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Dentsu Design TalkNo.107

長久允監督「ウィーアーリトルゾンビーズ」公開記念トーク~映画と広告は喧嘩もするし仲良くもする~

2019/06/21

海外の名だたる映画祭で受賞を重ねるなど、高評価を得ている青春音楽映画「ウィーアーリトルゾンビーズ」。その日本公開を記念して、監督・長久允氏と電通同期入社で盟友の佐藤雄介氏によるトークイベントを、6月3日、東京・汐留の電通ホールで開催しました。

※本トークイベントは映画の日本公開前の6月3日に開催されたものです。
 

二人はかつてヤングカンヌにペアで応募したり、ダブルプランナーでCMを制作したこともあるとか。好対照をなす二人のクリエーターが、広告の手法を使った映画制作の魅力や、映画やCMとの向き合い方について考えます。

※映画「ウィーアーリトルゾンビーズ」は、6月14日から全国の劇場で公開中!

<目次>
このテンポ感で最後まで!? 音のコンテがカギに
日常から生まれる「使命感」が創作の源泉
映画で、広告で、「物語」をつくりたい
 
※本記事はイベント「Dentsu Design Talk Vol.183 長久允監督作品『ウィーアーリトルゾンビーズ』上映&記念トーク 広告と映画は喧嘩もするし仲良くもする」の内容を再構成したものです。
 
電通 長久允氏、佐藤雄介氏
(左から)電通 長久允氏、佐藤雄介氏

このテンポ感で最後まで!? 音のコンテがカギに

長久:僕の長編デビュー作「ウィーアーリトルゾンビーズ」が、6月14日に公開されます。いろいろな読み方があると思いますが、佐藤くんから見てどうでしたか?

佐藤:実はこの映画を見るのは今日で3回目ですが、毎回感想が違うんですよね。初めて見たときは、岩井俊二さんの映画「スワロウテイル」のデジタルポップな現代版的な雰囲気がして、とにかく音楽が印象に残ったし、テンポ感が面白かったです。

そして3度目の今日は庵野秀明監督の「シン・ゴジラ」にも共通するところがあるなと感じました。どちらの作品も、とにかく細かなこだわりがすごい。

長久:ああ、よかった。庵野さんに例えられるのはうれしいものですね。今回の映画も、ディテールにこだわっていない部分がなくて、1カットも気を抜かないというルールでつくっていたので、スタッフは大変だったと思います。さらにウェブサイトやパンフレットの隅々に至るまでディレクションしています。

佐藤:「シン・ゴジラ」はとても好きな映画なのですが、「シン・ゴジラ」もセリフの分量が多くて、テンポとセリフと、それを切り取る画角の美学で出来上がっているんです。

長久:テンポには本当にこだわりました。王道的な映画のつくり方って、美術セットの中に役者さんが入って、台本に対してのリハーサルを行い、そこから演技に合わせてアングルを切って撮っていくんですが、僕はまずシナリオ全部のセリフを僕が読んで演技をしたものに、音楽の仮のイメージもはめて、2時間のコンテをつくるんです。広告でいうビデオコンテですが、カット割りも全部決めておく。

先にそれをつくっておくことで、自分がやりたい音のテンポ感やカットのイメージが、実際の現場でぶれないようにしています。ちなみに、先にカット割りを決めておくと、セットをフルでつくらなくてもいいというメリットもあります。「あ、ここの30度の画角だけあればいいです」とか(笑)。

佐藤:ああ、そういうつくり方なんですね。「シン・ゴジラ」のメーキングを見たんですが、「絶対これは2時間では収まらないだろう」という脚本量を、「いや、このテンポでやれば絶対入る!」と、先に2時間分の音だけのコンテを完成させたということでした。やっぱり、つくり方に共通するところがあるんですね。

長久:僕の脚本もやっぱり分厚くて、「いや、これは3時間の文量ですよ」と言われました。

佐藤:初めて見る人は、多分開始15分のテンポ感で「まさかこのまま2時間行くつもりじゃないだろうな」と思って、1時間弱くらいで「あ、こいつこのまま行く気だ」と気付く(笑)。で、途中であの歌が流れて、すごいカタルシスが1回ありますね。

