるだけでなく、組織へのエンゲージメント向上にもつながっているのはうれしいですよね。

■Carers Hug:dJケアする人が支えあう会(働きながら介護・看護を行うビジネスケアラーのERG)

介護・看護としごとの両立を考える協議体として活動している通称「ケアハグ」。他社の人事・DEIメンバーとの意見交換もはじめて、活動の幅をさらに広げる予定です。


代表者:山中藤子氏(電通/ビジネスケアラー当事者)
運営メンバー:中司雄基氏(電通/ビジネスケアラー当事者)
スポンサー:鈴木禎久氏(dentsu Japan インテグレーテッド・ソリューション・プレジデント/ビジネスケアラー当事者)

左上から右回りに代表の山中藤子氏、スポンサーの鈴木禎久氏、運営メンバーの中司雄基氏。スポンサーである鈴木氏も、ビジネスケアラーの当事者

山中:Carers Hugの活動内容は主に2つです。

1つ目は「ランチタイムサロン」の運営。運営メンバーや外部講師によるセミナーを通じて、介護や看護に関する情報を発信しています。

2つ目は「介護・看護としごとの両立体験集」の作成。社内外のビジネスケアラーから介護・看護の体験談を集め、ストーリー仕立てに編集します。作成したストーリーは朗読形式で紹介し、今はまだ当事者でない方にも、将来に備えた心構えやヒントを共有しています。

また、運営メンバー同士の定例会も2週に1回開催し、今後の活動について意見交換を重ねています。

中司:ケアハグはもともと介護を意識したERGでしたが、ビジネスケアラーの立場から考えると、看護も対象に含めるべきだと自身の経験から強く感じました。

このテーマは簡単に解決できるものではありません。だからこそ、同じ立場の人と話し続けることで「自分はひとりじゃない」と思えることが大きな支えになると信じています。

このコミュニティがあること自体が心のセーフティネットになり、「昨日より今日、少しでも気持ちが楽になった」、あるいは「明日も頑張ってみよう」と小さな一歩を踏み出すきっかけをつくる場にしていきたいです。

経営陣とともに進化するERG。組織を動かすリアルな共感と支援

従業員の自発的な取り組みから生まれたERGには、2025年からdentsu Japanの経営陣もスポンサーとして加わり、活動をより力強く後押ししています。

スポンサーとして参画する経営陣の中には、同じ課題を経験した人もいれば、当事者ではないものの活動に共感して参加する人もいます。経営陣が現場の声に直接触れることで、dentsu Japan全体でDEIへの理解が深まり、制度や社内風土の進化にもつながっています。

■ラベンダーカフェ

高田:ラベンダーカフェには北風さんのほか、鈴木宏美さん(電通 コーポレート執行役員)もスポンサーとして参加しています。鈴木さんはがんサバイバーではありませんが、毎回最初から最後まで場に寄り添い、前向きなフィードバックをもらえるので、私たちの課題や思いにしっかり向き合ってくれていることが伝わり、とても心強く感じています。

北風:当事者の声を聴くことで初めて気づくこともたくさんあります。例えば、がんを罹患した部下への気遣いとして、上司は「体調も悪いだろうし、無理せず休んだほうがいいんじゃない?」という声掛けをしがちです。

実際には、がんになっても変わらず仕事を頑張りたいと思う方もいるのですが、こうした本音は当事者から直接聞かなければ分かりません。ERGの活動を通して、当事者と経営陣の架け橋になっていけたらと思っています。

■Carers Hug

山中: Carers Hug がERGとして活動できるようになり、スポンサーがついたことで、経営陣にビジネスケアラーの課題を直接伝えられるようになったと感じています。鈴木禎久さんは、私たちの課題感を深く理解したうえで参画しており、その存在が活動の大きな安心感につながっています。

鈴木:私自身も電通デジタルの社長時代に、ビジネスケアラーとして家族を支えていた経験があり、この活動にみずからの意思で参加しています。

ビジネスケアラーの働き方が未整備であることで生じる労働損失は、2030年には9.1兆円に達するという試算もあります※3。こうした社会的な課題がある中で、この活動を従業員の自発的な活動のみにとどめておくべきではないと強く感じています。経営陣も当事者かどうかに関わらず、介護や看護にまつわる課題に向き合い、制度の変革や社内風土の醸成に会社として積極的に取り組む必要があると改めて実感しています。

※3 出典:経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン

未来の「課題を抱えた仲間」のために。ERG活動の今後を語る

従業員のみの活動で完結するのではなく、dentsu Japanの経営アジェンダにも結び付いた活動に進化するERG。最後に、今回の登壇者に今後の展望を聞きました。

■ラベンダーカフェ

高田:ラベンダーカフェは、がんサバイバーが安心して集える場であり続けることを大切にしています。今後も活動の内容を変えず、継続していきたいです。そのためにも、自分自身も知識を深めながら、参加者にとってより良い場を提供できるよう努めていきます。

北風:高田さん同様に、将来的に組織体制や社会情勢などに大きな変化が起こった時も、変わらずに活動を続けられるよう、ラベンダーカフェを守り続けていきたいです。

■Carers Hug

山中:Carers Hugの活動は始まったばかり。今後取り組みたいアイデアがたくさんあります。これからもビジネスケアラー同士が前向きに課題を話し合い、学び合いながら、お互いを認め合える場にしていきたいです。

中司:今、私たちが向き合っている介護や看護の課題は、将来的に誰もが直面する可能性があります。次の誰かのためになるかもしれないという想いで、これからも活動をアップデートし続けていきたいと思います。

鈴木:ERGの活動を通して、dentsu Japan全体で「みんなで支え合う」という社内風土を根付かせ、制度を変革していくことが今後の展望ですね。その志を経営の課題として掲げ、スポンサーとしてこれからもERGの活動を後押ししていきます。

