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公開日: 2026/09/24

「どっち派」をAIと遊んだら?──きのこの山50周年プロジェクト

吉田 伊織

吉田 伊織

株式会社 明治

布田 雄帆

布田 雄帆

株式会社 読売広告社

木村 裕也

木村 裕也

株式会社 電通総研

1975年の発売以来、多くの人に親しまれてきた明治のロングセラーブランド「きのこの山」。長らく、姉妹ブランド「たけのこの里」とともに、どっちがおいしいかをめぐるどっち派論争を繰り広げ、多くの方々に愛されてきました。50周年を機に展開された、生成AIを活用した周年新商品企画「きたきたのこのこの山里」(電通が伴走)と、アクティベーション施策「KINOTAKE MOTHER」(読売広告社が伴走)は大きな話題を呼びました。

その舞台裏で3社が向き合っていたのは「AIをどう使うか」ではなく、「50年続くブランドを次の時代へどう進化させるか」という問いでした。企画誕生の背景と、ブランドづくりにおけるAI活用の考え方を、明治 ブランドマネージャーの吉田伊織氏、読売広告社 プランナーの布田雄帆氏、電通総研 クリエイティブディレクターの木村裕也氏に聞きました。

きのこの山50周年プロジェクト
明治は、2025年8月にAI「KINOTAKE MOTHER」をリリース。「KINOTAKE MOTHER」は、顔写真から潜在的な嗜好(しこう)を客観的に判定するAIで、約50万人の判定の結果(2026年3月現在)、“きのこ派”は約52%、“たけのこ派”は約43%、 “どっちも派”が約4%算出された。この結果を受け、「どっちも楽しめる商品があったらどうか?」という発想のもと、AIとの対話を重ね、二つの商品のおいしさを一つに凝縮した商品「きたきたのこのこの山里」を開発。2026年4月に発売した。

「AIを使う」ではなく、「50周年をどう楽しんでもらうか」から、企画が始まった

──まず、50周年の企画において、なぜ「AI」に着目されたのでしょうか。

吉田:「きのこの山」は、発売から50年間、里山の世界観だけを伝えてきたわけではなく、時代とともに面白いことを発信し続けてきたブランドとして最先端のコミュニケーションを行ってきました。50周年という節目では「感謝」に寄せるよりも、もっと楽しさや面白さを発信したい。そう思ったとき、2000年ごろからネットミームとして始まった「きのこ/たけのこ論争」を、昨今のAI時代に掛け算したら面白いのではないか、というのが企画の出発点です。

布田:読売広告社は十数年にわたって「きのこの山・たけのこの里」のブランド全体のマーケティング・コミュニケーションを担当していますが、一貫しているのが「どっち派」という軸です。過去に3回開催された投票キャンペーンである「国民総選挙」、さらに国勢調査100周年に合わせた「国民大調査」と、「どっち派」の深掘りを続けてきました。50周年はブランド史上一番盛り上げなければいけない。生成AIが広く使われ始めたタイミングだったので、「どっち派をAIで遊んだらどうなるか」と考えたのが最初でした。

木村:今回、電通でご一緒したのは、当社のブレーンストーミング支援AIツール「AI For Growth Flash」と、AIペルソナにインタビューできる「AI For Growth Talk」を使った新商品企画・パッケージ制作の支援です。当社では、AIを使った企画・制作だけでなく、それを実行できる環境づくり自体をサービスとして提供することにも力を入れています。

 

世界調査で見えた逆転──顔だけで判定するAI「KINOTAKE MOTHER」

──「きのこの山派か、たけのこの里派か」を判定するAI「KINOTAKE MOTHER」について教えてください。

布田:「きのこの山」と「たけのこの里」の「どっち派」か、顔写真から判定するAIシステムです。明治社員のデータをもとに開発され、「どっちも派」も含めた、潜在的な好みを客観的に診断します。

