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世界の新しい常識「シンギュラリティー」とは?(前編)

Dentsu Design Talk №112

  • 井上 智洋
  • 斎藤 和紀
  • ジョバン レボレド
  • 松田 卓也
  • 日塔 史

2017/12/15

世界の新しい常識「シンギュラリティー」とは?(前編)

シンギュラリティーとは「技術的特異点」のことを指します。人工知能が人間を超えることがセンセーショナルに注目されていますが、実はそれは一つの要素にすぎません。その本質は、世界を変える破壊的イノベーションを引き起こす「エクスポネンシャル・シンキング」(指数関数的な思考)です。この考え方がシリコンバレーを中心に支持を獲得することで、膨大な投資と優秀な頭脳が掛け合わされ、グローバルな規模で変革を起こす原動力になっています。早くから、この動向をキャッチしていた電通ライブの日塔史氏の呼び掛けで、日本中からトップクラスの「シンギュラリティー論者」が結集しました。日本企業がグローバルに羽ばたくための方策を徹底的に議論します。

無視できなくなってきた「シンギュラリティー」

日塔:「シンギュラリティー」と言うと、多くの人がレイ・カーツワイル氏によって2005年に出版された『シンギュラリティは近い』(NHK出版)を思い浮かべるでしょう。この本は、「人間は死ななくなる」「宇宙が意思を持つようになる」など、衝撃的な内容で私自身は“ドン引き”してしまいました。

ところが、NASAの敷地内にシンギュラリティー大学が開設され、TEDでシンギュラリティーをテーマにするプレゼンテーションが行われ、Xプライズ財団とシンギュラリティー大学が企業向けプログラムを提供するなど、一歩引いて眺めている場合ではない、という意識が芽生えてきました。

16年には、全日空がXプライズ財団とパートナー契約を締結し、国際賞金レースを開催するなど、日本企業も動き始めています。われわれもシンギュラリティーの指数関数的思考を学び、日本企業が世界に羽ばたくお手伝いをしたい。それが今回の趣旨です。

日塔史氏
電通ライブ 日塔 史氏

まずは、「シンギュラリティサロン」を主催する神戸大学 名誉教授 松田卓也先生からお話をいただきます。

優秀な頭脳の争奪戦がすでに始まっている

松田:世界的ベストセラー『サピエンス全史』(河出書房新社)の著者で、イスラエルの歴史家であるユヴァル・ノア・ハラリ氏によれば、シンギュラリティー革命によって人は死ななくなり、超知能と融合した「神=ホモデウス」になるそうです。そして世界は「ヒューマニズム=人間中心主義」から「データイズム=アルゴリズム」へと移行します。

現実的なことを言えば、人間が「ホモデウス」になるためには大金が必要である可能性があります。もしそうなら金持ちやエリートしか「ホモデウス」になれないわけです。そして、これまで国家が必要としてきた労働者や兵士は、すべてロボットに取って代わられます。これが最近、よく言われる「技術的失業」です。

松田卓也氏
神戸大学 名誉教授 松田卓也氏

ホモデウスになれない多くの人は、政治的・経済的にまったく不要な階級となる。そして支配階級は、こうした人民を扶養しなければいけなくなる。ハラリ氏は、そう言っています。

人工知能は「強い人工知能」と「弱い人工知能」、「特化型人工知能」と「汎用型人工知能」に分類できます。人々が危惧するのは、ハリウッド映画「ターミネーター」のように、意識を持つ「強い人工知能」が人間を支配する世界です。

一方で「弱い人工知能」とは、性能が低いという意味ではなく、意識を持たない人工知能のことを指します。私が強調したいのは、意識を持たない「弱い人工知能」によるシンギュラリティーでも、世界は変わるということです。

「特化型人工知能」は、アルファ碁のように特定の目的のための人工知能です。現状では、全ての人工知能がこれに当たります。「汎用型人工知能」は、人間のようになめらかな動きで、基本的に何でもできる人工知能です。しかし、この実現は極めて難しい。「汎用型人工知能」をつくるには、人間の大脳新皮質をまねたマスターアルゴリズムを解明しなければなりません。そして、これを独占できた国家は、政治・経済・軍事の世界覇権を握ります。覇権企業の株価は、100兆円を下らないでしょう。

その実現のために、必要なのは「優秀な頭脳」です。実際、グーグルが500億円かけてディープマインドのデミス・ハサビス氏という天才を雇ったり、有望な会社に世界的大企業が投資したりする動きが続々と出ています。私はこれを「頭脳資本主義」と言いたい。優秀な頭脳の争奪戦は、すでに始まっているのです。

日塔:続いては、駒澤大学 経済学部 准教授 井上智洋先生から経済や未来の観点からお話をいただきます。

人工知能で「技術的失業」が発生する

井上:人工知能が経済にどのような影響を与えるかを考えるとき、松田先生が紹介した分類に加えて、「情報空間」と「実空間」に分けて考えるといいでしょう。

「情報空間」とは、単に情報や記号を処理する世界です。「実空間」は自動運転車やドローンなどのように、人工知能を組み込んだ賢い「スマートマシン」が、実際に物を運んだり、物体を操作したりするような世界です。