長久:バンドものなのに、前半1時間はバンドを組まない。ちょっとじらし過ぎだけど、前半であの子たちの設定をしっかり描くというのが僕の中の軸だったので。

佐藤:ずっとあのテンポ感で進んできて、あの歌のシーンがすごく気持ちいいんですよ。長久くんは、ルーツが音楽っていうか、楽器できるでしょう。

長久:ずっとジャズバンドでサックスをやっていました。

佐藤:だから音のセンスがすごく生きているなと。そういえば昔一緒にブータンへ旅行に行ったときも、長久くんはブータンの謎の楽器を演奏して、現地の人とすぐ仲良くなっていて、すごくうらやましいというか、かっこいいなって思いましたね。

長久:ありがとうございます。僕は絵よりも音の方が、人の感情を左右するための良いスイッチだと思っていて。映画でも、音とディテールが与える印象が全てなんじゃないかというぐらいの感覚です。

佐藤:この映画は子どもたちが感情を失っているというテーマだから、演技的にはフラットだけど、音楽が楽しくなったり悲しくなったりするから、彼らの内面を音楽で表現しているのかなと思いながら見ていました。

長久:そうそう。感情の起伏があることを表現できればと思って、音楽をたくさん入れました。

日常から生まれる「使命感」が創作の源泉

電通・長久允氏

佐藤:長久くんの場合、映画はどこからつくるのでしょうか? 例えば今回なら、テーマからなのか、音楽ものをやりたいというところから入ったのか。

長久:この映画に取り掛かったのは、ロシアで始まったSNSを使ったゲーム「青い鯨」が、子どもたちを洗脳して自殺に追い込んでいるという事件を知ったことがきっかけです。2年ほど前にニュースで知り、すごくショックを受けたんですよ。

そこで、おこがましいのですが、絶望的な状況でもユーモアやニヒリスティックなまなざしを持つ子どもたちを描くことで、少しでも同じような状況の人たちの救いになったり、気持ちを楽にしたりすることができるのではないか、という使命感を持ったのが発端です。そこから1カ月かけて一気にシナリオを書き上げました。

佐藤: 前作の「そうして私たちはプールに金魚を、」もそうだったよね。何か現実の事象があって、それに対する使命感からシナリオを書き始めると。

長久:あのときも勝手な使命感で、勝手に代弁しなくちゃいけないという気持ちに駆られて書き上げた。ただ、物語の書き方としては自分自身の経験とか、感情を削り出してつくるやり方しかできないんですよ。今回のヒカリくんなんて、僕の幼少期そのままですから。他の映画監督はどうやってシナリオを書いているんだろう?

佐藤:そういえば日本映画って、オリジナルシナリオの作品って少ない気がします。そんなことはないのかな。

長久:原作のないオリジナルシナリオだと、どうしてもビジネスとして成立しづらいのはありますね。しかもこの映画のようにタレント的知名度の低い子たちが主演だと、出資者側は不安だったと思います。でも今回はその不安を解消できるようなプロモーションを設計することで説得できたので、広告の仕事が生かされています。

佐藤:そうか、長久くんはいま、映画のプロモーション設計もやっているんですね。架空のバンドの広告を実際に打っていたのが面白いと思いました。

長久:そうそう。劇中のミュージックビデオ部分を切り出してYouTubeで公開したら、普通に「この歌下手じゃね」みたいな議論が生まれていて(笑)。バンドはソニー・ミュージックから実際にデビューして、主題曲は各種ストリーミングサービスでも配信されています。あとはノベライズもあって、映画では語りきれなかったことを書きました。

佐藤:その辺のしかけ方はクリエーティブ・ディレクター的だよね。

長久:映画自体は13歳の自分を降臨させながらつくり、制作後は広告のプロとして「売りづらい映画だな~!」と思いながらなんとかする。同一の人間がそこまで携われると、方向性がぶれることがないんです。

佐藤:キャスティングでいうとメインの4人は「知る人ぞ知る」というメンバーで、大人のキャストはすごく豪華というか、通好みですよね。どういう意図を持ってキャスティングしたの?

長久:僕は好きな演技の幅が狭いのもあって、妥協なく、本当にやってほしい人にお願いしています。シナリオを書いた時点で、自分の中でベストの配役をして、潤沢な予算はないけど、もし気に入ってくださったら出てくださいというお願いの仕方をしました。もともと面識があったのはCHAIぐらいです。それでなんか、僕がこういう見た目なのもあって、「広告の人がノリでつくった映画なんでしょ」みたいな…。

佐藤:ああ、そういう1枚フィルターが入っちゃってるんだね。

長久:だからそういうフィルターが何もない海外の映画祭、サンダンスやベルリンで、映画単体として評価してもらえたのがすごくうれしかったですね。

映画で、広告で、「物語」をつくりたい

電通・佐藤雄介氏

佐藤:さっき、広告の経験が映画のプロモーションに生かせているという話がありましたが、映画づくりで生かせていると思うところはありますか?