──「KINOTAKE MOTHER」は、どのようにして生まれたのでしょうか。

布田:「50周年を機に、新しいどっち派の概念を世の中に提案したい」というところから始まり、前段でグローバル調査を実施しました。日本は福島県だけがきのこ派で、それ以外の46都道府県はすべてたけのこ派。ところが世界で調査すると、20カ国中14カ国はきのこ派で、結果が逆転していたんです。「もしかしたらどっち派には日本人の先入観があるんじゃないか」と。

そこから「どっち派は変わる」という仮説を立てました。自分の派閥に固執しているのは、しばらくもう一方の商品を食べていないからでは。顔を見るだけでどっち派か分かるAIをつくれば、きのこ派だと思っていた人が「たけのこ派」と判定されて、久しぶりに逆を食べるきっかけになるんじゃないか。そのきっかけづくりに、AIがぴったりでした。アンケートに答えてから判定する案もありましたが、「顔だけで分かる」のが一番面白い。そのためだけのAIを専用に開発しました。


──どうやって判定しているのですか。

布田:明治社員数百名にご協力いただき、顔写真と、しょうゆ派・ソース派、犬派・猫派など100問ほどの「どっち派」アンケートを掛け合わせて約167万パターンのデータをAIに学習させ、基盤データとしました。

吉田:このデータ収集がすごく大変で(笑)。これだけが理由ではないのですが、生活者に100問も答える作業をしてもらうのは違うなと思いました。一番は楽しんでもらうことが大事だと。だから、顔だけでいきなり「あなたは○○派ですよ」と言われる、AIが判断を下す設計にしました。「きのこ派」と「たけのこ派」の判定結果は50対50に調整していません。データに基づいたAIの判定ですし、どっちも派もいますから。

しかも、きのこ・たけのこだけでなく、パーソナリティを踏まえて「あなたはこういうきのこ派」というところまで一人一人に提案する。ほぼ同じ結果の人がいないくらいの広がりは、AIでなければ瞬時には出せません。

布田:判定結果をAIの力で細かく調整しない方が「絶望感」があるというか。もう自分で派閥を決められない、AIに決められてしまう、ついに自分の意思で「どっち派」を決める時代は終わってしまうのではないか……。そういう感情も少し欲しかったんです。

MOTHERはスマホでも楽しめますが、イベントの反響は大きかったですね。家族の間で「どっち派?」という会話がもう一度生まれる、来てくれた親子がわあっと騒いでくれる。お菓子が一つあるだけで家族の会話や友達同士の絆が生まれるんだ、というところまで再確認できたのが良かったと思います。

きのこの山

 

100案、200案。ワークショップ×AIで生まれた新商品

──「きたきたのこのこの山里」とは?

木村:「きのこの山」と「たけのこの里」の対立構造の垣根を取り払い、二つのおいしさを一つに凝縮した、“どっちも派”専用の新商品で、AIと共に開発しました。

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──新商品企画では、どのようなプロセスを設計されたのでしょうか。

木村:「50周年にどういった商品をつくるべきか」というお題について、従来のように当社からプレゼンしてご意見をいただく形ではなく、一緒に考えるワークショップ形式で進めました。パッケージデザインも同じプロセスです。意識したのは、効率化だけでなく「可能性を広げる」ためにAIをどう活用するかというチャレンジ。新商品のアイデアという、一つのお題に対して200案書いてもらうといった挑戦もAIならではです。そして100案、200案と見ていただく中で、「これはきのたけらしくないよね」「なんでだろう」と話し合い、これまで言語化できていなかった「変えてはいけない部分」「新しくしたい部分」が言語化され、それが次のAIへの指示になってブラッシュアップされていく。いい循環がつくれました。

電通
電通

 

