電通スマプラNo.11
スマホは地方創生の救世主になり得るか
(ASOViEW!×relux×電通スマプラ)
2014/12/11
こんにちは。電通スマプラの山本悟史です。スマートフォンの普及と、通信環境というインフラの整備も手伝って、インターネットはほぼ日本国民全員に平等に手に入るものとなりました。地方にいても都心と同等に情報が手に入るばかりか、情報発信も等しくできるようになった今、地方のあり方そのものに注目が集まるようになっています。
安倍内閣が最重要課題として「地方創生」を掲げ、地域活性に大きな注目が集まる中、重要となってくる「観光の創造と活性化」。そして、この分野で救世主として期待されているのが、インターネット領域を中心としたスタートアップ企業各社による、観光・レジャー領域におけるさまざまな新サービスです。
今回、電通スマプラは、観光分野で注目を集めるスタートアップ企業を経営する二人をお招きして、スマホが変えた私たちの生活と未来について聞いてみました。
「3秒コンテンツ」と「キャッチフォト」でスマホユーザーの心をつかめ
山本:まず、スマホの使われ方やユーザー行動の変化について、サービス側の実態から見解をお聞かせください。
山野:私たちのアクティビティー予約サービスASOViEW!でいうと、アクセスのスマホ比率が7割近くになります。さらに予約になると、その割合はもっと増え、約8割がスマホ経由です。スマホシフトは、この1年半が特に顕著だと感じています。
篠塚:reluxに関しては、一流旅館・ホテルの宿泊予約という単価の高い商品を扱っているために少し特殊で、アクセス数でいうとスマホ経由が8割近いものの、予約になると7割がパソコン。流入経路の8割以上がSNSということもあり、通勤時や飲み会の席などでスマホで接触したユーザーが、予約検討の際にはパソコンで他サービスと比較しながら予約する、という流れだと捉えています。
山野:ASOViEW!は(reluxと比較して)単価が安いのと、20代ユーザーが全体の半分を占めるため、スマホでのコンバージョン(成約)を最重要視しています。その一つの策として、少し時代と逆行しますが、電話予約もできるようにしている。パソコンと比べてスマホの方が不便になったモノとして、個人情報フォームの入力が挙げられます。でも逆に、スマホだとそのまま電話で予約ができる。実際に電話予約対応をしてから、予約数が増加しました。
山本:今の二つの話は、非常に興味深いですね。
その場で即コンバージョンまでつなげるサービスと、トラフィックと予約でデバイスが分かれるサービスでは、ユーザーへのアプローチも異なるのでしょうか?
篠塚:私は「3秒」と「3分」というのを大切にしています。3秒で刺さるコンテンツか、3分以上のコンテンツの両極に絞る、ということです。reluxは特に、前者を意識して作っています。1画像1コピーで、いかに直感的に感動させられるか。まさに、スマホ時代ならではの情報発信の考え方です。特にトラフィックの8割がスマホですので、シェアされる3秒コンテンツをいかに多く用意できるかに重点を置いています。
山野:ASOViEW!のサービスを立ち上げた2012年春当初はパソコン志向で、体験の紹介はテキストを重視していました。対してスマホユーザーにとっては、写真とキャッチが重要です。雰囲気を感じて、あとは金額の確認。
「キャッチフォト」と呼んでいますが、クオリティーの高い写真でいかに心をキャッチできるかで、コンバージョンが圧倒的に変わります。
ちなみに、ASOViEW!のフェイスブックページで最もシェアされるものの一つが「青い海、青い空」です。日本人のハワイ好きが腑に落ちました(笑)。
山本:「スマホはキモチデバイス」というのが顕著に表れているわけですね。
お二人から「シェア」というキーワードがありましたが、シェアのされ方に特徴はありますか?
篠塚:「一生に一度は行ってみたい」という見出しがハマるシェアが多く見られます。見たことない、体験したことない、食べたことない、という「初体験欲求」が刺激されてシェアしているように感じます。
山野:全く同じですね。ASOViEW!の場合は、「こんなのやってみたい」ということになります。SNSでのシェアはサイトへの大きな流入源ですので、そこの感情の刺激を意識しています。
パソコンで「検索」の時代から、スマホで情報を「発見」する時代へ
山本:両社のサービスにとってスマホが重要であることは伝わってきますが、スマホ時代ならではのサービスと呼べる部分はありますか?
