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ESG活動は企業価値にどう影響?ビッグデータから分析 「非財務価値サーベイ」

2023/12/05

企業経営において、今やESG(環境・社会・ガバナンス)の視点は欠かせません。とはいえ、ESG活動が企業価値にどのような影響を及ぼしているのか、把握しきれていない企業も多いのではないでしょうか。

電通電通国際情報サービス(ISID)、アイティアイディ(ITID)は、今年6月、ESG活動や企業イメージ構築などの「非財務活動」が企業価値に与える影響を、財務データ、ESG評価データ、イメージデータなどのビッグデータから分析する「非財務価値サーベイ」の提供を開始しました。

記事では、「非財務価値サーベイ」の独自性や分析から見えてくるものについて、サービスの開発に携わった電通の上西美甫氏と蟹江淳氏、ISIDの松山普一氏に聞きました。

※本記事は、Transformation SHOWCASE掲載の記事をもとに再編集しています

 

「非財務価値サーベイ」上西美甫氏、蟹江淳氏、松本普一氏

 

非財務活動が企業価値に与える影響を分析

──近年、ESG活動をはじめ、企業の非財務活動に対する注目が高まっています。今年6月にサービス提供を開始した「非財務価値サーベイ」は、どのようなサービスで、どのような経緯から生まれたのでしょうか?

上西:「非財務価値サーベイ」は、企業の財務データ、ESG評価データ、イメージデータという3種類のビッグデータを掛け合わせ、どういったESG活動が企業の財務状況や就職希望者の就職意向に影響を及ぼしているのか、どのようなイメージが企業価値に影響を与えているのか、についてロジカルに分析・可視化できるサービスです。特に、財務やESG評価だけでなく、企業イメージも交えて分析している点が、電通ならではのポイントとなっています。

「非財務価値サーベイ」の概要

私がこのプロジェクトに加わったきっかけは、ISIDがESG活動と財務の関係性を研究し始めたという記事を読んだことです。そこに、企業のレピュテーション(評判)やイメージデータを掛け合わせたら、電通グループとしての特徴を打ち出せますし、面白いサービスが生まれるのではないかと思い、記事内で取材を受けていた松山さんに連絡しました。

松山:私は、ISIDのオープンイノベーションに関わる部署で、主に研究開発を行っています。当初はESG活動と財務の関係性について研究していましたが、電通の上西さんにこの活動を共有した際に、ESG活動が就職意向におよぼす影響や、企業イメージを含めた分析をすると面白いのではないかという話になりました。

確かに、就職先を検討する際、私たちは「PBR(株価純資産倍率)がいいから」という理由ではなく、企業が持つイメージで「この会社に勤めたい」と選びますよね。また、BtoCの企業であれば、サステナビリティ活動と製品のイメージがひもづいていたほうが消費者に選んでもらいやすくなります。そこで、非財務活動と企業イメージの関係性も含めて可視化しようと、研究開発を進めていきました。

蟹江:私はITIDという会社のメンバーで、現在は電通のサステナビリティコンサルティング室に出向しています。ITIDは製造業向けのコンサルティングに強みのある企業ですが、ビジネスを展開する中で、製造業の開発部門に対して用いているコンサルティング手法が他業種にも幅広く応用でき、社会全体の価値創造に貢献できることに気付き、現在では幅広い業種や領域のコンサルティングを行っています。ESGは今後の企業経営で非常に重要になるテーマだと思って注目していたのですが、ISIDの松山さんが取り組んでいることを知り、相談して一緒に研究を始めました。その時の経験を生かし、電通に出向してサステナビリティを企業の成長へとつなげる取り組みに携わることになりました。

蟹江 淳(かにえ じゅん)
蟹江 淳(かにえ じゅん) 電通 サステナビリティコンサルティング室シニアコンサルタント。製造業/出版業/飲食チェーンなどのさまざまな業界における戦略立案/業務変革・BPR (ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の経験が豊富である一方で、タレントマネジメント、組織活性化など、人・組織に関わる問題の解決にも幅広く携わる。事業を価値創出プロセスと人・組織の両面から変革し、顧客の価値提供力向上を支援。近年はESG経営や地方自治体支援にも力を入れており、カーボンニュートラルや非財務資本の情報開示、地域企業のDX化といったテーマへの取り組みを強化している。2023年1月、アイティアイディ(ITID)より出向し、電通 サステナビリティコンサルティング室に所属

サーベイレポートとワークショップで企業をサポート

──このサービスを通して、企業は何を得られるのでしょうか?企業が今取り組んでいる非財務活動の評価が分かるのでしょうか?それとも、企業が今後力を入れるべきESGテーマが見えてくるのでしょうか?