吉田:AIが出すアイデアの幅広さは桁違いでした。人には得意不得意がある中で、AIは想定しないところからアイデアを引っ張ってきてくれる。それに、いいアイデアなのに説明が下手でボツになるアイデアってたくさんあるじゃないですか。AIは順序立てて説明してくれるので、いいものはいいものとしてちゃんと伝わるのもすごいところです。

きのこの山50周年


──商品開発の際には、ターゲットに合致するAIペルソナを開発し、これらのペルソナにインタビューをしてアイデアをブラッシュアップしたと聞いています。AIペルソナへのインタビューでは、印象的な場面はありましたか。

木村:「きのことたけのこがくっつく価値とは何か」を模索する中で、一瞬「友情」のようなメッセージを持たせようかという議論があったんです。ところがペルソナに聞くと、「チョコを食べるとき、そんなこと考えないですよ」とストレートに返ってきて、みんなわれに返りました(笑)。砕いて混ざる食感の面白さを素直に打ち出そう、という話になった。ちなみに「くっつく」「合体」というキーワードを何百案の中から拾い、最後まで残されたのは明治のみなさんでした。

吉田:アイデアだけでは、ものにはなりません。人の思考が入って言葉に変換されて初めて、ものが生まれる。そのアイデアが出たら「次にデザインはどうなるの?」とまたAIに聞く。その行き来は楽しかったですね。

吉田伊織

 

AI時代だからこそ、人にしかできない仕事とは

──AI時代のクリエイティブの本質について、どのようにお考えですか。

吉田:今回やってみて強く感じたのは、人間にしかできない発想がある、ということです。おそらくAIにすべてを任せていたら、きのこたけのこ論争がある中で「きのことたけのこをくっつける」なんて企画は、やってはいけないことと判定されたはずです。

楽しんでもらえたのは、人が想像力を働かせてクリエイティブに乗ってこられたから。最後は人の手のコーディネートが入っている。そこが本質だと思います。AIにやれる面白さは「ものまね」のようなもので、既存のクリエイティブのまねになってしまう。それに今は、みんながAIを使うので、みんなが「正解」を持ってくる。出てくる答えが正解ではない、という意識が大事です。

布田:その「正解からのズレ」でいうと、私たちが大事にしているのは「一人の視点かどうか」です。めちゃくちゃ間違っているかもしれないけど、めちゃくちゃ面白そう。そう思えるものにこそ人は共感できる。だから数出しはAIに任せて、人間が考える時間を増やす。そういう活用をすれば、試行錯誤がもっと生まれると思います。

それに、AIって効率化が目的になりがちじゃないですか。でも私は、AIは本来、人間が持つポテンシャルを高めるために生まれたんじゃないかと思っていて。もっと人が笑顔になれたり、もっと人と人がつながれるAIとは何だろう、と考えます。今回のMOTHERは、それが少しできたんじゃないかと。「人間のためのAI」と捉えることが大事だと、改めて思っています。

木村:「越境」の価値もあります。画力がなくても、AIを使えば自分でパッケージ案のドラフトをつくれるといった、職種や能力を超えた動きができるのは大きな価値です。また、大事なのは、AIが知らないことを人間側で定義して入力すること。AIは人間の五感、例えば「おいしさ」を本質的には分かっていません。身体があるからこそ食べて感覚を言語化できる、世の中の空気感を感じて言葉にする。これはクリエイターに限らず、あらゆる職種に関わることだと思います。

吉田:AIは「何をすべきか」は分析してくれるけれど、「何をしたいか」は言ってくれない。何をしたいかを言うのは、まだ人間です。そこがないまま質問して回答をもらうから「AIを使いこなせていない」ということが起きる。それに、食品メーカーとして言えば、「食べたい」気持ちは予測できません。会社でカレーの匂いが一瞬しただけで、別のものを食べようと思っていた日でも、「今夜はカレー」になってしまう(笑)。AIは正解を出すでしょうが、人間はその通りにはならない。ブレることを当たり前として人間に合わせていくのも、人の仕事だと思います。

 