山野:ASOViEW!が提供する“アクティビティーの予約”に関しては、まさにスマホ時代だからこそ成立するサービスだと今は感じています。
スマホになったことで、インターネットのあり方自体が大きく変わりましたが、私たちのサービスでは、ユーザーが秘め持つニーズの喚起、つまり「こんなのあるんだ!」という未知との出合いの提供こそ、予約につながる最重要ポイントです。
欲求自体が顕在化していない場合、キーワードで検索できないので、検索に至らない。実際、これまで「すてきな思い出をつくりたい」とかで検索されてこなかったわけで、解決型エンジン、というのはキーワードがあるものにしか当てはまらなかったのです。
それが、スマホによってインターネット、そしてソーシャルとの関わり方が変わったことで、全く新しい“偶然の発見”が可能となり、アクティビティー業界も新たなフェーズへと進み始めました。
篠塚:今の話は観光全体に当てはまりますね。例えば、SNSのフィードだから見つけられた「竹田城跡」。日本国内にも、観光地としての可能性を秘めた場所は、まだまだたくさんあるということのひとつの証明になりました。スマホの登場によって手に入る情報量が飛躍的に増え、その結果、今までは知り得なかった情報を“発見”できるようになった。
まさに、SearchよりもDiscoverですね。
山野:スマホの普及が、「お出掛け」のニーズを増やしていくと感じています。
情報取得によって、人々のできることが増えます。今までは、パソコンあるいはガイドブックなどで、目的を持って「今週末、○○しよう」と検索していた。今ではスマホで簡単に情報に接するようになったことで、旅行とまでは意識していなくても、普段と違った週末の使い方=「お出掛け」が増えた。「旅行/観光」という指標で見れば、長らく微減を続けていますが、「お出掛け」はこれからも増えていくのではと期待しています。
篠塚:確かに観光客数は微減を続けているので、インターネットはまだ、観光業の救世主になれていないのかもしれません。しかし、竹田城跡など、地域単位で見ると、増えている場所はある。
それはつまり、スマホによって「発見性」がもたらされたから。知らない地域に出合うことが可能になったから。サービスの個別最適化は明らかに進んでいるので、それがビジネスに結びつく手応えは感じています。
山野:アクティビティー業界は、まだまだIT化されていないマーケットです。在庫が一元管理されておらず、リアルタイム予約ができないという大きな課題を抱えていました。
アクティビティーを運営する側は人的リソースが少なく、また、旅館やホテルと違って、サービスを行う際には外に出てしまうことが多い業界です。つまり、現地予約や電話予約をパソコンで管理しにくく、手間がかかる環境にありました。
しかし、スマホの登場によって、いつでもどこでも簡単に登録・確認ができるようになるので、受け入れ側の負担も減ると考えています。私たちのような予約サービスを受け入れ側も活用しやすくなったことによって、ユーザーの利便性が格段に向上し、アクティビティーとの距離を縮める土壌ができつつあるのです。
どんどん深くなっている人の欲求を埋めるヒントは、地方にある。
山本:スマホが旅行・観光業界を変えつつあることがお二人の話から伝わってきますが、ここからは、そんなスマホが地方創生の救世主になり得るかどうか、お考えをお聞きかせください。
篠塚:地方創生は、「定住人口の増加」か「交流人口の増加」のどちらかにかかっています。観光は後者。いかに多くの人を地方に呼べるか。
スマホは余暇のあり方を根本的に変えにいこうとしている。それは、観光にとってもポジネガの両面あると感じていますが、うまく使える地域は伸びるし、その逆もしかり。スマホによって勝ち組、負け組の地域がハッキリ現れてくると感じています。
山野:地方創生のキーワードである“観光”の構成要素は、移動、宿泊、遊び、食事、お土産の5つです。そのいずれにも言えることとして、現地でしかできない“ならではの体験”が求められている。つまり、ストーリーのある体験。そこに対するニーズは、どんどん深くなってきている。モノじゃなく、心の充足や体験でなくては欲求が埋められない時代です。そんな“体験”の提供には、地方がまだまだ活躍できると感じています。
篠塚:なぜ人が、ストーリーのある体験を求めるのか。人間は“WHY”に突き動かされるからだと思います。WHYがないサービスや体験、食事には面白みや深みがなく、行ってみたい!面白そう!にはたどり着かないと、私は考えています。