蟹江:その両方です。

まず、企業が現在取り組んでいるESG活動については、どのような評価をステークホルダーから得ているのか、競合他社と比べてどうか、の2点が分かります。

今後力を入れるべきテーマを導くという点については、過去3年間で就職意向や消費者の購買意向を高めた企業が、どのようなESG活動に取り組んできたのか、あるいは、どのような企業イメージを高めてきたのかという分析がベースとなっています。

例えば、過去3年間でトレンドになっているESG活動があるとして、それへの取り組みがまだ不十分な企業に対して「こういうテーマでESG活動を行えば、今後成果が生まれるのではないか」といった仮説を提示しています。一方、先進的な取り組みを行う企業に対しては、まだどこも手を付けていない領域を見つけ出し、新たな可能性を提示することもしています。

現状を踏まえた上で、今までにない新しい取り組みに挑戦したいという企業に対しては、電通 サステナビリティコンサルティング室で、また違ったソリューションも用意しています。今後、2030年までに課題になりそうな25のテーマを提示して問題解決に取り組んだり、サステナビリティ領域におけるロードマップを用意し、業界別のサステナブルイベントを提示したりすることで、これまでにない取り組みを発想し、活動の幅を広げていただいています。

上西:「非財務価値サーベイ」を導入していただいた企業には、状況に応じてワークショップも実施しています。分析結果をもとに、企業として今どのような状態にあるのか図にプロットし、市場や競合他社の状況を踏まえ、どのような活動をすればいいのか話し合いながら検討します。定型のサーベイレポートとワークショップの組み合わせで、企業をサポートする仕組みです。

「非財務価値サーベイ」レポートの全体像

──「非財務価値サーベイ」では、ステークホルダー別の分析もできるそうですが、この場合のステークホルダーとは、どのような相手を指すのでしょうか?

蟹江:投資家、就職希望者、生活者・消費者の三者を指しています。どのようなESG活動によって企業イメージが上がり、ステークホルダーの評価が高まって、財務状況が良くなるのか。その流れを分かりやすく示すことができます。

これまでには、特定のステークホルダーに集中してマネジメントする顧客至上主義や株主資本主義の時代がありましたが、今後、サステナブルに事業を進めるには、多くのステークホルダーからの評価を高めることが重要です。ステークホルダー資本主義の実現に向け、「非財務価値サーベイ」を活用していただけたら、と思います。

ESG活動に取り組む企業の悩みに応える

──日頃から企業と向き合っている皆さんは、ESG活動における企業の課題について、どのように感じていますか?

上西:私は2020年から育休を取得していたのですが、その前後から、パーパス経営、ESG経営に対する企業の意識が大きく変化していると感じていました。育休から復帰後は、明らかにESG経営に関する相談件数が増えている印象です。ただ、「やらなければいけない」という義務感が先行する形で取り組むケースも多く、そのため、何をすればいいのかが分からず、お悩みを抱えている企業も多いようです。そういう肌感があったからこそ、今回のサービス開発につながりました。

上西 美甫(うえにし みほ)
上西 美甫(うえにし みほ) 電通 第3統合ソリューション局 シニア・ソリューション・プランナー。電通入社後、大手電機・住宅・食品メーカー、流通、スタートアップ等の営業担当を経て、2016年よりストラテジックプランナーとして活動。食品・飲料や化粧品など複数のクライアントのブランド戦略立案、コミュニケーション戦略立案の他、商品開発やサステナビリティコンサルティング等も実施。電通Team SDGs SDGsコンサルタント

蟹江:ITIDでは幅広い企業のコンサルティングを行っていますが、サステナビリティがテーマにあがることが増えていました。一方で、企業によって意識の差が非常に大きいとも感じます。サステナビリティの推進やESG活動は当たり前のことで、そこに取り組む上で何の差し支えもないという企業もあれば、サステナビリティ関連の部署はあっても周囲の理解が十分ではなく、事業の中心に据えられないという企業もあります。このように、両極端な企業とお話しするケースも増えています。

