【続】ろーかる・ぐるぐるNo.2
事例:尾花沢市の雪降り和牛 /前半
2013/03/21
「畜産家は毎日、牛の世話をしないといけないから、旅行にも行けないんですよ」と三代目を継いだ青年は笑っていました。
その和牛を試食すると(正直厳密な違いがわかるほどのグルメじゃありませんが)、たしかに脂がサラッと軽く、肉質がサクサクと心地の良いやわらかさでした。
「黒毛和牛の地域ブランドをつくりたい」と山形県尾花沢市から相談を受けたときのお話です。
通常、和牛ブランド名は「産地+牛」の構造です。ただ神戸牛・松阪牛を頂点とするピラミッドのなかにあって「尾花沢牛」はなかなか目立ちません。そりゃそうです。マジカルナンバー7±2 (※1) などといいますが、前沢牛、仙台牛、米沢牛、但馬牛、宮崎牛等々、いくら日本人が和牛好きでも、すでに記憶の容量を遥かに超えるブランドが世の中にはあるのですから。
新しいブランドをつくるなら新しい視点が必要だと思いました。
そんな時に山形JAみちのく村山の高橋さんが口にしたのが「もしかしてA5でピンクの黒毛和牛が一番美味しいと思っていますか?」という質問でした。
えっ!違うんですか?
高橋さんによればAかBかCかは肉付きの問題。食肉市場関係者が取引する際に一頭からどれくらい肉が取れるかを測る基準だそうです。でも肉をスライスしちゃえば一般消費者にはあまり関係がないお話ですよね。
そして1から5の評価は「脂肪交雑」「肉の色沢」「肉のしまりときめ」「脂肪の色沢と質」のランクですが、それはすべて「見た目」で決まっているのだそうです。
街角で「黒毛和牛最高級A5ランク」という看板を見ることもありますが、実際食べてみるとA5より旨いB2肉があるとか。
たとえばプロの目利きは「去勢(オス)か、経産か、未経産(メス)か」を見るといいます。同じA5ランクでも、肉質が柔らかい未経産は去勢牛よりはるかに高い卸値がつきます。
たとえば「血統」。西洋種の影響を受けず在来種の流れを守っているのは鹿児島県の口之島牛と山口県の見島牛だけだそうです。長年の品種改良の結果、すぐれた肉質を生む遺伝子は定まってきており、市場関係者はそれをきちんとチェックします。
たとえば「肉色」。健康に育った黒毛和牛はお肉らしい小豆色をしていたり。
どうも生活者は本当に美味しい和牛を知らないというか、少なくとも誤解しているように思えました。
(つづく)
※1 アメリカの心理学者ジョージ・ミラーによる発見。短期記憶の容量が7±2であること(日常的なことを対象にする限り7個前後しか記憶できないこと)を示した。