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世界のクリエーティブ・ディレクターに聞く2016年、 広告コミュニケーションの針路と挑戦No.3

クリエーティブを生かすのは顧客に信頼される人材力だ

2016/01/26

加速度的な進化を続けるテクノロジー。生活者と企業を取り巻く環境変化は、今年も続くのだろう。同時に広告クリエーティブの使命も、クライアントの根本課題へのコミット、ストラテジーとの一体化など、統合ソリューションに向け変化の過程にある。その一方でテクノロジーは、瞬時に国境を超える。広告祭では新興国の受賞が相次ぎ、業界の世界地図は拡散化した。 電通イージス・ネットワークの各地域を統括する3人のクリエーターに、“統合”と“拡散”の時代のクリエーティブと、2016年におけるチャレンジを聞く本連載。最終回は、昨年末にマクギャリーボウエンの全米CCOに就任したネッド・クローリー氏に登場いただく。

 

「Big Organizing Idea」への徹底した信念

──マクギャリーボウエンは2011年、アドエージ、アドウイークという米広告界の2大業界誌からエージェンシー・オブ・ザ・イヤーに選出されました。2誌での同時受賞というのは史上初の快挙で、大変話題になりましたね。ネッドさんはシカゴオフィスのCCOとして活躍していますが、米全拠点を統轄する「リーダーシップチーム」が昨年12月に発足したのに伴い、米国全体のCCOにも就任されました。どのような役割を担うのですか?

役職自体が新しく、まだペンキも乾き切っていませんが、今後をこっそりお話ししましょう。 「Big Organizing Idea」(マーケティングの全領域を包含するビッグアイデア)への確信が、私たちの哲学です。全拠点を通じてこの哲学を共有し、これが皆の原動力になるよう目を配ることが、私の使命だと考えています。 加えて、どのクライアントにも最も優秀な人材とソリューションを提供することを約束し、ネットワーク全体でより優れた作品が生まれるようにプッシュしていきます。 また、クライアント作業に全力を注ぐ私たちは、実績の事例PRが弱い。今年は、多くの方に良い作品を紹介できるよう、認知向上にも力を入れます。

──米国CCOという新たなポジションをネッドさんが担うことで、さらなる発展が期待されていると思います。ご自身では、マクギャリーボウエンの強みをどのように捉えていますか?

一番の強みは、私たちが成長し続けながらも「大きくなり過ぎない」点です。
少し矛盾に感じられるかもしれませんが、まず、成長することは必要です。ただし組織が大きくなり過ぎて、クライアントが求める深いコミットメント、現場レベルでの関係構築がおろそかになってはいけません。現場レベルでしっかりと地に足を着けていながら、同時にトップによるサポートやコミュニケーションも求められますから、その両方に応えられるよう努力しています。
当社をどこまで大きくしたいかとよく聞かれるのですが、今話したことができなくならない程度に、と答えています。これこそが私たちのアドバンテージだと思っています。

課題は一にも二にもテクノロジー

──膝を突き合わせて語ることができる関係性と、トップからのサポートの両方で、クライアントのビジネスの成長を達成する、ということですね。クライアントの信頼を得るには、何が必要でしょう?

信頼とは、真実から始まります。 業界での経験が長くなるにつれ、不思議と、正直でいることが簡単になってきました。最近、あるカットについてクライアントから要望があり、話し合いをしました。さまざまな会話が飛び交いましたが、要望に応えられないと確信した私は、正直にそう言いました。結果、無駄なやりとりは省かれ、現実的な解決策について真剣に議論することができました。

当社の幹部のほとんどは、大きなエージェンシーの出身です。時に、クライアントのことを、素晴らしい作品、賞の受賞、アートの創造を妨げる敵だと思わされる場面もあったでしょう。しかし、クライアントにとって何が本当にベストなのかに焦点を当てれば、全てはうまく収まります。正直に、クリエーティブに、そして懸命に働けば、クライアントから信頼が生まれてくるものです。

──クライアントの信頼に応えるため、日々多くの課題に取り組んでいると思いますが、現在、北米におけるクライアントの課題にはどのような特徴がありますか?

北米でも、日本でも、昨今のクライアントのチャレンジは同じでしょう。それは次の三つ、テクノロジーとテクノロジーとテクノロジーです。
この業界に30年いますが、テクノロジーほど環境やニーズを速く変化させた要素は見たことがありません。カオスの中で、マーケット感覚まで見失わないようにすること。これは大きな課題です。

生活者をつかむ方法は数多くありますが、つい、話題になっているものに振り回されたり、目新しいツールに飛びついたりしがちです。オールデジタルに切り替えた結果、ターゲットが狭まり過ぎて、売り上げを落としたケースもありますよ。

肝心なのは、ストーリーを語ること

──多様かつ急速な環境変化への対応が求められる中、クリエーターはどう、クライアントの課題を見極め、解決すべきでしょうか?

今日の変化は、過去20年間の変化よりも多くのクリエーティブチャンスを生み出しています。かつて15秒のテレビCMが主流だったころ、私が新たな手段として30秒枠を勧めたら、大きな議論になりました。当時に比べ今ははるかに多様な手法が使えますが、キーとなるのはいつの時代でも、いかにストーリーを語るかです。
生活者とのコミュニケーションに肝心なのはただ一つ、ストーリーを語ることだけです。企業とクリエーティブパートナーが信頼し合い、新しいアイデアに向け意識を共有できれば、たとえ予算に限りがあっても可能性は無限大。カオスに屈せずチャンスをつかむ、それが真のチャレンジです。

──マクギャリーボウエンは2010年からグローバルネットワークを拡大し、今では北米の他に南米、欧州、アジアをカバーしています。ネットワークの拡大は、クライアントサービスの向上にどのようにつながっていますか?

以前は、とにかく多くのエージェンシーからアイデアを欲しがっていたクライアントも、今ではたとえ複数社と関わる場合でも「重心」となる人材を求めます。私たちがそのニーズを満たせるようになったのは、ネットワーク強化の成果です。

例を挙げると、私の米国CCOとしての仕事の一つに、クライアントへ最良のソリューションを提供するために、全米のオフィスをはじめグローバルネットワークの人材やチームを結集する、という役目があります。そのための策が「流動的人材アプローチ」。チーム、リソース、ツール、手法、ノウハウなどあらゆる面で、ネットワークの中からベスト・オブ・ザ・ベストを集めるのです。

私は、この「重心」を置くアプローチこそが重要だという信念を持っています。人材は時にアイデア以上に重要です。アイデアを生かすも殺すも人だからです。

──「重心」を求めるクライアントにグローバルネットワークで応えるわけですね。それには、組織としての柔軟性と機動性が求められますね。では最後に、リーダーとして、またクリエーターとして今年の抱負を聞かせてください。

リーダーとしては、米国、また、グローバルにおいてもさらにコミュニケーションを図り、アイデアと人材をテーマに、より流動的なモデルの構築を目指します。クリエーターとしての新年の決意は、より良いアイデアと、より良いコラボレーション。そして10ポンドの減量です(笑)。

──クリエーターとして多彩に活躍するネッドさん。長期休暇を取って自ら監督を務めた映画「Middle Man」がもうすぐ完成ですね。バイオレンス・コメディー―恐怖と笑いがどう交錯するのか、主演のジム・オヘアさん(写真右)の演技と共に楽しみです!

「Middle Man」公式キャンペーンサイト
https://www.kickstarter.com/projects/1060059835/middle-man


マクギャリーボウエンの事例紹介

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