【続】ろーかる・ぐるぐるNo.12
ぐるぐる思考 感じるモード②(価値判断せず受け入れる)
2013/08/08
アイデアをつくるための基本原理「ぐるぐる思考」の第一歩は「感じるモード」です。その目的はアイデアの材料(一般知識と特殊知識)を手に入れること。そして、その材料の取り入れ方には大きな特徴があります。
10年以上も前、ぼくが食品メーカーの担当をしていた時のこと。「九州地区ではなぜ本格中華調味料が売れないんだろう?」ということが問題になっていました。そしてその時、クライアントの方から言われたのが「東京にいても分からないだろうから、とにかく九州に行って調べてきてみて」。
それが2泊3日福岡ツアーの始まりでした。ごま鯖、いか、ウニ。玄界灘の魚介類が誘惑する中、来る日も来る日も朝から晩まで中華三昧。時に紹介してもらった地元の女性陣と一緒に、時に大学時代の友人家族と、時に一人で、計11軒の中華料理店を回り、浴びるように話を聞きました。
本格中華調味料が売れないということは、福岡の中華飯店もイマイチだろう」という予想に反して、いろいろなお店で美味しいメニューに出会えました。中でも博多にある明治37年創業の老舗「福新楼」自慢の福建炒麺は茶色い麺がもちもちで旨味たっぷり。ちょっと他にはない、クセになる味わいでした。
地元の人に「そんなに中華、食べないんでしょ?」と聞くと、みんな驚いたように「よく食べるよ!」と答えることも印象的でした。具体的なメニューを聞くと「博多ラーメン」に「ちゃんぽん」「皿うどん」。なるほど、中華といえば中華だけど…でしたが。
そこでいろいろ調べると、福岡の郷土料理「がめ煮(筑前煮)」のルーツはナマズや鯉を唐揚げして、野菜と炒め煮にした中華料理だった、という話を知りました。同じく名物「水炊き」も長崎生まれの料理人が香港から持ち帰ったという説がありました。熊本の太平燕(タイピーエン)しかり、ちゃんぽん・皿うどんしかり、鉄鍋餃子しかり。九州の人は中華料理を上手にアレンジして、郷土の食に仕立て上げる達人だということが分かりました。
そこでスーパーの店頭で、たとえば本格的な八宝菜ができる中華調味料をつかって美味しい皿うどんをつくろう!というアレンジ提案をして、売り上げを伸ばすお手伝いができました。
クライアントの方に導かれて知らず知らずのうちにやっていたのが、ぐるぐる思考の「感じるモード」でした。その最大の特徴は、アイデアの材料となる様々な情報をひとつひとつ正しいかどうか判断することなく、いったん受け入れてしまうことにあります。情報を真に受け過ぎることなく「まぁ、そんな話もあるんだね。とりあえず、ふむふむ」とカッコつきで受け取る感じというか。通常、ビジネスであれば「疑いをさしはさむ余地のまったくないほど明晰かつ判明に精神に現れるもの以外は、何もわたしの判断のなかに含めない」デカルト的な潔癖さが良しとされがちですが、それとは真逆です。厳密な調査データも、小耳にはさんだおばちゃんのつぶやきも、郷土史資料も、口にする一皿一皿も。九州の中華に関するさまざまな現実が、そのまま自分の身体の中にひとつの像を結んで浮かび上がるまで、あらゆるデータを平等に「とりあえず、ふむふむ」と受け入れ続けるのです。
単に客観的なデータだけでなく感覚的なものまでを含む一般知識と特殊知識が準備できると、次は「散らかすモード」の出番です。とはいえ次回は少し寄り道をして、名古屋の食文化とエスノグラフィーについてお話ししようと思います。
どうぞ召し上がれ!