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コロプラと電通が位置情報を分析してみた

2015/12/17

今年の5月に、コロプラと電通が共同で位置情報マーケティングサービス「miraichi(ミライチ)」をリリースしました。今回は、マーケティング課題に対して位置情報ビッグデータがどのような示唆を与えるのか、そして「miraichi」の特徴や活用方法などについて、サービス開発・提供に携わるコロプラの酒井幸輝氏、電通の天海健一氏に教えてもらいました。

コロプラと電通の知見で高付加価値なサービスを開発

——コロプラといえばスマートフォンゲームのイメージがありますが、なぜ位置情報マーケティングサービスをリリースしたのでしょうか?

酒井:コロプラのスマートフォンゲームは多くの人に気持ちよく遊んでいただくために大量のデータをリアルタイムで分析し、ゲームバランスやイベントの調整をしています。ヒットゲームの背景にはセンスや開発力に目が行きがちですが、実はデータマイニングの環境や人員が充実していて「分析」が強い会社でもあるんです。

そうした分析力を生かして、KDDIと位置情報ビッグデータ活用事業をスタートさせました。初めは自治体向けだったんですが、小売や流通業向けに徐々にすそ野が拡大していく中で、電通のマーケティング知見が加わるとすごいサービスになるんじゃないかと始まったのが「miraichi」です。

天海:電通は、日々対峙する多種多様なマーケティング課題に対し、コロプラの位置情報ビッグデータ活用事業をどうクライアントに提供していくと良いか、という部分で本サービス開発のサポートをしました。

サービスをクライアントに説明する際も、コロプラのメンバーと電通のメンバーが一緒に伺うケースが多く、ビジネスパートナーとして協業しています。

酒井:電通との協業を通じて、一気にクライアントとの接点が増えました。我々が思いもよらない課題が位置情報ビッグデータで解決できたり、逆に位置情報ビッグデータでクライアントがこれまで気づかなかった課題が見つかったりと、日々活用の幅が広がっていると感じています。

人の動きを知り、人の特性を知り、次の打ち手に繋げる

——「miraichi」にはどのような特徴があるのでしょうか?

酒井:KDDIがauスマホユーザーから利用同意の上で取得した、位置情報ビッグデータを活用したレポーティングサービスです(※)。任意のエリアへの来訪者の出発地や、性別・年齢に加え、滞在時間や来訪頻度といった人々の移動傾向を時系列で把握することができます。また、対象エリアに来訪した人がその後どこに流出したか、といったことも分析できます。

※通信・通話したau基地局の場所やau端末の現在地情報を基に、誰の情報であるか分からない形式に加工したデータをKDDIの委託を受けたコロプラが分析し、電通のマーケティング知見を加えてレポートを作成する。位置情報ビッグデータが電通に提供されることはなく、また、個人を特定できる情報は一切含まない。

 

天海:滞在時間や来訪頻度も分析できるので、例えばそのエリアに習慣的に来ていた人たちが来なくなってしまった場合、その人たちを抽出して、一体どこにいってしまったのか、といったことも把握できます。

——具体的に、実際の分析内容について教えていただくことはできますか?

酒井:今回はせっかくなので、直近で大きな盛り上がりを見せた渋谷と六本木のハロウィーンシーズンの人の動きを例に「miraichi」で分析してみましょう。

天海:街はすっかりクリスマスムードなのでややアレですが(笑)。でも、あれだけ話題になるイベントですのでイメージしやすいと思います。

ハロウィーンの人の動きを可視化

酒井:まず、渋谷エリアに人が集まってきた時間を分析したのが<図1>です。

<図1 時間帯別に見た渋谷への流入者数 上:全体 下:20代>

酒井:普段(グラフ青線)は12時前後に一度流入のピークがあるのですが、ハロウィーン当日(グラフ赤線)は16時頃の流入がピークとなっています。この傾向は20代が顕著で、普段と比べると明らかに流入のピークが遅くなっていることが分かります。

天海:普段、ランチや買い物で昼過ぎから人が流入してくるというイメージは分かりますね。では、ハロウィーン当日渋谷に来た人達は、15時より前にどこにいたのでしょう?