そして、その普遍的心理を後押ししているのが、インターネットであり、スマホです。“WHAT”は、情報として誰もが手に入れられる時代になりました。もはや普通のWHATでは、人々の心には届かなくなってきたのです。
山野:スマホの普及によって、より重要になったと感じているのが、「行こうよ」から「おいでよ」へのシフトという考え方です。うまく自分たちで魅力を発信できるところが生き残る。そうじゃないところは苦しくなる。スマホ≒インターネットの普及により、地域が、自分たちにしか発信できない情報を自ら発信し、シェアしてもらう時代に突入しました。物見遊山的な情報は、みんな知っているわけで、行動欲求は喚起されないどころか、シェアもされません。そうじゃない情報を自ら見つけて発信することが求められます。
山本:なるほど。スマホ時代ならではのWHATの先のWHY、つまりストーリーを感じさせる工夫が、人を呼ぶためのヒントということですね。
山野:「○○に行く」というその行為は、もはや結果が想像できてしまう時代です。そこには、ワクワクが存在しません。それは、SNS上でシェアされる情報の傾向からも読み取れます。
「ここに行ってきました」ではもうシェアされなくなってきた。「ここに行って、こんなことしてきました」という体験やストーリーの発信を、私たちのようなサービスだけじゃなく、受け入れ側である地域も意識していく必要があります。
篠塚:3秒コンテンツは、どちらかと言うとパッションで訴えるものですが、3分の方は、ストーリーとして刺さるかどうか。地域に人を集めるために、「いかにストーリーを伝えられるか」が重要になってきていて、そのためには、そこに思いがけない発見があるかどうかが、やはり重要なんだと思います。
スマホが地域の個性を際立たせる
山本:スマホの普及が地域の個性を際立たせ、その魅力を日本中の人に発見してもらうことに大きく寄与できると分かりました。インターネットの普及が、地域の均質化を推し進めると言う人もいますが、お二方はその逆だと捉えているということでしょうか。
篠塚:日本は、地方文化の色が明らかに違うんです。高知県と青森県は全然違う。体験、言語、食べ物、全てが違う。同じコンビニエンスストアがあっても、同じ街にはならないし、巨大総合スーパーによって商店街はつぶれても、根底の文化まではつぶれない。WHATの先にあるWHYやストーリーを見いだす動きが地域に広がれば、地方文化はもっと発展し、そこに訪れる人も増えると期待しています。
山野:確かに、情報が広がるようになったことで、成功例をまねしたがる傾向が見受けられるのも事実。すぐにそば打ち体験、ガラス細工体験を用意しようとするし、あちこちで大浴場をつくる話が持ち上がる(笑)。
われわれのようなサービスが、地域の良さを見つけるお手伝いをしつつ、いかに人を呼んでこられるか。自治体をはじめとする地域からの期待を、日々肌で感じています。
山本:では最後に、スマホが映し出す観光の未来についてお聞かせください。
篠塚:インターネットの個人所有が加速することにより、観光分野においても、「法人」から「個人」への流れがますます広がるでしょう。つまり、CtoCが加速していく、ということです。すでに海外では浸透しつつある「Airbnb(注)」などのように、ユーザー側の利便性がもっともっと追求されていくことで、新しい観光のあり方が生まれつつあります。それを可能にしたのはテクノロジーであり、スマートフォンなのです。
そして、人々が宿探しにAirbnbを活用する理由に、法人施設では味わえない「現地ならではの特別な体験を求めているから」ということが挙げられると思っています。まさしく、より深い体験価値を求めるようになってきている例の一つでしょう。
(注)個人が所有する住居施設を、宿泊施設として第三者に短期間貸すことのできるCtoCのウェブサービス。一軒家を1週間レンタルできたり、ホテルの少ない観光地に建つマンションの一室を借りられるなど、多様なニーズを満たすサービスとして活用されている。
山野:まさにその通りだと思います。私たちアクティビティー業界もCtoCには非常に注目しています。法律上の問題はありますが、例えばガイド。一般の釣り人がガイドしたり、農家のおじさんが芋掘り体験を開催したりする、といったことが今後可能になれば、地方の観光ポテンシャルはもっと高まると感じています。
山本:なるほど、まだまだポテンシャルはありそうですね。ぜひ両社のサービスで盛り上げていってください。本日はありがとうございました。