「どっちも派」が商品になる──人の手でつないだフィナーレ

──今回の取り組みは、どのような成果につながりましたか。

吉田:結局、みんなに楽しんでほしかったんです。「食」の体験とコミュニケーションの体験がマッチした結果、スポット発売品(数量限定の新商品)で1週間の販売個数が過去最高になりました。MOTHERも2025年8月にローンチしたのにもかかわらず、2026年4月の段階でも毎日3000人から5000人が参加してくれて、チョコレートの値上がりで数量が落ちる時代に、2025年度は売り上げと個数の両方が伸びています。

そして「どっち派は、変わる。」というテーマによって、両方を食べた人が約150万人増えました。食品メーカーとして、食べてもらって「あなたは、本当は、どっち?」を体現できたのが、すごく良かったと思っています。

──MOTHERから新商品発売までの流れも、非常にスピーディでしたね。

吉田:MOTHERの立ち上げが2025年8月、商品発売が2026年4月です。MOTHERでは毎日5000人ほどが参加する中で、ごく数人だけ「あなたはどっちも派です」という判定が出ていました。まさかそれが商品になって出てくるとは誰も思っていない。MOTHERがスタートで、「どっちも派」が商品にちゃんとつながるスケジュール感でフィナーレを迎えられた。そこは人の手でやっているんです。どうつなげたらお客さまが一番楽しんでくれるか、と。

木村:パッケージも、当時のAIの少し古めのスペックだからこそ出せた「AI感」のあるデザインです。「このままでいいんですか」とお伺いしたら、明治さんから「あえて直さずにいきましょう」と。今のAIなら、人がデザインしたのと見分けがつかないものになってしまう。

吉田:そうですね。このタイミングだからこそ、成立した企画だと思います。


(編集後記)
AI時代において重要なのは、技術を目的化しないことです。今回のプロジェクトでは、「どっち派」というブランド資産を起点に、AIを新しい問いかけの手段として位置付けました。AIが無限に広げた可能性の中から、変えてはいけないものを見極め、最後にストーリーとしてつなぎ合わせたのは人の手です。ブランドの歴史、クリエイティブの発想、テクノロジー。それぞれの強みを持つ3社が共創したからこそ、生活者に新しい驚きと楽しさを届けることができたのではないでしょうか。

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著者

吉田 伊織

吉田 伊織

株式会社 明治

コンフェクショナリー事業本部 コンフェクショナリーマーケティング部

チョコスナックGブランドマネージャー

2005年入社。営業、商品企画、マーケティングの3領域を経験し、一貫して菓子ブランドの成長に携わる。商品企画ではメルティーキッス、ガルボ、きのこの山、たけのこの里、カールなどを担当。現在はチョコスナック領域のブランドマネージャーとして、国民的ブランドである「きのこの山・たけのこの里」の戦略立案やプロモーションを手掛ける。
布田 雄帆

布田 雄帆

株式会社 読売広告社

マーケットデザインユニット 統合クリエイティブセンター 第一クリエイティブルーム

プランニングディレクター

営業職を経て、クリエイティブ職へ。営業経験を生かし、クライアント企業との共創関係の構築により、企業やブランドの本質的な課題に向き合うことで、ビジョンや戦略の提案から、手口に依らない最善のアウトプットを生み出す。2024年より、企業の経営課題に向き合う社内クリエイティブブティック「Pers」にも所属。
木村 裕也

木村 裕也

株式会社 電通総研

AI開発センター

クリエイティブディレクター

ITスタートアップ、エンターテインメント企業を経て、電通に入社。クリエイティブディレクター/サービスデザイナーとして事業コンセプト開発や顧客体験設計に従事し、2025年よりdentsu Japan AIセンター AIマーケティング&クリエイティブ高度化ユニットリーダーを兼任。2026年より電通総研へ出向し、全社AIプラットフォームや新サービスの戦略企画を手掛ける。

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