長久:ありますよ!僕は総合小売大手の店頭ビデオを10年ほど、年間100本はつくっていました。店頭ビデオって、興味のない人たちを立ち止まらせて映像を見てもらわないといけないから、超アゲンストな状況で、過酷なんですよ。

その経験によって過多な情報を整理する技術、音で注意を引く方法、このテンポ感で常に新鮮なことをすることなどが体に染みついたので、店頭ビデオをつくっていてよかったなと心から思っています。

佐藤:長久くんが学生時代につくった映画も見ていたけど、確かに今はすごくつくり手として変わったなとは思います。興味のない人を立ち止まらせる見せ方ができるようになっている。長久くんは本当にたくさんCMをつくっているイメージでしたね。そこが僕とは違う。僕はどちらかというと一球入魂タイプだったから。

あとヤングカンヌのときに思ったけど、やっぱり長久くんは映像を編集したり、ディテールを突き詰めるときに生き生きしていたよね。CMプランニングは僕の方が向いていると思ったけど、長久くんはディテールをつくり込むのが向いていた。それでだんだん道が分かれていったよね。

長久:僕は広告には向いていなかったのかもしれない。佐藤くんは広告をつくるとき、何を思ってつくっていますか? 僕は、佐藤くんはトーンコントロールがすごくうまいと思っていて。

佐藤:僕は、その商品やブランドのシズルってどんなものだろう、という後味を考えてつくっています。その商品が、今の時代にどういう雰囲気をまとっていればいいんだろう?ということを徹底的に考えてからつくるから、それがトーンコントロールになっているのかな。

長久:なるほど…。僕が広告の企画をやると、どうしても商品の説明になっちゃう。商品について伝えたいことがあるのに、自分がやりたい物語にするのは違うんじゃないかと真面目に考えてしまって。その点、佐藤くんの作品にはエンターテインメントがあって、興味のない人でも楽しめる「遊園地」を提供している感じがします。

佐藤:自分が学生時代に好きだったのは、そういうものだからね。僕も10年くらい前は、CM1本で物語をつくるのは難しいなと感じていました。当時はCMプランナーとして、クリエーティブ・ディレクターってなんだ?って思っていたけど、今はその面白さが分かってきました。

広告表現をCM一つで全部やろうとすると難しいことが、途中で僕にも分かったんです。でもクリエーティブ・ディレクターとして、例えばウェブやイベントも含めた設計をするようになると、CMだけで全部解決しなくてもよくなった。その結果、窮屈さがなくなって、CMをつくる土地からしっかりつくれているのかなと思います。

長久:分かります。ただ僕はやっぱり映像が好きだから、映像作家として物語をつくりたいと思っていて。それで広告制作に壁を感じてしまったときに、有給休暇を取って、個人的に「そうして私たちはプールに金魚を、」を撮りました。

佐藤:長久くんは昔からずっと映画をつくりたいって言っていたもんね。長久くんの結婚式で、学生時代に撮った映画を配っていたよね。物語を伝えたいと思ったら、確かに広告よりも尺が長い映画の方がいい気はする。

長久:そうそう。それに、僕はダメだと思っている人や諦めている人を肯定したい気持ちがあるのですが、そういうネガティブなアプローチの登場人物はあまり広告に登場できないでしょう。そういうものを肯定することに、人生の使命感を感じてしまったんです。

佐藤:なるほど、結構珍しいタイプだよね。

長久:でも、職業として広告をやっている人ならではの発想とか、コンテンツをつくっていく技術ってやっぱりあって、その点で僕は不器用なので、僕よりうまい人はいっぱいいると思います。

もし社内で映画に興味のある人は声をかけてもらったら、映画の成立のさせ方を一緒に考えられるかなと。例えば、佐藤くんが映画をやったら面白いとか思ったりして。本日はありがとうございました!

映画「ウィーアーリトルゾンビーズ」公式サイト
https://littlezombies.jp/