他ERGの紹介

■DEI女性ワーキンググループ(ジェンダー)

dentsu Japanにおける女性従業員の働きやすさ向上を目的に、実態調査、情報発信、経営層への提言などを行っています。


【スポンサーコメント】
dJには多くのERGがあります。

社員の皆さんが自ら手を挙げて多様性をチカラにつなげていこうとしてくれています。

ERGとして「女性ワーキング」という大きなテーマがあること自体、会社としての取り組みがまだまだ不十分なのだと受け止めています。

ワーキングのメンバーの皆さんと協力しながら、活動に関する発信や制度化などで貢献していきたいと思っています。

dJ チーフ・コーポレート・アフェアーズ・オフィサー 早田 眞

■dJ Pride Hub(LGBTQ+)

LGBTQ+をエンパワーする組織で、従業員のリテラシー向上とともに当事者がより働きやすい職場を目指して当事者とアライが活動。参加者は全国にまたがり、オンラインを基本とした情報交換やテーマ別の座談会、勉強会などを開催しています。


【スポンサーコメント】

10人に1人はLGBTQ+当事者といわれており、dJにも多くの当事者がいらっしゃいます。私が暮らした、アメリカ、インド、タイ、中国でも、LGBTQ+という社会的な課題についての環境はさまざまでしたが、まずは、対話や理解を深める、当事者の生きづらさに寄り添うことが大事だと感じています。
 

dJ BXプレジデント 豊田 祐一

■ユニカフェ(障害)

障害の種別も歩んできたキャリアもさまざまな当事者が集まり、リモートでの交流や、会社に向けた提言を行っています。ユニカフェの“ユニ”は、“1つ”という意味。唯一無二の個性がつながって、社内外に新しいムーブメントを起こすことを目指しています。


【スポンサーコメント】
私自身が少しだけ目の見え方が違うこともあり、わずかでもメンバーの皆さんの気持ちがわかるかもしれないと思い、今回ユニカフェのエグゼクティブスポンサーに立候補させていただきました。最初の顔合わせのミーティングで皆さんのポジティブな姿勢に感銘を受けたのと同時に、私の障害に対する認識の甘さを実感しました。このような私でも温かく迎えてくれたメンバーに感謝し、皆さんとの対話を通じ、ユニカフェがより良い憩いの場になれるよう貢献できればと思います。

dJ データ&テクノロジー プレジデント 松永 久

■Meet Dentsu-jin in English(多文化理解)

dentsu Japanで働く、日本語を母国語としない人が気軽に英語で情報交換・雑談ができる会を開催しています。英語で話す機会が欲しい日本人従業員も多く参加しており、グループ内外で困ったことをお互いに助け合うコミュニティにもなっています。


【スポンサーコメント】
自分の経験もふまえて申し上げますと、母語とは異なる環境で生活し仕事をするのは、想像以上に大変なものです。そんなときに心のよりどころになるのは、言語の壁をこえて、何でも相談し合える仲間。そんな仲間づくりに尽力されている方々や、母語ではない環境で奮闘している方々を応援できればと思っています。

dJ チーフ・ブランディング/カルチャー・オフィサー 吉羽 優子

■メンタルヘルスラボ(精神疾患)

「メンタル不調やそれに起因する働く上での制約があっても、自分らしさを活かして働ける」ことを目指すラボです。


【スポンサーコメント】
自分にはメンタルヘルス不調の経験があり、ラボの志に共鳴し、参加しました。ラボに参加して感じているのは、ありのままの自分、ときに弱い自分を受け入れてくれる場所があることは、会社にとって強さでもある、ということです。気軽に話せるメンタルヘルスカフェなど、様々な活動をしております。

dJ グロースオフィサー 並河 進

■d4gボランティア部(ボランティア)

ボランティアなど「Social Goodな活動」に興味がある従業員と、そうした活動を行っている従業員が出会える場を提供。社内への情報発信の他、リアル・オンラインにてイベントなども開催しています。


【スポンサーコメント】
私も、小学校の時から様々なボランティアをしてきたことと、スポンサーになる前から参加させていただいていたこともあり、とても自然な流れで立候補させていただきました。利他的なリーダーシップがある仲間が集っている、とてもOpenでFlatなコミュニティです。

dJ CDO 兼 ヘッド・オブ・サステナビリティ 口羽 敦子

■Twinkle Cafe(ベビーロス)

ベビーロス(流産、死産、新生児死など)を経験した従業員が気持ちを話せるコミュニティです。職場で孤立せず、一人ひとりが安心して働けることを目指します。


dentsu JapanのDEIに関する取り組みは以下をご覧ください。
https://www.japan.dentsu.com/jp/deandi/

【問い合わせ先】
dj-dei-office@dentsu.co.jp

※掲載されている情報は公開時のものです

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著者

飯沼 瑶子

飯沼 瑶子

株式会社 電通

営業局にてマスコミュニケーション、商品開発、PR施策のプロデュースを担当したのち、プランナーとして、幅広い業種のコミュニケーション戦略立案、PR戦略立案、商品ブランディングに従事。dentsu DEI innovations(旧 電通ダイバーシティラボ)の副代表として、ジェンダー・世代・障害・多文化など多様性にまつわるさまざまなテーマを取材、発信しているほか、社内外でのDEI推進にも携わる。

杉山 優

杉山 優

株式会社 電通

プロモーション領域のプランナーとして幅広い業種を担当。他、社内研修の開発や労働環境改革推進に携わり、2020年からdentsu Japan DEI推進プロジェクトチームに参画。現在は、DEIオフィスの一員として国内グループのDEI推進全般を担当し、社内外の研修プログラムやイベントの企画開発に携わる。

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