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世界の新しい常識「シンギュラリティー」とは?(後編)

Dentsu Design TalkNo.110

2017/12/16

世界の新しい常識「シンギュラリティー」とは?(後編)

シンギュラリティーとは「技術的特異点」のことを指します。人工知能が人間を超えることがセンセーショナルに注目されていますが、実はそれは一つの要素にすぎません。その本質は、世界を変える破壊的イノベーションを引き起こす「エクスポネンシャル・シンキング」(指数関数的な思考)です。この考え方がシリコンバレーを中心に支持を獲得することで、膨大な投資と優秀な頭脳が掛け合わされ、グローバルな規模で変革を起こす原動力になっています。早くから、この動向をキャッチしていた電通ライブの日塔史氏の呼び掛けで、日本中からトップクラスの「シンギュラリティー論者」が結集しました。日本企業がグローバルに羽ばたくための方策を、徹底的に議論します。

シンギュラリティー集合写真01
(左から) Exponential Japan共同代表 斎藤和紀氏 、 Exponential Japan代表 ジョバン・レボレド氏 、 駒澤大学  准教授 井上智洋氏 、 神戸大学 名誉教授 松田卓也氏 、 電通ライブ 日塔 史氏

VRが進化すれば、リアルを渇望する気持ちも消える?

日塔:われわれ広告業界の仕事は「人間の欲望をつくること」です。例えば、十数年前に「オタク市場」が生まれたように、シンギュラリティーが起きると、人間の欲望の在り方も本能レベルで変わっていく可能性があります。

井上:特にバーチャルリアリティー市場は、それこそ指数関数的に伸びていくでしょう。しかしロボットによって、今以上に大量生産が可能になっても、人々がそれを消費するかどうかは分かりません。ベーシックインカムでお金が行き渡れば別かも知れませんが。

その一方で企業は、潜在的な需要を発掘する努力をしなければいけません。まさに、それは電通の役割で「需要がないなら、つくればいい」という考え方です。

ただし、バーチャルリアリティーの中で欲望を安価に充足できるようになれば、他の産業を全て壊滅してしまう可能性があります。例えば、映画館やテーマパークと全く同じ体験がバーチャル空間で実現すれば、わざわざ出向く必要がなくなります。

バーチャルリアリティーは、そういう恐ろしさも持っています。人間が一生バーチャルリアリティーの世界に引きこもっていいものかどうか、これが人類最後の“リアル”な議論になるかもしれません。

日塔:一方で、リアルを渇望する気持ちも、出てきていますよね。例えば、音楽はデジタル空間が到来することで、お金を払わなくても聴けるようになりました。しかしその一方で、リアルなライブ空間で、アーティストを身体的に感じたいといった欲求も高まっています。

井上:それは、今が過渡期だからでしょう。いずれバーチャルとリアルが区別できないレベルにまで進化します。それが、バーチャルリアリティーの究極の姿だと思います。

松田:その通りです。個人的な展望ですが、おそらく2045年に人間は死ななくなります。しかしそれは、何も起きなければ「死なない」という意味で、外を歩いていて車にひかれれば、死ぬかもしれません。だから、危険を避けるために「1億総引きこもり」の時代になると思っています。

近い将来、人工知能の装置を頭に取り付けたり、脳にさし込んだりすると、視覚も聴覚も、そして触覚さえもシミュレートできるようになります。幸福感はニューロンの感じる電気信号ですから、脳に刺激を与えれば幸福を感じるようになります。

そういう世界の職業は、バーチャル空間内のモノをつくる仕事です。例えば、「バーチャル空間設計士」が生まれるかもしれません。

日本はシンギュラリティーで世界をリードできるか

日塔:シンギュラリティー大学では、未来をどのように描いていますか。

ジョバン:人工知能やロボットによって人間の職業が奪われてしまうため、シンギュラリティーは怖いというイメージが先行しています。しかし、国や政府が有効に活用していくという側面もあります。

例えば、病気を予防する「AIセンター」が生まれるかもしれません。怖いことばかりではない、と伝えたいですね。

斎藤:シリコンバレーにあるシンギュラリティー大学は、人工知能だけでなく、エクスポネンシャル・テクノロジーズといわれる約20個のテクノロジーによる相乗効果によって社会変革が起きると主張しています。

残念に思うのは、今後、垂直成長することが分かっているバーチャルリアリティーやドローン、3Dプリンター業界で、日本企業の名前をあまり聞かないことです。この状況を打開するためには、何が必要なのでしょうか。

