コンテンツマーケティングの時代No.3
どこから着手する?
コンテンツマーケティング
2014/11/25
企業のウェブサイトやSNSアカウントなどオウンドメディアを起点に行うコンテンツマーケティング。幅広い企業活動で効果が期待され、意識の高い企業では着々と成果を出しつつあると、本紙では過去2回にわたって紹介してきた。では実際に導入する際、どこから着手し、何を目標にすべきなのか? そのポイントを最前線に立つプランナーに取材した。ありがちな失敗例、成功する考え方を具体的に挙げリポートしていく。
「既存の広告手法を西洋医学に例えるなら、コンテンツマーケティングは、病気を未然に防ぐ東洋医学的なものだと私は考えています。同じコミュニケーションといっても全く性格が違う。よってコンテンツマーケティングを始めるには従来のコミュニケーションの考え方を根底から変えるような“コペルニクス的転回”が必要です。技術や手法の話から始めるのではなく、まずは関わるスタッフに考え方を理解してもらい、共通言語を持つことから始めることを提案しています」
『SHARED VISION』(宣伝会議)などの著書もあり、SNSにも詳しい電通ビジネス・クリエーション・センターの廣田周作氏は、コンテンツマーケティング導入の第一歩として、従来の「カルチャー」を変え、コンテンツマーケティング的な発想や思考を鍛える「筋トレ」が必要と訴える。
SNSなどを通じて生活者と直接触れる機会が飛躍的に増えたことや、情報の検索行為が当たり前のようになったことで注目されるコンテンツマーケティング。企業活動におけるポジティブな面とネガティブな面の両方が可視化される中では、以前のような情報流通の方法論は通用しないと廣田氏は断言する。情報は、川上(企業などの情報発信者)から川下(消費者)へではなく、ハブとなる生活者から生活者へと伝播するようになった。ソーシャルメディアマーケティングの専門家・斉藤徹氏(ループス・コミュニケーションズ社長)は、ソーシャルメディアが登場してから、組織の運営はオーケストラ型からジャズ型へ変わるべきと主張する。廣田氏も同様の認識を持っているという。
ただ、コンテンツマーケティングを導入する際、ジャズ型の組織やチームが理想なのは分かるが、企業の体制を変えるなど、現実にはすぐに実現するのは難しいのが一般的ではないか。そこで廣田氏が提案するのは、リーンスタートアップ。まずは小さく始め、小さな成功体験を積み重ねながらPDCAサイクルを回していく手法で、ITの製品開発やベンチャー企業などに用いられていることで知られる。ポイントはプロジェクトを進めながら目標や評価も見直すことで、ピボット(方向転換)も視野に入れる点。また担当者の熱意も重視される。
「専属の担当者が1人いればリーンスタートアップでコンテンツマーケティングを始められます。その担当者はITに詳しい必要はありません。 “その方面に詳しいから”という理由で選ばれることもありますが、大事なのはそのブランドや企業への愛。必要なITの知識は、半年くらい担当すれば身に付きますし、個別のソリューションとして魅力的なアウトソーシング先も出てきています。コンテンツマーケティングの運営は、長距離走のようなもので始めたらやめることができません。私たちも“やる気”を支援できますがパッションの部分は補えません」
メジャーメント、コンテンツ制作などは、アウトソーシングが可能に
では具体的にどこまでアウトソーシングができるかを、幾つかの事例を挙げて紹介したい。
まずはオウンドメディアやSNSで発信した記事がどのように拡散し、競合と比較してどんなコンディションなのかを可視化するメジャーメント(効果測定)ツールだ。「『ギンザメトリックス』はアクセス解析データ、キーワード順位、CTR(クリック率)などのウェブマスターツール(グーグルアナリティクスなどのアクセス解析ツール)のデータ、フェイスブックやツイッター、インスタグラム、ユーチューブなどのソーシャルメディアの指標、外部サイトからのリンク情報などを、統合的に見やすく管理することができます」(Ginzamarkets・カントリーマネージャー清水昌浩氏)