ESG活動への対応が遅れている企業は、今後経営が厳しくなっていくリスクが高まっていきます。そういった企業には「非財務価値サーベイ」の診断を受けて、自社の立ち位置をしっかり把握することをお勧めしたいですね。分析結果からは、今後進むべき方向性のヒントが得られるので、それがサステナビリティ推進へのきっかけになれば、と思います。

──現状では、どのような相談が多いのでしょうか?また、どのような課題を抱える企業にこのサービスを利用してほしいと考えていますか?

上西:イメージとしては、まずはESG活動にいろいろと取り組みながらも、どれに絞るべきなのか、どこに注力していくべきなのか、決めかねている企業の悩みにお応えしたいと思っています。近年は、日本企業でも非財務価値の創出に力を入れるようになってきましたが、まだ、どういったことに取り組めばいいのか、手探り状態の企業も少なくありません。そういった企業に適したサービスになっていると思います。

蟹江:財務に関わる事業は、ある程度マネジメントの手法が確立しています。ですが、非財務領域の事業をどのようにマネジメントしていくかは、まだ正解が見えていません。サステナブルな事業をマネジメントするには、多岐にわたるステークホルダーの評価に気を配る必要があります。幅広いステークホルダーの評価を知るためにも、このサービスをうまく活用していただければ、と思います。

松山:企業によっては、データ分析によって注力すべきESGテーマが分かっても、実現が難しいケースもあります。そういう場合には、どうすれば実現できるのか、因数分解をするように課題を振り分けていき、道筋を探っていくことがあります。データ分析だけではなかなか解決できない分野なので、企業と会話を重ねることが重要だと感じています。

社会価値を高めてこそ、経済価値が生まれる

──今後、このサービスをどのように発展させていきたいと考えていますか?

松山:私は主にデータ分析を担当していますが、企業によってそれぞれ抱えている課題が違うと感じています。今後は共通項を見いだし、「非財務価値サーベイ」をパッケージとしてソリッドなものにしていきたいという思いがあります。データ分析結果をうまく活用し、データ分析とコンサルティングで完結できる部分を増やし、ワークショップにつなげていけたら、と思います。

松山 普一(まつやま ひろかず)
松山 普一(まつやま ひろかず) 電通国際情報サービス(ISID) X(クロス)イノベーション本部 テクノロジー&イノベーションユニット オープンイノベーションラボ シニアコンサルタント。国内・国外の学術研究機関で経済学・統計学の研究者としてキャリアをスタートして2018年より現職。経済学とデータ分析のスキルを用いて、社会課題の解決のために研究開発に従事。近年は非財務データと財務データとの間の関係性の把握と、量子コンピューターを用いた数理最適化に興味があり、データやコードの海に溺れながら日々を過ごしている

蟹江:このサービスを、企業がESGマネジメントを定着させるための入り口となるソリューションにしていきたいと思っています。各部署が個別のテーマで取り組んでいるESG活動を、企業としてどのように取りまとめて意思決定に生かしていくのか。あるいは、どうやって改善のプロセスを回していくのか。その仕組みづくりの導入として、「非財務価値サーベイ」によるデータ分析を活用していただけたら、と思います。

上西:私が電通に入社したころにも、企業の社会価値と経済価値を両立させようという動きが見られ、CSR活動などが盛んに行われていました。ですが、リーマンショックが起き、そういった活動が一気に廃れていくようなケースも目にしました。私はもともと、こういった分野に関心があったため、その状況を見て本当にそれでいいのかと疑問を抱いていました。本来なら、企業は社会価値を高めてこそ、経済価値が生まれるはずです。

「非財務価値サーベイ」で非財務活動が及ぼす影響をデータで示すことで、企業にとっても、理想論だけでなく納得感を持って社会価値と経済価値の両立に取り組んでいただく推進力の一つになればうれしいです。今後は、より多くの企業に導入していただけるサービスに育てていければ、と思います。


※2024年1月1日に電通国際情報サービス(ISID)・アイティアイディ(ITID)は統合し、社名を電通総研に変更します。

 

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