ジョジョに仕事術を学ぶッ!『荒木飛呂彦の漫画術』
2015/06/26
ジョジョの奇妙な冒険。
このもはや説明不要の大ヒット漫画の著者・荒木飛呂彦氏が初めて明かしたのは、これまで語られることのなかった漫画術…。もうこの宣伝文句だけで読みたい気持ちが止まらない、『荒木飛呂彦の漫画術』(集英社新書)をご紹介します。
というのも、漫画術というタイトルだけで読まず嫌いになっている方が多いのではないかと思ったからです。もったいない。「やれやれだぜ…。」という承太郎の声が聞こえてきそうです。なぜなら、この本は次の時代を考えるビジネスパーソンに役立つヒントが詰まっているからです。
「漫画術?別に漫画なんて描いてないし描く予定もない」
「どうせクリエーターみたいな連中にしか関係ない本だろう」
「こう描けばヒットする?そんなうまい話あるわけない」
もしそういった気持ちで本書を未読スルーしてしまっていませんか。
漫画の本というより、生き方の本。
そして、物事の正しい見方を教えてくれる教養本。
そんな表現がピッタリなんです、実は。
漫画は最強の「総合芸術」
冒頭から壮大に持ち上げた感がありますが、もちろん漫画の技術に関する記述が基本になっています。目次を見てみると…
はじめに
第一章 導入の描き方
第二章 押さえておきたい漫画の「基本四大構造」
第三章 キャラクターの作り方
第四章 ストーリーの作り方
第五章 絵がすべてを表現する
第六章 漫画の「世界観」とは何か
第七章 全ての要素は「テーマ」につながる
実践編その1 漫画ができるまで
実践編その2 短編の描き方
おわりに
「やっぱり漫画家向けじゃねえかwwww」と思われるかもしれません。ですが、著者は一貫して常に物事の本質を見抜こうとしています。この本の中で長年培ってきた発見を惜しげも無く披露しています。
漫画とは何か?
面白いとは何なのか?
面白さはどこから生まれているのか?
そうした本質と向き合う姿勢が、著者の語る「漫画は最強の総合芸術」といった名言にサラリと込められているのですから驚きます。
漫画に隠された、面白さを生み出す基本四大構造
では、著者はどうやって漫画を作り上げているのか。
もちろん本一冊使って語られているので、たとえば最初の一ページの描き方や、キャラクターを具体化していく約60項目に及ぶ身上調査書、ヘミングウェイを分析して編み出されたストーリー表現術、「マイナスプラスゼロ」というストーリー構造の落とし穴…。挙げればキリがないのですが、大前提になるとも言える基本四大構造はマストチェックです。
実際に漫画を描くとき、常に頭に入れておくべきこと、それは、僕が漫画の「基本四大構造」と呼ぶ図式です。
重要な順に挙げていくと、
①「キャラクター」
②「ストーリー」
③「世界観」
④「テーマ」
(中略)
つまり、読者に見えているのは絵ですが、その奥には「キャラクター」「ストーリー」「世界観」「テーマ」がそれぞれにつながり合って存在しているのです。この構造は、いわば、ひとつの世界の営み、宇宙とも言えるのではないでしょうか。(P.47-48)
優れた仕事を連発するクリエーターには、独自の方法論がある。個人的にそう思っていろんな方の流儀をノートに書きためていますが、荒木飛呂彦氏のように順位までつけていらっしゃる方は珍しいです。
僕はここにとても感動してしまいました。王道と呼ばれる、時代を超えて愛される漫画の本質を徹底的に考え抜いたからこそ発見できた基本四大構造に、順位までつけるってちょっとおいマジか。どこまで突き詰めて考えてるんだろう…。
僕が冒頭で「生き方の本」と書いたのは、こうした著者の姿勢に震えてしまったからです。単に技術を磨き、知恵を巡らせるだけではない。どこまでも良いもののために本質を追求する姿勢…。
「おれたちにできない事を平然とやってのけるッ そこにシビれる! あこがれるゥ!」。これ、一度言ってみたかったのでここで述べさせていただきます。
アイデアは、尽きない枯れない無理しない
アイデア…。
日々打ち合わせにプレゼンに資料作成に、一日のうち何度触れているか分からないこの言葉。そんなアイデアの生み出し方についても語られています。
アイディアが尽きるというより、自分の興味が尽きるからアイディアがなくなるのだと思います。よいアイディアは、自分の人生や生活に密着しているのですから、興味がなくなってしまえば生まれなくなるのです。(P.229)
だからこそ常に何かに興味を持ち、素直に周囲の出来事に反応していく。自分が興味ある分野を限定することなく、外れたものも無視しない。簡単なようで難しいことです。でも、本質だと思います。
アイデアに追われる毎日の中で、ついついひねり出そうと無理しちゃいそうになる自分の心に響きました。どこまでも本質から外れない、そんな荒木飛呂彦先生が描いているのだからジョジョは永遠に王道なのだな、としみじみ感じます。
王道へと続く「黄金の道」を学んだら、目指すはその向こう側
本書で語られる方法論は、いわば時代を超え、誰からも愛される王道漫画へと続く「黄金の道」です。そんな企業秘密をなぜ明かしてしまうのか。
はっきりとここで言っておきたいのは、「黄金の道」とは、「漫画の描き方」のマニュアルではありません。
(中略)
僕が「黄金の道」として書いたことをそのまま実践しても、そこに発展はありません。
この『漫画術』を土台にして、さらなる新しい漫画や、パワーアップした漫画、あるいはまったく違っていたり、とてつもなく正反対の、この本を無視した漫画でもよいでしょう。そういったものをみなさんに生み出して欲しいと思って書いた本なのです。(P.280)
終わりに書かれた言葉は、あくまで漫画家を志す人へのメッセージです。でも、王道を目指し、「黄金の道」を編み出し、今いるところより先へと進歩していく姿勢はどんなビジネスにも共通して求められるものなのではないでしょうか?
自分自身、広告という漫画とは全く違う分野に身を置いています。
でもこの姿勢は心から尊敬できます。
荒木飛呂彦先生は、漫画を描き続けて40年。しかもこの密度で毎日を送っておられる。いつかそんな境地にたどり着けることを信じて、折にふれて何度も読み返したくなる一冊です。