loading...

電通報ビジネスにもっとアイデアを。

「役職撤廃」サイバー・コミュニケーションズ社長が、組織改革の狙いを語る

2014/06/30

電通グループのデジタル領域の中核を担うサイバー・コミュニケーションズが、役職の全撤廃という大胆な改革を行った。新澤社長が考える、新しい時代の組織の在り方とは。

インターネット広告とともに急成長した組織に生まれた課題

この4月、当社は組織・人事大改革と称し、大幅な組織・人事制度の改革に踏み切りました。これまで18年間、当社はインターネット広告市場の拡大と共に成長を遂げました。その成長と共に組織は大きく膨れ上がり、縦の関係は遠く、また横の連携も取りにくい極めてコミュニケーションが不足した組織となってしまいました。

また、もう一つ組織が拡大し続けたことによる弊害があります。それが「役職」です。組織を機能させるためにはポストは必要です。しかし、時にポストは「人」にひも付くことがあり、そうなった場合、組織改革を行う際に弊害が発生します。例えば組織を変える際に、じゃあ、あの人はどういうポストにするの?といった事象ですね。

次々と新たな手法やメディアが誕生する、変化の激しいインターネット広告市場において、コミュニケーションが不足し、柔軟な変化がしづらい組織は致命的であり、組織の改革は急務であると考えておりました。そこで以下の改革に取り組みました。

・18あった「本部」機能をサービスごとに整理し、6つのディビジョンに統合

・「役職」を全撤廃し、「役割」という考え方へ

・大人数の「部」体制から少人数の「チーム」体制へ

これまであった執行役員、本部長、部長という役職を全てなくしました。そして、縦割りになった18の本部と、その中の多くて50人近くが所属していた「部」という組織を解体し、6つのディビジョンというくくりの中に4~7人程度の少人数の「チーム」を置くという体制にしました。

この狙いについては以下の図を見ていただくのが分かりやすいと思います。

ツリー構造組織
ツリー構造組織とサークル構造組織
サークル構造組織
 

「役職」ではなく「役割」が組織を動かす時代に

このように今までのツリー構造の組織形態をなくし、サークル構造に近い組織形態を目指しています。大きく分けて狙いは3つあります。

まず1つ目は経営体制のスリム化です。これまであった機能別の18の組織を、サービス別に分けた6つのディビジョンにすることで横の連携を取りやすくし、さらに権限を委譲することで意思決定を迅速に行えるようになりました。

2つ目はフラットな組織構造づくりです。報告や情報共有のステップを減らすことで、経営判断を素早く現場へ伝え、また最前線の現場の考えを即座に経営に反映できるようにしました。今回の体制では「役職」という考えを撤廃し、チームを率いるチーム・マネージャーという「役割」を置いていますが、彼らが直接経営に対し議案を提起できるようになり、形骸化しやすい経営会議を活発な議論の場に変えました。これにより、経営に参加意識を持った、若いデジタルネイティブ世代の意見をスピーディーに取り込むことができ、かつスリム化した経営陣がそれぞれの議案に対して深い議論を経た上で経営判断ができるようになっています。

そして3つ目は組織の肥大化、硬直化を防ぐため、組織の単位を全て少人数のチーム制に変更しました。これにより変化の激しいデジタル広告業界において柔軟に組織を改革しやすい、スクラップ・アンド・ビルドの可能な構造にしました。

またチームという組織以外に、チーム間を横断し戦略的課題に取り組む「プロジェクト」というマトリクス組織を構成しています。これはデジタル広告の戦略的な課題に対し、人財をチームという枠組みだけで縛らず、組織を横断したメンバーで、計画から実行までの一連の流れを構築してもらうことで、更なる人財の交流、育成や新しい事業の創出を目的としています。プロジェクトから新しいチームが生まれる、というサイクルもでき始めており、新しい組織運営には欠かせない取り組みだと考えています。

組織横断型のプロジェクトによる組織の流動性の実現
組織横断型のプロジェクトによる組織の流動性の実現
 

役職を撤廃したこと、少人数のチーム体制にしたことは、他にも大きな狙いがあります。それは「人」を大切にするということです。

当社に限らず、多くのインターネット広告企業の社員は、非常に年齢が若いと思います。30代前半くらいで管理職に就く人も多く、現場の第一線から離れてしまうこともあります。また、現場で結果を残した優秀な人が選ばれがちだと思います。その基準自体は必ずしも問題ではありませんが、時として年間何十勝した名投手に、「君はすごい結果を出したから、来年から監督をしてくれ」と言っているような事態が発生します。名選手=名監督、ではないということです。

「監督」から「キャプテン」へ、最前線でのキャリアプランを重視

これは彼らの今後何十年のキャリアプランを考えた際、非常にもったいないことだと思います。変化の激しい業界の最前に身を置くことが彼らのキャリアプランにつながると考え、役職というものをなくし役割ととらえ、かつ少人数のチームにすることで、マネジメントの業務を軽減し、現場の業務を行える形を目指しています。

まだまだピッチで輝ける若い人に監督をお願いしていたのを、あらためてフィールドに立ってもらい、キャプテンとしてメンバーを率いてもらう体制にしました。

これは同時に現場のメンバーに対するマネジメントの強化にもつながります。少人数のチームにすることで、1人に対するマネジメントの時間を多く取れるようにし、メンバーの考えや思いをキャッチアップしやすくなると考えています。

当社はこのように「人財」をより重要視したいと考えており、今回の改革の中には、その考えのもと取り組んだものも多くあります。その代表的なものが次の取り組みです。

・役割(役職)と資格等級の分離

前述の役職の撤廃と連動することですが、当社は資格が上がれば報酬が上がるという制度となっており、また、その資格は実質的には役職に連動していました。その結果、役職がつかないと(ポストが空かないと)給料が上がらないという現象や、この人を役職に就けるために(給料を上げるために)組織を考える、という現象も起きかねない状況でした。

また、スペシャリストの育成にも弊害が出ていました。現場で結果を残したスペシャリストがマネジメント職を務めるケースが増え、スキルを更に磨いてもらう機会を減らしてしまうことが起きていました。

そこで役職そのものを撤廃し、役割も資格等級と分離することで「役割」の意味を明確にし、昇格だけではないキャリアアップの形を提示しました。同時に成果を出した現場のメンバーに昇給機会を創出し、スペシャリストの育成を強化していきたいと考えています。

全社員が共通の意識を持てるかどうかが、成功の鍵

今回の当社の取り組みについてご説明してきましたが、他にも新しい取り組みや制度を次々と実施しています。しかし、どれもまだ始めたばかりであり、胸を張って成功しました、と言える段階ではありません。成功させるには、コミュニケーションの数がとても重要だと考えています。

昨年7月に私が社長に就任して以来、経営方針や活動計画など、重要なメッセージはなるべく全社員に対して直接言葉で伝えるように心掛けています。文字や資料だけでは思いは伝わりにくいですからね。

4月に開催された2014年度活動計画の様子
4月に開催された2014年度活動計画の様子
 

また、経営と社員の間だけではなく、社員同士のコミュニケーションが活発となるような取り組みも実施しています。全社としてコミュニケーションの数を増やし、共通の思いをもって全社員が取り組めば、きっと成功できると考えています。

この取り組みが成功した際は、またその成果をお話しさせていただければと思います。