ヘルスケア・AIペルソナとの対話で発見する「感情」と「矛盾」

本連載の第2回では、電通ヘルスケアチームの「ウェルネス1万人調査」(調査概要はこちら)を活用し、健康意識や健康行動の視点からグルーピングした8タイプの生活者の特徴をご紹介しました。クラスター分析は、「自分はどのタイプか?」を想像できたり、「こういう人、いるよね」という身近な実感を戦略に昇華させるイメージがしやすいのではないかと思います。
連載第3回では、AIツールを活用してこのクラスター像をさらに具体化し、それぞれの健康価値観の違いを明らかにしていきます。
健康意識が高い層って、実はミーハー!?
電通には、独自の大規模生活者データをもとに想定顧客ペルソナをAIで再現し、調査を実施できるAIソリューションがあります。このAIソリューションに、「ウェルネス1万人調査」の結果、つまり最新の健康意識・行動に関するデータも追加で学ばせて、各クラスターの特性を再現した「ヘルスケア・AIペルソナ」を生成してみました。
今回は、8つのヘルスケア・クラスターのうち健康意識が最も高い「全方向アクティブトレンド層」と、健康意識が低めのクラスターの1つである「お疲れ健康後回し層」のAIペルソナX氏とY氏に、「健康に関する商品やサービス」についてチャットインタビューをした内容をご紹介します。

まず、二人それぞれに「体に良さそうな飲み物/食べ物を買う時、何を見て決めますか?」と聞いてみた回答がこちらです。

体への効果について、真逆の回答をしています。X氏(全方向アクティブトレンド層)は、成分と含有量を見て、自分でその商品の質を判断したい。商品側が発する効果表現に判断を左右されたくない意志が明確です。Y氏(お疲れ健康後回し層)は全く逆で、効果を分かりやすく伝えてほしいという意向です。いろいろ考えたくないから、もしくは分からないから、結論を先に教えてほしいという意見は、従来の定性調査でもよく聞きます。知識やモチベーションの高さの違いが商品選択時にどう表れるのか、端的に分かりやすい差が出ていると思います。
次に、「体に良い商品」を具体化して「完全栄養食のバー」だったらいつ食べるか、どんなメリットがあるか聞いてみました。タイミングについては、両者とも「昼食」と答えたのですが、昼食に食べることが本人にとってどんなメリットにつながるのか聞いてみると、それぞれで異なる返答が得られました。

X氏にとっては「可処分時間の創出」、Y氏にとっては「選択負荷の軽減」がベネフィットなんですね。完全栄養であることの機能価値を超えて、いわゆる真の提供価値は何か?の探索/仮説構築にも、AIペルソナはヒントをくれそうです。
ここまでの二者の回答の「差」は、健康意識の高低がストレートに具体化されていて、想像しやすいかもしれません。ところが、以下のような質問をしてみたところ、ちょっと意外な回答が返ってきました。

この質問をした私は、健康という観点から見ると、選択肢Bの方がより本質的な価値を表現していると考えていました。睡眠改善プログラムなんだから「睡眠の質」を約束するサービスの方が、王道でまっとう。健康リテラシーの高いX氏が選択肢Bを選ぶのではと想定していたのです。それに対して、健康効果という意味では本質的ではない「期間限定(選択肢A)」を対抗させた場合、希少性を選んでしまう人間の“さが”のようなものがどのクラスターで出るのか?を検証したかったのです。
ですが、意外にも、健康意識が最も高いX氏が希少性(選択肢A)を選択。理由を見ると、効果を自分で確かめたいという健康意識の高さはうかがえるものの、そういえば、このクラスターって「ミーハー」な部分もあったな、と思い出す結果となりました。全方向アクティブトレンド層は、ヘルステックといった最新の商品・サービスが好きです。それは健康意識の高さの表れともいえますが、実は一部の基本的で地道な健康意識・行動(ex. 日頃の食生活が健康には大事/朝食を食べるなど)は低めな傾向もある矛盾を抱えたクラスターなんです。トレンドが好きで、そういうライフスタイルの自分も好きという自己愛も垣間見える“人間くさい本音”も持ち合わせている特性がこの質問の答えに表れたように思います。
AIソリューションで、生活者理解は次のフェーズへ
3問目の回答は、健康意識/リテラシーが高いからといって、いつも健康視点で「正しい」「ロジカルな」選択をするとは限らない、ということの象徴のように思います。そんなの、人間の当然の消費心理だろうと思われるかもしれません。でも、健康領域の商品・サービスは特に「科学的に正しい」「この健康効果が必要」といった確固たる基準やファクトがあるがゆえに、真摯に向き合えば向き合うほど、「(健康に関わることでも)実はミーハー」のような生活者の本音が後回しになりがちなように思います。もちろん理知的な検討も大切にしつつ、理解してほしいことや行動してほしい理由を生活者に押し付けない、という姿勢を常に自分自身にリマインドすることが重要です。
AIの利活用が進み、ウェルネス1万人調査も単純な定量データにとどまらず、仮想のAIペルソナを生成することで、8つのヘルスケア・クラスターと実際に会話ができるソリューションに成長しました。長年、チームで試行錯誤して生み出してきたクラスターが、1人の人物として話し出すのは、とても不思議な感覚です。このソリューションを活用すると、定量調査としてのウェルネス1万人調査が持つ知見を前提に、さらに具体的な質問や仮説を重ねてクイックに戦略策定のヒントを探すことができます。AIも駆使しながらヘルスケアトレンドや生活者の本音をさらに掘り下げ、よりスピーディーに戦略に生かしていく。そうした取り組みを通じて、ヘルスケア市場の課題解決に貢献していきたいと考えています。
【調査概要】
〈「第19回ウェルネス1万人調査2025」概要〉
・実施時期:2025年6月
・調査手法:インターネット調査
・調査対象:全国20~70代の男女(10000サンプル)
・調査機関:電通マクロミルインサイト
※掲載されている情報は公開時のものです
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著者

瀧澤 菜穂
株式会社 電通
第6マーケティング局 マーケティングコンサルティング2部
プランナー/コンサルタント
メディカル・ヘルスケアの専門領域プランナー。食品・医薬品・化粧品やヘルステックサービスなどに関する事業/マーケティング戦略や、新規ビジネス開発のプランニング・コンサルティングを担当。

姜 婉清
株式会社 電通
第6マーケティング局 マーケティングコンサルティング2部
プランナー
中国出身。ソリューションプランナーとして、食品・医薬品・テーマパークを中心に、マーケティング戦略の立案に従事。OSAKA未来プレゼン大賞にて金賞受賞。



