中村正人(DREAMS COME TRUE)
「夢の実現はいまだ途上。奇跡の一瞬を追い掛けて」
2015/03/19
僕の役割は、音楽の神様への情報提供とインフラの整備
DREAMS COME TRUE(ドリカム)は1989年にデビューしましたが、2000年ごろからは企業から依頼されたり、テレビ番組とのタイアップという形で曲をつくるケースが増えています。ドリカムはもともと、歌手・作詩家・作曲家として類いまれな才能を持つ吉田美和を世に届けるための一つのシステムとして生まれたグループですが、タイアップ曲などが多くなってきたのは、僕らが積み上げたキャリアを評価していただいた結果だとありがたく受け止めています。その分、新しい曲をつくるチャンスを授かっているという思いが強いですね。
もちろん、アーティストとしての創作意欲を最重要視して独自の作品をつくり上げ、多くの人をインスパイアしたいという制作・活動スタイルも大切にしていますが、いずれの形であっても、ドリカムの音楽をアウトプットするという意味では、ゴールは同じだと思っています。 吉田と僕の役割でいえば、まず音楽の神様が吉田に降りてくる。彼女の才能を考えると、そういう言い方がピッタリかと思います。吉田は音楽の神様と直接やりとりをしているんですけれど、彼女が音楽の神様と作品を完成させるまでに、神様に十分な情報を送り込んでおく、というのが僕の大きな仕事です。あと、例えば「こんな人がこういうことを言っていた」「あの作品のあの部分はこうなんだよ」といったアーティスティックな情報を与えて、人間・吉田美和のモチベーションを上げるための“インフラ整備”をするのも僕の役目です。
無償の愛を注ぎ、無償の愛に支えられて
素晴らしい才能には、その才能を表に出してくれる集団といいますか、素晴らしい器が必要です。僕は四半世紀の間、器をつくることでメシを食ってきたようなものです。器を器らしくつくるのに大切なのは、やはり「無償の愛」でしょう。僕は、音楽の神様と机の下で手を握ったりすることもあるので(笑)、きれいごとばかり言うつもりはありませんが、でも行きつくところはそこなんですよね。われわれアーティストだけでなく、企業人もそうでしょう。ものづくりに携わる人は、スペックがどうのこうのと言う以前に、自分がつくり出すものをこよなく愛し、まさに無償の愛を注いでいる。僕の、吉田美和という“商品”に対する向き合い方も同じです。もちろん、今のドリカムがあるのも、スタッフや関係者の方々の無償の愛に支えられてきたからだと思います。
あとは、花開く才能を、ファンの方々にどう伝えるか。今年は、4年に1度のペースで開催してきた「史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND」の年です。1991年のスタートから今回で7度目になりますが、やはり“ライヴ”は僕らの原点です。コンセプトでもある「史上最強の移動遊園地」の由来は、かつてロンドンで仕事をしていたころに見た移動式遊園地です。週末になると、小さな人力観覧車などが何もなかった空き地に突如として現れる。そこに、家族や恋人たちが集まって、思いっきり楽しく過ごし、月曜になると遊園地は跡形もなく消えてしまう。そんな、まるで夢でも見ているかのようなライヴをやりたいと始めたのがワンダーランドです。ライヴは1秒ごとに奇跡が起きる夢の世界ライヴの醍醐味(だいごみ)は、CDや音楽配信の世界では味わえません。だから、毎回多くのファンの方々が来てくれるのだと思いますし、われわれも勉強し続けています。
95年のワンダーランドでは、マイケル・ジャクソンの映画の監督も務めたケニー・オルテガ氏に演出を頼んだのですが、本物のエンターテインメントをつくり上げるには忍耐も必要なことを学びました。プロデューサー的な立場でいえば、コストパフォーマンスも気にはなりますが、やはりファンの喜ぶ顔が見たい。4年に1度の大イベントのためには、周到な準備もしなくてはいけない。最高のパフォーマンスは、最高の訓練の上にしか成り立たない。そんな苦労を積み重ねていると、音楽の神様が降りてきて、奇跡を起こしてくれる。ライヴというのは、ファンの方にとっては、1秒ごとに奇跡が起きる夢の世界。僕はそう思っています。その「毎秒の奇跡」を期待して大勢の人が集まってくれる。だからこそ、僕らはライヴを大事にしたいのです。
ただ、アーティストとしての僕らの夢の実現はまだまだこれからだと思っています。今、CDは10万枚売れれば、昔の100万枚ともいわれる世の中ですが、僕の夢は500万枚のヒットを出すことです。グラミー賞だって本気で狙いたいと思っています。90歳代でグラミー賞を取った人もいますから、僕だってまだ頑張れる。吉田は300歳、400歳になっても、クルクル、クルクル回っていると思うんですね。よぼよぼのおばあちゃんになってもミニスカートはいて、歌い、踊っていたいというのが彼女の目標なので、それを目指してこれからもやっていきたいと思います。