「汎用型人工知能」を実現させる上で、一番の壁は人工知能による言葉の意味理解ですが、2025年には実現すると言われています。その結果、「技術的失業」が生まれます。これまでも新しい技術の登場のたびに「技術的失業」は発生してきましたが、その時は人間に優位性のある他の職業に就くことで解決していました。

井上智洋氏
駒澤大学 経済学部 准教授 井上智洋氏

ところが、「汎用型人工知能」は、ほとんど全ての職業を奪ってしまう可能性を持つのです。その結果、松田先生が指摘された「不要階級」が生まれてしまう可能性がある。その人たちが生きていくためには、ベーシックインカムのような制度が必要になるでしょう。

一方で、簡単には消滅しない仕事もあります。それは、クリエーティビティー、マネジメント、ホスピタリティー関連の仕事です。ほんの一部の人たちが、こうした仕事にありつけます。

こうした現象が、第4次産業革命と地続きで発生すると考えています。2030年に「特化型人工知能」から「汎用型人工知能」の時代に入ると、資本主義の構造は大きく変化します。私は現在の資本主義を「機械化経済」、これから始まる新しい資本主義を「純粋機械化経済」と呼んでいます。

「機械化経済」の数理モデルの分析結果によれば、どんな国もいずれは2%前後の経済成長率に落ち着きます。典型的な例がアメリカで、この20年間の実質経済成長率は2%です。現在、中国やインドは高い経済成長率ですが、将来的には落ち着いていきます。

一方で、「純粋機械化経済」の理数モデルによると、たとえ技術進歩率が一定だったとしても、成長率は年々伸びていくという結果になりました。つまり第4次産業革命で人工知能を味方に付けた国や企業は上昇路線に乗り、そうでない国や企業は停滞路線に陥るわけです。私はこれを「第2の大分岐」と名付けました。ちなみに、最初の大分岐は第1次産業革命です。

「第2の大分岐」で、日本は逆転できるのか。私はそんなに甘くないと思っています。その理由は、IT化が進んでいない企業が多いためです。例えば、未来の自動車は人工知能でコントロールされます。そこでは車載OS(基本ソフトウエア)を制した企業が、自動車産業を制覇します。パソコン業界を制覇しているのは、ウィンドウズというOSを制作しているマイクロソフトで、入れ物をつくるメーカーはあまりもうかっていません。今後、ハードウェア(もの)を組み立てることはますます付加価値がなくなっていき、研究開発、設計・デザイン、マーケティング、ブランディングに価値が生まれるようになるでしょう。こうした営みに必要なのは、優れた頭脳や発想力です。

では、日本の頭脳はどうか。エンジニアリング分野の論文数の推移を見ると、アメリカをはじめとする先進国や中国は順調に伸長しているのに対して、日本はじりじりと減少しています。日本の科学技術は衰えていて、20~30年後にはノーベル賞受賞者を輩出できなくなると言われているほどです。この状況に歯止めをかけ、人工知能をはじめとする科学技術力を高めていかないと、日本は没落してしまいます。

日塔:次は斎藤さんから、ビジネスや組織とシンギュラリティーについてお話しいただきます。

指数関数的な成長を実現する企業の条件とは

斎藤:シンギュラリティーによって、科学技術の進化は「エクスポネンシャル」(指数関数的)なカーブになります。最初は、何も起きていないかのような「潜行の時代」がしばらく続き、そしてある時、「ディストラクション」(破壊)が起こり、それまでの技術は無力化し、ビジネスの収益性も失われます。最終的には、従来のモノは存在すらしなくなり、その一方で新しい技術も大衆化していきます。

例えば、デジタルカメラはある瞬間、爆発的に普及して、フィルム業界はことごとく破壊されてしまいました。デジタルカメラが大衆化すると、今度はカメラ機能を持ったスマートフォンが爆発的に普及して、デジタルカメラを破壊しようとしています。

斎藤和紀氏
Exponential Japan共同代表 斎藤和紀氏

ドローンやVR、ARも、今は玩具のように扱われていますが、ディストラクションポイントを超えると爆発的に普及して、さまざまな分野で既存技術の破壊を引き起こすでしょう。

産業革命が起こるスピードは加速しています。第1次の機械化から、第2次までは200年かかりましたが、第3次までは100年、そして第4次がわずか30~40年で起ころうとしています。これ以降は、どんどんスピードアップしていくと考えられています。

ビジネスの世界も同様に、新陳代謝が活発になり、企業の成長スピードも速くなっていきます。アメリカではFacebookやGoogleなど、21世紀に創業した企業が猛スピードで成長しています。しかし日本企業は、多くの企業が20世紀型の考え方です。

今後は先を見越して、彼らよりも早いスピードで動く必要があります。技術を集積するうえで非常に重要になるのが「Xプライズ財団」の考え方です。Xプライズ財団はインドのアサリ家が立ち上げて、さまざまな分野のコンペティションを開催することで、技術を結集させて、民間初の大気圏外の弾道宇宙飛行を成功させています。

