Ad Tech Tokyo 2014 公式セッション レポートNo.1
人はどういうとき態度・行動変容する?
インプレッションとクリックの間にあるもの
2014/10/28
インターネット広告は、単体での効果は数値化しやすいものの、テレビCMのように「どのくらい費用を投じれば期待の効果が得られるのか」のモデルが確立されていないことが長年の課題になっている。9月16日~18日に開催されたアドテック東京2014では、これに注目し「ネット広告における健全な価値指標とは」と題したセッションを展開。異なる立場からスピーカーを迎え、現状と今後の方針が議論された。
インプレッションの価値=コンテンツの価値
モデレーターのビデオリサーチ 池田氏 |
池田:本セッションには、広告主企業から日本コカ・コーラでIMC(統合マーケティングコミュニケーション)を推進されている牛込さん、ネット広告専業代理店からアイレップの田村さん、マスを含めたプランニングをされている電通の楠本さん、そして今年話題の“ネットでテレビコンテンツを配信する”企画を手掛けられる日本テレビの沢さんという、さまざまな立場の方に登壇いただきました。
大手企業によるネット広告の導入や、いわゆる“刈り取り型”ではなくブランディング目的の活用などが出始めて、どうやってマス広告と並列にネット広告を捉えればいいのか、適切な価値指標とは何なのかが各所で議論されていると思います。まずはネット広告に精通されているアイレップの田村さん、現状について教えていただけますか。
アイレップ 田村氏 |
田村:ご指摘されたように、今ネット広告は「ブランディング系」と「パフォーマンス系」の2種類に分けて語られ始めていますが、本来はこの2つは一気通貫に考えるべきだと思っています。そこがつながっていないのが課題であり、どのように統合的にプランニングを進めていくのかについては当社でも取り組み始めている部分です。
パフォーマンス系だと「サーチ・閲覧行動」を起点に「クリック」、「コンバージョン」というサイクルに注目しますが、本来サーチの前には「興味関心や態度・行動変容」があり、さらにその前には引き金となる「インプレッション」があります。ブランディング系施策はここを狙うものと何となく思われていますが、人の気持ちと行動を考えると、本当は全部つながっているべきですよね。
池田:ブランディングとパフォーマンスはそもそもつながっていて、インプレッションがサイクルの起点になっていると。
田村:そう思います。また、1インプレッションの価値は何だろうと考えると、人はコンテンツを見にサイトを訪れていますから、やはりコンテンツの価値に相関するんですね。それを考慮した上で1インプレッションの価値を考え、その上でさらに1クリックの価値を考えなければいけないと思います。
「テレビ×デジタル」での効果を独自調査
池田:では、マス・デジタルを横断的にプランニングされている電通の楠本さんは態度・行動変容などを含めて、どうお考えですか?
電通 楠本氏 |
楠本:アトリビューション(購買までに接触した各メディアの貢献割合)の分析はマス広告でも難しいですが、テレビCMだとこれまでのノウハウから、何GRP投下すればこのくらいの認知が得られる、態度変容が起こるといった目安が分かっています。今、1インプレッションの価値というお話がありましたが、それが数値化されるなどして、インプレッションと態度変容の関係が分かると便利ですね。
池田:牛込さんはコカ・コーラでIMCに取り組まれていますが、実際の業務ではこうした指標をどのように扱われていますか?
牛込:当社では「IMCトラッキング」と呼んでいる、独自の調査方法で広告効果を測っています。テレビCMやネット広告の単体の効果ではなく、トータルでどのくらいのコミュニケーション効果を得られたのかを常に追っています。
池田:具体的に、どのような調査なのでしょうか?
日本コカ・コーラ 牛込氏 |
牛込:シングルソースパネル(同一人物のメディア接触データや購買データを統合的に調査する手法)と3PAS(第三者配信。広告配信をアドサーバーなどを介して行い効果測定・効率化すること)を使って、テレビのリーチと、アドネットワークや動画広告などデジタルのリーチの重複を検出し、全体のリーチを推測しています。この方法によって、例えばテレビではリーチできない層を確かにデジタルが補完していることなどが分かっています。こうした調査をキャンペーンごと、ブランドごとに続けて、ハイブリッドアロケーションモデルを構築し、テレビとデジタルの投資効率の最大化を図っています。
ただ、あくまで当社の内部の指標なので、業界共通の客観的な指標は絶対的に足りていないと思います。特にコンバージョンをどう上げるかという議論は1%未満のものを最適化する話なので、それよりはもっと上流の、取れていない99%の最大化を考える方が効果的なのでは、とも感じています。媒体社や広告会社の方々に、スタンダードを打ち立てていただきたいですね。
求められるネット上でのブランド形成
池田:そこはわれわれ調査会社も取り組むべき部分ですね。昨年度の上半期、ビデオリサーチではレクタングル広告(ウェブサイトの左右に配置されている長方形の広告枠)の認知率調査を実施しました。すると、一定のサイズで一定の場所にあったとき、およそ30%の人がキャンペーン後に掲載広告を覚えていた、といった結果が得られました。これを元に、レクタングル広告の認知効果を予測するモデルをつくれないかと考えています。
もちろん、これだけでは不十分かと思いますが、冒頭で田村さんが言われていたような、インプレッションからどう次の行動へのモチベーションが上がるのか、という部分がもう少し解明できれば、例えばプランニングの幅や深さも変わるのではと思います。楠本さん、いかがでしょうか?
