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雑誌編集者に聞く、「編集力」とは何か?No.7

作家の分身、作品と一心同体を目指す

2015/11/02

コミュニケーション手法が多様化するにしたがって、情報を独自の視点で加工し発信する「編集力」の重要性が高まっています。その「編集力」の秘訣について、出版社の編集者と電通のプランナーが対談。それぞれの考える「編集力」を明らかにしていきます。

今回は、『ジャンプスクエア』の編集長を務める矢作康介さんと、メーカーのコミュニケーションプランニングやブランド構築サポートを行う電通ストラテジック・プランナーの外山遊己さんが、「編集力」について話しました。


あえてカテゴライズされないマンガ雑誌を

外山:小さい頃からマンガが好きで、『週刊少年ジャンプ』を愛読してきました。矢作さんは、週刊少年ジャンプの編集部を経て現職になられたと伺っています。

矢作:そうですね。1994年に集英社に入社して、18年間、週刊少年ジャンプの編集部にいました。ジャンプスクエアの編集長になったのは2012年からですね。

外山:週刊少年ジャンプとジャンプスクエアを読んでいると、作品の方向性や路線がだいぶ違う気がします。ジャンプスクエアはかなり攻めているというか、個性的な作品が多いですよね。このへんのすみ分けはどのようにされているのでしょうか。

矢作:ジャンプスクエアは、もともと「週刊では描けないものを描こう」と立ち上げた雑誌でした。週刊少年ジャンプにあるようなルールから、ジャンプスクエアは外れていこうと。これは初代編集長のときからやっていることで、今も同様です。カテゴリーも、ヤング誌でも少年誌でもないもの。マンガだけでなく、藤子不二雄Ⓐ先生のコミックエッセーを取り入れるなど、あえてカテゴライズされないように、いろいろやっていますね。

外山:ターゲットやカテゴリーを絞り過ぎないということですね。

矢作:はい、ですから読者層などもあまり考えていません。やっているのは、連載している作品を俯瞰して、足りないジャンルの作品を意識的に補おうとしていることですね。


作家が一番描きやすいポジションに合わせる

外山:本当に多種多様で幅広い作品が掲載されていますよね。そういった形で、矢作さんは多数のマンガ作品に携わられてきたと思います。その中で、編集者として心掛けていることはありますか。

矢作:作家さんは一人一人違って、タイプは人それぞれ。例えば、「来週のストーリーはどうする?」と編集者に相談してくる作家さんもいれば、編集者がアイデアを出すのを好まない方もいます。ですので、とにかくその人が描きやすいポジションに合わせることが大切ですかね。いろいろなピッチャーに合わせるキャッチャーの感覚かもしれません。

外山:まさにコミュニケーションが肝心ということですよね。しかも、読者は完成品を読みますが、編集者が読むのは完成前の最初の状態。そこから完成へ向けて手直ししていく作業にも、編集者のコミュニケーション力が重要な気がします。

矢作:面白いかどうかの判断は、読者の方もできるんです。ただ、面白くないときにどうすればいいかを提案できるのが編集者。面白くなければ読者の方は離れますから、そこはシビアに。作家さんにはハッキリと面白くないことを伝えて、直してもらいますね。ただし、締め切りの関係でどうしても直しきれない回もあります。その場合はきちんと課題を残して、作家さんと打ち合わせをして次回は100パーセントにする。そのコミュニケーションが鍵ですかね。

外山:作家さんとの信頼関係がないとダメですね。

矢作:作品の出来が悪いのは、編集者の打ち合わせのせいでもあるんです。だからこそ、とにかく作家の分身になって、作品と一心同体になることですね。マンガ雑誌は、あくまで作品という個人商店が集まったもので、作品同士がライバルなんです。ですから編集者も、「ジャンプスクエアの編集者」という意識ではなく「担当作品の編集者」として、作品を最優先する。そのためには、作品のテーマや方向性を共有して、作家さんと同じことが言えるようになるべき。それが「編集力」かもしれませんね。

外山:私の仕事もそこは共通する部分です。一番大切なのはクライアントであり、一心同体にならなければいけません。だからこそ、テーマや方向性をクライアントと共有することが重要だと思います。


早いサイクルの中で、メディアミックスを“待つ”意味

外山:もう一つ矢作さんに伺いたいのは、メディアミックスの考え方。ジャンプスクエアでは、いろいろな作品がメディアミックスされていますよね。

矢作:雑誌だけでは作品がなかなか広がらないので、コミックスからアニメ化という流れは積極的にやっていますね。どんどんメディアミックスが続かないと、ジャンプスクエアという名前も世に出なくなってしまいますし。

外山:特に最近のメディアミックスは、かなり早いサイクルでマンガ作品が他メディアへと展開されています。ジャンプスクエアの作品についても、雑誌掲載から短期で映像化するというケースは増えているのでしょうか。

矢作:その風潮は強く感じますね。ただ、メディアミックスは実行するタイミングが大切で、遅いのはもちろん、展開が早過ぎるのもダメなんです。あまり早くメディアミックスをすると、その企画が終わったときに作品の人気まで落ちることがありますから。無理に急いでやっても、作品のために良くありませんし。なので、私たちは作品が一番羽ばたけるタイミングまで待つようにしています。

外山:あくまでマンガ作品というベースがあって、その人気を最大化させるためのメディアミックスなんですね。だからこそ、ベストのタイミングまで待つのだと。

矢作:そうですね。最近の早いサイクルの中で「待つ」のはつらいですが…。とはいえ、もっとも重要なのは作品本体の人気。そういう意味でいうと、メディアミックスが早過ぎず遅過ぎないスパンは、大体2年なんですよね。マンガ連載の単行本が6巻分出たくらいの期間。ですから、私の場合は常に2年先を考えるようにして、読者が一番楽しんでもらえるタイミングまで我慢します。

外山:私たちは、むしろマンガ作品にコラボレーションをお願いする側なので、そういった作品側の思いをきちんと理解して、双方のメリットを作りたいですね。


時代の流れに“逆張り”することで、力がつく

外山:メディアミックスの形が増えているだけでなく、マンガ自体もメディアが多様化していますよね。電子書籍などがその代表だと思います。

矢作:電子書籍の登場は、大きな変化を生んだと思いますね。電子書籍は、雑誌やコミックと違って紙代がいりませんから、より低コストで作品を発表できるようになりました。紙だけの時代と比べて、低コストでいろいろな作品をたくさん出して、その中でヒット作が生まれれば…という流れになりましたね。

外山:そういったメディアの電子化が進む中で、マンガはどうあるべきでしょうか。

矢作:昔よりコストがかからなくなって、確かに作品数は増えたかもしれません。でも、それだけではマンガの全体的な質、レベルは上がらないですよね。むしろ全体量が増えて、面白い作品の数が昔と同じならば、読者が面白い作品と出合う確率は減るかもしれません。つまり、読者がたまたま手に取ったマンガを「つまらない」と思うケースが増えて、マンガから離れていく。その結果、本当に面白い作品は、かえって読者の手に届きにくくなるともいえます。だからこそ、最近の流れに“逆張り”する気持ちで、作品数を増やして広げるよりも一つ一つの作品の質を高めていきたいですね。

外山:メディアミックスにおける「早いサイクルの中でも待つ」のと同様で、こちらも「広げるのが主流の中で、広げずに高める」という“逆張り”なんですね。

矢作:やっぱりそうやって一本一本の質を高めていかないと、マンガも、それに関わる人たちも力がつかないと思うんです。そう考えると、時代の流れに逆張りできるかどうかも、マンガ業界における一つの「編集力」かもしれません。