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ワカモンのすべてNo.13

清水淳子×吉田将英:前編

「クリエーションの「場」をつくるGraphic Recordingとは?」

2014/04/30

「ワカモンのすべて」ロゴ

企業、メディアなどで繰り広げられるさまざまな議論を描き起こし、ファシリテーションを行うTokyo Graphic Recorder。今回はYahoo! JAPAN UXデザイナーとしてのキャリアと並行してこの活動に取り組むTokyo Graphic Recorderの清水淳子さんとワカモン代表の吉田研究員が、クリエーティビティーが発揮される新しい「場」のつくり方について話し合いました。

Tokyo Graphic Recorderの清水淳子さんとワカモン代表の吉田研究員

すべてのモノ作りは「可視化」で進む

吉田:まず、清水さんが個人的に続けられているTokyo Graphic Recorderの活動について教えていただけますか?

清水:はい。そもそもの始まりは何だというと、自分が聞きたい話をビジュアライズして集めたポータルサイトです。そのメディアを起点として、今は企業のカンファレンスやイベントに参加してその場でパフォーマンスとして絵を描いて(=Graphic Recording)盛り上げたり、さらにそれをテレビ、雑誌などのメディアにコンテンツとして提供するということもしています。

吉田:どうしてこういうことをやろうと思われたんですか?

清水:私は美術大学を卒業してウェブ制作会社で3年働いたのですが、そこでの仕事が伝言ゲームの末にグラフィックを作るというもので、言われた修正だけをやるみたいなことに漠然と疑問を持つようになったんです。もっと考えるデザインに携わるために、自分の知らないデザイン以外の話を聞きに行ったのがスタートです。

吉田:クリエーティブにおける伝言ゲーム感、バーティカル感に対する問題意識が根っこにある?

清水:そうです。でも活動を始めた頃は問題意識といってもまだ社会的にどうこうではなく、ただ自分のデザイナーとしてのキャリアが行き止まりにしかならないという危機感だけで。まずは知識を増やそうと思い、いろんな所に出かけていろんな議論を自分のために描き起こしたものを載せていました。

吉田:その議事録がグラフィカルで新しい表現だったことから、あれよあれよと注目され始めたんですよね。

清水:最後の1年、働きながらno problemの無料広告学校に通ったことがターニングポイントになりました。単にきれいな表現だけでは大きなお金はもらえない。もっとビジネス的な戦略やマーケティング知識などを全部ごっちゃにして表現を考えないと、本当に価値のあるものはできないということをそこで教わって。

吉田:僕のストラテジストの先輩も、戦略→クリエーティブというリレーゲームじゃなくて、戦略っていうのはいわばすべての下敷きになっている大きな矢印で、その上にいろんなことが乗っているんだと言っています。

清水:私が理想とする構造もそれに近くて、1つの企画を1本の木だとすると、Logic(戦略)が樹木、Magic(表現)が葉っぱ。通常、木を作るのはクライアントやストラテジスト、そして葉を作るのはプロダクションやデザイナーの役割です。私もいちデザイナーとして3年間ひたすら葉っぱを作って、速く上手に作れるようにはなったけど、モノ作りとして木と葉が融合しないものがとても多いと感じていました。

吉田:確かに、葉っぱを作ってる人たちが木の形を知らないとか、もっと言えば全体を分かってる人がいないということはありますね。その結果Magicだけになっちゃったり、Logicが細すぎたり…。

清水:オーケストラには楽譜があるし、一流の厨房には必ずレシピがありますよね。すべてのモノ作りは「可視化」があってこそ進行するという仮説のもと、クリエーションに不可欠な議論をより良い結果に導こうというのがGraphic Recordingが目指すところです。

既視感を打ち破る“越境”というマインド

吉田:Tokyo Graphic Recorderの活動によって、葉っぱ職人を脱して、全体のクオリティーを一気通貫した形で見られる立ち位置に近づいていったわけですね。

清水:そうしていかないと価値のあるものは生み出せないと分かったので。最初は自分の勉強メモから始まった活動でしたが、今ではニュースを伝える手段としてジャーナリストとコラボしたり、事業開発や商品開発の場でファシリテーションとして行ったりといろんな形に拡張しています。

吉田:果たす役割が多岐にわたってきているのが面白い。僕はストラテジック・プランナーという職種上、表現やコミュニケーションを言語に負う割合が多いのですが、言語は文化依存度が高い上に、何かこんな感じ!っていう部分まではなかなか伝えられないじゃないですか。言語化の限界を感じる時も多いので、Graphic Recordingがもたらす「可視化」の価値はとてもよく分かります。

清水:実は「可視化」の価値なんですが、自分では何に活用できるのか?と自分では強い自信が持てずにいたんです。ですので、Graphic Recordingという技術をネット上に公開して、声をかけられたオーダーに対してその時々で全力で取り組み、事例をつくる。その繰り返しを行い価値つくりしていました。これは、エンジニアの中にあるオープンソースの考え方に近いかもしれません。

