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データドリブンなマーケティングでクライアントを支えるべく、新時代のモデル「Marketing For Growth」を掲げる電通。

これまでさまざまな形で「PR」に携わってきたメンバーが、統合プランニングやマーケティングに「PR発想」をプラスするためのバーチャル組織「PRUS(プラス)」を発足させました。本連載では、PRUSメンバーが、まだまだ誤解されがちなPRの本質と、それがなぜ今あらゆる企業活動に必要なのかをひもといていきます。

今回のゲストは、社会発想で事業成長をリードするコンサルティング会社「シナジア」の代表取締役・田上智子氏。同氏が審査員を務めたさまざまなPRアワードから見えるトレンドや、「PR発想の共創型マーケティング」に必要なことについて、電通 第6マーケティング局の武居泰男氏と姜婉清(きょう・えんせい)氏が話を聞きました。

PRUS
左から、武居泰男氏(電通 第6マーケティング局)、田上智子氏(シナジア代表取締役)、姜婉清氏(電通 第6マーケティング局)


「PR発想のマーケティング」では、「社会の中における自社」という視点を持つことが必要

武居:はじめに自己紹介をお願いします。

田上:私は、P&Gでのマーケティング/PR/広報領域で25年間勤務後、資生堂のチーフコーポレートコミュニケーションオフィサー(執行役員)などを経て、2024年9月に、社会発想で事業成長をリードするコンサルティング会社「シナジア」を創業しました。

姜:田上さんはさまざまなPRアワードの審査員も務めていますね。

田上:はい。日本パブリックリレーションズ協会が実施しているPRアワードに2019年から審査委員として加わり、昨年は審査委員長を務めました。他にも、2024年のカンヌライオンズPR部門の審査員、2026年3月開催のスパイクスアジアではPR部門の審査委員長なども務めています。

武居:田上さんは、長年、PRやマーケティング領域に携わってこられたわけですが、「PR発想のマーケティング」についてどのような考えをお持ちですか?

田上:「PR発想のマーケティング」とは、わかりやすく言うと、「マルチステークホルダー発想」、すなわち「社会の中における自社」という視点を持つことだと考えています。

マーケティングは、Who・What・How(誰に何をどのように売るか)を考えることが大事といわれますが、実はそれだけではありません。Who・What・Howを考える前に、社会の中で自社のブランドや事業はどこに位置するのかを決めること、すなわち「社会の中における自社」を持つことが必要です。商品を売る人と買う人を意識するだけでなく、それらの周辺にいて影響を与える人が「マルチステークホルダー」で、その人たちと共創しながら、大きな流れで生活者を動かし、最終的に商品やサービスを買っていただくのが、「PR発想のマーケティング」だと考えています。

田上智子
田上智子氏(シナジア代表取締役)



コミュニケーション施策の3つの観点

姜:ここからもう少し具体的にお話を伺います。田上さんは、PRアワードの審査員としてさまざまな施策を見る中で、どのようなことを感じていますか?

田上:一番強く感じるのは、「広告の補完としてPRを付け足す」という旧来の時代は完全に終わったということです。今の時代のコミュニケーションにおいて、PRは下流の施策、HOWの一つではありません。アイデアをゼロから着想する段階で、広告とPRを分かちがたい「一つの戦略」として設計する必要があります。単に情報を広めるのではなく、「社会とどのような関係を築きたいか」というPRの視点こそが、施策の核(コア)になければならないのです。

さらに言えば、最近の評価の高い施策は、単発の話題作りではなく、「多様なステークホルダーとのエンゲージメントをいかに掛け算で最大化できるか」という設計が非常に緻密です。消費者はもちろん、従業員、投資家、そして社会全体……。これらマルチステークホルダーの視点に立ち、それぞれの「大義」と重なる文脈を紡ぐことが不可欠になっています。ここでは、私がさまざまなPRアワードの審査に参加した経験をもとに、最近の施策の成功の型として、次の3つを紹介します。