コンテンツマーケティングで陥りがちなのが、初めに目的や目標を明らかにしても、運営の段になると曖昧になったり、手段が目的化してしまうこと。リーンスタートアップは、限られた条件で紆余(うよ)曲折を経験にしながら目的を達成させる方法なので、目的や目標を見直すことをネガティブには捉えないが、それゆえに判断の正誤が見分けにくい。判断は客観的な事実に基づくのがマーケティングの大前提なので、その際にギンザメトリックスは役立つ。
また出版社や編集プロダクションなどでなければ困難とされていた面白いコンテンツづくり、そして運用面でも魅力的な選択肢が現れている。「当社は、コンテンツマーケティングの制作と、拡散・評価の二つをワンストップで提供できる点を強みとしています。制作は、海外を含めた豊富な事例などを基にプランニングや提案をするディレクターが、プロのライターや編集者集団と共に顧客のニーズに合ったコンテンツをつくります。そしてつくったコンテンツを拡散させ、それを評価し、さまざまなツールの提供も含めて継続的な運用をお手伝いすることが可能です」(イノーバ社長宗像淳氏)
自らがコンテンツマーケティング的な手法で営業活動をしていた経験も持つ宗像氏は、デジタルマーケティングの専門家が少ない中で運用をする際、何が課題になり、どうすれば克服できるかなどの知見を豊富に持つ。また長年のノウハウの蓄積を生かし、メンタル面も含めたトータルでのコンサルティングを強みとする。
コンテンツマーケティング時代の広告会社の役割と可能性
専任の担当者でリーンスタートアップし、こまごまとしたプロセスは極力アウトソーシングしていくことで、コンテンツマーケティング導入のハードルは下がっている。こうした影響もあり、戦略コンサルやITコンサルの分野からも、コンテンツマーケティングに参入する動きが出ている。では広告会社が提案できるコンテンツマーケティングとは、どんなものなのだろう?
「突き詰めて考えていくと、私たちは“コミュニケーションのコンサル集団”です。そのユニークさは、問題提起や課題発見などから見つかる左脳的なアプローチだけでなく、生活者や社会に向けたモノやコトのアウトプットまでお手伝いできることです」(廣田氏)
廣田氏が具体例の一つとして挙げるのが、ロッテの「リズミカム」。専用のセンサーが備わったヘッドフォンをスマートフォンに装着すると、かむ回数やリズムなどの計測データをアプリで管理できるウエアラブルデバイスだ。ロッテが広島市立大などと連携して開発したもので、当面は研究開発に活用し、商品化は今後の検討課題としている。このプロジェクトには電通も参画し、企画段階からプロモーション、そしてコンテンツマーケティングに携わっている。
「われわれが最も得意とするのは、生活者や社会に右脳的な“楽しさ”を提案できること。コンテンツマーケティングの時代に最も必要と考えるのは、人々を消費者ではなく、生活者として捉えること。商品を売りたい、良い印象を与えたいなど、消費してくれる対象として向き合っている限り、生活者との対話は生まれません。SNSによって可視化され、いやが応でも接触しなければならなくなった生活者の声と対話、つまりコミュニケーションを生み出すことに有効なのがコンテンツマーケティング。私たちがコミュニケーションの専門家として役に立てることはたくさんあると考えています」(廣田氏)
正しさよりも、楽しさ。楽しさは、より多くの生活者の共感を集める際にも、困難の克服にも有効であり、企業活動にも欠かせない。コミュニケーションの専門家としての電通は、さまざまな楽しさを提案し、企業活動を支援することができる、と廣田氏は語る。
自社他社問わずにコンテンツの動向を簡単に確認できます
清水 昌浩氏
Ginzamarkets カントリーマネージャー