井上:世界の主要国の中で、大人の知的好奇心のレベルを調査したら、日本は韓国と並んでビリの方でした。国語の読解力や計算能力は世界トップクラスなのに、ITスキルはかなり低い。20~30年間ごとに産業革命が起こるような時代にあって、大人の知的好奇心のレベルが低いことは、かなり不利だと思います。

特に、文系の人たちの科学技術に対する知的好奇心は、ほとんどありません。これは本当に困ったことです。理系の人たちだけがテクノロジーを使うだけでは、ビジネスは成り立ちません。文系の人にも、科学技術に対して興味を持ってもらう必要があります。

さらに、もう1点。デフレによる失われた20年間のせいか、日本人にはベンチャースピリットがほとんどありません。こうしたいくつかの要因によって、新しいビジネスが立ち上がりづらい状況が生まれていると思います。

松田:従来の人生モデルは、20年間勉強をした後に40年間仕事でした。しかし、ものすごいスピードでイノベーションが起きている今、大学で学んだことは10年先、20年先には全く通用しなくなります。では、どうすればいいのか。

ハラリ氏は「勉強につぐ勉強。一生勉強だ」と言っています。つまり、常にマインドセットを変えなければいけません。

僕は現在74歳ですが、70歳から人工知能や機械学習の研究を始めました。僕の昔の専門は宇宙物理学でしたが、今はそれを一切やめて新しい研究に取り組んでいます。

学生からは、こう言われるんです。「先生は宇宙物理の分野で、そこそこいい成果を出しているのに、なぜ今さら他のことに取り組むのですか」と。

その理由は、「新しいことは面白いから」です。そこで逆に「なぜ君は新しいことに挑戦しないのだ」と聞くのです。「そんなマインドセットでは、日本は滅びるよ」と。

ジョバン:すばらしい!私は外国人という立場で見ていて、日本のイノベーションは本当に進んでいると思います。

しかし、残念でならないのは、それが日本国内だけのもので、グローバルではないということです。もっと外に出れば、日本はもっとすごいビジネスを展開できます。

日塔:そういう刺激的な場をつくりたいと思ったことが、このパネルディスカッションの発端です。人間の能力も指数関数的に上がっていける人たちと、そうでない人たちに二極化していくと考えると、すごく怖いです。

シンギュラリティー集合写真02

知能が二極化していく可能性

松田:井上さんは経済的二極化が起こるのでベーシックインカムが必要だとおっしゃっているけれど、ハラリ氏は「将来は『知能』が二極分化する」と言っています。

つまり、金持ちは頭に人工知能を接続して超知能になれる。普通の人間の知能指数を100だとすると1000にすることができるわけです。そうなった時に何が起きるのか。

例えば、ビル・ゲイツ氏のようなお金持ちと、そうでない普通の人がいるとします。今は、たとえゲイツ氏が何兆円もの資産を持っていたとしても、普通の人の100万倍長生きするわけではありません。100万倍健康でも、100万倍幸せでもない。

ところが、将来それが変わるのです。金持ちは100万倍長生きし、100万倍賢くなるわけです。そうなると、ただの経済格差ではなく、知能の格差が発生することになる。こんな状況は、耐えられません。

そこで僕の提案です。政府が、国民で希望する者には、子どもが産まれた時に予防注射のように脳にベーシックインテリジェンスを埋め込むのです。

ジョバン:面白いですね。ベーシックインテリジェンスは、素晴らしいビジネスになると思います。

斎藤:松田先生は、シンギュラリティーが来ると確信しておられますが、人工知能の研究者の中には「シンギュラリティーは来ない」と主張する人が意外と多いですよね。

松田:最近も話題になりましたが、日本の著名な研究者が「汎用人工知能は禁止すべきだ」とおっしゃった。僕に言わせると、その先生は勉強不足です。

前半に紹介しましたが、人工知能には「特化型」と「汎用型」、そして意識を持つ人工知能と意識を持たない人工知能がある。人々が恐れる「人を支配するようなAI」は、意識を持った強い「汎用型人工知能」です。僕は意識を持たない弱い汎用型人工知能でも、シンギュラリティーを起こせると考えます。

それに、日本が「汎用型人工知能」を禁止しても、アメリカや中国をはじめ、日本以外の国が取り組むでしょう。

斎藤:シンギュラリティーの到来が、問題の本質ではないのです。科学技術がものすごいスピードで進化していることは間違いないのですから、一見すると実現不可能なアイデアでも、挑戦していけば面白いことが起きるかもしれません。

ジョバン:シンギュラリティーのテクノロジーを使えば、今は解決が難しいような問題を解決できるようになります。そういう側面を、もっと見てほしいなと思います。

<了>
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