事業会社が参考にできる観点


1 社会共感
顧客起点での課題解決を深化・拡張させ、社会的課題の解決へと展開する。社会課題を起点に逆算的に発想し、自社が解決可能な領域を見極めてアプローチする。

田上:例えば、2024年のカンヌライオンズで、クリエイティブ・マーケター・オブ・ザ・イヤーに選ばれたのはユニリーバでした。ユニリーバのスキンケアブランド「DOVE」が、世界で展開してきた「Real Beauty」キャンペーンは、2024年で20周年を迎えました。

DOVEは、「美」という概念の拡張を目指し、画一的な美しさではなく、生活者が日々の中で感じる「多様な美」を肯定することでブランドを成長させてきました。

20 years of Real Beauty
Real Beauty: How a soap brand created a global self-esteem movement
OGILVY UK, London / DOVE / UK

 

田上:コミュニケーションにおいては、Who・What・Howの手前の、Where to Play(どこで活動すべきか)や、Why(なぜ)を考えることが、PR視点の神髄です。この視点があるからこそ、DOVEは商品のポジショニングが巧みで、「誰に話しかけるのか」というターゲット設定においても、特定の層に絞らない、包括的で社会性の高い展開が可能になっているのだと私は解釈しています。

2 共創インパクト
生活者やビジネスステークホルダーを巻き込む共創型の施策や、すでに生活者の間で注目を集めている潮流を巧みに活用しながら、社会全体に話題を波及させ、インパクトを創出する。

田上:自社だけで解決するには大きすぎる社会課題もステークホルダーと手を取り合うことで解決の道筋が見え、結果として自社のブランド価値も高まります。2024年のカンヌライオンズで話題になった、仏ルノー社による「Cars to Work」は、共創インパクトの好例です。「Cars to Work」は、就職後の試用期間中は無料で車を提供し、試用期間終了後に購入契約をしてもらうという施策です。

Renault Group_cars to work
Renault - Cars to Work
Publicis Conseil, Paris / Renault / France

 

田上:現代のパリなどの都市部では、環境問題などから車の所有は必ずしも推奨されず、若年層の車離れも進んでいます。新車のCMを流せば売れるという時代は終わりました。こうした閉塞感の中で、メーカーは「Where to Play」の視点を切り替える必要があります

そこでルノーが目を向けたのが、フランス郊外に多くある「mobility deserts(公共交通砂漠)」と呼ばれる地域です。公共交通がないため車がなければ仕事に行けない。しかし仕事がなければローンが組めず車が持てない……という悪循環を断ち切るため、ルノーは、低所得者向けのローン会社と提携して「(試用期間中の)3カ月間は支払いが始まらない仕組み」を構築しました。

これは単なる販促ではなく、ローン会社を巻き込んで解決策を提示した新しいビジネスモデルです。「生活者の自立を支援し、将来的な自社の顧客へと育てる」という、社会貢献でありながら自社の長期的なビジネスにつなげている秀逸なプログラムだと思いました。

3 常識の転換
常識を覆す視点や独自の着眼点・手法を駆使して、新たな価値を生み出すアイデアを創出する。

田上:アクサ保険の「Three Words」は、2025年のカンヌライオンズを代表する作品の一つです。同社は、住宅保険の契約書に記された「火災」「洪水」に続き、「and domestic violence(それと、ドメスティックバイオレンス)」という3つの言葉(Three Words)を付け足しました。DV被害も家庭内のリスクと捉え、被害者に仮の住まいを無償提供し、心身ともにさまざまな支援を提供するというこの「Three Words」の施策は、ネーミングも秀逸です。フランスのHome Insurance(日本の火災保険に近い)の定義そのものをゆるがす、常識転換的なクリエイティビティだと感じました。

2.5M home insurance contracts updated all over France
AXA - Three Words
Publicis Conseil, Paris / AXA / France

 

田上:新しい常識を生み出しコミュニケーションしていくには、高度なクリエイティビティが必要です。これは事業会社だけでは難しく、クリエイティブ力のあるエージェンシーなどと一緒に作らないと生み出せないと思います。

