人もペットもうれしい社会を。No.14
セッション#2-1
「ペットオーナーができること、これからすべきこと」
2014/12/10
新しいペット産業をつくり出すために、電通とベネッセコーポレーションが立ち上げた異業種参加型のコンソーシアムDesign with Pet Project。今回のゲストは、ベネッセコーポレーションの『いぬのきもち』『ねこのきもち』編集長を担当した渡邊恵子さんと肥山栄孝さん。ペット産業が順調に成長を続ける一方で、今後の課題とされているペットオーナーの「しつけ」意識について、電通の社内専門チームThink Pet Projectメンバーの大崎孝太郎さんが話を聞きました。
(左より)大崎孝太郎氏、渡邊恵子氏、肥山栄孝氏 |
“ペットの個性”が尊重される時代
大崎:「Design with Pet Project」は、“人もペットもうれしい社会を。”という理念が示す通り、人とペットの双方にとって良いサービスを生み出すことを目指しています。この“人”の中には、当然ペットを飼っていない人たちとの共生も含まれるのですが、その実現に向けて重要視しているのが、ペットオーナーの「しつけ」意識の向上です。『いぬのきもち』『ねこのきもち』は創刊時からしつけに関する情報を発信してきたと思いますが、ここ数年で読者の「しつけ」意識について何か変化を感じることはありますか?
渡邊:しつけは永遠のテーマで、ニーズがなくなることはありませんが、社会背景の変化とともにペットオーナーの意識も少しずつ変わってきているのは感じます。例えば、10年前に比べて大型犬よりも小型犬を飼う人が増えました。小型犬は比較的ペットオーナーがコントロールできるので、以前ほどシビアにしつけをする必要性を感じにくくなってきているのかもしれません。実際、ペットオーナーのしつけの意識が低下しているという調査結果も出ています。その一方で、しつけのことで悩んでいる読者もたくさんいます。ペット可のマンションも増えているので、それだけご近所のことを気にする人も増えていると思います。
大崎:まさにウチがそうですね(笑)。ペットを飼っている人が少ないマンションに住んでいるので、犬がほえるたびに近所迷惑になっているんじゃないか気が気でなくて。
渡邊:そうですよね。なので、周囲のことを気にする人はすごく考えるし、一方で考えない人もいる。しつけの意識にバラつきが出ているのかもしれません。
肥山:『いぬのきもち』『ねこのきもち』の編集会議では、「しつけ」や「生態」「健康」などいくつかのテーマに分けてコンテンツを考えるのですが、私が担当した2007年当時はまだ「しつけ」の特集が読者に人気でした。それから徐々に、「関係性」をテーマにした特集の需要が高まって、「ペットの考えていることが知りたい」「ペットを愛しているからペットからも愛されたい」と思う人が増えてきました。そして、今のニーズは「健康」。飼い始めからペットの健康に気を遣っていて、一日でも長く一緒に過ごしたいと考える人が非常に多い。このような変遷を俯瞰で眺めてみると、「関係性」や「健康」を求める読者が増えているのは、やはりペットに対する家族意識が強まってきたことの表れだと思います。
大崎:家族意識が強くなると、人間と動物との境界線が曖昧になってきますよね。それがしつけに対する意識の変化にも関係してくるのかなと思うのですが。
肥山:良いか悪いかは別にして、飼い主が“ペットの個性”のようなものを考える傾向にありますよね。例えば人間の子育ての場合、しつけをしながら良いところは積極的に伸ばしたり、逆に「これは苦手だからここまででいいかも」と許容することもあります。それと同じように、ペットの個性を尊重したり、許容するボーダーラインを個々の飼い主が決めるケースが増えている気がします。昔は周りの人に迷惑をかけないようにしつけるという意識だったのが、許せる範囲によってしつけの内容が決まるというか、飼い主の判断で他の人から見たら問題行動に見えることも愛犬の個性として許容するケースが出てきている気がします。
“犬嫌いな人”の気持ちを想像できる?
大崎:家族意識の話と少し関係があるかもしれませんが、最近、公園や街中で犬をリードなしで散歩させているペットオーナーをよく見ます。場所によっては条例違反になるので問題なのですが、「うちの犬はしっかりしつけているから大丈夫」という思いこみでリードを外していると思うのですよね。このあたりどう思われますか?
渡邊:私もたまに見かけます。見ていると、確かにペットオーナーの言うことをよく聞いているんですよね。でも、動物であるということは意識しておくべきだと思います。盲導犬・介助犬などの仕事犬は、プロの方がしつけをしていて仕事中は何があっても動じません。でも、仕事でないときは普通にやんちゃだったり、はしゃいだりするそうです。このオフ時間がとても大事なんでしょうね。外ではいろいろなことが起きます。しつけているからどんな状況でも大丈夫との思いこみは持たない方がいいですね。
肥山:昔はしつけに厳しい飼い主ほど、リードもしっかり付けていたと思います。これも家族意識が強まったこととつながると思うのですが、本来なら犬が苦手な人やアレルギーを持っている人のことも考えるべきなのに、ペットのことを人間と同じ目線で考えていると、そこまで想像ができなくなってしまう。
渡邊:家の中や家庭の空間であれば、家族と同じであることはとてもすてきなことです。でも、外へ連れて出たときに意識を切り替えられるかどうかですよね。ペットを飼っていない人や苦手な人の気持ちにも配慮しないと、本当の意味での“人とペットの共生”は実現しないと思います。一人でも多くのペットオーナーが、できるだけそういう意識を忘れないことが大切ですね。
肥山:忘れてしまう気持ちも分かるんです。私もペットを飼っていると動物であることを忘れる瞬間はありますし、常に意識するのは難しいと思うんです。でも、やっぱりどこかでふと気付くことが大切で、しつけもその意識にひもづいたものであるべきではないでしょうか。
大崎:そういった意識づくりは、ペットオーナー同士で協力し合ったり、ペット産業に携わる人たちでフォローしていけるとよいですよね。次回も“人とペットの共生”を軸に、ペットオーナーにできること、事業として後押しできることについて、お話を聞かせてください。
※対談後編は12/17(水)に更新予定です。