【富山】鋳物をリ・デザインする。
2015/04/27
日本のものづくりの原点、地域文化の象徴として、長く経済発展に貢献してきた伝統工芸品産業。昨今では、生活様式の変化による需要の低迷や、生産者の後継者不足など多くの課題を抱えています。
そんな中、「伝統工芸×デザイン」をテーマに優れた日本のものづくりと電通のアートディレクターがコラボレーションして作品を制作し、新たな価値を世界へ発信するプロジェクト「Good JAPAN Innovation」が立ち上がりました。
第1回は、富山県の鋳物技術を使ったプロダクトのリ・デザインです。
ボディーに錫(すず)を使ったLEDデスクライト
富山県高岡市の鋳物の歴史は、慶長16年に加賀藩主・前田利長が7人の鋳物師を招いたことから始まりました。この400年以上続く鋳物技術が仏具製造産業を支え、現在にいたります。今回のリ・デザインは、富山の鋳物技術を使ったプロダクトで、錫製ボディーのLEDデスクライト『PELAMP』です。錫は簡単に曲がるという特性があり、引っ張ったり、握ったりすることで形状を変えられます。その柔らかさを機能と捉え、薄い錫の真っすぐな一枚板に仕上げました。自在に曲げて、何度でも形を変えることができます。
このプロダクト制作は、地域伝統産業の活性化に貢献したいという思いから、富山県の鋳物メーカー「能作」と、家具・インテリア販売会社の「米三」のコラボレーションで実現しました。そこで、能作の磯岩氏と梅田氏、米三の増山氏に、今回のプロダクト制作について電通関西のアートディレクター田中が訊きました。
デザインシティー富山には、もともとデザイン思考の素地があった
田中:今回このプロダクトを制作するにあたり、技術提供していただいた能作は、錫製品の老舗ですが、今回いきなりデザイナーから「こういう照明を作れないか」と依頼があって、拒否反応というか、やりにくい部分はありませんでしたか?
磯岩:能作は創業100年になりますが、現在の社長が元々別の業界出身ということもあり新しいものに抵抗がないんです。なので、どんな仕事でも断りません。PELAMPはシンプルに見えますが、実は直線を作るというのは難しいんです。しかし、時代に乗り遅れないためにはチャレンジが必要だと思っています。
田中:デザイナーからするとすごくうれしいスタンスです。僕は、職人さんが知恵と工夫で高いハードルを乗り越えてくれる瞬間が好きなんですよ。米三の増山さんには、プロジェクトの立ち上げから参加いただいていますね。この企画には、すぐに賛同いただけましたか?
増山:米三は167年の歴史をもつ会社ですが、元々は米や油を扱う食糧商、次に漆器の卸しと販売、そして家具小売業と約50年ごとに業態が変化してきました。そしていま、量販店から変化するタイミングなんじゃないかという思いがありました。また、富山県のものづくりに貢献したいという気持ちと、地域伝統産業とコラボして、デザイナーがものづくりをするという取り組みに共感しました。
田中:どちらの企業も、時代の変化を正面から受け止めていますね!
梅田:能作は、いま社員の平均年齢が35歳です。社長も今のメンバーが創業メンバーだと思っている、と言ってます。
田中:伝統工芸産業と言われているけれど、その技術を使って、若いメンバーと新しい領域で次のものづくりを考えているんですね。
増山:かつてインテリアは結婚や引っ越しのタイミングで数多く売れた時代もありましたが、いまや生活必需品ではなく、嗜好品。米三は、インテリアのキュレーションという形で、より人々の生活を高めていくような存在になりたいとと思っています。
田中: インテリアのキュレーションっていいですね。最近、富山はデザインシティーのように言われていますが、もともとデザインとどういう関わりがあったんでしょうか?
増山:古くから鋳物、銅器、漆器、彫刻、和紙などの伝統産業が盛んだったことや、「富山の薬」のパッケージなど木版画が盛んだった県なので、グラフィックデザインやプロダクトデザインの考え方の素地は昔からあったと思います。
田中:なるほど!デザインでまちおこしをしているのかと思ったんですが、そもそもデザイン思考の根付いた県だったんですね!今後、僕は「made in TOYAMA」のものばかり選んでしまいそうです(笑)。今後も富山県のものづくりを盛り上げていきたいと思っていますのでどうぞよろしくお願いします!次はなにを作りましょうか!
こうやって、地域伝統産業にどっぷり入ってみると初めて知ることばかり。今回の「PELAMP」は、彼らのようなものづくりへの意欲が高いメンバーに恵まれたからこそ生まれたプロダクトでした。富山県のものづくりのストーリーを知ることでさらに富山県が好きになりました!