酒井:渋谷訪問者が15時前に滞在した箇所を示したものが<図2>です。

<図2: 15時以降に渋谷を訪れた人が、15時以前に滞在した箇所>

酒井:港区、新宿区、中央区、千代田区、世田谷区など、別の場所で過ごしていることが分かります。

天海:渋谷以外の別の場所で、ランチや買い物をしてからの渋谷へのハシゴ、という層が一定数いるということですね。昼間用事があっても、ハロウィーンナイトは渋谷でと考える人が多いのは面白いですね。

酒井:次に六本木の流入時間を見てみましょう。図3です。

<図3 時間帯別に見た六本木への流入者数 上:全体 下:20代>

酒井:渋谷と同様に16時頃の流入がある一方で、22時頃にもう一回流入があります。

天海:ハロウィーンで盛り上がりが本番を迎えても、なお場所を移動しながら楽しんでいる人たちがいる可能性がありますね。特に20代の動きは顕著ですね。

酒井:20代について、エリア間の周遊分析をしたのが図4です。

<図4:2エリア以上周遊者の傾向(20代)>

酒井:渋谷・六本木間の周遊が多いことが見えてきます。

天海:当日の様子を思い出すともう渋谷は歩けない、人が多すぎて怖いなどを理由に渋谷から六本木に避難していることが考えられますね。あるいは、渋谷に来る前に違う場所をハシゴしているのと同様、違う友達と楽しむために場所を変えていた可能性もあります。実際にTwitter上の投稿を見ていると、どちらの層もいるようです。

酒井:流出時間分析も渋谷と六本木でしてみたのが図5です。

<図5 時間帯別に見た渋谷からの流出者数 上:全体 下:20代>

<図6 時間帯別に見た六本木からの流出者数 上:全体 下:20代>

酒井:六本木が終電間際の0時近辺に分かりやすく山があるのに対し、渋谷は20時の山がありつつ、流出時間は分散している傾向が見てとれます。調べてみると、六本木エリア来訪者の出発地は港区、新宿区、目黒区など近場から来ている人が多いんです。

一方、渋谷エリア来訪者は中央・総武線で千葉県船橋市や小田急線で町田市や神奈川県川崎市まで帰っている人がいて、終電が早い人が多いことが流出時間の分散に表れているようです。

天海:ハロウィーンが世間的な盛り上がりを見せたのはここ5年ぐらいで、その間にあったのはSNSとスマートフォンの普及です。電通ワカモンでも分析しているように、SNSを通じて複数のコミュニティーを持ち、それをさらに広げていく若者に見られる「キャラの使い分け」というコミュニケーションテクニックを使い、ハシゴしながら終電ぎりぎりまでハロウィーンを過ごした層がいるということが、実行動データでも示された形になります。

——具体的な分析内容のご紹介、ありがとうございました。企業のマーケティング課題の把握や次の打ち手を考えるのにも応用できそうです。

天海:一部報道であったように、特に渋谷は自然発生的に人が集まってくるため、盛り上がりのピークが何時から始まるのか読みにくいようです。こうした突発的なイベントもそうですが、近隣大型施設の出店や一次交通の変化影響などの環境変化、自店の改装や大規模プロモーションの効果をいち早くとらえ、対策を打てるのが「miraichi」の強みです。

酒井:そうですね、位置情報ビッグデータを活用すれば、例えば、同一商圏の競合店舗への集客状況も把握できてしまいます。市場全体を踏まえて、自店と競合店のシェア争いの状況を可視化できるので、状況把握の精度が格段に上がります。ゲームの運営でもそうですが、実施施策が成功したのか失敗したのか、それはなぜなのかを正しく把握できなければ、誤った打ち手を防ぐことはできないので、その点をご評価いただくことも多いですね。

次の打ち手に繋げる「miraichi」

——最後に、これからの「miraichi」の展望についてお聞かせください。

酒井:「miraichi」は、流通・小売業、鉄道業、テーマパーク運営や都市開発に関わる企業の多様なニーズを吸収しながら、日々進化しています。位置情報ビッグデータのポテンシャルの高さに我々のほうが驚かされることも多いですが、そうした活用事例の積み重ねがより多くのクライアントの課題を解決していく。そうした好循環をどんどん広げていきたいですね。

天海:位置情報だけでなく、スマートアンサー(コロプラが提供しているスマートフォン専用の調査アプリ)等のアスキングデータと組み合わせることで、さらに来訪者のインサイトに迫っていくことができるようになります。対象者の記憶に頼るアンケート調査だけでは把握しきれなかった生活者の実行動データで、思わぬ課題の抽出や発見があるケースが多くありますので、ご興味あれば、是非一度ご相談いただければと思います。