米国発★トランスジェンダーが語る米女性クリエーター事情 「3%カンファレンス」開催
2015/11/06
広告界のクリエーティブディレクターのうち女性が3%しかいない状況を変革し、多様性によって創造性と利益を高めることを目指す会議「3%カンファレンス」が、10月末にニューヨークで開催された。約800人が参加した。基調演説には、長らく広告会社でクリエーターとして活躍してきたトランスジェンダーのクリス・エドワード氏が立った。
エドワード氏が自らの性を女性から男性に転換したのは20年前、父親がCEOを務めるボストンの広告会社「アーノルド」に勤めているときで、5年の間に計20回を超える手術を受けた。仕事でそれまでに培ったブランディング手法を総動員して自らの「ブランド再構築」を行うとともに、ジェンダーをテーマにした啓発活動も開始した。
「キャリアでより成功するために男性であることが役立ったかと聞かれれば、答えはイエスだ」とエドワード氏は語る。「クリエーティブ業界は男社会。自分がその中に入って内側から見て初めて、それが女性にとってどれほど居心地の悪いものかが分かった」と話す。
ある日参加した男性7人、女性1人のビジネスディナーでは、会の主催者が「フーターズ(ウエイトレスのお色気が売りのダイニングバー)がいい」と軽口をたたき、その後に皆でストリップクラブへ行った。「男社会」の一員となった新たな視点からエドワード氏は、このディナーで男性たちがただ一人の女性を意図的に疎外したり、不快にさせたりしたわけではないとしながらも、「無意識だからこそ問題」と指摘する。「こういう力関係が変化するためには、もっと多くの女性が広告業界に入り、長く続けることが不可欠。昔から男女の割合が同じだったら、こうした会話や行動は起きていないはずだ」と強調する。
自らが女性から男性になったことでエドワード氏は、「男性の場合、自分がやりたい仕事や昇給・昇進を得るためには、ただそれを願い出てみさえすればよいということに気付いた。それで全てが思い通りになるわけではないが、少なくとも自分を抑える必要はないということが分かった」と振り返る。女性だったときには、自分にそんな力があると感じたことはなかったという。
エドワード氏はまた、女性に対し「素晴らしいプレゼンターになる」ことを促した。エドワード氏はこれまでに50を超えるクリエーティブチームを率いてきた経験を踏まえ、「プレゼンテーションの場面になると、女性は常に男性に主導権を与えてしまう。クリエーティブの場だけでなく、売り込みの場でも活躍を」と女性たちを激励した。
「3%カンファレンス」ではこの他、休職していた女性の復職支援プログラム「リターンシップ」発足が発表された。さらに、元オールステート保険のリサ・コックレイン氏、北米AOLのアリー・クライン氏、北米イーベイのスージー・ ディーリング氏ら大手企業のCMO経験女性によるセッションや、R/GAのジェニー・テルマン氏らによる「女性クリエーターの求職活動」に関する討論なども行われた。
3%カンファレンスは、クリエーターとして20年のキャリアを持つキャット・ゴードン氏が、米国のクリエーティブディレクターで女性が占める割合がわずか3%であることを疑問視し、2010年に立ち上げた。年々注目を集めており、ニューヨークなど全米各地やロンドンにも進出。15年のカンヌライオンズでは、ゴードン氏は複数のセッションにパネリストとして参加した。ゴードン氏は「今や殆どの商品カテゴリーで女性が購買に至る決定権を握っているにもかかわらず、クリエーティブチームでは男性が優位という状況は広告ビジネスにおける愚かな自殺行為」と指摘する。