世界最大級のオーディオストリーミングサービス「Spotify」。その広告クリエイティブアワード「Spotify Hits 2025」(概要はこちら )では、電通グループ各社が担当した作品が、主要部門で受賞しました。
本記事では、社内ウェビナー「Spotify Hits受賞者と語りつくす、心を動かす“音”の戦略とプランニング」のトークセッションの内容をダイジェストでお伝えします。各受賞作品やショートリストに入った作品を紹介しながら、Spotifyで成功するクリエイティブ・広告の特長や、Spotifyのマーケティング価値、音声広告の可能性を探ります。
本ウェビナーは、「Spotify Hits 2025」の審査員を務めた嶋浩一郎氏(博報堂 執行役員)、佐藤雄介氏(電通 zero グループ クリエイティブ・ディレクター)、受賞作品を手掛けたクリエイティブ・ディレクターの山本渉氏(電通3CRプランニング局)をゲストに迎え、橋本昇平氏(Spotify Japan広告事業クリエイティブ戦略統括)の司会で進行しました。
プロモーションというよりも、ブランド体験を楽しんでもらいたい橋本:まず、Spotify Hits 2025を振り返ります。部門は、「Ear Candy(ベスト・イマーシブ・オーディオ・キャンペーン)」「Seized the Moment(ベスト・モーメント・キャンペーン)」「For the Fans(ベスト・オーディエンス・ストラテジー・キャンペーン)」「Mic Drop(グランプリ)」と、今年新たに新設された「Future Hitmakers(ベスト・イノベーティブ・アイディア)」の5つです。
橋本:Spotifyで広告を展開する大事なポイントとして、「Ear Candy」「Seized the Moment」「For the Fans」の3つがあり、これらのポイントをそれぞれ踏まえた作品が受賞しました。
嶋:Spotify Hitsは、昨年に続いて2回目の開催となります。この2年でSpotify広告は相当進化していると思います。「こんなやり方があるのか」といった新しい技法が次々出てきている。音声広告は、ラジオも含めて、ある程度「型」ができていると思っていましたが、まだいろいろとやりようがあると感じました。特に若いデジタルネイティブ世代のクリエイターが、Spotifyを使った音声広告でいろいろな実験をやっていて、頼もしかった。
橋本:では、それぞれの部門の受賞作品を紹介したいと思います。まず「Ear Candy」は、耳が喜ぶ没入感や、新しいテクニック・特殊効果を駆使したオーディオキャンペーンです。
橋本:この部門を受賞したのが、山本さんが担当した大塚製薬のポカリスエットの「サラウンドコマーシャル『円陣』&『円陣(部活)』」でした。
野球部員が試合前に円陣を組んで声を掛け合う様子を、リスナーがあたかも円陣の中央にいるような感覚で体験できる音声広告。
嶋:この広告は、臨場感がすごかった。デジタルの広告は、どちらかというと、商品購入など具体的なアクションを促すものや、商品を説明するものが多いです。ですが、今回、全体を通して感じたのは、商品を説明するだけでなく、ちゃんとブランドの世界を表現する広告が多く見られたことです。 Spotifyの広告はリスナーのさまざまなモードに訴えかけられるのが特徴的です。リラックスしていたり、スポーツなどに集中していたり。だから、認知にとどまらず商品理解を促すようなコミュニケーションができます。ポカリスエットの広告も、商品広告であると同時にブランドの世界観を伝えるメッセージがうまく構成されていました。
山本:ありがとうございます。プロモーションというよりもブランド体験を楽しんでもらおうという意識がありました。Spotifyユーザーは能動的にコンテンツを聴きに来ているので、こちらも「売らんかな(何がなんでも売ろう)」というよりは、「コンテンツ=みんなが楽しんでもらえるもの」を意識したところはあります。
具体的な状況を想像して広告を作る橋本:続いて、「Seized the Moment」です。こちらは、特定のモーメントを捉えたクリエイティブなアプローチでユーザーとエンゲージしたキャンペーンに贈られる賞です。今回は、サントリーの金麦の広告が受賞しました。
