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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.45

「コンセプト」調査の愚

2014/12/11

寒い日が続きますが、休みの日は会社の仲間とテニスです。一日たっぷり汗をかけば身も心もスッキリ。ついつい「一杯いきますか?」。「いいっすね!」

テニス仲間
テニス仲間

この日は「じゃ、壮ちゃん家(つまり拙宅)で」となったのですが、こんな急のお客さまに役立つのが自家製保存食です。幸い、しばらく前に蓼科で仕入れた赤カブの酢漬けと白菜の塩漬けがありました。というより白菜の方はすっかり漬かり過ぎの古漬。発酵が進んで家の中全体が「漬物臭」で充満していたので、これを機に一気に使い切ってしまおうという魂胆でした。

それで初めてつくったのが「古漬白菜と豚バラの小鍋仕立て」。ドイツのザワークラウトと豚バラブロックを煮込んだのって、最高に美味いものの一つだと思うのですが、その日本版。漬物はふつうよりはやや細めにカット。容器にたまった漬け汁もたっぷり鍋の中へ。塩分はほとんどこれでまかなって、少量の日本酒と醤油、そこにスライスした豚バラ肉を入れて煮込んだ料理です。

これが自家製白菜の古漬
これが自家製白菜の古漬

みんな酔っていたためか、大好評。ぼくも飲んでいたので定かなことは申せませんが、まずまずの出来だったような気がします。

最初はみんな元気でしたが
最初はみんな元気でしたが
最後は床暖房にやられてオヤスミナサイ
最後は床暖房にやられてオヤスミナサイ
 

考えてみるとこの和製ザワークラウト、木の花屋(長野県)の宮城恵美子さんが提唱する「調味料としての漬け物」というコンセプトに一致するレシピでした。

漬け物を他の素材と一緒に炒めたり、混ぜたりするだけで、とてもおいしくなるのを ご存知でしょうか?漬け物は野菜の旨味はもちろんのこと、時間をかけて発酵や熟成をしていますので、おいしさの成分をたくさん含んでいます。漬け物を料理 に使うと、そのおいしさの成分が深い味わいを生み、調味料の役割を果たします。

「漬け物おかず」(家の光出版)より

「漬け物おかず」書影
「漬け物おかず」

この本には「らっきょうのポテトサラダ」とか「たくあんとアンチョビのサラダ」など面白いメニューが紹介されています。実際、いくつか食べてみたのですが、なかなか美味しいものでした。大学で応用生物学を学び、醤油メーカーで発酵の研究をしていた宮城さんらしい、ユニークな視点です。まさに「漬け物」の新しい事実を照らし出すサーチライトです。

しかし、生活者に対して次のようなアンケートを取ったら、どうでしょう?

興味】あなたは「調味料としての漬け物」に興味がありますか?

意向】あなたは「調味料としての漬け物」を使うと思いますか?

メニュー別意向】あなたは次のメニューをつくりたいと思いますか?
 ・きゅうり漬けのカシューナッツ炒め
 ・ピクルスと甘夏のサラダ
 ・梅入り干し柿の揚げ物
相当な漬け物好きでもない限り「とてもそう思う」とは答えないと思います。なぜならコンセプトは未来を指し示す言葉。そのプロジェクトに直接かかわっているプロフェッショナルにしか通用しない内輪の言葉であり、生活者を動かすために設計される「(広告)コピー」とは違うからです。

20世紀初頭の自動車業界を席巻したT型フォードの生みの親ヘンリー・フォードは「もしお客さまに何が欲しいか尋ねたら、きっと『もっと速い馬』って答えただろう」といったそうです。

にもかかわらず、いまだに多くの「コンセプト」調査が行われ、数多くの野心的な「視点」が殺されているのが残念でありません。もちろん市場調査は大切ですし、マーケティングに有益な情報をもたらしてくれることは確かです。しかし特に「大企業病」が心配されるような組織において、判断すべき事柄から逃げるための便法として調査が使われることも多い気がします。

このあたりに、ローカルのやる気にあふれた経営者と直接ビジネスをすることのダイナミズムがあるのかもしれません。

さて、次回は電通同期入社後に独立したカメラマン大串祥子さんの個展「美少年論」から、クリエーティビティーについて考えたいと思います。

どうぞ召し上がれ!