ワカモンのすべてNo.21
新しいコミュニケーションのカタチ、
「全方位ウケ」意識とは?
2014/08/06
若者と社会がより良い関係を築ける未来。その方向性を探るべく、学生たちの生の声から「若者たちの今」を切り取るワカモン・リアル。SNSを日常的に使いこなし、「1対大勢」のコミュニケーションを主流とする若者。
人とのつながりが多様化する中で、彼らはその都度状況に応じて、異性から、同性から、社会から、いわば「つながっているみんな」からどう見られるか=「どうウケるか」を意識しながら行動している。ワカモンでは、そのような「つながっているみんなからウケたい」マインドを「全方位ウケ」と定義。
今回のワカモン・リアルでは、そんな「全方位ウケ」を切り口とした若者特有のコミュニケーションの実態を、「ウケ」に敏感な関西の大学生へのヒアリングから考察する。
コミュニケーションツールの使い分けで「内」と「外」をプロデュース
今回、調査に協力してくれたのは関西の大学に通う男女4人。リアルなコミュニケーションの実情に迫るべく、まずは彼らのコミュニケーションに欠かせないSNSの使い方から、「ウケ」の感覚を探ってみた。
「使用頻度でいうと、LINE>ツイッター>フェイスブックです。投稿する内容も使い方も違いますけど」と話すK君。
SNSなど、メールや電話以外だけでない、さまざまなコミュニケーションツールの登場により「つながり」が巨大化している中で生活している彼らは、その先にいるさまざまな立場の相手にどう受け止められるかを考えながら、ツールごとにシェアする内容や会話のノリを変える。特に大学生の彼らが敏感なのは、「社会」に出て働いている人からどう見られているのかという「社会ウケ」の意識。
例えば、初対面の人と連絡先を交換するときも、「同世代の友達とはLINEのアカウントを交換するけど、社会人の方とはフェイスブックやGmailを交換する」とMさん。Uさんも「目上の方にLINEのアカウントを教えてくださいって言うと、「若いなー」って思われそうじゃないですか。だからフェイスブックやGmailを交換するし、フェイスブックに投稿するときも企業の方から見られていることを意識しますね」と話す。
学生ノリ(=「内」)の姿は、社会人(=「外」)には見せないのが彼らの基本。このようなコミュニケーションツールの使い分けの根底にあるのは、「社会ウケ」を含む「全方位ウケ」の意識。彼らは日常的に「内」と「外」からのウケ方を自己プロデュースしているのだ。それは、N君の言葉にも表れている。
「LINEは友達に連絡することが多くて、ツイッターは大学で一人ぼっちの状況をつぶやいたり、くだらなくて笑える写真や動画をアップしますね。フェイスブックは社会人の方ともつながっているので、そういう投稿はしない」
「モテ」意識よりも強い、「嫌われたくない」意識
「全方位ウケ」を読み解く上で鍵となるのが、「異性からモテたい」という意識。今、交際相手のいるN君と交際相手のいないK君にズバリ、「モテたい?」と聞いてみたところ、2人とも「もちろん、モテたいっす」と即答。しかし、合コンやクラブといった「出会いの場」に積極的に参加することはなく、行ったとしてもそのことを自ら友達に報告したり、SNS上でシェアすることはないと口をそろえる。
「合コンやクラブに行くと、まわりからチャラいと思われるんですよ。異性はもちろん、同性からもそういう目で見られるのは嫌なので気をつけています」(N君)
「本当は合コンって男女ともに需要があるんですよね。そういうイベントを企画しようと思っていた時期もありましたけど、みんなから『がっついている人』というレッテルを貼られて、結局モテないのでやめました」(K君)
モテたいけれど、周囲から「モテ」を狙っている人に見られたくない。出会いが欲しいけれど、出会いを求めているとは思われたくない。この考えには女性陣も共感。
「遊んでいそうな人や出会いの場にグイグイいく人は、同性から嫌われます。私は服装が派手で遊んでいる人に見られがちだから、ツイッターに勉強のことをつぶやいたりして、実は真面目なんだよっていうのをアピールしてます(笑)」(Uさん)
「合コンに行ったときも、SNSには女性だけで写っている写真を投稿しますよ(笑)。楽しかったことを伝えたいんだけど、合コンとは言わずに『飲み会楽しかった!』みたいにボカしたり」(Mさん)
「モテたい」意識以上に強い、誰からも「嫌われたくない」という意識。「全方位ウケ」の背景には、そういった彼らの周囲の反応に対する敏感さがある。また、「女子会の方がみんな服装は派手だし、かわいい服を着ます。合コンのときは逆で、まわりから浮かないように無難な格好をしていく」とUさんが語るように、特に同性からの視線を気にする傾向がうかがえた。
「鍵」をかける、という息抜き
360度の評価を気にしながら行動するという、はたから見るとストレスがたまりそうな「全方位ウケ」意識。しかし、彼らはコミュニケーションツールを使ってうまく息抜きをしているようだ。
たとえば、今回話を聞いた4人の学生のうち3人はツイッターアカウントを2つ以上持ち、特定の人にしか見せない「鍵付き」アカウントで本音トークを繰り広げている。そのアカウントを公開している相手は、「高校からの友達10人くらい」(Uさん)、「リアルでも濃い時間、長い時間を過ごした人だけですね」(N君)など、一部の親しい友人のみで、つぶやく内容も内輪ネタが大半。「ツイッターはフォロワーの目を気にしながら情報を発信するし、投稿するネタもみんなにウケるかどうかが基準。鍵アカやLINEのグループではそういうことを気にせずに、仲間内でこぢんまりと、はっちゃけています(笑)」とN君。なかには、「鍵なしアカウントでは『飲み会楽しいな♪』とつぶやいておきながら、鍵アカで『早く帰ってラーメン食いたい』と本音を漏らす人もおる(笑)」(Uさん)という、ちょっと恐いエピソードも…。
彼らは、「パブリック」と「プライベート」の感覚を、無理なく自然体で身に付けている。誰からも嫌われたくないという「全方位ウケ」意識のコミュニケーションをとる一方で、本音を漏らす場もSNS上に確保して、上手にストレスを発散しているのだ。また、「大学に入学してすぐ、フェイスブックやツイッターは誰が見ているか分からないから気をつけなさいと授業で教わった」とUさんが話すように、近年、社会問題化しているネットリテラシーに関する指導が、徐々に浸透しつつあることの証左なのかもしれない。
もちろん、仲間内での交流の場はSNSの外にもある。中学・高校を女子高で過ごし、現在も女子大に通うMさんはこう言った。
「女子大のキャンパスの中は、リアル『鍵付き』ですよ。みんなで協力し合って、大学内で話した情報が外部に漏れないように結束してる。愚痴も本音も、SNSでは言えない、文字に残せないこともたくさん話しています(笑)」
誰からも嫌われたくないという、オモテ面の「全方位ウケ」。そのウラ側に存在する、本音を発散できる場としての「内輪」。この絶妙なバランス感覚のもとで、若者たちのコミュニケーションは成り立っているのである。
【ワカモンプロフィール】
電通若者研究部(通称:ワカモン)は、高校生・大学生を中心にした若者のリアルな実態・マインドと 向き合い、彼らの“今”から、半歩先の未来を明るく活性化するヒントを探るプランニングチームです。彼らのインサイトからこれからの未来を予見し、若者と 社会がよりよい関係を築けるような新ビジネスを実現しています。現在プロジェクトメンバーは、東京本社・関西支社・中部支社に計14名所属しています。ワカモンFacebookページでも情報発信中。