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ワカモンのすべてNo.14

清水淳子×吉田将英:後編

「仕切り2.0でニッポンの会議を変えよう」

2014/05/07

「ワカモンのすべて」ロゴ

前回に続きTokyo Graphic Recorderの清水淳子さんとワカモン代表の吉田研究員が、新しいクリエーティビティーについて話し合います。

Tokyo Graphic Recorderの清水淳子さんとワカモン代表の吉田研究員


クリエーティビティーが発揮される 一点

吉田:清水さんの活動では、作る側と受ける側とか、指示する側とされる側とか、そういうことをほぼ感じないんですよね。場をつくってみんなで考えようとか、みんなで1つの合意形成をしようとか。空手ではなくて、合気道型クリエーティビティーみたいな?

清水:それが不思議なんですが、私は全然そういうタイプではなかったんです。スーパークリエーターに憧れたし、自分の作りたいものが作りたいって思ってたし。でも、そんなふうに場をつくらないと自分のしたいことはできないと必要に迫られて…。

吉田:根は個なわけですね。じゃあ、個の力と、対する組織・チームの力についてはどんなふうに考えているのか、興味があります。

清水:「早く行きたいなら一人で、遠くへ行きたいならみんなで」という言葉を聞いたことがあるんですが、その通り、Tokyo Graphic Recorderは私1人でどんどんここまで来ましたけど、やっぱり限界を感じる部分がありました。今は、ヤフーという会社の6000人の中でこれを機能させることで、もっと遠くに目的を持てるんじゃないかと思ってやっています。

吉田:Graphic Recordingの活動を通してさまざまなチームに入ったと思うのですが、客観的に見て清水さんにとっての良いチームって何ですか?

清水::昨年12月、「ジャパン・データジャーナリズムアワード2013」に参加したのですが、そこでチームを組んだのがハフィントンポストの記者、時事通信社のエンジニア、京都大学のアナリスト、そしてデザイナーの私っていう、専門がまるで違うバンドみたいなメンバーで。このチームがすごく良かったのは、全員が自分以外の領域をリスペクトしていて、知らないことに対して常にマインドがオープンだったこと。「デザインで言うと?」「ジャーナリズム的解釈は?」と言い合った瞬間にお互いがすぐアウトプットを出して、どんどん議論が組み上げられていきました。

吉田:まさにオープン・イノベーションですね。大前提として、これからは自分の領域外の人と関わっていかないと本当に価値のある新しいものは生み出せない。もうスーパークリエーター一人の頭やセンスの中から何かを生み出せる世界じゃない、とも。

清水:関わっていきながら、なおかつお互いが境界を破られることを恐れないということじゃないかと思います。自分の飯の種がなくなるとか(笑)、そういうことじゃなくて。私の尊敬するビジネスデザイナーの濱口秀司さんがよく描くグラフで、クリエーティビティーが発揮されるところを表したものがあるんですが、どこかっていうと、右脳と左脳の中間にある山の頂点なんです。一点だから、なんとか転げ落ちないようにするために行ったり来たりするしかない。

吉田:なるほど。それゆえにめちゃくちゃハラハラすると。

清水:逆に左右の専門分野に偏ることはすごく簡単なんだけど、実はそこは低いんですよーっていう。その軸で高まり切ったとしても、頂点の高さには絶対にかなわないです。

吉田:両端で高まった人もゼロではないけれど、そこにいたままではなかなか見いだせないものがあるということですね。

清水:データジャーナリズムアワードの時のチームは、両端の人もいたけれども全員にこの頂点に対するリスペクトがあったし、みんなが行きたいと思っていたのが良かったのだと思います。

角が立たない“仕切り2.0”のススメ

吉田:そう考えていくと、今後Dのつく職業の役割も変わっていくのかもしれません。クリエーティブ・ディレクター、アート・ディレクター…。これからのDのあり方について、どう思いますか?

清水:ちょうど今ヤフーで進めているプロジェクトなんですが、Dが付く人が入ると角が立つからという理由で、先日、Dなしで泊まり込みの合宿に行き、私が入ってコンセプトメーキングをファシリテーションするというのをやったんです。最終的にはそのDが責任を取るし、アドバイスもするし、困ったらちゃんと上に通すしという環境の中で私が自由にできて、最後にはこれだっていうコンセプトも出て、あれは気持ち良かったですね。

吉田:プレイングマネージャー的な。従来型の企業ではなかなか出ないチーム・ビルディングの発想ですね。ところで清水さんはそういう議論の場でペンを持って描いている時って、どんなことを意識しているんですか?

