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DMCラボ・セレクション ~次を考える一冊~No.34

3分でわかる『明日のプランニング』

2015/06/12

「テレビは死んだ」「SNSでバズらせろ」「コンテンツマーケティングだ」「テクノロジーの時代です」「やっぱ15秒CMでしょ」。ぜんぜん違う主張が、あちこちから聞こえてくる昨今のコミュニケーション業界。

で、本当のところ、どうなん…?を、ひとつ上の視点から、圧倒的に分かりやすくまとめてくれたのが、本書『明日のプランニング』(講談社)だと僕は思います。申し遅れました、電通関西クリエーティブの見市(みいち)です。数年前、コミュニケーションデザインを志すきっかけを下さった、恩師さとなおさんの新著をご紹介します。

(以下、エッセンスと感じた論旨を、端的にまとめました)

「情報をよろこぶ人たち」と「情報をウザがる人たち」でプランニングを切り分ける

2005年頃のネット社会の変化により、情報爆発が起こった。たとえば2011年のたった1年間で、人類史上の書籍情報量合計の「1921万倍」の情報量が流れた、というデータもある(P29)。日常的にネットを利用する人にとっては、まさに「情報洪水」。さらに2010年頃からのSNSの普及で、友人知人間の「仲間ごと」情報がネット上に溢れ、もはや世の中の情報は消化されきるわけもなく、ウザがられるようにまでなってしまった。

しかし!ネットを毎日は利用しない人が、5670万人(総務省情報通信白書2014第5章第3節 インターネットの利用動向)いる。日常的にネット検索を使わない人の数はもっと多い。いまだ国民の約半分は、およそ「情報洪水」とは無縁の生活。そんな彼らは、まだまだ情報をウザがることなく、喜んで受けとってくれている。

つまり、今この国には「とんでもない情報格差」が生まれている。これからのプランニングは、この「情報をよろこぶ人たち」と「情報をウザがる人たち」のどちらを相手にするかで、しっかりと分けて考える必要がある。

「情報をよろこぶ人たち」には、マスが効く

情報洪水と無縁の彼らは、そもそも回りに情報が少ないので、こちらからの情報を貴重なものとして受け取ってくれる。たとえば、テレビCMなどのマスアプローチがまだまだ有効。商品や企業に興味関心のない人であっても、表現のインパクトで振り向いてくれる。およそ1000万人規模だと思われる「マイルドヤンキー層」も、この情報をよろこぶ層に入ってくる。

「情報をウザがる人たち」には、友人知人が最強メディア

日常的にネットを利用するような人は、もはや情報をウザがる。こちらが伝えたい、たった「砂の一粒」の情報を伝えるなんてもはや不可能…。そんな「圧倒的絶望」の中でも、伝わるための方法がひとつだけある。それが、「友人知人」という最強メディア。

・情報が多すぎると、人は自分と価値観や環境の近い友人知人に頼る。
・有益な情報が探さずとも、友人知人からやってくる。
・SNSの普及で、友人知人つながりで情報がすばやく拡散する。
・スマホの普及で、24時間友人知人とつながった。

こんな強力なメディアは他にない。情報洪水の中でも、友人知人のコトバは、リアルで超関心事。その友人知人を通した間接的なコミュニケーションこそが、情報をウザがる人たちへの最強アプローチ。

態度変容を起こせるのは、ファンからのオーガニックリーチ

友人知人を通した間接的なアプローチといっても、ものすごくバズるウェブ動画! では、認知はとれても態度変容は起こしにくい。「面白い!この動画最高!」とはなるが、「買いたい!」にはなりにくい。ではどうしたら、態度変容を起こせるのか?

それが「ファンから友人知人へのオーガニックリーチ」。ファンの定義は、情報発信元に対して「興味関心を持っている人たち」から、熱烈な伝道者である「エバンジェリスト」まで幅広い。彼らが、彼ら自身のコトバで、友人知人になにかをオススメするのが「オーガニックリーチ」。オススメされた友人知人は「自分と価値観の近いこいつが言うんだから、きっと良いんだろう、買ってみようかな」と思う。このキモチを誘発するのが「砂の一粒」時代のコミュニケーション。

ファンからオーガニックな言葉を引き出す、7つの方法

ではオーガニックな言葉を引き出すには、どんな方法があるのか?

1. 社員という「最強のファン」の共感を作る。
SNSが普及したことで、社内の共感は、常に社外にも染み出している。

2.ファンをもてなし、特別扱いする。
新規顧客よりも、熱狂的なファンを特に大切にする。特別扱いこそが、彼らからのオーガニックリーチを生む。

3.生活者との接点を見直す。
たとえば、スターバックスのカップに書かれた、さりげなくも温かい手書きメッセージへの感動は生活者のファン化と、オーガニックリーチを同時に生み出せる。

4.商品自体を見直す。ファンと共創する。
次々と出る新商品は情報と同じくウザがられてしまう。GAPがファンの意見をもとにロゴを元に戻したように、ファンとの共創視点で考えてみる。商品開発など、直接的な共創も増えているが、その場合は熱狂的ファンを集めることが大切。

5.ファンを発掘し、活性化し、動員し、追跡する。
ファンの発掘方法は色々あるが、たとえば「この商品を友人に強く薦めますか?」を問うネット・プロモーター・スコア調査。点数の高い人にレビューを書いてもらったり、イベントに来てもらったり、定期的に意見を聞いたりして継続的な関係を築く。

6.ファンと共に育つ。ファンを支援する。
どんなに有名になろうとも、熱狂的ファンがあつまる秋葉原の小劇場から離れないAKB48。純粋にこの子を応援したい!という気持ちを、汲みとった様々な施策が実施されている。

7.ファンとビジョンを分かち合う。
CSRではなく、CSV(Creating Shared Value)。慈善活動的に社会貢献活動をするのではなく、しっかりと利益を出しながら、生活者とともに社会的な課題を解決する活動。

たとえばこの7つの方法がある。何はともあれ、これからはファンから「オーガニックな言葉を引き出す力」が、プランナーの大事な能力になる。

ただただ、伝えたい相手を想いやる

以上、大事なところ(だと感じる部分)だけ、僕なりにまとめてきましたが、本書では、もっと多くの考え方や具体例、また「とはいえこういうケースはこう」といった例外までたっぷりと書かれています。(たとえば、低関与商材なら情報をウザがる層でも直接リーチは有効、とか)。是非、今のご自分の仕事に照らし合わせながら、読み進めて頂くことをオススメします。

ちなみに本書ラストで語られるのが、ファンへ届ける表現の作り方。そこまでの話がファンへのアプローチの仕方だとすると、じゃあ具体的にどう語りかけるのか? という表現の作り方について。ここは読んでからのお楽しみ、ということで触れないでおきますね。僕はとても感じるものがありました。

さて、いろいろな手法が紹介される『明日のプランニング』ですが、さとなおさんがメタレベルで一番伝えたいことは、少々強引に言ってしまうと、実はひとつなんじゃないかと思います。

それは、ただただ、伝えたい相手を思いやること。
相手の喜ぶ顔を想像しながら丁寧にプランニングして、自分の言葉で語りかける。決して華やかではないけれど、そんな人間くさくて誠実なスタンスが相手を動かす、ということだと思います。仕事をしていく中で、ふと「広告だし目立てればいいや!」といった露出脳に陥りそうになるとき、いつもそこに立ち戻ろう。僕はそんな風に思いました。
(ちなみにこれは、ステマではなく「オーガニックな言葉」です)

【電通モダンコミュニケーションラボ】