佐藤:Spotifyは、帰宅時間や移動時間に聴取率が上がる特徴があります。そこでサントリーは、「家に帰るまでが金麦」というテーマで、飲む瞬間だけではなく、そこに行き着くまでもブランド体験の中に入れようと、帰宅時間というモーメントをつかんでいました。
嶋:クリエイターは、「リスナーがどういう状況で聴いているか?」「何をしながら聴いているか?」と、具体的にイメージを浮かべながら広告を作っています。応募作品にはそういった視点を大事にして作られたものが多かったです。例えば、夜、リラックスして一人でウイスキーを飲んでいるとか、そういうイマジネーションを持つことがSpotifyの広告を作るときのポイントですよね。
山本:金麦の広告は仕事終わりの愚痴っぽい話が展開されているのですが、ネガティブにならずにいい解釈をしているのが面白く感じます。私もこの広告を聴いた後、ちょっと前向きな気分になれました。
嶋:生活音と一緒に「蛍の光」の音楽が流れているのが、心をきゅっとつかみますね。
橋本:帰宅時にドアを開けるガチャガチャという音を入れて、オンオフを切り替えているところもクリエイティブのポイントだったようです。
佐藤:この広告は、YouTubeなどにショート動画バージョンも展開されていますが、「蛍の光」の音楽が効いているので、音声だけでも帰宅シーンが想像できるのが良いですね。
楽曲も商品ブランドをつかさどる大事な要素橋本:次は、「For the Fans」です。音楽アーティストのファンダムにアプローチして、ファンが喜ぶような広告設計が評価されたのが、日本コカ・コーラの「い・ろ・は・す」です。この広告は、藤井風さんの書き下ろし曲を使っています。
橋本:テレビCMの動画素材をSpotify上に使ったり、「THIS IS 藤井風」という藤井風ファン向けのプレイリストにもスポンサードいただいたり、ファン向けの本当にあらゆる広告商品を使っていただきました。
佐藤:まさに藤井風という巨大な音楽ファンダムをアイデアの真ん中に持っていっています。藤井風のアーティスト活動の延長と、「い・ろ・は・す」というブランドの延長がうまく重なるところで世界観が作られています。
嶋:楽曲の世界観と商品の世界観が本当にマッチしていました。デジタル広告は、アテンションが大事にされるので、音楽で世界観をちゃんと伝えるようなCMが少なくなった感じがしていました。YouTubeなどは倍速で見てしまう人がいます。その点、Spotifyは通常の速度で聴く仕様になっていて、ユーザーもしっかり聴いてくれます。かつてCMソング全盛時代がありましたが、CMソングが復活する可能性を感じました。
橋本:そうですね。音を使ってブランドの個性を戦略的に表現する「Sonic Identity」が、最近言われていますが、楽曲もブランドをつかさどる大事な要素で、楽曲を活用するときに、Spotifyを検討いただいた事例だったと思います。
面白さがチャーミングに伝わる作品が、グランプリを受賞!橋本:全カテゴリーを通して一番良かった作品に授与されるグランプリ「Mic Drop」は、ヤマハの広告が受賞しました。
佐藤:この広告はミスしている演奏を流して、「ミスを愛そう」というメッセージを伝えています。広告のコンセプトと構成も含めてとても良いなと思いました。OOHや動画も展開していますが、この広告は音で聴くのが一番適していて、面白さがチャーミングに伝わる企画で、審査委員全員が評価しました。
嶋:アイデアが光っているし、チャーミングだし、本当に「あ、いい会社だな」と思わせているところが企業のブランディングとして成功していると思います。聴いていると、ここで演奏がひっかかっているというのがわかり、特にピアノの練習をしている人は強く共感できる作りになっています。わざとらしく間違えている感じではなく、「頑張って弾いているけど、ここ間違えちゃうんだよね」と思わせるあんばいが絶妙でしたね。
山本:広告を聴いてみると、ミスの前後は完璧な音楽が流れるので、ミスした部分がすごく目立つし、クスっと笑わせる計算も含めて素晴らしいと思います。
橋本:絶妙に外れている音程とかも、分かる分かるという感じですね。
音声広告はユーザーが想像するので、「引き算」の方が良い橋本:ここからは、Ear Candy受賞者の山本さんに、詳しく話を伺います。ポカリスエットの「円陣」ですが、制作の意図を教えていただけますか?