楠本:僕らもパフォーマンスを求めるクライアントの場合は、オウンドメディアへの送客見込みやコンバージョンを地道に計算しますが、認知のところから分かると、ブランディングを含めて目的に応じてもっと的確に見通しが立てられるかと思います。
ただ、いろいろな事例を担当して分かったのは、ネット広告だけを出稿している場合はクリックやコンバージョンがなかなか上がらないんです。それがテレビCMを期間限定で出稿すると、その間にすごい勢いでウェブに送客されて、コンバージョンが上がるという現象が起こります。テレビはターゲティングが粗くても、やはりブランドのベースをつくるには変わらず大きな効果があるなと。
池田:では、牛込さんが紹介された「デジタルがテレビのリーチを補完している」ことを考えると、テレビを見ない層にはどうしたらいいのでしょうか?
楠本:ネットの世界でも、テレビCMに匹敵するようなブランドのベースをつくれる策を打っていくことが必要になると思います。それがビデオ広告だとするなら、テレビCMとビデオ広告とを合わせて投資対効果を予測するところまで踏み込まないと煩雑になってしまう。それは大きな課題です。
コンテンツとの親和性が広告効果を高める
池田:テレビとネットの関係という部分では、沢さんが担当されている日テレの企画に関連しますね。
日本テレビ 沢氏 |
沢:そうですね。われわれは今年1月から「日テレいつでもどこでもキャンペーン」と題して、特定の番組を地上波放送後に1週間、ネット配信しています。7月から、ビデオ広告の取り扱いも始めました。ネットの世界、特に広告にはまだ足を踏み入れたばかりですが、やはりこれからの時代、旧来のままでは立ち行かないという危機感があります。
企画のいちばん大きな背景は、若い人がテレビをリアルタイムで見なくなっていることです。彼らにどうコンテンツを届けるかが重要な課題です。
池田:実際に1年弱取り組まれてきて、どのような状況ですか?
沢:例えばネット配信している中に、現在日曜の晩に放送している「有吉反省会」というバラエティー番組があるのですが、ネット視聴者のアンケートでは一定数が「ネット配信で初めてこの番組を知った」と答えました。実際に、テレビを見ていない層に届いていることが分かりました。
そうした好調を受けて広告も導入しましたが、ただ、クリッカブル広告のような運用型には対応していませんし、今後もしないと思います。
池田:それは、なぜですか?
沢:われわれコンテンツをどうしても見てほしいんです。相当なコストと情熱、時間をかけてつくっているので、視聴しているその場からどこかへ行かれたくないんです。牛込さん、CMも一緒ではないですか?
牛込:クリックを経てオウンドサイトを訪れてカスタマージャーニーをしていただく、というコミュニケーションを設計している身としては、クリックを重視せざるを得ないかなと。ただ長期的に、CMなり動画なりを視聴しただけで認知やキャンペーンの効果が認められるようになれば、必ずしもクリック重視でなくてもいいのかもしれません。
沢:その日が早く来ることを期待しています。数値化されると定量的な成果ばかり追いがちですが、一人一人の人が向こう側にいることを忘れないようにしたいですね。
田村:ネット広告の世界は、効果が数値化できただけに、コンテンツを置き去りにして最適化を図るように進化してしまいました。本来、質の高いコンテンツがあって、それにふさわしい広告が載ってこそ広告の効果が最大化するのだろうと思います。
池田:皆さん、それぞれのご意見ありがとうございました。「健全な価値指標」を得るにはまだ模索が必要ですが、コンテンツとの親和性を加味しながらインプレッションからクリックまでの中間指標を探り、それを活用することでネット広告をより使いやすくしていければと考えています。