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インサイトメモNo.36

新聞社の新しいカタチ

「下野新聞NEWS CAFE」

2014/04/10

新聞協会が公表している毎年のデータ (http://www.pressnet.or.jp/data/)によれば、長期的な傾向として総発行部数が減少し続け、2008年には1世帯当たりの部数が1を切ってしまっている。若年層の新聞離れなどさまざまな理由があるが、新聞社としてはこの状況に甘んじているわけにはいかない。例えばNIE(Newspaper in Education; 学校などの教育現場で新聞を教材として活用すること)など、若年層に新聞に親しんでもらう取り組みは全国各地で展開されている。そういった直接的な取り組み以外にも、新聞社にできることはないだろうか。その一つのカタチが、この「下野新聞NEWS CAFE」だ。

国内には、それぞれの都道府県に特徴ある県紙が存在しているが、その社是や経営目標には大概「地域貢献」あるいは「地域の発展に寄与する」といった言葉が見られる。地方紙にとっては所在地から外に打って出ていくことは通常できない。その県の発展そのものが地方紙の発展にもつながるのである。

今までも地方紙は、各種事業を行って地域の発展に寄与してきた。例えば花火大会や展覧会の企画・誘致、あるいはマラソン大会などの各種スポーツイベント。そこに住む人々の生活に寄り添い、文化の発展に貢献してきた。ただ社会貢献的な要素も大きく、収支的には支出の方が多かったり、あるいは新聞社が関わっているのかどうかが分からず、新聞社に対するロイヤルティが向上しない、といった問題も現れている。

新聞および新聞社に対する調査によると、信頼度については他のメディアに比較しても圧倒的に高い。しかし、新聞に対するイメージとしては「役所・役場」「学校」といった固いイメージが先行して、「楽しくなる」とか「元気になる」のような親しみやすさを感じさせる言葉は現れない。新聞の機能としては当たり前といってしまえばそれまでだが、信頼できる、といった理性的な価値観から、好きになってもらう、あるいはファンになってもらう、といった感性的な価値観を獲得することが今後の新聞にとって大きな目標になり得る。

地域密着の例として挙げられるのは、例えばJリーグのチームだろう。Jリーグによって、地元が元気になった、という調査結果は多いが、それは、そこに住む人々が地元のチームを愛してファンとなり、そしてチームをもり立てるためにさまざまなボランティアを行ったりして、チームと住民が相互に影響し合い、着実に地域に根付き、地域の発展に貢献している、というモデルでもある。

地域への貢献、発展のために新聞および新聞社ができることはないだろうか。そこで現れたのが NEWS CAFE のコンセプトである。米国ではすでに多くの取り組みがなされているが、いわば新聞社の顔となる場をつくり、そこに集まる人に新聞・新聞社を感じてもらい、理解を深め、そして親しみやすさをつくり出す拠点とするのである。例えばカナダのWinnipeg Free Press のNews Café (http://www.winnipegfreepress.com/cafe/)では、記者がそこに常駐してそこに集う人々とさまざまな交流をしている。ニュースの取材はもちろん、読者の疑問に答えたり、あるいはさまざまなイベントを通して、新聞・新聞に対する理解を深め、新聞社の顔として機能している。一読者にとっては、どんな人が記事を書いているのか、といった好奇心を満たすことができ、そして、記事を書いている人が説明してくれるというふれあいを通して、より深い共感が生まれることになる。

2012年6月1日から宇都宮の中心部に、下野新聞が「下野新聞NEWS CAFE」を開設した。目的は地域貢献。まちなか支局を併設して、地元のニュースを取材・掲載する「みやもっと」面からの情報発信で地元商店街の活性化を図る。同時に、中心市街地の活性化に向け人を集めるための拠点、さらには新聞を読むことができ、また新聞社のさまざまな情報発信、あるいはイベント会場ともなる拠点である。開設から1年経ってからの調査では、地元商店街が明るくなり、そして新聞・新聞社に対する親しみやすさ、といった感性的なスコアが向上した。新聞紙面だけで親しみやすさを追求するのは難しいが、こういった拠点をつくり新聞社の顔をつくることで、より読者・住民に近づくことが可能となった。この取り組みは「新聞社が行う地域貢献のモデル」として高く評価され、「経営・業務部門」で2013年度の新聞協会賞を受賞した。

市民参加のイベント開催の様子
市民参加のイベント開催の様子

NEWS CAFE は北海道新聞社、西日本新聞社、河北新報社などでも取り組まれている。ワールドカフェ※1スタイルで、地元の課題をどうやって解決するか、といったことや、あるいは「まわしよみ新聞※2」による新聞に対する理解の深化、といった手法で、新聞・新聞社と読者・住民との距離を縮める努力をしている。

新聞・新聞社にとってはこれから、こういった直接的に交流できるコンタクトポイントが必要となる。新聞社の方から積極的に出て行くこと、そしてより身近な存在になることが求められており、その一つのカタチが「下野新聞NEWS CAFE」である。


※1 ワールドカフェ:参加者が「カフェ」にいるようなリラックスした雰囲気で自由に対話を行い、また、対話の相手をシャッフルしたりすることで話し合いを発展させていく会議手法。市民活動、まちづくりなどのさまざまな分野で活用が進められている。
 
※2 まわしよみ新聞:参加者がそれぞれ新聞を持ち寄って、「面白い記事」や「気になる」記事を切り取って、話し合いながらみんなで一つの紙面を作り上げてゆく手法。新聞の新しい価値を作り出す取り組みとして注目されている。