「Three Words」キャンペーンの裏側には、AXAが10年にわたり地道に続けてきたDV被害者支援やDEIへの真摯(しんし)な取り組みがありました。この「歩み」を最も深く理解していたピュブリシス・コンセイユは、単なる宣伝担当ではなく、AXAの志を共に実現するパートナーとして、保険というビジネスを再定義する企画を打ち出しました。エージェンシーが契約書の文言変更という、企業の核心部分に踏み込む大胆な提案ができたのは、長年の伴走によって培われた揺るぎない信頼関係があったからだと伺いました。コンペによる一時的なつながりではなく、事業会社の変革に寄り添い、深い文脈を共有し続ける「変革のパートナーシップ」からこそ、時代を動かす「常識の転換」が生まれるのだと確信させてくれます。(※)

ここで紹介した3つの観点について、事業会社は、まず①と②を行い、それを大きくしていくためには、③のクリエイティビティが必要です。また、①~③の観点は、じつは全部つながっていて、①自社の課題への共感を生むコミュニケーションを行い、②課題を解決する時に、自社だけでなく、巻き込む仕組みを構築して拡大し、③最後に常識転換できるクリエイティビティで社会全体の行動変容を促すという流れができると思います。

※出典:https://www.canneslions.com/awards/jury/sarah-lemarie-374099
https://www.publicisgroupe.com/en/news/press-releases/publicis-groupe-wins-axa-s-advertising-creative-partnership
 

姜 婉清
姜婉清氏(電通 第6マーケティング局)



「共創への転換」に必要なのは、ポールスターを掲げた中長期視点

武居:従来のマーケティング手法から、共創への転換を図るためには、どのようなことに目を向ければよいのでしょうか?

田上:さまざまなアワードで評価される施策やコミュニケーションを見ていると、売り上げの数字だけでなく、例えば、社員のエンゲージメントが高まるといったことも含め、事業にとってプラスになる複数の成果を目指して設計・実施されていると感じます。

このような施策やコミュニケーションを実現するためには、中長期視点を持つことが必要です。私は、30年以上事業会社側で仕事をしてきて、2024年にコミュニケーションコンサルティング領域で創業しました。お仕事の話をいただいたときは、まずその企業のIR資料を確認します。この会社はどこに経営の課題を抱えているのか。IR資料には、企業が掲げる大きな理念と、中長期で何を目指してるかが書かれていて、それが具現化されたものとして新製品があるはずなので。

どうしたら新製品がバズるかだけではなく、その企業らしい新製品の社会での立ち位置を考えて、そこに共感を生んで、共創インパクトを見つけて、できれば常識転換できるクリエイティビティを考えていく。この流れで考えるとヒントはたくさんありそうです。

私はよく「ロジック」と「マジック」という言葉を使うのですが、事業会社はどうしてもロジックでモノを考えますが、社会を動かすのはマジック、つまりみんながそこにかかわりたいと気持ちが動くクリエイティビティだと思います。最近のアワードで評価される施策やコミュニケーションには、事業会社の仕組みや事業の変革のニーズに、クリエイティブ領域の方が何年にもわたって伴走し、取り組まれているケースがとても多い。事業会社にとってクリエイティブエージェンシーは、重要なパートナーだと思います。

武居:なるほど。とはいえ、共創する際には、社内だけでも、経営層、広報、法務、現場など、さまざまな部署があるわけで、何かを打ち出すと反対する人がいるかもしれません。

田上:とても難しい問題ですよね。私は、ポールスター(北極星)のような、みんながいつも共感できる、「こうなったらいいよね」と思える少し遠いゴールを設定することを心掛けています。

ボールスターがあると、今のこのままのプランだと難しいけど、どうしたらポールスターに一緒に近づけるかをみんなが考えられる。それは社内だけでなく、ステークホルダーも同じだと思います。

武居泰男
武居泰男氏(電通 第6マーケティング局)



広告と「PR発想の共創型マーケティング」

姜:「PR発想の共創型マーケティング」を企業が実装するために必要なことについて、広告とPRの視点からもう少しお話を伺わせてください。

田上:広告はダイレクトにメーカーやブランドがお客さまに話しかける手法なのに対して、PRは第三者が間に入る。それは、メディアであることもあれば、インフルエンサーやエンドユーザーであることもあるし、他のケースもあります。

