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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.46

ぼくの「美少年論」

2014/12/25

メリークリスマス!

年の瀬、街でジングルベルの歌が聞こえてくると憂鬱でさみしい気持ちになります。「もう今年も終わっちゃう」「また何もできなかった」

そういえば学生時代、クリスマスイブの夜は「カノジョ」がいない男どもで吉祥寺の焼鳥屋さんに大集合していました。オシャレなフレンチとかイタリアンを楽しんでいるだろう同級生をさかなに、おおいにねたみ、ひがみ、うらやましがっては熱燗をグビグビ。とても楽しかったけど、あの頃からクリスマスが苦手になったのかなぁ。

閑話休題。

ぼくの場合、電通のいわゆる「同期入社」は200名ちょい。会社に残っている人も大勢いますが、20年もたてば国会議員や会社社長、ミュージシャンなど進む道は人それぞれ。そんな転身組のひとりがカメラマンの大串祥子さんです。

大串さんのテーマは一貫して「秩序、制服、階級、規則、不条理にいろどられた究極の男性社会に潜入し、女性の視線から男性の美と謎を追い求めている」こと。

会社を辞めてロンドンの大学で写真を学んでいたときに選んだ被写体が、かのウィリアム王子も通った名門パブリックスクール、イートン校。ただ当時は何をやりたいのか(きっと話は聞いていたのでしょうが)、よく理解していなかったので「イギリスらしいすてきな題材ですね」くらいに思っていました。

ところが、それに続いたのがドイツ軍、そしてコロンビア軍麻薬撲滅部隊。そんな危険なところに単身乗り込んで写真を撮っていると聞いたあたりから、なんだかよく分からなくなって。オリンピック種目でもある近代五種の選手を「美しい」「美しい」と言っているのを聞いて、ようやく「そうか、本当に彼女は美少年を撮りたいだけなんだ」と納得したのでした。現在は拠点を故郷の佐賀に移して中国の嵩山少林寺などを駆け回っています。

美少年論

そんな大串さんが先日『美少年論 Men Behind the Scenes』という写真集を上梓。銀座ヴァニラ画廊で出版記念の写真展を開いたのでした。

テムズ川の深い緑の中、花飾り付きの帽子をかぶった少年、徴兵前後で少しだけ顔つきが変わったドイツの青年、動物のような筋肉を持ったアスリートの写真などが並ぶギャラリーを見ていたら、失礼ながらゲラゲラ、アハハ、笑いが止まらなくなっちゃいました。

要はこれ、『美少年論』という客観性を装っていますが、ひたすら大串さんが信じる「この男性、美しいでしょ?」「これはどう?」という主観のオンパレードなのです。真正面から剛速球でそんな話をされても困っちゃうのでありまして、たぶんある種の防衛本能から思わず笑っちゃった、身体をずらして弾丸を避けたのだと思います。そうでもしなければ受け止め切れないほどの強烈な思いがそこに表現されていたということでしょうか。

ちなみに周りの来場者は女性ばかりで、誰も大笑いなどしていません。「この唇の輪郭がハッキリ、クッキリしているところが若さの証拠ねぇ♥」とか楽しそうでした。

電通の先輩は「消費者の心になんらかの価値変容を起こさないものを『広告』とは呼ばない」とおっしゃっていました。そして大串さんの個展を見て、人の気持ちを動かすためには「強い思い」が大切なんだと改めて思い知らされました。「腹を割って話す」なんて言いますが、文字通り自分の腹の中を全部さらけ出すような覚悟です。きっとそこには他人に見せたくない恥ずかしいことも含まれているのでしょうが、ひるまず自分の思いを伝えれば、分析を通じて導かれた客観的で正しいお話よりも、はるかに相手の心を動かせるはずです。この写真展は、いま一度自分の内面、ぼくにとっての「美少年論」ってなんなんだろうと考えるきっかけになりました。

佐賀にお住まいがある大串さんは、個展開催中の14日間、拙宅に「居候」していました。滞在中は嵐のような毎日でしたが、彼女がいなくなると家の中がガランとして、妻も「大串さん、いなくなっちゃったね」とポツリ。今年のクリスマスが例年よりさみしく感じられるのは、きっと「美少年台風」のせいに違いありません。

後日、大串さんのお父様が育てた美味しい野菜が届きました
後日、大串さんのお父様が育てた美味しい野菜が届きました

ちなみに来年1月9日(金)~、大串さんの地元「佐賀新聞ギャラリー」でも個展が開かれるのだとか。お近くの方は、ぜひ!

どうぞ召し上がれ!