日塔さんが冒頭で紹介したように、全日空がXプライズ財団とアバターに関するコンペティションを開催しています。ロボットを遠隔操作して手術を行うコンテストでは、世界中からたくさんの技術が集まりました。アバターの技術が完成したあかつきには、全日空の旅客機ビジネスは破壊されるかもしれません。しかし、まさに全日空はその未来を見越してXプライズ財団と提携したわけです。全日空がいつまでも航空会社でなければならない理由は、どこにもありません。バーチャルリアリティーの会社であっても、問題はないわけです。エクスポネンシャルな成長に乗るには、このような発想の転換が必要です。

しかし企業は、なかなか変われないものです。強力なブランドイメージを持つ企業であればあるほど、それを守る強い免疫システムが存在しています。ですから、企業の生存率を高めるイノベーションの種をつくったら、それは免疫システムから一番遠いところにまかなければ育ちません。

今後、求められるのは、一つの本業だけに注力するのではなく、さまざまな試行錯誤を繰り返す中でポイントをつかみ、そこから次のビジネスへと変わり続けてくようなビジネスモデルです。

日塔:では、ジョバンさんからはシンギュラリティー大学でどのようなことが行われているのか、お話をいただきます。

ジョバン:私からは、シリコンバレーのシンギュラリティー大学での体験を共有したいと思います。私は日本で博士号を取得し、現在はシンギュラリティー大学で教壇に立ち、生徒のメンターを務めています。大学はNASAの施設内にあり、グーグル、シスコ、ノキアなどの大企業と連携し、グローバルなコミュニティーを形成しています。

われわれの目的は、10年以内に10億人にポジティブなインパクトを与えることです。そのために、大学ではエクスポネンシャルに進化するテクノロジーを教えています。これにより、世界中に豊かさを生み出すことができると考えます。人類の歴史で電話やペニシリンなどの発明から、どれだけ恩恵を享受できたかを想像してみてください。現在、私のiPhoneはNASAのアポロ計画の計算機よりも能力が高いです。技術はあまりに早く、そして深く進化していくのです。

ジョバン・レボレド氏
Exponential Japan代表 ジョバン・レボレド氏

例えば、集積回路やGPS、デジタルカメラなど、さまざまなものが指数関数的に進化しています。シンギュラリティー大学の共同創設者のレイ・カーツワイルは、これを「収穫加速の法則」と呼んでいます。

例として、「30歩」という話を挙げましょう。1歩を1メートルとして、直線的に考えると1メートルの歩幅は変わらず、30歩目に30メートルの距離になります。しかしエクスポネンシャルに考えると1歩目は1メートル、2歩目は2メートル、3歩目は4メートルの倍々に伸びていき、30歩目に地球を26周する距離になります。

エクスポネンシャル技術は、創造的破壊をもたらします。考え方を変えなければ、企業は存続できなくなるのです。つまり、企業は「ムーンショット」(月に行くような難しい挑戦)のような力を持つべきです。「10%」ではなく「10倍」の改善を目的に掲げれば、エクスポネンシャル技術が必要になります。

シンギュラリティー大学の使命は、人類の課題に対処するためにパワーリーダーにエクスポネンシャル技術を教育してインスパイアすることです。既に世界中に卒業生がいます。日本にも支部があり、私がリーダーをしています。

シンギュラリティー大学のメインプログラム「GSP」(Global Solution Program)は大きく二つのセクションに分かれています。前半はアカデミックな講義で、後半は会社を設立します。2017年は90人の生徒として実業家、大学教授、科学者などが44カ国から集まり、日本からも初めて2人が参加しました。さまざまなイベントが9週間にわたって行われ、生徒は積極的な参加が求められます。エクスポネンシャル技術はさまざまなものがありますが、特に「AI/ロボティクス」「バイオテクノロジー」「情報システム」「ナノテクノロジー」の四つのカテゴリーを重視しています。

われわれのプログラムから、すでにさまざまな新しい企業が誕生しています。例えば、Made In Spaceは国際宇宙ステーション(ISS)に世界初の宇宙用3Dプリンターを供給しています。また、Be My Eyesは、盲目の人のための目になれるソフトウエアを開発しています。

私は2013年のGSPの参加者6人に、プログラム開始時と中間と終了時でインタビューし、どのようにマインドセットが変化するのかを追いかけました。そして、これまで5回のGSPで50ものスタートアップ企業に助言してきたため、その内容を本にまとめようと考えています。

昨年は初めて日本で「GIC」(Global Impact Challenge)というコンテストを行い、その優勝者と次点の2人がGSPに参加しました。詳しくは、シンギュラリティー大学の東京チャプターでさまざまなイベントを紹介していますので、皆さまもぜひご参加ください。「Let’s be Exponential」(エクスポネンシャルでいきましょう)。

※後編に続く
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企画プロデュース:電通ライブ デザイン&テクニカルユニット キャンペーンプランニングルーム デジタル&アカウントプランニング部 金原亜紀