清水:みんなが見て見ぬフリをしてそのまま進んで終わっちゃいそうなものを、あえて可視化しようと。別に意地悪とかじゃなく、最終的にそのハテナの部分が「上手いことやっといて!」って降ってくるのってデザイナーなんですよ。たとえ偉いおじサンが言ったことでも、抜け落ちている内容をマトリックスなんかでさらっと描けば議論の方向が見えてくる。

吉田:言葉で言ってしまうとまさに角が立つところに、また清水さんの絵というか作風がいいんですよね。柔和で、嫌みがなくて。

清水:これがもしパワポのスライドだと、かなり攻撃的な戦術っぽく見えちゃうんですよ。そうではなく、その場で描いて「こんな感じですかねー?」っていうのがポイントですね。

吉田:オーケストラにおける指揮者ってすごい大事だろうと思うんですけど、清水さんは自分も弾きながら振ったりとか、時には振らないで音がもう指揮になってるみたいな…。「こういうことだからヨロシク」っていうのが“仕切り1.0”だとすると、多分“仕切り2.0”っていうのがあるんだなと思いました。

清水:「場をつくる」って言うと最近やたら使い回されて薄っぺらい感じですが、これが本当に重要で。しかも場をつくっていることが露骨にならず、メンバーにバレずに仕切るということが、これからのDと呼ばれる人には必要な気がします。

「思考を止めないためのデザイン」へ

吉田:思えば、Graphic Recordingって相手ありきだったり、自分以外の人ありきだったりで、非常に場ありきの活動ですよね。だからこそ、広がっていったりとか、いろんな立ち位置や職能の人たちとつながって、新しい可能性を広げている。

清水:ただ、Tokyo Graphic Recorderも全てにオープンというわけでは無く、仕事であっても自分がデザイナーとして面白いと思わないものは描かないと決めているんです。気が乗らないものはお断りをして。対象とする条件は、
1.私が本当に面白いと思う考えであること。
2.未来に残したい議論であること。
その二つです。

吉田:そこにはちゃんと個がある。今の若い人たちって、主観が持ちづらい世界にいると思うんですよ。自分はおいしくないと感じたけど、グルメサイトが★3.65って言ってるから主観が流れちゃったり、意見を言う前にひとまずグーグル先生に聞いてみたり。みんなで一緒に合意形成をしようという風潮について良い面を話してきましたが、その悪い一面として、落としどころを探して、当てにいっちゃうみたいなことがある。こういう落としどころ信仰についてはどう考えますか?

清水:原因としては、教育が大きいと思います。いつも「正解」を探すというものだったから。私自身も落としどころがないと、心の何処かでやっぱり不安になります。でもAXIS デザイン思考の特集の取材で、takramの渡邉康太郎さんが、デザイン思考には「思考を止めないための思考法」という側面がある、というお話をされてて、そうか!と腹落ちしたんです。カオスな状態になっても、それを恐れないでみんなで考えを重ねてジャンプさせることが一番クリエーティブで面白いんだと。

吉田:Graphic Recordingはそこに立ち向かっているような気がします。最後に、これから若い人たちが担う企画とかクリエーションがどうなっていくと、もっと世の中が楽しくなると思いますか?

清水:「ストーリー」の概念を新しく捉え直すことですね。
というのも、今のおじさんたちが考える「ストーリー」が急速に陳腐化しているように思います。たとえば、ソチ五輪で銀メダルを取ったスノーボードの平野歩夢選手。
コメントで「自分のやりたいことやってたら滑れちゃっただけです」みたいに素直に伝える彼はマスメディアからはそんなに好かれないんですけど、私はあれが正しいと思っています。ああいう子が増えてきた中で、外側にいるおじサンたちが勝手に付けた盛り上げるためのストーリーは白々しいし、そういうことが世代間のギャップを深めている気がする。なので、一見何の気ない、「ストーリーに見えないストーリー」を感じ取る感性や伝える手法を考えることを大事にしたいですね。

吉田:清水さんのそういう、指示するんじゃなくて拾い上げるという柔和な姿勢に、クリエーティブの新しい可能性を感じます。


「電通若者研究部ワカモン」ロゴ

【ワカモンプロフィール】
電通若者研究部(通称:ワカモン)は、高校生・大学生を中心にした若者のリアルな実態・マインドと 向き合い、彼らの“今”から、半歩先の未来を明るく活性化するヒントを探るプランニングチームです。彼らのインサイトからこれからの未来を予見し、若者と 社会がよりよい関係を築けるような新ビジネスを実現しています。現在プロジェクトメンバーは、東京本社・関西支社・中部支社に計14名所属しています。ワ カモン Facebookページでも情報発信中(https://www.facebook.com/wakamon.dentsu)。