「データ分析に慣れていない方は、グーグルアナリティクスなどのアクセス解析ツールを使いこなすのは困難です。また複数のツールで、それぞれにデータをチェックするのは手間が掛かる。当社の『ギンザメトリックス』はサイトへのアクセス状況、検索エンジンで上位表示されているか、ソーシャルでどの程度シェアされているかなどを統合し、見やすくしています。競合他社や競合商品のシェアされた(バズった)コンテンツや、自社と他社のキーワード順位の比較データを簡単に扱えます。コンテンツが検索エンジンやソーシャルメディアで見つけやすくなっているかをグラフ化し、自他社問わずに簡単に動向を分析できるのも特徴です。こうした点を評価いただき、最近はコンテンツマーケティングを使ったブランディングなどにもご活用いただいています」
自らの経験を生かしてコンテンツマーケティングを支援しています
宗像 淳氏
イノーバ 社長
「4年前、大手商社を母体にした会社でソフトウエアの販売をしていたころに、今から振り返ればコンテンツマーケティングを始めました。周囲にはデジタルマーケティングなどの専門家がおらず、ウェブサイトの立ち上げから、どう問い合わせを集め、そこから営業するかまで経験しました。イノーバではそれを踏まえて、さまざまなメニューを開発しています。コンテンツマーケティングの豊富なノウハウを持ったディレクターの元で、有名雑誌などで活躍しているライターや編集者がコンテンツ制作を行っています。9月からは、コンテンツマーケティング運用に特化したクラウド型ソフトウエア『Cloud CMO』の提供を開始しました。このツールは、コンテンツ制作、SEO対策、SNS投稿、アクセス解析といった一連のプロセスをワンパッケージで提供するもの。コンテンツマーケティングへの敷居をぐっと下げられると考えています」
自らの強み × 楽しさから生まれた
コンテンツマーケティング的企画
創業以来「かむ」ことに取り組んできたロッテ。同社が、かむことと健康の関わりを研究する一環としてかむことを測り、かみ方を記録するデバイスとして開発したのが「リズミカム」。広島市立大の谷口和弘氏や、東京歯科大のスポーツ歯学研究室などとの共同プロジェクトで開発し、当面は研究分野での活用を考えている。現在のところ商品化は未定。rhythmi-kamu.com/
コンテンツマーケティング時代の歩き方
オーケストラ型からジャズ型への変化、消費者ではなく生活者との対話、生活者や社会が求めるのは左脳的な正しさよりも右脳的な楽しさなど、本文で紹介した廣田氏のエピソードは、共通言語や価値観を共有する際の一例。実際には、相談相手に応じたさまざまなやりとりを重ねた上でスタートさせるという。大きな発想転換を求められるコンテンツマーケティングは、関係者との対話から生まれる信頼関係も成功のポイントといえるだろう。
用語解説
オウンドメディア
従来の紙での発行物なども含まれるが、現在の中心は自社が運営するウェブサイト(広義ではキャンペーンサイトも含む)を指し、自社のSNSのアカウントも含む。これらのメディアから情報発信するだけでなく、コミュニケーションすることがコンテンツマーケティングの基本的なスタイルとなる。
リーンスタートアップ
リーンは、直訳すると「ぜい肉をそぎ落とした」「無駄のない」の意。必要最低限の労力や投資で新製品や新サービスを生み出す手法として、ソフトやサービス開発、ベンチャー企業で用いられている方法だが、最近は大企業でも新しい社内ベンチャーなどの手法として注目されている。
PDCAサイクル
計画(Plan)、実行(Do)、結果の評価を行い(Check)、改善する(Act)という一連の過程。これの循環をPDCAサイクルと呼ぶ。元は品質管理の手法だが、プロジェクト管理やマネジメントにも活用されている。コンテンツマーケティングでは目的や目標の見極めなどに有効となる。メジャーメント
効果測定のこと。広義では、各種指標の評価方法を指すこともある。特に広告接触や態度変容など、従来のインサイト調査では効率よい可視化が難しかった分野でコンテンツマーケティングの効果が着目されるのは、メジャーメントが可能になってきたことが大きな要因といえる。
メジャーメントツール
サイトの訪問者の利用状況(滞在時間や訪問頻度など)や人気のあるページ、ユーザーが利用している機器(ブラウザー、OSなど)などを調べるためのウェブサービスやソフトウエア。最近はソーシャルメディアで「いいね!」やリツイートがどの程度行われ、どう拡散したかなどを調べることもできる。