メーカーが直接話しかけたら生活者がいいねって言ってくれるのであれば、その方が早くてシンプルだと思います。しかし、そういった従来の広告手法は信じてもらえない時代になってきていると、この20年を見て強く感じます。

ですから、どのようなステークホルダーが事業に共感して応援団になってくれると、世の中や生活者が動いてくれるのかを考える必要があります。そしてステークホルダーはメディアがメディアを呼ぶといったような多層になることもあります。

たとえば、わかりやすいメディア露出に関してよくいわれることですが、今の若者が新聞を読んでいなくても、新聞はテレビ番組のニュースソースになっているから、朝のニュースなどで取り上げられる。だから新聞に露出することが大事だと。誰が何を多層的に動かしていくか、世の中を広く見て設計することが大事かなと思います。

さまざまなステークホルダーを、組み合わせて考えるのがPRだと思います。そういう思想があることによって、広告という一つの矢印だけでなく、いろいろな矢印が作れて強みになります。

姜:広告コミュニケーションについてはどう考えていますか?

田上:広告のような一方向のコミュニケーションは徐々に影響力が弱まっているけど、やはりいちばん強いのは事実だと思います。いかにマスメディアやそこに出る広告とステークホルダーのエンゲージメントを掛け算して設計できるかが問われる時代です。

そのためには、広告を作る前にPRチームと一緒に考えたりインフルエンサーチームと一緒に考えたりすることで、一つのコアアイデアが、幅広く展開できます。さらに、先ほど申し上げた、商品の売り上げだけでなく、事業にとってプラスになる複数の成果を生み出すためには、マーケティング戦略を作るだけでは足りません。事業や経営の課題を解決する際にも、PR発想を持つチームが入り、上流から下流まで伴走することが大事です。

姜:とはいえ、そのようなことが実現できている企業は少ないと感じます。

田上:ビジネスモデルとして、「こういうCMを作って、これぐらいのGRPを確保して、店頭の配荷率が〇%なら売り上げはこれぐらい」といった方程式のようなものは、各企業が持っていると思うんです。その数字が事業の見積もりや、計画になっていく。

その一方で、「PR発想の共創型マーケティング」のモデルがまだない会社が多いと感じます。そうなると、計算できるものでまず予算を計上したい。だから、事業会社のマーケターも、CMがいちばんいいとか、PRはいらないとか思ってるわけではないけど、それが計算に入りにくいですよね。

ですから、「PR発想の共創型マーケティング」の成功モデルが出来上がってくると、マスマーケティングも企業もアップデートできていくのだろうと。ただ、一企業ではできないので、電通のような会社が必要だと思うのです。

武居:小さくてもいいから勝ちパターンを見つけて、それをやる、と。

田上:そうしていかないと、おそらくいつまでたってもメディアのGRPでモノが売れる妄想で計算することになると思います。ですが、それでは売り上げが上がらず、次の予算に繋がらない悪循環になってしまう。ですから、PRチームを事業分析といった段階から一緒に入れることが必要だと思います。

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著者

田上 智子

田上 智子

株式会社 シナジア

代表取締役

P&Gに新卒入社後、日本・シンガポールオフィスにてマーケティング/PR/広報領域で25年間勤務。資生堂のチーフコーポレートコミュニケーションオフィサー(執行役員)などを経て、2024年9月に社会発想で事業成長をリードするコンサルティング会社、シナジアを創業。電通PRコンサルティング社外取締役

武居 泰男

武居 泰男

株式会社 電通

第6マーケティング局 マーケティングコンサルティング2部

プランナー/プロデューサー

入社後、スポーツ・コンテンツなど大規模事業のマーケティング業務を経て、2017年よりプランナー。現在は、公益財団・スポーツメーカー・コンテンツ・ヘルスケア・不動産・サービス業など幅広い広告主のマーケティング業務を担当しながらも、PR発想を柔軟にプランニングに生かすプロジェクト「PRUS」のメンバーとしても活動中。

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