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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.7

事例:瀬戸内の鯛

2013/05/30

明石ダイの美味は天下の定説で、あえて説明する要を認めない。(中略)刺身によいのは500匁から700匁までの雌にかぎる。それも肛門より頭の方へ、幅2寸くらいのところが特に味が優れている。
 — 魚谷常吉『味覚法楽』

敗戦、戦後、旅、春、明石鯛。長かった戦争の苦しみ、悲しみ、不安、そんな諸々の迷いの中からハタとわれに返った気付薬。
 — 辰巳浜子『料理歳時記』

天然と言っても色々ある。明石の瀬戸や鳴門海峡の荒潮で育って身の引きしまった、両手にどしり載るくらいの大きさの真鯛が最も望ましい。これが瀬戸内海から段々に姿を消している。(中略)しかし、此の種の内海の真鯛でないと、潮のほんとうの味は出ない。
 — 阿川弘之『食味風々録』

 

脳みそのシワをのばしたくなったら、高松へ。朝は散歩がてら讃岐うどんで、お腹がすいていたらうどん3玉にレンコンのてんぷら。昼はテニス。日が暮れたら地酒で乾杯。翌朝は二日酔いをさますために散歩して讃岐うどん。多少の頭痛もネギと天かすに七味でバッチリ。雨も少ないし空気も穏やか。これを何日か繰り返していると、身も心もの〜んびり、ツルツルです。

 

47CLUBで見つけた讃岐うどん。通常、土産などで販売されるのは「半生」タイプですが、これは「生麺」。日持ちはしませんが旨いです。

 

 

中でも大切なのが晩酌のつまみ。高松は漁師のおかみさんがリアカーを引いて街中で魚を売る「いただきさん」という文化があるほど海が近い町。驚くほど太い穴子、通称「べえすけ」を白焼きで。マテ貝は炒めて。時期によっては鱧が吃驚するほど手軽に買えるので身はしゃぶしゃぶに、内臓はソテーで、アラで御吸い物を。身の厚いハリイカはとろり甘いし。

 

これぞ、べえすけ!

 

 

 

しかしなんといっても極めつけは瀬戸内の白身でしょう。明石鯛ほど名前はなくても同じ海で獲れた魚の実力はまさに折り紙つき。近所の魚屋で見繕ってもらった鯛を皮目は湯引きで松皮造りに、アラは焼いて、子は炊いて、嗚呼!
思い出すだけでもよだれが止まりません。

今年のゴールデンウィークもこんな調子で魚屋さんと話をしていると「きょうは刺身にするなら天然モノより養殖が良いよ。ちょっと値は張るけど」。

今まで同じことを耳にしても聞き流していました。せいぜい「養殖の方が脂がのっているっていうんでしょ? でもやっぱり天然モノが自然な鯛らしい味わいなんでしょ?養殖の方が高いなんて、ご冗談を!」と思っていたのです。

ところが魚屋さんのお話はだいぶ様子が違いました。「最近は技術が格段に進歩して、頑張っている生産者の養殖鯛はとても品質が良い。狭い生け簀でストレスまみれだった昔のものとは別物。だから季節によっては天然より高い値がつく養殖も、別に珍しい話じゃない」というのです。(しっかり高松弁でしたが、たしかにこんな内容でした。)

 

 

鱧は山盛りで千円ちょっと。

 

 

 

海の恵みで生活しているからこそ「獲りっぱなしの漁業」の限界も、「育てる漁業」に取り組む必要性も感じているそうです。
ここまで言われちゃうと、オススメに従わざるを得ず、養殖モノを買いました。

刺し身はぶりんぶりんで香りまで甘く、地酒がぐびぐび。妙な脂っこさや臭さはまったくなし。網で焼いた兜もしっとりしていて、酔うほどに天然モノかどうかなんてどうでもよくなっちゃった。

翌朝。二日酔いの頭でぼんやり考えるには 「育てる漁業」は新しい視点。イノベーションを引き起こすかもしれないコンセプトです。問題はきっと「養殖モノはダメ」という消費者の思い込みを乗り越えられるかどうかに掛かっているのでしょう。

 

 

養殖鯛の松皮造り。素人の包丁でも旨かった!

 

 

 

でも日本の魚食文化は「獲りっぱなし」では未来がないだろうし。しっかり資源管理さえすれば天然モノを食べちゃいけないわけでもないし。あれだけ先人に愛された明石鯛が、阿川弘之さんも仰るように瀬戸内海から「姿を消して」しまったら後世に顔向けできないし…。しかしどうにも頭がガンガンするから、きょうは素うどん1玉にしよっと。

どうぞ、召し上がれ!