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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.68

ホンマグロより旨いまぐろ

2015/10/29

すっかりギンナン臭い季節です。この匂いをかぐと無性に静岡へ行きたくなります。静岡市清水区興津のあたりはかつて急峻な斜面を利用したみかん栽培が盛んでしたが、1980年頃から転換作物としてギンナン作りが広がったそうで、それを肴に地酒「國香」をキュッと飲みたいなぁ。戻りガツオにも間に合うかなぁ。寒くなってきたから、しぞーかおでんもいいなぁ。東京から高速バスなら3000円もしないぜ!という連想が広がるわけです。

閑話休題。清水港とは静岡市中心街を挟んでちょうど反対側。日本有数の漁獲高を誇る焼津で長年、マグロ卸をやっているのがマルイリさんです。社長の寺岡弘泰さんから「卸は卸で大切だけど、やっぱり生活者の皆さまに直接お届けする商品づくりをしたいんだよね」とご相談があり、ある日お伺いしたのでした。


 
マイナス60℃の冷凍庫

うちで扱っているのは冷凍マグロ。船から港に揚がったのを競り落として、卸すのがうちの仕事。冷凍マグロはマイナス30℃よりも温度が上がっちゃうと変質しちゃうから徹底的に温度管理しなくちゃいけないの。だから市場で競りをやるときもカチンコチンに凍ってるままでしょ。うちの連中は手かぎをひっかけた一瞬でその身の良しあし、いくらの値を付けられるか判断できるんだよね。もう職人技。のんびり一つ一つの魚体を吟味する生マグロの目利きより、よっぽど難しい作業ですよ。

セリの風景

一頭のマグロはね、必要に応じてうちの作業場で4分の1の身、通称「ロイン」に切り分けます。この電動のこぎりでサッ、サッ、サッとね。で、皮も削っちゃう。山田さんから「アラスカには『シャケ皮の財布』がある」って聞いたけど、まぐろの皮で細工物をつくるのは無理じゃねぇかなぁ。

もしかしたら「冷凍マグロ」をバカにしてる? 冷凍マグロはたしかに解凍にコツがいるけどね。ちゃんとしたマグロをちゃんと解凍したら、旨いよ。もう絶品。うちではミナミマグロ、バチ、キハダ、カジキ、ビンチョウとか扱っているけど、本当にマグロと呼んでいいのはホンマグロとミナミマグロだけだからね。

最近は子どもさんたちまで「大間のホンマグロが最高」とか言ってるけど、バカ言っちゃいけない。天然のミナミマグロはホンマグロに比べて赤身は甘いし、脂は濃いし最高だよ。ホンマグロの身ってちょっと酸味があるでしょ? そう思わない? ミナミマグロは赤いダイヤって言われるほど色がキレイな分、変色もしやすいから扱いづらいからかな、最近人気がいまひとつだけどね。蓄養の脂ぎったマグロなんかと比べるのがかわいそうなくらい旨いよ。

焼津には焼津港、焼津新港ともうひとつ小川港っていうのがあってね、地魚なんかはこっちに揚がります。焼津のあたりは昔から麹漬けが盛んだったりするから、銀ダラとかサワラとか金目鯛とか、そんな漬け魚も販売しているんですよ。

ホント、焼津の港、海の恵みに感謝です。山田さん、お酒飲むでしょ? 旨いミナミマグロを出す居酒屋があるんだ。もう店開いているかな、ちょっと早いけど行きません?


 

焼津ではつらつらとこんなお話を伺いました。ありとあらゆる情報をエポケーすることが商品開発の第一歩です。なにかヒントになりそうなお話はあったでしょうか? なかなか難問ですよね。次週は実際にぼくらがマルイリさんと開発した商品についてお話ししましょう。

どうぞ、召し上がれ!

※いま書店に並んでいる雑誌『Think!』(東洋経済新報社)No.55に8ページほど原稿を書きました。見かけたら是非手に取ってみてください。