山本:そもそも、なぜSpotifyを選んだかというと、今回は高校生を中心とした若年層がターゲットだったからです。
嶋:ちょうど夏の高校スポーツが盛り上がるタイミングでしたね。まさに円陣の中で聴いているような音になっています。収録はすごく苦労されたと聞いていますが。
山本:そうですね。2回テスト収録をしてみたのですが、人数が多過ぎても少なくてもサラウンドに聞こえませんでした。マイクを囲むように円陣を組んでもらったのですが、距離が届きやすい人と届きにくい人がいて、声が届く人はマイクから遠くに配置するなどいろいろ工夫しました。コピーもなるべく短いものを、「ファイオー!ファイオー!ファイオー!」と回していった方が、声が真ん中で回っていたり。いろいろと試行錯誤しましたね。
嶋:現場で相当トライ&エラーを重ねたんですね。
山本:そうなんです。事前収録をしたときに、もっと声の差をつけないといけないなと感じました。本番では人員を変更したり、声質もなるべく変えるようにしたり。いろいろ工夫して、結構知見がたまったので、もしこのような広告にトライされる方がいたらお伝えします。
佐藤:構成的にも最初にバイノーラル(立体的な音響を再現する技術)で録音しましたというところから入るパターンですよね。だからみんな、どんな音なんだろう?と集中する。
橋本:実はグローバルで、Spotifyが出しているベストプラクティスやガイダンスの中では、最初の5秒以内にブランド名を言ったほうが、広告パフォーマンスが良いと言われていて、それにのっとっているというのもあります。
山本:ブランド名を絶対入れるというよりは、「これはサラウンドコマーシャルです」と言ったほうがより没入してもらえるだろうなと思ったので、割と自然に「ポカリスエットプレゼンツ」を入れられたという感じです。どうしてもブランド名を残すために冒頭に入れなきゃいけないという意図ではなかったです。当然1回入れるより2回入れたほうが残りは良いですけども。でも、トップにブランド名を言うと、その後の面白みが減るクリエイティブもあると思うので、その辺は臨機応変だと考えています。
嶋:状況を設定したら集中して聴いてくれるというところがあるので、ある意味、ネタを最初にばらしちゃっても、より集中力が高まる。そこの計算はありますよね。
山本:そうですね。体験自体をより深く楽しんでもらえれば、ブランドの好意度も上がるだろう、と。
佐藤:この広告はきちんとエンターテインメントになっているので、最初に設定を伝えていてもがっかりしないですね。
嶋:普段、広告を作っていると情報を入れ込んでしまいがちですが、音声広告はユーザーが想像するので、「引き算」の方が良いですね。想像させたもの勝ちというところはあります。このCMは情報のそぎ落とし方もすごくて、リスナーを集中させます。
Spotify広告は、エンターテインメントの中に流れるエンターテインメント橋本:最後に、「Future Hitmakers」を紹介します。30歳以下の方で、広告代理店に所属しているかどうかは問わず、本当にクリエイティブに関心があるクリエイター、未来の広告を作る人たちを募集しようという目的で、KDDI、味の素、ファミリーマートにブリーフを作っていただきました。
嶋:びっくりするぐらい応募数があったよね。
橋本:ここでは、KDDIの作品を紹介します。「UQモバイルがつなぐ、青春の瞬間」という、UQモバイルというキャリアをどのように若い人たちに使ってもらうか、さらに学生たちの青春にSpotifyを介してブランドとして何かできないか?というブリーフに対して、受賞したのが電通デジタルの「一生ものプレイリスト」という企画でした。
ブランドプレイリストとして、有名人の青春時代に 聞いていた曲をセレクト。※キャスティングは一例。
佐藤:「10代で出会った音楽が、キミを作る。」というコンセプトが強いと審査員が評価していました。10代の今聴いている音楽は一生聴くことになるというアイデアから、音声メディアや他のメディアでキャンペーンを作っていく企画です。
嶋:ギガを気にしないでいっぱい聴けるときに何を聴くんだろうと考えたときに、この世代の人たちが一番聴きたいみたいなものをちゃんと選んでいますよね。これは聴きたいプレイリストだなと。ギガを気にせず、プレイリストをたくさん聴けるというクライアントの言いたいことがしっかり伝わるし、Spotifyならではのプレイリストの機能が使われていて、みんながハッピーになる企画ですよね。
佐藤:Spotifyは、コンテンツの中で聴いているから、エンターテインメントの中に流れるエンターテインメントみたいになって、体験のクオリティがとても高くなるというか、クリエイティブ的に攻めたアイデアもより効果を発揮するのではないでしょうか?
嶋:Spotify Hitsの作品は、1年目から2年目の間にすごい進化が見られました。さらに1年たつと、新しい技術の使い方の発見がありそうです。Spotifyは、テクノロジー、AIなどの面白い使い方が試せる広告制作の場だと思います。弊社(博報堂)も頑張ります!
山本:Spotifyはまだまだ新しい手法やアイデアが出るメディアだと思います。今後もいろいろトライしていきたいですね。