吉田:“越境”根性みたいなものも感じます。若い人たちは、例えば新しいモデルの商品のモックアップを見せても「こういうの、前からあると思ってました」ってみんな言うんですよ。それぐらい、既視感に世の中が包み込まれつつある。だからもうみんなが越境しないと、新しいものが生み出しづらい状況なのかな。

清水:確かに。そんな中でクリエーターが、ユーザーに「与える」みたいに思うのは、もうおこがましいのかもしれない。材料を元にみんなが使い方を考えられる状態をどう作っていくのか考えるのが世の中にとっては楽しいんじゃないかと私は思っています。

朝日新聞「未来メディアプロジェクト」でのGraphic Recordingの様子
朝日新聞「未来メディアプロジェクト」でのGraphic Recordingの様子

吉田:自分のノートから始まったことが今こうしてどんどん世の中とつながるようになって、予想しなかった広がりもあるんじゃないですか?

清水:ポータルサイトからイベントパフォーマンスに発展し、ファシリテーションに変化して。最近ではGraphic Recordingのプレゼンテーション・コーチの依頼も増えました。ここまでは何となく想定できていたのですが、全く予期しなかったことの1つが最近ヤフーに就職したことです。方向性として、フリーで外部コンサル的な立場でやっていくのもアリだったと思うんですが、やめました。外からではなく、中の1人としてこういう突飛なことを社内に浸透させられるか――。6000人の企業でどうGraphic Recordingを機能させていくかが新しい山ですね。

吉田:一人プロジェクトから6000人の企業まで、その振り幅の中にいるからこそ気付けることってありますか?

清水:基本的にやっていることは「議論の可視化」なんですが、メンバーやシチュエーションやアジェンダが違うだけでアウトプットが変わっていく。そのことに気がつけたのが面白いです。例えば、素材ひとつとっても、すごいツルツルの紙を用意してもらってテレビに丁寧に映したりもしましたが、元『広告批評』編集長の河尻亨一さんのカンファレンスでは「描くものないからこれで」って上から拾ってきたゴミの段ボールに描いたことも(笑)。でも結論としては変わらないんですよね、あんまり。そういう実験ができるのは面白いです。

未完成やカオスの中に価値はある

吉田:ともすれば、クリエーティビティーかストラテジーか、大企業かベンチャーかと二元論的に語られがちですが、ただ相性が悪いから諦めるか、迎合するかではなく清水さんは「両方いく」のが面白い。仕事やキャリアに対してはどんなイメージを描いているんですか?

清水:その意味では、np広告学校を卒業後、1年間いたデザインコンサル会社で得たものは大きかったですね。65歳くらいのボスが3人いて、それぞれビジネス、ブランディング、デザインのプロだったのですが、彼らが65歳の熟練したセンスで世の中を見て、仕事をとって、自分たちでやっている姿がすごく楽しそうに見えました。だからそれまで私はあと40年ぐらいあるし、まだまだ何度もいろんなことを始めて過ごしたいですね。

吉田:職種でいうと、Tokyo Graphic Recorderで清水さんがやっていることと、いわゆるアート・ディレクターと呼ばれる人たちがデザイン領域でしていることで、一番の違いって何だと思いますか?

清水:アート・ディレクターやデザイナーの人たちは、未完成やカオスの状態を極端に恐れてるように見えます。やはり、どうしても、途中段階をシェアしようというふうには思考がチェンジしない。
逆に私はGraphic Recordingを通して「そこを考えるのが一番楽しく、新しい価値を生む可能性が高い」ということを伝えたい。

吉田:最近よく耳にするリーン・スタートアップとか、ラピッド・プロトタイピングとか、工程、過程をもシェアしてしまうという手法がどんどん出てくるのは、逆説的ですけど、今世の中に求められている企画とかクリエーションの価値が、もう従来の型の中でころころ回していて実現できなくなったということだと思うんです。清水さんはそこで、Graphic Recordingという槍を1本持っていろんなところに突っ込んでいく。次回はもう少し具体的に、その戦法について聞かせてください。(続く)


「電通若者研究部ワカモン」ロゴ【ワカモンプロフィール】
電通若者研究部(通称:ワカモン)は、高校生・大学生を中心にした若者のリアルな実態・マインドと 向き合い、彼らの“今”から、半歩先の未来を明るく活性化するヒントを探るプランニングチームです。彼らのインサイトからこれからの未来を予見し、若者と 社会がよりよい関係を築けるような新ビジネスを実現しています。現在プロジェクトメンバーは、東京本社・関西支社・中部支社に計14名所属しています。ワ カモン Facebookページでも情報発信中(https://www.facebook.com/wakamon.dentsu)。